上 下
25 / 44
本編

10歳-10

しおりを挟む
 ケサランパサラン達の捕らえ方をマスターした俺無双を披露し、無事に全てのケサランパサラン達を保護し終えた。後は他の人達の仕事だ。
 それより今現在緊急な問題が俺に発生していた。
 場所は一仕事終えて帰宅した談話室。は~、ヤレヤレ、と一服お茶して気を緩めていた時。真面目な顔の殿下が何か聞き慣れない事を言い出した。

 「もう一度言ってくれませんかね?」

 余りにも現実味が無かったその言葉の意味の理解が追い付かず、確認の為に繰り返しを要求した。のは良いんだけど……。

 「君を婚約者に指定したい」

 んんん?いかんな。やっぱり最近忙し過ぎて耳が可笑しくなったらしい。幻聴まで聞こえてくるとは。

 「……」
 「君を婚約者に指定したい」

 疲れを取ろうと眉間に寄った皺を揉み解してたら繰り返された。どうやら聞こえなかった事にはさせてくれないらしい。
 これはアレだろうか。小さい頃に良くある憧れアルアル。
 俺は殿下の真意を知る為に視線を合わせた。
 ……綺麗な金色の瞳だな。じゃなくて、冗談を言ってる感じじゃねーよな。つっても俺自身恋愛した事ねーし、本気かどうかもわからん。
 前世の性別もあってか恋愛に性別関係無い派だけど、流石に10歳児にはトキメかんわー。
 でもなー、この国って第二子以降の王族は後継者争い避ける為に同性婚を推奨してんだよね。絶対的な強制力は無いけど。だから男同士って事は断る理由にならんのよ。
 じゃあ俺がオルティス家を継いだらって話はそもそも貴族社会って養子縁組普通だし。俺にはフレディという天使がいるし。甥っ子なり姪っ子なりいれば問題ない訳で。

 「勿論直ぐに返事を欲しい訳じゃないよ。
 アレクサンダー殿もまだ私の事を良く知らないだろう。学園卒業迄に答えをくれれば良い」

 俺がどう断ろうか思い悩んでいたら、殿下の方から妥協案を出してくれた。
 物凄く良い笑顔で言ってくれて、賛同しやすいんだけど……。何故だろう。その細めた目から「逃さない」とでもいうのか、絡め取られる様な意思を感じる様な気がする……。気の所為だよな!?だって相手はまだ子供だしぃー!

 「わかった。それじゃあお互い他に好きな人が出来たらこの話は無かった事で良いんだな」
 「ふふふふ。うん、いいよ?それで。私は君以外選ぶ気は無いけどね?」

 子供とは思えない意志の強さを感じる笑みで満足気に頷かれ、一瞬歳を忘れそうになった。
 だって本当に大人顔負けの顔つきすんだもん。西洋人は大人びてるっていうけど、ホントそんな感じ。まあでも学園卒業まで六年間あるしな、ゆっくりでもちゃんと向き合わなきゃだよな。

 「ああ、それじゃこれから宜しくな」

 腹を括ってニンとした笑みで右手を差し出す。
 握手を返して欲しくて出した手だけど、殿下は何故か虚を突かれた様な顔をした。

 「本当に、君って人は面白いね」

 何がだ。俺は普通だ普通。
 殿下の物言いに眉を潜めたくなったけど、でもそれより初めて見た年相応の破顔に、少し愛しく思い綻ぶのだった。
しおりを挟む

処理中です...