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130、心からのプレゼント 2
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「はい……どれも、私にはもったいない様な品ばかりで……結婚するんだという、実感が……」
ジンワリと暖かく湧き上がる心の感動が決壊しない様に、目頭と共にウリートはグッと腹に力を込める。
「あら?やだわウリー。貴方、もう籍は我が家なのよ?」
ニッコリとそう宣言したリヤーナ夫人の手には、ヒラヒラと一枚の上質紙が揺れている。
はいと手渡されたその上質紙は、見覚えの無い書類で婚姻宣誓書と認められており、届け人はヒュンダルンとウリートだ。
が、しかし、ウリートには宣誓書に記入した覚えはない。
「ヒュン?」
宣誓書は自国オークツ国の透かし入りで本物だろう。横を見上げれば、ヒュンダルンは優しさと申し訳なさを混ぜた様な笑顔を向けてくる。これは、まずい事を分かっている時の顔では無いだろうか?結婚の宣誓は、両人揃って見届け人の前で記入か又は本人直筆と分かる物と決まっている。これでは明らかに誰かが不正に書いた、偽造となる。
「……ウリーが王都で襲われた後にな…」
そっとヒュンダルンの大きな温かい手がウリートの頭をいい子いい子する様に撫で初めて… 公正証書を指差した。
ヒュンダルンはどうしても、どうしても我慢ならなかった。自分の者と決めたのに、赤の他人に自分の宝が易々と触れられてしまうとは…
貴族各家には婚約の旨が流布されているが、未だに勘違い甚だしい愚か者が出てくる。ならば、公然とウリートに手出しした者は王家を支えるエーベ公爵家以下直下の家々を敵に回す事になる、と早々に知らしめる必要があった。それも全貴族家に対し公示し、下々に広めてももらう。
その為のヒュンダルンの行動は早かった。叔母であるメリール・クラーナ伯爵未亡人を味方につけ、アクロース家の義両親を説得に奔る。当初は流石に反対された。それはそうだろう。ウリートは由緒正しき大貴族にも入るアクロース家の次男だ。ヒュンダルンとて生まれはエーベ公爵家であり現在は国境の守りの要ゴーリッシュ侯爵家の次期当主と決まっている。本来であればヒュンダルンの家の方が格上であり、こんな異例な婚礼をエーベ公爵家も許可は出さないだろうと思われるところだ。けれどもエーベ公爵家は即時許可を出した。それもそのはずで、メリール・クラーナ伯爵未亡人はオークツ国国王ジャルシードからの書簡を携えていたからだ。異例中異例である婚姻の形だが、かねてより国の守りの要となるだろうゴーリッシュ家ヒュンダルンの婚姻に対し気を揉んでいた国王が、本人が意欲的な内に成立させてしまおうと判断したからだ。そこにウリートの意思は無いものと見做されるのだが、昨今のウリートを知るアクロース侯爵家の面々は国王直筆の署名を見て、腹を括ったのだそうだ。
婚姻宣誓書にはヒュンダルンとウリート名前は勿論のこと、署名代理人と見届け人の欄にはジャルシード・オークツ国王陛下を始め、エーベ公爵家夫妻、アクロース侯爵家夫妻、メリール・クラーナ伯爵未亡人、ウリートの叔母であるエリザ・トルフィー伯爵夫人の名前が連名で列挙されていた……
「では……私は、もう……既に?」
ダメだ…我慢なんて、できるわけがない。
「そう、ウリーは私達の嫁であり、もう家族よ?」
宣誓書にはゴーリッシュ夫妻の名前はない。この地が離れていたと言うのが原因の一つではある。
「そうだ、婿殿。こんな辺境の荒ぶった土地によく嫁いできてくれた。」
ヒュンダルンがそっと宣誓書をウリートから受け取るとゴーリッシュ夫妻へと手渡す。
「今日はこれの仕上げをしようと思ったの。」
「ウリー。」
ヒュンダルンが改まってウリート側に片膝をつく。そして片手を握りしめて、目を覗き込んできた。
「あの日、ウリーに求婚した気持ちに今も全く変わりが無い。それ以上にウリーが愛しい…勝手に事を運んで、本当にすまないと思っているが…改めて、俺と共に生きてくれるだろうか?」
ヒュンは、あの日と変わらない?そんなの、僕の方こそ…
ギュッと顔を顰めて、ウリートは必死に頷く。もう言葉には出来なかった…
「では、これにより婚姻成立ね?」
渡された婚姻宣誓書にゴーリッシュ夫妻がサラサラと署名していく。宣誓書の完成だった。
「ふふ、もう国王陛下のお名前まで入っているからなぁ。とっくに宣誓書は受理されているのだが、私達もな、リヤーナと共に名を書きたかったんだ。」
熊の様なゴーリッシュ伯爵ロンダルは宣誓書をしみじみと眺めて、目を潤ませている。自分達の子供がいなかったから、子供にしてやれる一つ一つが嬉しいのだそうだ。
「いやだ!貴方ったら!こんな時に親がしっかりとした姿を見せなくてどうするおつもり?」
隣でリヤーナ夫人が加減もなくバッシバッシ、とロンダルの背を容赦なく叩き続けているし、ウリートも一度決壊してしまった涙は早々に止まってくれそうにはないし…貴族云々の矜持はどこかに行って、庶民の家族の様な気安さと暖かさが広がって行く…
うん…頑張ろう………
ジンワリと暖かく湧き上がる心の感動が決壊しない様に、目頭と共にウリートはグッと腹に力を込める。
「あら?やだわウリー。貴方、もう籍は我が家なのよ?」
ニッコリとそう宣言したリヤーナ夫人の手には、ヒラヒラと一枚の上質紙が揺れている。
はいと手渡されたその上質紙は、見覚えの無い書類で婚姻宣誓書と認められており、届け人はヒュンダルンとウリートだ。
が、しかし、ウリートには宣誓書に記入した覚えはない。
「ヒュン?」
宣誓書は自国オークツ国の透かし入りで本物だろう。横を見上げれば、ヒュンダルンは優しさと申し訳なさを混ぜた様な笑顔を向けてくる。これは、まずい事を分かっている時の顔では無いだろうか?結婚の宣誓は、両人揃って見届け人の前で記入か又は本人直筆と分かる物と決まっている。これでは明らかに誰かが不正に書いた、偽造となる。
「……ウリーが王都で襲われた後にな…」
そっとヒュンダルンの大きな温かい手がウリートの頭をいい子いい子する様に撫で初めて… 公正証書を指差した。
ヒュンダルンはどうしても、どうしても我慢ならなかった。自分の者と決めたのに、赤の他人に自分の宝が易々と触れられてしまうとは…
貴族各家には婚約の旨が流布されているが、未だに勘違い甚だしい愚か者が出てくる。ならば、公然とウリートに手出しした者は王家を支えるエーベ公爵家以下直下の家々を敵に回す事になる、と早々に知らしめる必要があった。それも全貴族家に対し公示し、下々に広めてももらう。
その為のヒュンダルンの行動は早かった。叔母であるメリール・クラーナ伯爵未亡人を味方につけ、アクロース家の義両親を説得に奔る。当初は流石に反対された。それはそうだろう。ウリートは由緒正しき大貴族にも入るアクロース家の次男だ。ヒュンダルンとて生まれはエーベ公爵家であり現在は国境の守りの要ゴーリッシュ侯爵家の次期当主と決まっている。本来であればヒュンダルンの家の方が格上であり、こんな異例な婚礼をエーベ公爵家も許可は出さないだろうと思われるところだ。けれどもエーベ公爵家は即時許可を出した。それもそのはずで、メリール・クラーナ伯爵未亡人はオークツ国国王ジャルシードからの書簡を携えていたからだ。異例中異例である婚姻の形だが、かねてより国の守りの要となるだろうゴーリッシュ家ヒュンダルンの婚姻に対し気を揉んでいた国王が、本人が意欲的な内に成立させてしまおうと判断したからだ。そこにウリートの意思は無いものと見做されるのだが、昨今のウリートを知るアクロース侯爵家の面々は国王直筆の署名を見て、腹を括ったのだそうだ。
婚姻宣誓書にはヒュンダルンとウリート名前は勿論のこと、署名代理人と見届け人の欄にはジャルシード・オークツ国王陛下を始め、エーベ公爵家夫妻、アクロース侯爵家夫妻、メリール・クラーナ伯爵未亡人、ウリートの叔母であるエリザ・トルフィー伯爵夫人の名前が連名で列挙されていた……
「では……私は、もう……既に?」
ダメだ…我慢なんて、できるわけがない。
「そう、ウリーは私達の嫁であり、もう家族よ?」
宣誓書にはゴーリッシュ夫妻の名前はない。この地が離れていたと言うのが原因の一つではある。
「そうだ、婿殿。こんな辺境の荒ぶった土地によく嫁いできてくれた。」
ヒュンダルンがそっと宣誓書をウリートから受け取るとゴーリッシュ夫妻へと手渡す。
「今日はこれの仕上げをしようと思ったの。」
「ウリー。」
ヒュンダルンが改まってウリート側に片膝をつく。そして片手を握りしめて、目を覗き込んできた。
「あの日、ウリーに求婚した気持ちに今も全く変わりが無い。それ以上にウリーが愛しい…勝手に事を運んで、本当にすまないと思っているが…改めて、俺と共に生きてくれるだろうか?」
ヒュンは、あの日と変わらない?そんなの、僕の方こそ…
ギュッと顔を顰めて、ウリートは必死に頷く。もう言葉には出来なかった…
「では、これにより婚姻成立ね?」
渡された婚姻宣誓書にゴーリッシュ夫妻がサラサラと署名していく。宣誓書の完成だった。
「ふふ、もう国王陛下のお名前まで入っているからなぁ。とっくに宣誓書は受理されているのだが、私達もな、リヤーナと共に名を書きたかったんだ。」
熊の様なゴーリッシュ伯爵ロンダルは宣誓書をしみじみと眺めて、目を潤ませている。自分達の子供がいなかったから、子供にしてやれる一つ一つが嬉しいのだそうだ。
「いやだ!貴方ったら!こんな時に親がしっかりとした姿を見せなくてどうするおつもり?」
隣でリヤーナ夫人が加減もなくバッシバッシ、とロンダルの背を容赦なく叩き続けているし、ウリートも一度決壊してしまった涙は早々に止まってくれそうにはないし…貴族云々の矜持はどこかに行って、庶民の家族の様な気安さと暖かさが広がって行く…
うん…頑張ろう………
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