[完結]凍死した花嫁と愛に乾く公主

小葉石

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揺蕩い行く公主の妻

8 アールスト国の晩餐 4

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 紙面からは丁寧に一字一字書き連ねてあるルシュルー妃の字が見える。 
 
 それは元気で過ごしているかと言う体調を気遣うものから始まった。シャイリーがルシュルー妃にしてきた様に誰か側に信頼する人を作りなさいという事、何故かこの度のシャイリーの婚姻を止める事が出来ずに申し訳なかったとの謝罪。辛いかもしれないが兄であるトライトスは不器用ながらも信頼に値する人だから心を開いて頼って欲しいと言う事。最後に、もう2度と会うこと敵わないかも知れないと思ってしまうことを許して欲しいと言う事、仲良くしてくれて嬉しかったという事が、丁寧に少しだけ震えた字で書かれていた。

「……ルシュ……」

 思わず、ホートネルの言葉が詰まってしまっても仕方なかっただろう。

(……嫌だわ…義姉上…まるで、最後のお別れの手紙みたいではありませんか…)

 そんなに、お悪いのだろうか…手紙の字が震えてしまうほどに?

 シャイリーの心も苦しくなる。最後のに会った時のルシュルー妃の顔が思い出されてならない。いつも別れる時には静かな微笑みを湛える人だった。シャイリーが訪問する際にはいつも何かお茶菓子を用意して、ベッドで横になっている時でさえ、きちんと身なりを整えて待っていてくれるのだ。辛いはずなのに、きっとその短い生涯を閉じるまで、ルシュルー妃は苦しみから解放されないだろうに。

(義姉上…私……また、来ましたのよ?ここアールストに…残念ながら、旦那様となる方とは信頼をする前にお別れしてしまいましたけど……)

「妃殿下……」

「シャイリーが、どうかしたか?」

 いつもならシャイリーの名を口にするのは霊廟の中のトライトスだ。アールスト国でその名をトライトスから聞く事になるとは思わなかったシャイリーはふっとトライトスの方へ視線を上げた。

 相変わらず、顔色は悪いトライトスだ。この部屋の中はホートネルが有無を言わさず魔法をかけた為に辛うじてまだ過ごせる様な気温になっているが、トライトス自身も今までの疲労から体調的には思わしくはないだろう。なのに、耳聡くシャイリーのことに関しては聞き逃せないらしい…

「いいえ。妃殿下に対するルシュルーの気持ちが書かれていましたので…」

 そう言うとホートネルはそっとルシュルーの手紙を綺麗にたたみ、トライトスの前へと置くのだった。

「俺は…取り返しのつかない事をしたのだ…」
 
 その手紙に視線を落としつつ、ここ最近で1番覇気のないトライトスの声がそう呟く…






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