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淋しい婚姻の果てに

18 トライトスという夫 3

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 夫トライトスが執務をしている隣では、妻シャイリーがクルクルと回りながら狐の毛皮の側で踊っている。
 
 もし、この部屋の中に神官ホートネルと同じ様な力を持った者がいたとしたら、異様な光景を目の当たりにして呆然としてしまうだろう。
 軽やかに楽しそうに踊るシャイリーとは正反対に、トライトスの顔色は一目見て悪い事が分かるのだから。シャイリーが心配だと言った眉をキュッと寄せて、いつもよりも苦しそうにも見えるのだ。

(殿下…?)

 浮かれて蝶の様にクルクル、ヒラヒラと舞っていたシャイリーは、生身の身体であったらそろそろ疲れてくるだろうと思われるところで動きを止める。浮かれた気分のままそっとトライトスを覗き見れば、ジッと手紙を前にして考え込むトライトスがいる。

(それともまさか、見通しの良くないことでも書いてありまして?)

 そっとそこに近付いて覗き込みたいのに、シャイリーはジッと見つめることしかできないでいる。

「殿下…どう対応致しましょうか…」

 トライトスの腹心でもあり、長らくバルビス公主の補佐官を務めてきたクルース・ロイ・ヨヘイルが、心配そうな表情を貼り付けたまま執務室の机の前に控えている。
 どうやら、手紙の内容に決裁を下さなければならない様なのだが、先程からトライトスはジッと動かず、何かを考えあぐねているのだ。

「殿下………」

 長身で美しくあるが何処か野性味を帯びた様な鋭さを隠し持っているトライトスと比べると、補佐官クルースは全体的におっとりとした穏やかな雰囲気を醸し出している、そんな人物だ。歳はトライトスよりも少し上。幼い頃からの付き合いであると神官ホートネルが言っていた。

 その穏やかな補佐官クルースは、決定しかねる決裁についてトライトスを急かそうとはせず、それよりも気遣う色濃くトライトスを見つめていた。

(お兄様の所からなら、まさか!ルシュルー様に何かありまして?)

 何があるかと思い巡らせていたシャイリーは思い当たる最悪なものを想像してしまった。

 現に、供物姫の自分だってこんなことになっているのだから…







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