繋がる想いを

無月

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恋人編

18.嫉妬

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物語りなんかだと良くある見せ場のシーンに勘違いすれ違いがあるだろう。
恋愛ものなら恋人が他の異性と出歩いているシーン。
でもな。俺の場合そこで勘違いを起こした事が無い。今もほら……。

「あれ、受付の美ケ原さんでしょ。やっぱりあの二人って付き合ってたんだ」

昼休みにオープンカフェで食後のコーヒーを飲んでいる時に聞こえてきた会話だ。
チラリと声のした方を見れば響也の会社の制服を着た女性達が意中の人には見せない方が良い顔で会話をしていた。そして皆一様に同じ一点を見ている。それすなわち。

「ええ?でも榎本部長の顔見てよ。とてもじゃないけど恋人に向ける目じゃないわよ」

響也である。
相変わらず女性陣にモテてるな。そりゃそうか。顔良し地位良し収入よし、おまけに都心に庭付き一戸建てを所有しているとくる。バツイチ子持ちとはいえ一見フリーならそりゃ食いきは良いのだろう。男の俺から見ても恰好良いし。
ただし。俺しかいない時は可愛いが勝つ。
そんな訳で物語りならすわ浮気現場か寝取られかが発生でもしていそうな現場を目撃している訳だが。うむ。全く不安にならないのは響也が一貫して氷の表情で相手にもしていないからかね。
てか相手の受付嬢?も強いな。一歩も引いた様子がない。確かにあれだけ美人で魅惑的なスタイルを惜しげも無くさらしていれば男が向こうから寄って来るんだろうな。響也に相手されないって微塵も思っていないのか。本当強い。
って、あ。響也がこっちに気付いた。
俺は飲んでいたコーヒーを置いて響也に軽く手を振った。そうすれば氷の冷たさだった響也の目元がふと緩む。

「ほら!見た!?今の表情!」
「確かにとても素敵!」
「悔しいけど美ケ原さん相手じゃそうなるわよね~」

いやいやお嬢さん達。どっからどう見ても響也の視線はその美ケ原さんという人に向いて無かったでしょうが。むしろ君達に微笑んだって勘違いする方がしっくりくるんだけど?ああ、ほら。美ケ原さんとやらも勘違いしてるし。響也は罪深い男だぜ。
勢いに乗って会話に熱を入れる美ケ原さんとやらを完全にスルーして響也が俺の席に来た。

「同席良いかい?」
「勿論。昼は食べたのか?」
「いや、まだこれからでね」

イケメンの微笑みプライスレス。現に近くにいた響也の会社の女性陣から黄色い悲鳴がBGMとして流れてる。
それらを完全にスルーした……、いや。そもそも耳に入っていないのかもしれない。兎に角全く意に介さない響也が店員にメニュー表を貰って吟味している。
そこへやって来るのは矢張り強心臓の持ち主美ケ原さん。

「榎本さんのお知り合いかしら。私も同席して構いませんか?」

男を落とす声色と、自分を良く見せる角度で空いていた席に手を掛けつつ言って来た。
他に待ち合わせの人でもいない限りここで断ると世間体に悪い聞き方だ。ふむ。どうしたものか。
チラリと響也を見れば視線が合った。
おや?少し座りが悪い感じ?この人といたくないのかな?さっき迄気にした風じゃ無かったのに。なんなら空気とすら認識していなそうだったのに。

「あー……。あ。ごめんね?連れが来たみたいだ。他を当たってくれるかな?」

丁度良く同僚が席を探しているのが見えて、相手に伝わる様に大きく手を振ってここに来いと主張してやる。席は3人席。同僚が座れば席が埋まる。
美ケ原さんは自分が断られると思っていなかったんだろう。一瞬顔が歪んだ。直ぐに笑顔を張り付ける辺りは流石受付嬢というのか。一瞬でも歪ませたのは受付嬢としてどうなんだと思わなくも無いが、まあ今はプライベートだしな。油断もあるんだろう。

「あら、それは残念ね。榎本さん、他の席に致しましょう?」
「何故?私は彼と食事をする。君とは約束をしていない」
「なっ」

響也の肩にそっと指を添えた美ケ原さんに対し、響也は珍しく絶対零度の声音と態度で拒否を示した。
いや本当に珍しいな。部長になった今でも敏腕営業として各地を飛び回る響也は基本的に人当たりは悪くない。それがこうもあからさまって……。まさか……。いや、まさかな。
断られてプライドを傷つけられたのか、震える美ケ原さん。
流石に女性に対して可哀想かなと同情の目を向けていると、響也の眉間に皺が寄った。

「サンキュー、山田。助かったぜ……って。うっわすっげ美人!!」

響也が何かを言おうと口を開けた所でやって来た同僚が美ケ原さんを見て大げさに驚きの声を上げた。心の声が駄々洩れの正直で面白い奴である。

「ふふありがとう。面白い方ね」
「いやぁそれ程でもあるっす!」

真っ向から褒められて気分を持ち直した美ケ原さんに照れる同僚。うん。茶番かな?
これでこいつが友情より目先の欲を取る奴だと昼食を終えた俺を退かせて同席を目論むだろう。
同僚は俺を見て、そしてもう一つの席に座る響也を見て、そして自分も席に座った。

「美人とお話出来て嬉しかったっす!それじゃまた会えると嬉しいっすね!」

そして調子良く片手をあげて暗に別れの挨拶をした。

「え?あの……」

席を譲るか俺を退かせるかしてくれるだろうと目論んでいたのがバレバレだ。美ケ原さんは同僚を見て明らかに残り少ないコーヒーを飲む俺を見た。

「あ。すみません。コーヒーお替りください。それとホットパイを追加でお願いします」

その視線を完無視して近くのウエイトレスに声を掛ける。

「私も良いでしょうか」
「あっ!俺も!」

便乗して注文する響也と同僚。これで暫くこの席は空かない。
美ケ原さんは暫く茫然と立ち尽くして俺達を見ていたが、ウエイトレスに近くの同じ制服の女性達と同席をするか席が空く迄持つか促されて去って行った。去り際の顔は響也が見ていないからか鬼の様であった。

空気読める同僚がいると本当に助かる。
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