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9.人形①

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「おじさん、きもちわるいよ」

「おじさんじゃないだろう?パパと呼びなさい」

 私は小学生2年の時に母親が再婚して、新しい父親と兄が出来た。父は小学生だった私と毎日お風呂に入るのが日課だった。お風呂に入るたびに私の体を舐めてくる。彼曰く、これが正しい体の洗い方だそうで、動物たちはみんな子供を舐めて綺麗にするらしい。

 全身を洗い場で隈なく舐められて、一緒にお風呂に浸かる。これが一般的でない事は幼い私にも分かっていたが、父が怖かったので言われるがままになっていた。

 私は小さい頃に実の父親を亡くし、母と2人で生活していた時期がある。母は父を私が3歳の頃に交通事故で亡くしてから、生活面、仕事の面で心労が溜まり、精神的におかしくなって精神病院に通っていたらしい。母は今でも精神を病んでおり、精神科に入院している。何度か家に帰って来たが、日常生活が送れずに入退院を繰り返していた。

 その精神病院で母の主治医であった春野正臣はるのまさおみが後に新しい父親になった人間だった。その分野ではかなり有名で実力のある医者だったらしく、精神を病んだ母親がと偽りのに惹かれて再婚をしたことが、私の地獄の始まりになった。

 母の奈瑠美なるみは、生活の大半の時間を彼が経営する病室で過ごしていたので、家には父親である正臣と十歳年上の腹違いの兄である樂人がくと、そして幼い私の3人だった。

「うららは可愛いね~」

 兄の樂人もおかしな奴で、私に学校で支給されたのとは違う体操服や、パンツみたいなブルマと呼ばれるものを履かせたり、私の名前を下手な字で書いたゼッケンを縫い付けたスクール水着(これも学校のものではない)を着せては、大きな一眼レフカメラで私に変なポーズをとらせて写真を馬鹿みたいに撮りまくっていた。

 父親譲りで、なかなか綺麗な顔立ちをしているのに、こういった変態的な趣向を持つ残念な男だった。気分が乗ってくると、私に着せた水着をずらして腕や胸や、秘部を盛んに舐めてくる。私が嫌がる表情をすると、余計に喜ばせてしまうので、慣れてからはあまり表情を変えずに無表情でその様子を見ていた。

 外向きの顔は2人とも立派なもので、父親も一歩外に出れば優秀な医者を演じていたし、兄も学業も優秀、見た目もイケメンな学生を演じきっていた。私からすれば、そんな偽物の姿は嘲笑に値する陳腐なものでしかなかったが、周りにいる人間たちは誰一人として奴らの正体には気付かない。『普通』と言われるものを表現するのに長けた2人だった。

 私は雑に扱われているのか、大切に扱われているのかよくわからない生活を送っていた。全身を舐め回すという悪戯?から、完全なる性奴隷としての存在になるまでそれ程時間はかからなかった。小学5年頃からそれなりに発育が進んだ事もあり、昼は兄、夜は父親に弄ばれ、春野家専任の娼婦のような生活がずっと続いた。母親はほんの時々帰宅するが、暗黙のルールで私への性的虐待は秘匿され続けた。

 母親に会いに何度か病室を訪れた時、私は母親に聞いた事がある。それは「何故、人は人を殺すと罪に問われるのに、動物は殺されて食べられていても、人は罪に問われないのか」という話だ。母は決まって「そういう法律だから」と言ったり「倫理観」だとか言っていたが、私には釈然としなかった。豚だって牛だって生きてるのに人間たちの都合で殺されて食べられているのに、なんで人は人を食べないのかと。共食いはしないと苦し紛れに母が答えたが、母も人だし、まともに返事を期待するほうが酷だと感じて、次第にそういう話はしなくなった。

 普通とは何だろう。普通の定義がよくわからない。人の道に反するとか反さないとか。そもそも、人間何様?という考えに私が納得できる答えをもつ人は誰もいなかった。

 そんな私がある時、人が死ぬという場面に遭遇した事があった。中学2年の頃、学校の帰りにおかしなオジサンに声をかけられたかと思ったら、いきなり羽交い締めにされて、適当な野原に連れて行かれてレイプされた。帰宅途中に何度か知らない人からの視線を感じたり、追跡されているような気がしていたが、あまり気にしていなかった。

 正直言って、自分の体に異物が入ってくるのには慣れていたので、私は特に抵抗することもなくオジサンのやりたいようにやらせていたのだが、首を締められたので、つい近くにあったこぶし大の石をオジサンのコメカミ付近に思いっきりぶつけてやったら、動かなくなった。

「……もしもーし」

 しばらく様子を見ていたが、オジサンは微動だにしなかった。私が帰宅するのが遅かったからか、その場で呆けていると、近づいてきた男に声をかけられた。

「麗良、こんな所にいたのか」

「……お父さん」

「さあ、早く帰ろう。……なんだこの小汚い男は」

 父親は私が擦り傷だらけな事と、衣服が乱れていた事、オジサンの下半身が露出していた事で察したのか、兄に電話をかけ、私を兄の車で自宅まで連れて行かせ、汚れた体を洗って待っていると、暫くして帰ってきた。

「ああ、可愛い麗良、今すぐ綺麗にしてあげるからね」

 兄と父、2人に小一時間弄ばれた後、あのオジサンはどうなったの、と尋ねたら「忘れなさい」と言われただけでその日は終わったが、翌日、先日の野原に行ってみると、やはりオジサンはいなくなっていた。
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