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98、マリエッテの逆鱗 2
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ウリート様が、消えた!?
足取りも軽く楽しそうに見学しながら遺跡の中を探索していたウリートの姿が見えなくなった。下の階層で誰かと話をしている様子であったので、係官の者に説明を受けているものと受け取っていたのに、その後その男の影に隠れた後、ウリートの姿が追えなくなる。
「ウリート様!」
マリエッテの行動は速かった。
ここはアクロース侯爵邸でもエーベ公爵邸でもない。誰もが入って来れる、そして誰が入って来てもおかしくない所でもあった。騎士も係官も人数を増やしているのだからと安易に構えている場合では無く、嫌と言うほど警戒しても起こり得るあり得ない様な不測の事態に陥る前に、ウリート様の身柄の安全を確保しなければ、ここにいる者達がどんな目に合うか……!
マリエッテは侍女のお仕着せをバッと翻し、一目散に担当指揮官の元へと走り行く。
「どなたか!一緒に来て下さいませ!!」
息急き切って飛び込んできたのが侯爵家で若君付きの専属侍女だ。普段であれば礼節とマナーは完璧な彼女達なのである。なのに髪が乱れる事も、肩で息をする様な不格好さも意に介さず飛び込んできたものだから、指揮官も目を丸くして驚いた。
「どうなさいましたか?アクロース侯爵家の侍女殿ですよね?」
先程顔を突き合わせて説明をしているので忘れる様な事もないのだが、あまりにも切羽詰まったマリエッテの様子に指揮官は確認せずにはおられなかった。
「ええ、左様です。指揮官殿!数名騎士をお貸し下さいませ!」
「子息様に何か有りましたか?」
「確定ではありませんが、ウリート様が私の視界から消えました。その場に行きますが、不測の事態に備えてお貸し願いたいのです。」
「…!…分かりました!では、外にいる者2名をお連れ下さい。こちらから上の方に伝えておきましょう!」
団長達ならばまだ城内で会議中であろうと思われるので、速馬を飛ばせば直ぐにこちらに来てくれるだろう。それまでの間に安否確認が取れれば大事にはならない。一定数、貴族の子息子女の誘拐事件は発生している。その原因は私怨であったり、金銭目的であったり、政敵からの圧力であったりと理由は様々だ。今回、誘拐とは確定して居ないのだが、もしも、と言う時には初動は早ければ早い程、不埒者達の足取りが付きやすかもなるのだ。
「感謝します!見つかりましたら一人こちらに返しますので!!」
高位貴族に使える侍女にしてはマリエッテは果敢に行動し、二人の騎士を従えて、ウリートの姿を見失った区画へと走り出そうとする。
「あ!お待ちください!」
「何です!?」
苛々と気が立っているのも抑えずにマリエッテは振り返った。
「確認ですが…………」
神妙な顔つきの指揮官は、早く話せと圧をかけてくるマリエッテに、非常に言い辛そうに話し出した。
「その、あり得ない事と理解しつつ、お聞きしますが、子息様は、何方かとの逢瀬を目的とはしておりませんよね?」
「…はぁ!?」
マリエッテから出たのは悲鳴にも近い声だ。
言うに事欠いてなんと言う事をこの指揮官は口に出したのだろう……!
「我が主人は……現在そのお心に決めた方と婚約関係にございます!爛れ腐ったどこぞの遊び人風情の方々と一緒にされるなど言語道断!もうこの世には見られないかの様な純真なお心根のお方に良くもその様に事実無根な侮辱を吐く事がおできになりますね?主人の事は一番近くにいる私が良く知っているからこそこうして事を急ごうとしているのではありませんか!ただの逢瀬であるのならばこの様に邪魔する事こそ無粋でございましょう?そうお思いになりませんか、指揮官殿!」
ブルブルと震えながら一気にそう捲し立てたマリエッテは本気である。一介の侍女が貴重な現場の指揮官を怒鳴りつけるなど前代未聞かもしれない。それだけ危機迫って必死だと言う事だ。
「も、申し訳ありませんでした…侍女殿……失礼とは存じておりましたが、一定の方々が、その………この様に、人目に付かない場所をお選びになってですね……」
指揮官なのに既にタジタジである。
「噂には聞いた事がございますがそれが我が主人とどの様な関係があると?これ以上の戯言には時間が惜しく付き合いきれませんので失礼します!」
ここに来た時と同じ勢いでマリエッテは走り出して行く。制服が汚れようとも、髪が乱れようとも、汗で化粧が落ちてこようとも、そんな事は大したことではない。
大切な大切なウリートが、もしかしたらどこぞの誰ともわからない様ないい加減な輩に好きな様に弄ばれてしまうと思うと腸が千切れそうであった。
ウリート様、ウリート様、ウリート様!やっと元気になって来たのに、幸せというものをその手にしたばかりなのに…!なんと言う邪魔が入ったくれたものだ!
この遺跡に努める騎士達は地図が頭に入っている。マリエッテがウリートを見失った場所を伝えると、直ぐにマリエッテの前を走り出した。
貴方様の泣き顔も、何もかもを諦めてしまっていたその覚悟も、私はもう見たくはないのです!
足取りも軽く楽しそうに見学しながら遺跡の中を探索していたウリートの姿が見えなくなった。下の階層で誰かと話をしている様子であったので、係官の者に説明を受けているものと受け取っていたのに、その後その男の影に隠れた後、ウリートの姿が追えなくなる。
「ウリート様!」
マリエッテの行動は速かった。
ここはアクロース侯爵邸でもエーベ公爵邸でもない。誰もが入って来れる、そして誰が入って来てもおかしくない所でもあった。騎士も係官も人数を増やしているのだからと安易に構えている場合では無く、嫌と言うほど警戒しても起こり得るあり得ない様な不測の事態に陥る前に、ウリート様の身柄の安全を確保しなければ、ここにいる者達がどんな目に合うか……!
マリエッテは侍女のお仕着せをバッと翻し、一目散に担当指揮官の元へと走り行く。
「どなたか!一緒に来て下さいませ!!」
息急き切って飛び込んできたのが侯爵家で若君付きの専属侍女だ。普段であれば礼節とマナーは完璧な彼女達なのである。なのに髪が乱れる事も、肩で息をする様な不格好さも意に介さず飛び込んできたものだから、指揮官も目を丸くして驚いた。
「どうなさいましたか?アクロース侯爵家の侍女殿ですよね?」
先程顔を突き合わせて説明をしているので忘れる様な事もないのだが、あまりにも切羽詰まったマリエッテの様子に指揮官は確認せずにはおられなかった。
「ええ、左様です。指揮官殿!数名騎士をお貸し下さいませ!」
「子息様に何か有りましたか?」
「確定ではありませんが、ウリート様が私の視界から消えました。その場に行きますが、不測の事態に備えてお貸し願いたいのです。」
「…!…分かりました!では、外にいる者2名をお連れ下さい。こちらから上の方に伝えておきましょう!」
団長達ならばまだ城内で会議中であろうと思われるので、速馬を飛ばせば直ぐにこちらに来てくれるだろう。それまでの間に安否確認が取れれば大事にはならない。一定数、貴族の子息子女の誘拐事件は発生している。その原因は私怨であったり、金銭目的であったり、政敵からの圧力であったりと理由は様々だ。今回、誘拐とは確定して居ないのだが、もしも、と言う時には初動は早ければ早い程、不埒者達の足取りが付きやすかもなるのだ。
「感謝します!見つかりましたら一人こちらに返しますので!!」
高位貴族に使える侍女にしてはマリエッテは果敢に行動し、二人の騎士を従えて、ウリートの姿を見失った区画へと走り出そうとする。
「あ!お待ちください!」
「何です!?」
苛々と気が立っているのも抑えずにマリエッテは振り返った。
「確認ですが…………」
神妙な顔つきの指揮官は、早く話せと圧をかけてくるマリエッテに、非常に言い辛そうに話し出した。
「その、あり得ない事と理解しつつ、お聞きしますが、子息様は、何方かとの逢瀬を目的とはしておりませんよね?」
「…はぁ!?」
マリエッテから出たのは悲鳴にも近い声だ。
言うに事欠いてなんと言う事をこの指揮官は口に出したのだろう……!
「我が主人は……現在そのお心に決めた方と婚約関係にございます!爛れ腐ったどこぞの遊び人風情の方々と一緒にされるなど言語道断!もうこの世には見られないかの様な純真なお心根のお方に良くもその様に事実無根な侮辱を吐く事がおできになりますね?主人の事は一番近くにいる私が良く知っているからこそこうして事を急ごうとしているのではありませんか!ただの逢瀬であるのならばこの様に邪魔する事こそ無粋でございましょう?そうお思いになりませんか、指揮官殿!」
ブルブルと震えながら一気にそう捲し立てたマリエッテは本気である。一介の侍女が貴重な現場の指揮官を怒鳴りつけるなど前代未聞かもしれない。それだけ危機迫って必死だと言う事だ。
「も、申し訳ありませんでした…侍女殿……失礼とは存じておりましたが、一定の方々が、その………この様に、人目に付かない場所をお選びになってですね……」
指揮官なのに既にタジタジである。
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大切な大切なウリートが、もしかしたらどこぞの誰ともわからない様ないい加減な輩に好きな様に弄ばれてしまうと思うと腸が千切れそうであった。
ウリート様、ウリート様、ウリート様!やっと元気になって来たのに、幸せというものをその手にしたばかりなのに…!なんと言う邪魔が入ったくれたものだ!
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