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28 思い出しても変わりませんね

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 皆んな怒涛の如く朝の支度を済ませて出て行けば家の中は嵐が去ったかの様に静かになる。さっきの喧騒が懐かしく感じるくらいにしん、と静まり返る家の中。

 さて、粗方家事を済ませてしまえばやる事はわかってるのよ…納屋に押し込められていた沢山の手紙達…彼らの記憶はないけれど、きっと仲間である先祖のラッキービーナ達が対応してきた物なんだわ。昨日も玄関前に置いてあったメモ書きの様な手紙。自分の変化があると言う事は、と言うことよね?

 カサリッ何かカサツク音がした…手紙が置いてあっても昨日は音さえ聞こえなかった…記憶と共に感覚まで鋭くなっているのかしら?

 外に出て見たらやはり玄関前に白い紙。躊躇もなく近づいて紙を拾う。

"カディナに会わせてくれ……"

 走り書きの様な崩れた字。今までは丁寧に書かれていたものだった。

「…カディナ?」

 やはり聞き覚えがない。過去の記憶にもこの名前はないから、どうやら縁のある人々がここに来ると言う訳でも無さそう。今の私は10代後半くらい。サラと同じ位の年齢まで若返ってる。この手紙の字は男性的で力強い。年配の方かな?もう来る事は分かっているのだからわざわざ待たずに森の入り口へ歩いて行く。カディナには何があったのだろう?
 今までは不思議なことに流され続けていた事だけに心捕われていて、名前の人物がどんな人か何を思って来たのか考えもしなかった。ただ与えられた感情と記憶を受け取って訪問者達の声に耳を傾けただけ……

 …いた……こちらを見つけて思い切り走って来ている…走っている、で合っているのよね?途中何度も足をもつれさせて転んでは起き上がり、また走ってくる。

「カ、カディナ!…カディナ!カディナ!」

 名を呼び、叫びに近い声を上げて…

「父さん……」

 そうだ。この人は父親、カディナの父親だ。最後に見たのは鮮やかな色彩と声が飛び交う店の前で別れた時。痩せた…痩せ細ってしまった父親に胸がギュッと締め付けられる。
 私の父はどうだった?今まで自分の両親の事さえ思い出していなかったのに、今回のカディナの記憶は親に対する愛情を鮮明に溢れさせて来る。

「父さん!!」

 堪らずに走り出して、足をもつれさせて転ぼうとした父親を受け止めた。
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