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淋しい婚姻の果てに

8 突然の宣告 3

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(けれど、凍死……?私が…??)

 ここに居るのに、と怒り狂うパルビス公主トライトスのから確かにベッドに横たわっている自分自身を他人事の様に見つめる自分が居る。

(昨夜は、寒くて、身体が動かなくなって、眠気に耐えられなかったのですが…)

 そしてふと目が覚めれば、シャイリーはトライトスの隣からこの部屋の惨状を見ていたのである。それはまるで、自分だけ特別席でお芝居を見ている様な感覚だ。

(殿下……酷く怒っておられる…)
 
 それはそうだろうと思う。せっかくトライトスの妹であるアールスト第3側妃ルシュルーの代わりに嫁いできたばかりの供物姫を、たった1週間で失ってしまうなんて誰もが考えなかっただろうから。

(早過ぎたからだわ…ちっともお役に立てなかったのね…)

 両国の和平の為にと心して嫁いで来たつもりなのに、これでは火種を両国間に投じる結果となってしまいそうだ。まずは、トライトスの怒りを鎮めなければ要らぬ人の血が流されるかもしれない。

(殿下!落ち着いて下さいませ。私は先ほどからここにおりますの!ここですわ!)

 トライトスの肩の辺りから必死に呼びかけているのだが、当たり前のようにちっとも声は聞こえていない様なのだ。トライトスばかりでは無い、侍女ローニーも騎士ナトルも誰一人としてシャイリーの声を聞き取る者はいなかった。

(どうましょう?)

 シャイリーは両手を握りしめながら、泣きそうである。トライトスは騎士達に侍女らの拘束を命じた。それを必死で止めようとナトルが懇願しているのだ。

「お待ち下さい、殿下!彼女達に他意はございません!」

「妃の部屋の暖を切っていたのはこれらだろう?」

 意志を固めたトライトスの瞳は更に黒く瞬いた様に感じてシャイリーには恐ろしくも感じる。

「そうでありますが、しかし!」

「妃殿下には良かれと思ってした事が…この様なことになるなんて…!どんな、罰でも謹んでお受けいたします…」

「ローニー!」

 平伏して自ら進んで罰を受けようとするローニーをナトルが止めた。

「殿下!罰ならば私が代わって受けますので…!」

「なりません!貴方様は殿下の忠実な臣下でございましょう?騎士の方々は妃殿下のお部屋へは足を踏み入れてはおりません。非は私達にございます…!」

 ローニーはキッパリとそう言い切った。
 






 
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