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9 手

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何度繋いだか?このすっぽりと収まる愛しい手と……





「こ、光君……ここ…学校…!?」

 何してるの?この人?学校だよ!?体育祭の真っ最中だよ?後夜祭とか、後片付けの時とか皆んなの手が離れて自由にしている時じゃないよ?

 競技と競技の間の時間。次の競技の準備をし、出場生徒はすでにスタンバイ済みで。親達だって片手にスマホやカメラを持って我が子の姿を撮影しようと熱気立っている。

 中学校に上がって、二度目の体育祭。これから行われるのは三年生最後の目玉、クラスリレーだ。他生徒は応援団と一緒になって自色のチームか、懇意の先輩の応援にと精を出す……そんな時なのに!?

 二年生のクラス対抗リレーが終わり、得点板係の羽織が定位置についた所で、華麗にアンカーを務めてぶっち切りで一位をもぎ取り周りの生徒達から記念写真撮影というアピールタイムを掻い潜って現れた光生に捕まった。捕まったと思った瞬間にまだ汗ばんでる熱い手が腕にかかる。
  
 未だ息も整ってないよ? あ…ヤバイ………

「光君、手離して、ちょっとヤバイから…」

「抑制剤飲んでるんだろ?」

「でも、ヤバイから…!」
 
 直に触る体温と息遣い、真正面から見つめてくる真っ直ぐな瞳に、徐々に低く変わっていってる声……

「羽織……」

 耳元で囁かれる吐息が、本当にまずいんだって!!ちょっと必死に手を突っ張って体を引き剥がそうとするけど同い年なのに、光君、びくともしない!!

「約束…今貰うぞ?」

「何?約束って!?」

 もう、次のリレーが始まるってば!

 光君の僕の腕を掴んでいた熱い手が、必死に突っ張っている手の手首に移動してきた。
 熱い、手…大きな…どんなにこっちが力を入れても敵いっこないって分かってるけど、それでもいつもは優しく柔らかく触れてくれる大好きな手に一抹の期待をかけてるんだけど、今日は全然ダメだ。光君も離そうとも思っていないでしょ?

 本当に、ダメなんだって……!?抑制剤、飲んでるけど、こんなに強く掴まれたら、それだけで体の中に刺激が走るんだってば……

 もう既に目は涙目で、なんとかして離してもらおうと踠いてみる。

「約束したろう?覚えてないの?」

 キュッとやや不機嫌そうに眉をしかめたね?光君…………そもそも……その約束自体が約束にならないじゃない………

「リレーで勝ったら光君の好きなものをもらうってやつでしょう?」

「覚えてるなら、今もらうぞ?」

 だから!待って!!どんどん近付いて来る顔を押し留めて、もう周りに助けを求めるしかない!

 なんで!?なんで?なんで!!視線を外すんだよぉ~~~!!校内であろうとも常に三人は護衛がいるのに、見えるところにいるのに!今全員で目を逸らした~~!!

「もう……!ダメだって……光君、抑制剤の意味がなくなっちゃうから…」

 本当に危ないんだ。今発情なんかしたくない…でもαの光君の匂いが……掴む手の強さとさっきよりもじんわりと感じる様になった手の汗も…全て自分の体で吸収している錯覚さえあるほど、どんどん中へ入って来る。入ってきて、暴れ回りそうで……ここじゃ、やだ……!

「何が…?欲しいっていうの……?もう、全部光君のものじゃない…?そうなる為にここに居るのに。約束なんて…しなくたって、最初から全部光君のものでしょ?」

 まりちゃんも松花ちゃんも僕も、全部光君のものじゃない……僕達三人はαである光君のΩ妻…夫であって主人である光生には逆らわないし、逆らえない…

「それでも、お前の承諾が、許可が欲しかったんだよ…」

 ちょっとバツの悪そうに視線を逸らした光君……承諾って?ボヤッとして来た頭で必死に考える。許可って…?僕がいいって思ったらって事?僕が出した条件を飲むから光君のする事を許せってこと?
 
 そんなの……最初から、許してるよ……
君のお嫁さんになるって聞いた時から、覚悟も、決意も、それで持って恥ずかしい位の喜びだって感じてるよ?僕にとっては許すとか許さないとかそんな問題じゃないんだ…。
 
 光君、君しかいないの……僕には君しかいないんだよ…?

 恥ずかしすぎて、真っ赤になっているだろう羽織の顔中に光生はチュッチュッチュッて軽いキスを落としていく。

「だから…!ここ、学校だから!!」

 ほかの生徒に見られるなんて絶対に嫌だ!

「羽織……お前が、好きだ…」

 耳元で囁かれた、熱いことば…に、ズクンッと腰に重く艶かしい衝撃が走った……

「だ…っめ……!」

 完全に、下半身の力が抜けきった所で、思い切り唇を奪われる…

 手首を掴む熱い手に、汗とαの匂い…唇からの感覚で初めて羽織は意識を飛ばした………

 倒れて行く身体を支えてくれた手の熱さも、羽織はまだ覚えている…


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