[完]腐違い貴婦人会に出席したら、今何故か騎士団長の妻をしてます…

小葉石

文字の大きさ
96 / 135

97、マリエッテの逆鱗 1

しおりを挟む
 その一瞬が良くなかったのだろう。一気に距離を詰めた男は、目の前に座っていたはずなのに既に今ウリートの隣にいる。それに加えて腰に手を回して、ウリートからは離れられない程、ガッチリと抱え込まれてしまっていた。ウリートも男だが、この男も相当鍛えているのだろう。驚いて両手を突っ張ろうにも男はビクともしない。

「何をされるのです!」

 相手は平民だ。身分で言えばウリートの方がずっと上位に位置している。けれども、そんな事はお構いなしで男はグイグイと身体を押し付けて来るのだから、ウリートは慌ててしまうのだ。

 どう考えても、これは普通の距離では無い。ヒュンダルンと婚約し、色々と体験してきているからこそ、心からそう断言できる。ウリートが上位の貴族位なのだからこんな事をされては侮辱罪にも訴えられるものだ。しかし、ウリートは思いとどまる。


 もし、ここでこの男の機嫌を損ねたら?兄様や父様が関わっている事業に何か障りがあるかも…その証拠にここまで案内してきた係官も、この馬車の中にいる男の機嫌を取れと言っていた。もしかしたら怒らせてはまずい相手なのかも知れない。


 父と兄の仕事の事を考えたら、自分が嫌だと思っても我儘を言える様な場合では無いのかも知れないと、ウリートは少し抵抗を弱めた。この位の事で父や兄が大きな責任を取らされでもしたら目も当てられないから。

「お?もう、抵抗しないの?」

 力を抜いたウリートに気を良くした男は馴れ馴れしくウリートの髪にも触れてきた。

「あの!お名前を…」

「ん?あ~そっか。君のご主人に報告しなきゃいけないのかな?でも、何処にでも嗜みってものがあってさ。では、互いの事は詮索しないのがルールだろう?」

 こう言う所?馬車の中だから?ウリートの頭の中は疑問符で一杯だ。

「あ、もしかして?君は名前で呼ばれると燃えるタイプ?」

「何を…言うのです?」

 もう何の誤魔化しようも無い。この男の目的がはっきりとする。たった一回の火遊びがしたいのだろう。ヒュンダルンならば、あの低い声で、目一杯耳元に口を近づけて、ウリーと優しく甘く呼んでくれる。恥ずかしいが、そうされると自分が喜んでしまっているのが自他共に分かっているので、ウリートの抵抗はヒュンダルンの前では抵抗になっていない。けれども、これはダメだと分かる。ヒュンダルンを裏切るような一時の過ちを、ウリートは全く望んでいないのだから。

「ん?違うの?普通こんな時…名前なんて聞かないだろう?」

「知りません!」

 この手の知識はあっても経験なんて無きに等しいウリートにとっては濡場の駆け引きなんて知りようはずもないのだ。

「ふふ、可愛いなぁ。そっか!こんな普通の睦合をお望みではないんだ?」

 遠慮もなく腰に回された手はウリートを抑えながらも背中や脇腹、臀部や大腿を世話しなく這い回るので、ウリートはその腕を止めるのに必死で、男の澄んだ青い瞳がスッと細められたのにも気がつかない。

「ふふふ、良いよ!今、気持ち良くしてあげようね?」

 ウリートが聞きたいのは、この声じゃない。だから弱い耳元で囁かれでも、ザワッとする悪寒しか背筋を走らなかった。

「いい加減に、して下さい!我が家と取引のある商団なのでしょう?この様な事は今後に響くと思うのです!」

 アクロース侯爵家の者に手を出してはただでは済まない、とウリートが言える精一杯の脅しをかけてみたのだが、男には鼻で笑われてしまった。

「分かった、分かった!大切な家のお使いの方なのだから、勿論無碍にするつもりは無いよ?ほら……」

 男の言葉と共に、ウリートはフッと何かを吹きかけられる。

「ん!!」
 
 嫌な匂いと目の前を舞う粉が目に入ってしまって、思わず目を閉じる。

「おや、可愛らしい反応をするなぁ?もしかして、これも初めて?」

 、と言うのは今男が吹きかけて来た粉の事だろうか?なんだか薬の様な香りがする。口を閉じたので味は分からないが、目と鼻からは入ってしまって、少し目がゴロゴロしだす。

「ふっ…ゲホッ…コホ…カハッ…ケホッ!」

 少し吸い込んだ粉が気管を刺激しだす。

「おやおや、少し量が多かったかな?初めてって言ってたから、少なめにしたんだけどな?」

 男が何か言ってはいるが、ウリートはそれどころじゃない。この頃体力はついて来たとしても、ただでさえ身体が弱かったのだ。いきなりの刺激に気管が過剰に反応して、むせてしまって仕方がない。咳き込みながら涙まで出て来てしまった。

「大丈夫、大丈夫。もう少ししたら気持ちよくなって来るから、ね?」

 介抱でもしているつもりなのか、男はウリートの背中を甲斐甲斐しく摩ってくる。

「コホ、コホン……!これ……何です?」

「あぁ、大丈夫だって!悪い感じはしないでしょ?」

 悪い感じと言うのはむせ込んだ時の苦しさのみ、後は少し身体が熱い感じがする?
発熱している時にも自分の身体の熱をあまり感じないウリートなのだが、身体の芯から湧き上がってくる様なこの熱には、何故だか覚えがあった……







しおりを挟む
感想 95

あなたにおすすめの小説

有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います

緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。 知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。 花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。 十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。 寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。 見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。 宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。 やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。 次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。 アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。 ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。

ギルド職員は高ランク冒険者の執愛に気づかない

Ayari(橋本彩里)
BL
王都東支部の冒険者ギルド職員として働いているノアは、本部ギルドの嫌がらせに腹を立て飲みすぎ、酔った勢いで見知らぬ男性と夜をともにしてしまう。 かなり戸惑ったが、一夜限りだし相手もそう望んでいるだろうと挨拶もせずその場を後にした。 後日、一夜の相手が有名な高ランク冒険者パーティの一人、美貌の魔剣士ブラムウェルだと知る。 群れることを嫌い他者を寄せ付けないと噂されるブラムウェルだがノアには態度が違って…… 冷淡冒険者(ノア限定で世話焼き甘えた)とマイペースギルド職員、周囲の思惑や過去が交差する。 表紙は友人絵師kouma.作です♪

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...