32 / 44
32.因果
しおりを挟む
世界には“穴”がある。
地の底よりもずっと深い場所にある暗闇の世界へと繋がる大きな“穴”が。
そこにはよくないものがたくさんいて、人の世界に出てきて悪さをしようとする。
だから誰かがその“穴”を見張ってなくてはならない。何かがそこから出てこないように。誰もそこを覗いてしまわないように。
それが、小さい頃にサヤが母親のパメラから聞かされた話だった。
「でもお母さん、私そんなおっきい穴なんて見たことないよ?」
「うん、そうよねぇ。実はお母さんも見たことないのよ」
小さなサヤが不思議な顔で聞き返すと、母も苦笑しながらそう返してきた。
「お母さんのお家のマイヤー家ってその“穴”を見張る役目があるんだけれど、実際にはどんなものかは知らないのよね。……でも、お母さんが強い魔力を持っているのはその役目のため……いや、逆かな。ご先祖様が強い魔力を持ってたからそういう役目になったのかもね」
パメラは微笑みながら説明し、サヤの頭を撫でてくる。
サヤはそんな母の優しく温かい手つきと顔が大好きだった。
「でもね、やっぱり見たことがないものはよく分からないし、それに何かあってもこの村の人達、そしてお父さんが一緒なら乗り越えられるって思ったの。だからお母さんはお父さんと結婚したのよ」
「そうなの? お父さんも、凄い人だったの?」
母親の語り口がそういう風な含みを持たせていたのを幼いながらもサヤは感じ取っていた。それは以前から母のパメラが父親も強い力を持っていた事を度々話していたのもそう思う理由としてあった。
すると、母親は静かに頷いた。
「そうなの。実はお父さんのクニヒコさんもお母さんと同じ役目を東の国で担うお家の生まれだったらしいのよ。カグラバ一族……向こうの言葉では『神楽場』、つまり神様のために踊る場所を守ってる人達らしくて、そこはよくないものがいる“穴”がある場所でもあったからそうなったって」
「えっ、そうなの!? うわー凄い! なんだかロマンチックー!」
東の果てと西の果てにいながら同じ運命を持った男女が結ばれ自分が生まれた。
サヤにはそれがまるで絵本に描かれたおとぎ話のように思えたのだ。
だが、そんな話に目を輝かせているサヤにパメラは少しばかりぎこちない笑みを浮かべた。
「ええ、それだけ見ればね。でも話はもうちょっと難しくてね……本当はお母さんとお父さんみたいな別々の”穴”を守る人達って結婚しちゃ駄目だったのよ」
「えーっ!? なんで!? そんなのおかしいよ! 好き同士なのに結婚したら駄目だって! あれ? でも私は生まれてるからお母さんとお父さんは結婚してるわけで……あれ?」
なんだかよく分からなくなってきてまだ短くぷにぷにとした人差し指で自分のこめかみを挟みながら考えてみるサヤ。
そんな可愛らしくある意味子供らしい滑稽さもある姿に、パメラはくすくすと笑った。
「ふふふっ、そうね。でも、お母さんとお父さんは、それでも結婚したいって思ったの。どうせその役目を覚えてるのってもうお母さんだけだし、お父さんもいろいろと嫌になって自分の国から逃げてきてここまで来たし、まあいいかなって」
「そ、そんなテキトーな……」
幼いながらちょっと呆れた顔をしてしまうサヤ。
そんなサヤに母は意地悪な笑みを浮かべた。
「ふーん? じゃあサヤちゃんはお母さんとお父さんの子供に生まれたくなかったのかなー? あーあ、お母さん悲しいなぁ、サヤちゃんがお母さん達の事嫌いだったなんて」
「そっ、そんな事ないもんっ!? サヤ、お母さんの事大好きだし、ちゃんと覚えてないけどお父さんの事だって好きだもん! だってお母さん、お父さんの事話すときはすっごく楽しそうだし! だから、だからぁ……!」
母親の言葉を真に受けて半泣きで服をぎゅっと掴みながら必死に反論するサヤ。
今すぐにでも大声で泣き出しそうな彼女を、パメラは「ごめんね、嘘だよ嘘」と笑って謝りながらサヤを抱きかかえた。
「ちゃんと言うと、お母さんとお父さんはそういうしきたりを越えても結婚して、一緒に家族になりたいって思ったの。自分達が特別な力を持ってるのは分かってたけれど、それでも夫婦になって、子供を作りたいって。だからこそ、サヤはお母さんにとって大事な宝物なんだよ。あの人との愛の証で、かけがえのない家族なんだから」
サヤに向かってそう笑いかけるパメラからは、とても温かいものを感じた。
そこにさっきのような冗談めいた雰囲気はなく、心からサヤを、そして死んでしまった父のクニヒコを愛しているのが伝わってきた。
「だからねサヤ。私とお父さんから受け継いだその力を、あなたが正しいと思う事に使いなさい。あなたがみんなの事を思いやってみんなを幸せにしてあげれば、それはきっとサヤの幸せにもなるし、結婚したお母さん達も幸せだったって言えるから」
「……うん! 分かった! 私、頑張るね!」
母親の言葉に満面の笑みで頷くサヤ。
家の外は日が隠れ、今にも雨が降ってきそうな曇天だったが、そんな事は彼女には気にならないほど胸が満たされていた。
◇◆◇◆◇
平原にポツンとある廃屋の屋根の上に座り曇り空を見上げていたサヤは、ふとそんな小さな日の事を思い出していた。
彼女の表情は、普段ダリアに見せているような余裕があって人を小馬鹿にしているような微笑みではなかった。
「あらまあ、極悪非道の亡霊様でも思い出に耽る事なんてありますのね」
と、そんな彼女の隣からそんな高飛車な声が聞こえてくる。
いつの間にかレイが同じようにそこに腰掛けていたのだ。
「……そうね、ちょっと空模様が思い出の中のとよく似ていてね。つい柄にもないことをしてしまったわ」
サヤは落ち着いた微笑みを作り、サラッと色のない白髪を片手でかき上げる。
そんなサヤをレイは人形の顔でじっと見つめてくる。
「……何?」
じっと見てくるレイをサヤは瞳だけ動かし見下ろす。
するとレイは顔を正面に戻し再び口を開く。
「いえ、やはりまだ完全な“同類”となったわけではないのですわね、と。あなたほど“八魔之膿”と深く繋がれる特別な出自でいても、やはり成り上がり直後だと少し人間性とでも言うものがこびりついてしまいますのね」
「……知ってたのね、私の出自。いや、分かってた、っていうのが正しいのかしら?」
真面目な顔で問い返すサヤに、レイはそっけなく頷く。
「当たり前でしょう。初対面のときはともかく、少し一緒にいればあなたが守護者の混血である事は簡単に分かりますわ。人から成り上がったばかりでこのわたくしを軽く凌駕する力を持ち、かつ“秘跡”を行っている。そしてなにより“八魔之膿”からそう聞こえてくる。これで分からないものなど下級もいいところですわ」
「ま、そうよね。でも私自身が自分が“そういうもの”だと気づいたのはリンを殺めたそのときだったのだから、やっぱりさすがね」
かつての友人であり、強い執着と怨念を抱いていた一人である、リン・エンフィールドの呪殺。
それがサヤが自らがどういう存在かを気づかせるきかっけになっていたのだ。
だがそんな彼女の言葉にレイは「当たり前ですわ」と言いたそうにフン、と鼻を鳴らした。
「しょうがないですわよそれは。それを含めての“秘跡”なのですから。あなた自身をより完全にするための穢れたサクラメントであり堕落を迎えるイニシエート。得てして魔力とはそういうものであり、我々はその魔力そのものでもあるのですから」
「……ふふふ、そういう事を改めて整理して説明してくれるところはさすが五十年上の先輩ね」
少し悪戯な笑い方でサヤはレイに言った。
けれどもレイはそんなからかいを含む彼女の言葉に乗る事はなく、むしろ少し呆れた様子で話してくる。
「残念だけれど仕方ないのですのよ、やはりあなたはまだ人間的な部分を残してしまっているせいで言葉で説明する部分が必要になってきてしまうのですから。まったく不便で仕方がありませんわ。……でも、あなたがそうした部分を残していたおかげであの小娘が拾えたのは僥倖であったと言えましょう」
「……ええ、そうね。あそこで私とダリアが出会えた事は、本当に奇跡だったのでしょう。人にとっては災厄と呼べる不運でもあるのだけれどね」
話題が変わった途端、サヤはいつものような邪悪な笑みを浮かべる。
横にいるレイは変わらず表情はないのだが、サヤにはそれでもレイもまたその事を歓び楽しんでいるのがよく分かった。
「あとは、あの小娘がどうするかですわね。下手をすれば、あの小娘とはここでお別れ、なんて事になるかもしれませんが……」
「いいえ、彼女なら大丈夫よ」
サヤは断言する。その瞳には昏く燃える邪悪な確信が灯っていた。
「私はあの子にずっと憑いていて、魂を共有していたのだもの。そしてそれは今も。そんな私だから分かる。彼女は、“こちら”に転ぶわ」
「……なるほど。じゃあ、確かめてみましょうか。そろそろ答えも出た頃でしょうし」
「そうね、まずは聞いてみないとね」
二人がそう言った瞬間、サヤ達は別の場所に瞬間的に移動していた。
サヤは座っていた状態から立ち姿になり、その手にレイを抱えている状態になる。
そんなサヤ達は、見下ろしていた。
サヤのすぐ側で岩に座っていて、目の前をじっと見つめているダリアが。
「どう? 気持ちは……固まったかしら」
「……ああ、悪いな。この前せっかく自分の意志を確認したばっかりだったのに、結局目の前にしたら臆病風吹かせちまってな」
そう言いながらダリアは立ち上がる。
視線は変わらず、前を見ている。
「決めたよ。……行くよ、オレは。オレとお姉ちゃん両方の決着をつけるために」
「……そう」
彼女の言葉に静かに返すと、サヤもまたダリアの視線が向く先に目を向ける。
そこにあったのは林道の入口であり、共にとても古い矢印の形をした標識があって、林道に向けての標識にはこう書かれていた。
――これより先『オールスピリット』
それこそ、かつてダリアが生まれ育ち、双子の姉を失った場所。ダリアにとって根源である、因縁の漁村であった。
地の底よりもずっと深い場所にある暗闇の世界へと繋がる大きな“穴”が。
そこにはよくないものがたくさんいて、人の世界に出てきて悪さをしようとする。
だから誰かがその“穴”を見張ってなくてはならない。何かがそこから出てこないように。誰もそこを覗いてしまわないように。
それが、小さい頃にサヤが母親のパメラから聞かされた話だった。
「でもお母さん、私そんなおっきい穴なんて見たことないよ?」
「うん、そうよねぇ。実はお母さんも見たことないのよ」
小さなサヤが不思議な顔で聞き返すと、母も苦笑しながらそう返してきた。
「お母さんのお家のマイヤー家ってその“穴”を見張る役目があるんだけれど、実際にはどんなものかは知らないのよね。……でも、お母さんが強い魔力を持っているのはその役目のため……いや、逆かな。ご先祖様が強い魔力を持ってたからそういう役目になったのかもね」
パメラは微笑みながら説明し、サヤの頭を撫でてくる。
サヤはそんな母の優しく温かい手つきと顔が大好きだった。
「でもね、やっぱり見たことがないものはよく分からないし、それに何かあってもこの村の人達、そしてお父さんが一緒なら乗り越えられるって思ったの。だからお母さんはお父さんと結婚したのよ」
「そうなの? お父さんも、凄い人だったの?」
母親の語り口がそういう風な含みを持たせていたのを幼いながらもサヤは感じ取っていた。それは以前から母のパメラが父親も強い力を持っていた事を度々話していたのもそう思う理由としてあった。
すると、母親は静かに頷いた。
「そうなの。実はお父さんのクニヒコさんもお母さんと同じ役目を東の国で担うお家の生まれだったらしいのよ。カグラバ一族……向こうの言葉では『神楽場』、つまり神様のために踊る場所を守ってる人達らしくて、そこはよくないものがいる“穴”がある場所でもあったからそうなったって」
「えっ、そうなの!? うわー凄い! なんだかロマンチックー!」
東の果てと西の果てにいながら同じ運命を持った男女が結ばれ自分が生まれた。
サヤにはそれがまるで絵本に描かれたおとぎ話のように思えたのだ。
だが、そんな話に目を輝かせているサヤにパメラは少しばかりぎこちない笑みを浮かべた。
「ええ、それだけ見ればね。でも話はもうちょっと難しくてね……本当はお母さんとお父さんみたいな別々の”穴”を守る人達って結婚しちゃ駄目だったのよ」
「えーっ!? なんで!? そんなのおかしいよ! 好き同士なのに結婚したら駄目だって! あれ? でも私は生まれてるからお母さんとお父さんは結婚してるわけで……あれ?」
なんだかよく分からなくなってきてまだ短くぷにぷにとした人差し指で自分のこめかみを挟みながら考えてみるサヤ。
そんな可愛らしくある意味子供らしい滑稽さもある姿に、パメラはくすくすと笑った。
「ふふふっ、そうね。でも、お母さんとお父さんは、それでも結婚したいって思ったの。どうせその役目を覚えてるのってもうお母さんだけだし、お父さんもいろいろと嫌になって自分の国から逃げてきてここまで来たし、まあいいかなって」
「そ、そんなテキトーな……」
幼いながらちょっと呆れた顔をしてしまうサヤ。
そんなサヤに母は意地悪な笑みを浮かべた。
「ふーん? じゃあサヤちゃんはお母さんとお父さんの子供に生まれたくなかったのかなー? あーあ、お母さん悲しいなぁ、サヤちゃんがお母さん達の事嫌いだったなんて」
「そっ、そんな事ないもんっ!? サヤ、お母さんの事大好きだし、ちゃんと覚えてないけどお父さんの事だって好きだもん! だってお母さん、お父さんの事話すときはすっごく楽しそうだし! だから、だからぁ……!」
母親の言葉を真に受けて半泣きで服をぎゅっと掴みながら必死に反論するサヤ。
今すぐにでも大声で泣き出しそうな彼女を、パメラは「ごめんね、嘘だよ嘘」と笑って謝りながらサヤを抱きかかえた。
「ちゃんと言うと、お母さんとお父さんはそういうしきたりを越えても結婚して、一緒に家族になりたいって思ったの。自分達が特別な力を持ってるのは分かってたけれど、それでも夫婦になって、子供を作りたいって。だからこそ、サヤはお母さんにとって大事な宝物なんだよ。あの人との愛の証で、かけがえのない家族なんだから」
サヤに向かってそう笑いかけるパメラからは、とても温かいものを感じた。
そこにさっきのような冗談めいた雰囲気はなく、心からサヤを、そして死んでしまった父のクニヒコを愛しているのが伝わってきた。
「だからねサヤ。私とお父さんから受け継いだその力を、あなたが正しいと思う事に使いなさい。あなたがみんなの事を思いやってみんなを幸せにしてあげれば、それはきっとサヤの幸せにもなるし、結婚したお母さん達も幸せだったって言えるから」
「……うん! 分かった! 私、頑張るね!」
母親の言葉に満面の笑みで頷くサヤ。
家の外は日が隠れ、今にも雨が降ってきそうな曇天だったが、そんな事は彼女には気にならないほど胸が満たされていた。
◇◆◇◆◇
平原にポツンとある廃屋の屋根の上に座り曇り空を見上げていたサヤは、ふとそんな小さな日の事を思い出していた。
彼女の表情は、普段ダリアに見せているような余裕があって人を小馬鹿にしているような微笑みではなかった。
「あらまあ、極悪非道の亡霊様でも思い出に耽る事なんてありますのね」
と、そんな彼女の隣からそんな高飛車な声が聞こえてくる。
いつの間にかレイが同じようにそこに腰掛けていたのだ。
「……そうね、ちょっと空模様が思い出の中のとよく似ていてね。つい柄にもないことをしてしまったわ」
サヤは落ち着いた微笑みを作り、サラッと色のない白髪を片手でかき上げる。
そんなサヤをレイは人形の顔でじっと見つめてくる。
「……何?」
じっと見てくるレイをサヤは瞳だけ動かし見下ろす。
するとレイは顔を正面に戻し再び口を開く。
「いえ、やはりまだ完全な“同類”となったわけではないのですわね、と。あなたほど“八魔之膿”と深く繋がれる特別な出自でいても、やはり成り上がり直後だと少し人間性とでも言うものがこびりついてしまいますのね」
「……知ってたのね、私の出自。いや、分かってた、っていうのが正しいのかしら?」
真面目な顔で問い返すサヤに、レイはそっけなく頷く。
「当たり前でしょう。初対面のときはともかく、少し一緒にいればあなたが守護者の混血である事は簡単に分かりますわ。人から成り上がったばかりでこのわたくしを軽く凌駕する力を持ち、かつ“秘跡”を行っている。そしてなにより“八魔之膿”からそう聞こえてくる。これで分からないものなど下級もいいところですわ」
「ま、そうよね。でも私自身が自分が“そういうもの”だと気づいたのはリンを殺めたそのときだったのだから、やっぱりさすがね」
かつての友人であり、強い執着と怨念を抱いていた一人である、リン・エンフィールドの呪殺。
それがサヤが自らがどういう存在かを気づかせるきかっけになっていたのだ。
だがそんな彼女の言葉にレイは「当たり前ですわ」と言いたそうにフン、と鼻を鳴らした。
「しょうがないですわよそれは。それを含めての“秘跡”なのですから。あなた自身をより完全にするための穢れたサクラメントであり堕落を迎えるイニシエート。得てして魔力とはそういうものであり、我々はその魔力そのものでもあるのですから」
「……ふふふ、そういう事を改めて整理して説明してくれるところはさすが五十年上の先輩ね」
少し悪戯な笑い方でサヤはレイに言った。
けれどもレイはそんなからかいを含む彼女の言葉に乗る事はなく、むしろ少し呆れた様子で話してくる。
「残念だけれど仕方ないのですのよ、やはりあなたはまだ人間的な部分を残してしまっているせいで言葉で説明する部分が必要になってきてしまうのですから。まったく不便で仕方がありませんわ。……でも、あなたがそうした部分を残していたおかげであの小娘が拾えたのは僥倖であったと言えましょう」
「……ええ、そうね。あそこで私とダリアが出会えた事は、本当に奇跡だったのでしょう。人にとっては災厄と呼べる不運でもあるのだけれどね」
話題が変わった途端、サヤはいつものような邪悪な笑みを浮かべる。
横にいるレイは変わらず表情はないのだが、サヤにはそれでもレイもまたその事を歓び楽しんでいるのがよく分かった。
「あとは、あの小娘がどうするかですわね。下手をすれば、あの小娘とはここでお別れ、なんて事になるかもしれませんが……」
「いいえ、彼女なら大丈夫よ」
サヤは断言する。その瞳には昏く燃える邪悪な確信が灯っていた。
「私はあの子にずっと憑いていて、魂を共有していたのだもの。そしてそれは今も。そんな私だから分かる。彼女は、“こちら”に転ぶわ」
「……なるほど。じゃあ、確かめてみましょうか。そろそろ答えも出た頃でしょうし」
「そうね、まずは聞いてみないとね」
二人がそう言った瞬間、サヤ達は別の場所に瞬間的に移動していた。
サヤは座っていた状態から立ち姿になり、その手にレイを抱えている状態になる。
そんなサヤ達は、見下ろしていた。
サヤのすぐ側で岩に座っていて、目の前をじっと見つめているダリアが。
「どう? 気持ちは……固まったかしら」
「……ああ、悪いな。この前せっかく自分の意志を確認したばっかりだったのに、結局目の前にしたら臆病風吹かせちまってな」
そう言いながらダリアは立ち上がる。
視線は変わらず、前を見ている。
「決めたよ。……行くよ、オレは。オレとお姉ちゃん両方の決着をつけるために」
「……そう」
彼女の言葉に静かに返すと、サヤもまたダリアの視線が向く先に目を向ける。
そこにあったのは林道の入口であり、共にとても古い矢印の形をした標識があって、林道に向けての標識にはこう書かれていた。
――これより先『オールスピリット』
それこそ、かつてダリアが生まれ育ち、双子の姉を失った場所。ダリアにとって根源である、因縁の漁村であった。
23
あなたにおすすめの小説
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。
銀杏鹿
恋愛
次期皇后のアイリスは、婚約者である王に会うついでに驚かせようと、男に変装し近衛として近づく。
しかし、王が自分以外の者と結婚しようとしていると知り、怒りに震えた彼女は、男装を解かないまま、復讐しようと考える。
しかし、男装が完璧過ぎたのか、王の意中の相手やら、王弟殿下やら、その従者に目をつけられてしまい……
『無能な聖女』と婚約破棄された私、実は伝説の竜を唯一従える『真の守護者』でした。~今さら国に戻れと言われても、もう遅いです~
スカッと文庫
ファンタジー
「魔力値たったの5だと? 貴様のような偽聖女、この国には不要だ!」
聖女として国を支えてきたエルナは、第一王子カイルから非情な婚約破棄を言い渡される。隣には、魔力値を偽装して聖女の座を奪った男爵令嬢の姿が。
実家からも見捨てられ、生きては戻れぬ『死の森』へ追放されたエルナ。しかし、絶望の中で彼女が目覚めさせたのは、人間には測定不能な【神聖魔力】だった。
森の奥で封印されていた伝説の銀竜を解き放ち、隣国の冷徹皇帝にその才能を見出された時、エルナを捨てた王国は滅びの危機に直面する――。
「今さら謝っても、私の結界はもうあなたたちのために張ることはありません」
捨てられた聖女が真の幸せを掴む、逆転劇がいま幕を開ける!
【完結】王都に咲く黒薔薇、断罪は静かに舞う
なみゆき
ファンタジー
名門薬草家の伯爵令嬢エリスは、姉の陰謀により冤罪で断罪され、地獄の収容所へ送られる。 火灼の刑に耐えながらも薬草の知識で生き延び、誇りを失わず再誕を果たす。
3年後、整形と記録抹消を経て“外交商人ロゼ”として王都に舞い戻り、裏では「黒薔薇商会」を設立。
かつて自分を陥れた者たち
――元婚約者、姉、王族、貴族――に、静かに、美しく、冷酷な裁きを下していく。
これは、冤罪や迫害により追い詰められた弱者を守り、誇り高く王都を裂く断罪の物語。
【本編は完結していますが、番外編を投稿していきます(>ω<)】
*お読みくださりありがとうございます。
ブクマや評価くださった方、大変励みになります。ありがとうございますm(_ _)m
悪役令嬢に仕立て上げたいなら、ご注意を。
潮海璃月
ファンタジー
幼くして辺境伯の地位を継いだレナータは、女性であるがゆえに舐められがちであった。そんな折、社交場で伯爵令嬢にいわれのない罪を着せられてしまう。そんな彼女に隣国皇子カールハインツが手を差し伸べた──かと思いきや、ほとんど初対面で婚姻を申し込み、暇さえあれば口説き、しかもやたらレナータのことを知っている。怪しいほど親切なカールハインツと共に、レナータは事態の収拾方法を模索し、やがて伯爵一家への復讐を決意する。
『奢侈禁止令の鉄槌 ―偽の公爵令嬢が紡ぐ、着られぬ絹の鎖―』
鷹 綾
恋愛
亡き母の死後、公爵家の正統な継承者であるはずの少女は、屋敷の片隅で静かに暮らしていた。
実権を握っているのは、入り婿の父とその後妻、そして社交界で「公爵令嬢」として振る舞う義妹。
誰も疑わない。
誰も止めない。
偽りの公爵令嬢は、華やかな社交界で輝き続けていた。
だが、本来の継承者である彼女は何も言わない。
怒りも、反論も、争いも起こさない。
ただ静かに、書類を整えながら時を待っていた。
やがて王宮で大舞踏会が開かれる。
義妹は誇らしげに、亡き公爵夫人の形見である豪華な絹のドレスを身に纏って現れる。
それは誰もが息を呑むほど美しい衣装だった。
けれど――
そのドレスには、誰もが知らない「禁忌」があった。
舞踏会の夜。
華やかな音楽が流れる王宮で、ある出来事をきっかけに空気が一変する。
そして静かに現れる、本当の継承者。
その瞬間、
偽りの身分で築かれた栄光は、音もなく崩れ始める。
これは、
静かに時を待ち続けた一人の少女が、
奪われたものを正しい場所へ戻していく物語。
そして――
偽りの公爵令嬢が辿る、あまりにも残酷な結末の物語でもある。
「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。
しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。
【完結】虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!
アノマロカリス
恋愛
テルナール子爵令嬢のレオナリアは、幼少の頃から両親に嫌われて自室で過ごしていた。
逆に妹のルーナリアはベタベタと甘やかされて育っていて、我儘に育っていた。
レオナリアは両親には嫌われていたが、曽祖母には好かれていた。
曽祖母からの貰い物を大事にしていたが、妹が欲しいとせがんで来られて拒否すると両親に告げ口をして大事な物をほとんど奪われていた。
レオナリアの事を不憫に思っていた曽祖母は、レオナリアに代々伝わる秘術を伝授した。
その中の秘術の1つの薬学の技術を開花させて、薬品精製で名を知られるまでになり、王室の第三王子との婚約にまでこぎつける事ができた。
それを妬んだルーナリアは捏造計画を企てて、レオナリアを陥れた。
そしてルーナリアは第三王子までもレオナリアから奪い取り、両親からは家を追い出される事になった。
だけど、レオナリアが祖母から与えられた秘術の薬学は数ある中のほんの1つに過ぎなかった。
レオナリアは追い出されてから店を構えて生計を立てて大成功を治める事になるのだけど?
さて、どんなざまぁになるのでしょうか?
今回のHOTランキングは最高3位でした。
応援、有り難うございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる