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20.雅①

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みやびってさ、付き合ってる子……いる?」

 俺はこうやって女子から告白される度に辛くなる。自分がみんなが言う「普通」とは違うんだ、と認識したのは小学生の頃だった。

「聞いてる?私、雅の事……」

「ごめん、俺、付き合ってる子いるから」

 彼女がいるなんて嘘だ。ごめん百合香ゆりか。ずっと友達でいたかったけど、今日で終わりだね。幼馴染だったのに。おまえの気持ちにずっと気付いていたのに、今まで卑怯にもずっと避けてきた。その話題になりそうな場面にならないように、2人きりにならないように避けてきた。

 百合香はじっと下を向いていた。凄く勇気を出して告白してくれたんだろうな。でも、俺は……。

 百合香は必死に勉強して、俺と同じ高校に進学した。クラスは違ったけど、部活は同じ。俺は小さい頃から剣道をやってきた。彼女は部のマネージャーになった。綺麗な顔だから、男子生徒から人気があった。それに比べて俺はいかにも体育系で少し厳つくて、顔だってそんなにかっこよくない。何で、俺なんだ。

「嘘だよ、雅、彼女なんていないじゃん……」

「……いるよ」

「私となんか付き合いたくないって、正直に言ってよ!」

 百合香は瞳を涙で滲ませて、走り去っていった。百合香が嫌いじゃないんだ。付き合ってる子がいるなんて嘘ついてごめん。でも俺、好きな人がいるのは本当なんだ。

 高校に進学して、2年が経っていた。俺は2年間一途に好きだった人がいる。今日も、その人と同じ空間で汗をかいて、呼吸をして、その人の匂いを感じて幸せだった。

「……冬野先輩」

 彼は一年先輩で同じ剣道部だった。背は俺よりも低いし、体格だって俺の方がでかい。でも、練習試合で冬野先輩に一度も勝った事が無い。彼は美しい。あの体躯で俺を圧倒する剣技、爽やかな微笑み、でもどこかミステリアスな雰囲気を持っている彼に、俺は夢中だった。

堅山かたやま、おまえモテるな」

 後ろから先輩の1人である藤村ふじむら先輩に声をかけられた。隣ににしている冬野先輩もいた。

「……マネージャー泣いてたみたいだけど、大丈夫?」

 冬野先輩はスマホをいじりながら、俺の元から走り去って行った百合香を気遣っていた。優しい冬野先輩、俺はますます先輩への想いが強くなっていく。……そんな俺の想いなど、届くはずもないのだが。わかってる、冬野先輩にそんな趣向はない。明らかなノンケだ。

「……友達、大切にな」

「はい、すいません。追いかけます」

 俺は百合香を追いかける感じでその場を後にしたが、正直、追いついても話す事が見つからないし、今更どうにもならない。冬野先輩の視界から俺が消えるまで走ったが、視界から外れたらゆっくり歩いて、そのまま帰宅した。


 *


 小学生の頃、俺は夏休みになるとプールや海によく行った。目的は、女子の水着姿……ではない。もちろん、男子の上半身を眺める為だ。学校の水泳の時間は、同性とは更衣室が同じだ。俺にとってパラダイスであったことは言うまでもない。

 自分が女子に一切興味がないのは年齢的に幼かったからだろう、と初めは自分に言い聞かせていた。でも学年が上がるにつれ、女子は男子よりも発育が早く、あちこちが大人びてくる。それにつられて、男子も女子を異性として意識し始める……というのが、世の中のセオリーなのかもしれないが、残念ながら俺はそうではなかった。

 女子の胸の膨らみよりも、男子の股間の膨らみに生唾を飲むようになった時、自分は「同性が好きなのだ」と認識した。もちろん、周りには言っていない。親にもカミングアウトできるわけがない。俺は必死に「普通」を演じたが、年を重ねるにつれて、どんどん女が女らしくなっていく度に、嫌悪感が増していった。女子は逞しい男が好きなのかどうかは知らないが、元々体格が良かった俺は、そんなに努力していないのに、筋肉がしっかりとついた洗練された肉体を持っていた。

 女子が興味本位でベタベタ触ってくる。変な声を出して逃げ出したくなる衝動を抑えて我慢していたが、そういった事の積み重ねで余計に女子が苦手になった。

 運動だけが取り柄だった俺は、何故か女子にモテた。でも残念な事に、全く興味が無いどころか、嫌悪感の方が強かったので、その誘いをことごとく拒否してきた。だから幼馴染の百合香は、俺が気兼ねなく話せる貴重な女子だった。

 でも年頃になると、いくら幼馴染で、いつも男を相手にしているような感じで接していても、ふとした瞬間に女の顔になる時がある。告白されるという事も、いつかは現実になるという予感はあったが、今まで何とか避けてきた瞬間が先程やってきて、俺たちのは終わりを告げた。

「百合香はもう、話かけてこないだろうな……」

 残念な反面、安心している自分がいた。これ以上、百合香を傷つけなくていいと思ったら気持ちが楽になった。散々、避けてきたからな。あいつも鈍くないから、俺がその話題になるのを避けている事ぐらい、勘付いていた筈だ。

 俺は男が好きなんだ、男とあんなことやこんなことをしたい。俺はセメかウケかで言えば、間違いなくセメだ。冬野先輩は、間違いなくウケだ。俺は妄想の中で何度も先輩を犯した。冬野先輩の細いけど意外とガッチリしているスレンダーなカラダを、俺の鍛え抜かれた肉体で思う存分弄びたい。そんな妄想に毎日苛まれ、俺は毎朝夢精する。

「……百合香の事は忘れよう。いい思い出だった」

 これから俺は自分に正直に生きていく。先輩が卒業するまでまだ半年以上ある。まだまだ、チャンスは残っている。自分の気持ちを伝えたい。冬野先輩を必ずモノにしてみせる。そう意気込んで、俺は眠りについた。

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