異世界転生者はもうおなかいっぱいです!

無月

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 危機は去った。
 あの時。天空高くで妙に盛った魔王に貞操の危機を感じるわ。海からすっ飛んで来た転生勇者に魔王がキレるわ。一瞬助かったと思ったのに邪魔されてキレた魔王が極大魔法を放とうとして、それに対抗して転生勇者も極大魔法を放とうとするわ。
 この狭い島で何しようとしてくれてんの!?帰る当ても無いのに馬鹿なの!?死ぬの!?
 恐慌状態は極限に達し、結果。俺がキレた。
 転生勇者と魔王を敵に回そうが知ったことか。島が無くなればただの村人の俺なんてどうせ生きてなんていけない。
 自棄になった俺が最大限の抵抗の為に放った一言。

 「二人とも止めないとご飯抜き」

 この魔王なら止めてくれるだろうとは思っていたが……。
 まさか転生勇者にも効くとは思わなかったな~。

 「転生勇者ならご飯食べなくても平気じゃないのか?」

 お陰で平穏無事なキッチンで早めの夕食の準備をしている。
 魔王と転生勇者は運動してお腹が空いたらしい。自分で言っといてなんだけど、本当に転生勇者の分も俺が作るのか?良いんだけどさ。

 「は!?馬鹿言えっ、食は大事だろ!?」

 いや。うん。大事だけど。
 この世の終わりな顔して言う事でもないんじゃ?ていうか最悪自分で何とかしちゃうんじゃないのかな。

 「俺は転生者だぞ。前世じゃ飽食の時代で美味いもんしか食って来なかったんだ。今更味気ない飯なんて無理!」

 胸張って言う事でも無い。
 そしてやっぱり自分で何とかしようという意思は無いのか。良いんだけど。野菜ちゃん達が無事ならそれで。

 「ユタよ。こんな軟弱者にまで作ってやる事はないぞ」
 「あ゛?んだと魔王。やるか?お?」

 チンピラか。
 殺気を抑える魔王に殺気を溢れ出す勇者。
 ビクリと恐怖に身を竦ませた俺だけど、

 「ここで争い事したらご飯作ってあげないからね」

 この魔法の言葉を発すれば転生勇者も殺気を引っ込めお行儀よく正座待機した。
 便利だな。この言葉。

 「ほら。夕ご飯出来るまでこれでも食べててよ」

 お腹が空いてるからイライラも加速するんだよな。そう思ってオヤツ代わりに簡単に唐揚げを作って目の前に置いてやった。
 途端に目を輝かす転生勇者。涎を垂らして飛びつく姿が犬の姿と重なりクスリと笑みが漏れた。
 そしたら何故か魔王に目を眇められてちょっぴしビビる。
 え?俺何もしてないよね?ていうか転生勇者も気にしてないのに何で天敵の魔王が笑った事に怒るの?
 ビクビクして魔王の出方を伺っていると、魔王は俺がビビってる事に気付いてフイと顔を背けた。
 ?今度は罰が悪い顔をしている……。何なんだ?

 「んま――――――――!!」

 気になったけどそれより口から何かを吐き出す幻影を発生させて絶叫する転生勇者が気になって直ぐに忘れた。

 「なんだコレ、美味すぎるっ。
 この鼻に訴えかける暖かい湯気。噛み付くと溢れる肉汁。口に広がる塩気と絶妙なスパイス。
 これは懐かしの○ンタのチキン!
 ああ!美味い!懐かしい!うまうまうまうま!!」

 転生勇者が壊れた。
 もの凄い勢いで魔王の分まで平らげてしまい、あわや魔王がキレそうになったから慌てて魔王には俺の分の唐揚げをあげて事無きを得た。転生勇者を睨んではいるけど害がないうちはそれでいいや。

 「はああああああああ至福ううううううううっ」

 両手で膨れた腹をさすりさすりする転生勇者。恍惚とした顔で天を仰いでいる。
 作った料理をそんなに良い顔で満足されたら俺だって嬉しい。自然と零れた笑みは、けれど又しても魔王の鋭い視線が刺さって固まった。

 「……魔王?」

 本当に何かいけなかったかと恐る恐る振り返れば、魔王は又してもハッとした顔をした後で視線を逸らした。

 ああ!もう!本当ここんとこの魔王わけわからん!何だってんだよコンチクショウ!

 この日。新たな隣人(旧俺の家に住む事になった)を迎え、俺の心は更に騒がしく揺れ動く事になる。
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