130 / 135
131、その日の夜に向けて
しおりを挟む
「マリエッテ…………」
何、これ?
これ以上、脱力で声になりそうもない……
婚姻宣誓書が完成した日の夜、いつもの様に湯浴みをしウリートは着替える所であった。常ならばマリエッテは新しい下着と室内着とを用意してくれるのだが、今夜はどうやらそれが問題である。ので、浴室からウリートは控えめにマリエッテに声をかけた。
「気にいられましたか?」
気にいるも何も……下着が、下着はどこ?
「僕の下着は?」
「そちらにちゃぁんとご用意しておりますでしょう?」
なんだか含みがあるマリエッテの言い方だ。では、これを用意したのはマリエッテに間違えはない……
いつもの着替えと思ってウリートが手に取ってみた物は、いつもの下着の殆どの布の部分を取り払われた様なデザインのもので…着用したとするならば、辛うじて局部が隠れる際どいデザインのものだった。下着を止めるものといったら、紐………?恐ろしい事に、良く周囲を見渡してみても、下衣の下着に当たる物はそれしか見当たらない……他には……いやに透けているこれもまた丈の短過ぎる布が用意されている。これは、上衣、であってるのだろうか?薄過ぎる為か透け過ぎていて向こう側が見える。これをどうやって着ろと?
少しばかり閨事の知識も多くなってきたウリートではあるが、流石にこんな衣装は見た事がない。衣類であっているのかさえもわからない…それ程に面積が小さい布が置いてある…
「よろしいですか?ウリート様!」
浴室の扉の向こう側から畏まったマリエッテの声がする。何か重要な事が?
「初夜と言うものに関して、男性は必要以上に幻想を抱くものです。心に決めた愛しい方をその腕に抱くのですから、さもありなん、と言うところでしょうが。その旦那様のお気持ちを無駄に終わらせてはなりません。ウリート様は後にも先にもたったお一人の若様のご伴侶です。その御存在を、どうぞ若様にいやと言うほど見せつけて、刻みつけて差し上げてくださいませ。どこかの馬の骨がお二人の間に入る隙間もないくらいにお互いに惹かれ合う様に。大切な事でございます。」
最もらしく言われればなるほど、と思わせるマリエッテのご高説だ。
「で、でもマリエッテ!式はまだじゃないか!」
初夜って結婚式当日でしょう?
「はぁ……お分かりになりませんの、ウリート様。」
やれやれとマリエッテはため息をつく。
「華やかな結婚式に夢を持つのは女性が多うございます。本日、ウリート様は法的に国王陛下の御名の元に裁可を頂いたものを確認されました。」
その通りです。それより以前に裁可が降りているとは思わなかったけれど。
「ならば今日この日より、ウリート様が、ヒュンダルン様のものであると心身共に法的にもはっきりと自覚なさった日…」
「うん…」
そういえばそうだ…
「その日を特別視しなくていつなさいます?結婚式当日はまた考えれば良い事ですし、お式に出席するだけで、疲れ果ててしまうかもしれませんし、今日はどうかお二人だけの特別な一夜となされませ…」
「………うん………」
マリエッテの言う事にも一理ある。あるけれど……
「マリエッテ…これ、どうやって着るの?」
どう弄くり回してもどうしても着方が分からずに、一人で着る事は無理だとウリートは判断する。
「ふふふふ、お任せ下さいませ!その為に私がいるのです!では、失礼しますよ、ウリート様!」
なんともやる気に満ち溢れているマリエッテが浴室に入ってくる。
「こ……これ?」
「はい!とてもお似合いで!」
浴室の鏡に映る自分の姿を直視できない………本当に、こんな物を着て良いのだろうか?
「殿方はどの様なところで興奮するのかわからないものですわ。」
マリエッテはそれが真理だ、と言い切るごとくに言葉を紡ぐけれども、僕も男だからね?でも、流石に自分のこんな姿を見て興奮はしないよ?
そこに映るのは、胸元は透けた布をただ巻いて、余り布で後方で大きくリボンに結んでいる上半身…布の色は重なっている部分でやっと白だと分かるくらい薄い……下履きは…目も当てられない……これが下着って言えるのだろうか…………
「本当に……?」
フルフルと恥ずかしさで震えが来る。そっとマリエッテに助けを求める様に視線を投げても、コックリと大きく頷くばかりで、きっとこれは嫌だと言っても代わりの着替えを持ってきてはくれないだろう……
「ウリート様、間違えはございません!」
ガウンを着せられて半ば強引に押し出される様にして、ウリートはヒュンダルンの待つ寝室にと連行されていった。
何、これ?
これ以上、脱力で声になりそうもない……
婚姻宣誓書が完成した日の夜、いつもの様に湯浴みをしウリートは着替える所であった。常ならばマリエッテは新しい下着と室内着とを用意してくれるのだが、今夜はどうやらそれが問題である。ので、浴室からウリートは控えめにマリエッテに声をかけた。
「気にいられましたか?」
気にいるも何も……下着が、下着はどこ?
「僕の下着は?」
「そちらにちゃぁんとご用意しておりますでしょう?」
なんだか含みがあるマリエッテの言い方だ。では、これを用意したのはマリエッテに間違えはない……
いつもの着替えと思ってウリートが手に取ってみた物は、いつもの下着の殆どの布の部分を取り払われた様なデザインのもので…着用したとするならば、辛うじて局部が隠れる際どいデザインのものだった。下着を止めるものといったら、紐………?恐ろしい事に、良く周囲を見渡してみても、下衣の下着に当たる物はそれしか見当たらない……他には……いやに透けているこれもまた丈の短過ぎる布が用意されている。これは、上衣、であってるのだろうか?薄過ぎる為か透け過ぎていて向こう側が見える。これをどうやって着ろと?
少しばかり閨事の知識も多くなってきたウリートではあるが、流石にこんな衣装は見た事がない。衣類であっているのかさえもわからない…それ程に面積が小さい布が置いてある…
「よろしいですか?ウリート様!」
浴室の扉の向こう側から畏まったマリエッテの声がする。何か重要な事が?
「初夜と言うものに関して、男性は必要以上に幻想を抱くものです。心に決めた愛しい方をその腕に抱くのですから、さもありなん、と言うところでしょうが。その旦那様のお気持ちを無駄に終わらせてはなりません。ウリート様は後にも先にもたったお一人の若様のご伴侶です。その御存在を、どうぞ若様にいやと言うほど見せつけて、刻みつけて差し上げてくださいませ。どこかの馬の骨がお二人の間に入る隙間もないくらいにお互いに惹かれ合う様に。大切な事でございます。」
最もらしく言われればなるほど、と思わせるマリエッテのご高説だ。
「で、でもマリエッテ!式はまだじゃないか!」
初夜って結婚式当日でしょう?
「はぁ……お分かりになりませんの、ウリート様。」
やれやれとマリエッテはため息をつく。
「華やかな結婚式に夢を持つのは女性が多うございます。本日、ウリート様は法的に国王陛下の御名の元に裁可を頂いたものを確認されました。」
その通りです。それより以前に裁可が降りているとは思わなかったけれど。
「ならば今日この日より、ウリート様が、ヒュンダルン様のものであると心身共に法的にもはっきりと自覚なさった日…」
「うん…」
そういえばそうだ…
「その日を特別視しなくていつなさいます?結婚式当日はまた考えれば良い事ですし、お式に出席するだけで、疲れ果ててしまうかもしれませんし、今日はどうかお二人だけの特別な一夜となされませ…」
「………うん………」
マリエッテの言う事にも一理ある。あるけれど……
「マリエッテ…これ、どうやって着るの?」
どう弄くり回してもどうしても着方が分からずに、一人で着る事は無理だとウリートは判断する。
「ふふふふ、お任せ下さいませ!その為に私がいるのです!では、失礼しますよ、ウリート様!」
なんともやる気に満ち溢れているマリエッテが浴室に入ってくる。
「こ……これ?」
「はい!とてもお似合いで!」
浴室の鏡に映る自分の姿を直視できない………本当に、こんな物を着て良いのだろうか?
「殿方はどの様なところで興奮するのかわからないものですわ。」
マリエッテはそれが真理だ、と言い切るごとくに言葉を紡ぐけれども、僕も男だからね?でも、流石に自分のこんな姿を見て興奮はしないよ?
そこに映るのは、胸元は透けた布をただ巻いて、余り布で後方で大きくリボンに結んでいる上半身…布の色は重なっている部分でやっと白だと分かるくらい薄い……下履きは…目も当てられない……これが下着って言えるのだろうか…………
「本当に……?」
フルフルと恥ずかしさで震えが来る。そっとマリエッテに助けを求める様に視線を投げても、コックリと大きく頷くばかりで、きっとこれは嫌だと言っても代わりの着替えを持ってきてはくれないだろう……
「ウリート様、間違えはございません!」
ガウンを着せられて半ば強引に押し出される様にして、ウリートはヒュンダルンの待つ寝室にと連行されていった。
427
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?
krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」
突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。
なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!?
全力すれ違いラブコメファンタジーBL!
支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる