3 / 46
3 ※
シャリ…シャラン………
簪が音を鳴らす。
いつもの、夢だ……
夢なのに、本当にあったと事だと信じられる位には何度も繰り返される夢…
見ている側なのに、どっちが現実か分からなくなりそうで…
「なんで、逃げなかった…?」
ずっとこの夢の住人に聞いてみたいことが今日はすんなりと口をついて出てくる。
「そんなに嫌だったら、逃げて好きな男とでも一緒になればよかっただろ?」
紫の瞳をした少女は神社に嫁ぐ事が嫌なのだろう?死を受け入れてしまうほどに。
だったら、とっとと逃げれば良いんだ。逃げてこんな街、捨ててしまえばいい。好きな男がいたなら尚更で、そいつと一緒に駆け落ちでもなんでもすればよかったんだ。
(死ぬ必要なんてない……!)
夢で見る少女達の年齢は様々。だけど、1番最初は今夢に見ているこの少女だ。
長い黒髪に簪を刺して、多分着物を着ていると思う。濃い紫の大きな瞳は毎日鏡で見ている自分のものと同じ色だ。
少女はすっとその瞳を悲しそうに細めて、前方を指差した。
「何?」
今までにない展開に少し戸惑う。今までだったら問答無用で少女が刺されていく夢が繰り返されていたから。
指差す方向にもう一場面のシーンが映る。
映画の濡れ場…さながらの際どい映像が流れていく。半裸の女に覆いかぶさる男の姿。激しく動く腰つきや女の嬌声が艶かしくて…言葉に詰まった。
「な………」
何を見せられているか一瞬理解に苦しんだが、明らかに男女のベッドシーンだろう。常と違うのは女の求め方が尋常じゃなかったからだろうか。動き止まぬ腰つきに、男が果ててもまだ求める。扇情的な印象よりも狂気に近いその行為に、吐き気すら覚えて目を背けたい衝動に駆られた。
「なんだよ…これ…」
(嫌だった…こうなるのは嫌だった…)
絶望的な少女の声。振り返ればポロポロと涙を流している。
(私達の宿命…)
「え…?」
『だから私と逃げれば良いと…!』
まだ映像は終わってなかった。紫の瞳の少女の隣に後ろ姿の男が映る。
(こいつ……)
見覚えがある、この後ろ姿に。いつもいつもこの夢の中で少女達を刺し殺す殺し屋の様な男だ…!
『無駄なの……逃げても、無駄なの…貴方と契ったら、私は人ではいられなくなる……』
悲鳴の様な少女の声に、絶望を貼り付けた様な男の背中。
(人では、無くなる…?)
先程の性欲のタガが外れた様な少女の姿
…人間としてのはじらいも、理性もそんな物はかなぐり捨てた様な姿だった。
(まさしく、獣……)
そんな姿にこの少女がなるのか?今、隣でポロポロと泣いている儚い少女が?
『…殺して、私を好きなら殺して…!』
『出来るわけが、無いだろう…!私が、お前を斬るのか…!』
『生きている限り、私は連れ戻されて差し出されるでしょう?生きて、貴方にあんな姿を見せろと……?その後は……?どうやって、生きていけばいいの!?』
絶望だけが漂う映像…そこにはどこにも出口となる回答がなかった…
(あの方は私の護衛でした。死のうにも、常に見張りがいる。逃げても連れ戻されるか、好きな者とは一生添い遂げられ無い…逃げられても生きているだけで、いつああなるか…私には耐えられなかった……)
楓矢と同じ年代の少女だ。その潔癖さ故に、ああなりたく無いと思うのも肯けるのだが…あまりにも潔すぎでは無いのだろうか…
「あれを…我慢するとか…は?」
(欲を、自分で制するのは難しいものでしょう?好いた方の前で…あの姿には………)
ポロポロと涙を流す少女。
清らかな、ただ相手を思う恋…
『そこに持っておられるのは妖刀紫…どうか、どうか…どうか…!私を好きでいてくれるのならば、どうか!私が良いというまで、私を殺してくださいませ!!』
ここで、男は少女の胸を貫くのだ。血を流しながらも、満足そうに少女は笑う。その細くくずおれていく少女の身体を抱きしめる腕も、蹲って動かなくなった男の背中も深い後悔と悲しみに、いつまでも震えていた…
『お前が…落ちよと言うのなら俺は鬼にも身を落とそう…お前が……良いと言う日まで…………』
「ばかみてぇ…」
到底現代ならこんなの考えられない。
けれど、この馬鹿げた夢の大まかな流れがやっとわかった…少女は、自分が獣になる事に耐えられなかったんだ。
それに、馬鹿正直に男が答えたんだ。
「2人とも、バカだ……」
彼らにとってはもうそれが最善だったんだろう。けど、こんなのは嫌だと思う。理解も同調も全くできない。
(そうするしか…なかった…次に次にと託すしかなかったの……)
目の前の映画の様な映像は消えて、横にいる少女と一緒に取り残される。
「じゃ、じゃあ…今まで見てきた女の子達も?」
(……)
コクリ…声無き答えが返って来た。
(私達は皆同じ……宿命ですもの…)
はっと目覚めてみれば、自分の部屋で…全身は汗びっしょりで、生々しい緊張感がまだ残っている。楓矢の心臓は動悸が止まず、先程見た夢は実際に目の前で起こったことの様に鮮明に脳裏にも残っていた。
「まじか……宿命ってなんだよ……」
やっと熟睡できるかもしれないと思ったところをこうやって不意打ちで夢が追い打ちをかけるんだ。
簪が音を鳴らす。
いつもの、夢だ……
夢なのに、本当にあったと事だと信じられる位には何度も繰り返される夢…
見ている側なのに、どっちが現実か分からなくなりそうで…
「なんで、逃げなかった…?」
ずっとこの夢の住人に聞いてみたいことが今日はすんなりと口をついて出てくる。
「そんなに嫌だったら、逃げて好きな男とでも一緒になればよかっただろ?」
紫の瞳をした少女は神社に嫁ぐ事が嫌なのだろう?死を受け入れてしまうほどに。
だったら、とっとと逃げれば良いんだ。逃げてこんな街、捨ててしまえばいい。好きな男がいたなら尚更で、そいつと一緒に駆け落ちでもなんでもすればよかったんだ。
(死ぬ必要なんてない……!)
夢で見る少女達の年齢は様々。だけど、1番最初は今夢に見ているこの少女だ。
長い黒髪に簪を刺して、多分着物を着ていると思う。濃い紫の大きな瞳は毎日鏡で見ている自分のものと同じ色だ。
少女はすっとその瞳を悲しそうに細めて、前方を指差した。
「何?」
今までにない展開に少し戸惑う。今までだったら問答無用で少女が刺されていく夢が繰り返されていたから。
指差す方向にもう一場面のシーンが映る。
映画の濡れ場…さながらの際どい映像が流れていく。半裸の女に覆いかぶさる男の姿。激しく動く腰つきや女の嬌声が艶かしくて…言葉に詰まった。
「な………」
何を見せられているか一瞬理解に苦しんだが、明らかに男女のベッドシーンだろう。常と違うのは女の求め方が尋常じゃなかったからだろうか。動き止まぬ腰つきに、男が果ててもまだ求める。扇情的な印象よりも狂気に近いその行為に、吐き気すら覚えて目を背けたい衝動に駆られた。
「なんだよ…これ…」
(嫌だった…こうなるのは嫌だった…)
絶望的な少女の声。振り返ればポロポロと涙を流している。
(私達の宿命…)
「え…?」
『だから私と逃げれば良いと…!』
まだ映像は終わってなかった。紫の瞳の少女の隣に後ろ姿の男が映る。
(こいつ……)
見覚えがある、この後ろ姿に。いつもいつもこの夢の中で少女達を刺し殺す殺し屋の様な男だ…!
『無駄なの……逃げても、無駄なの…貴方と契ったら、私は人ではいられなくなる……』
悲鳴の様な少女の声に、絶望を貼り付けた様な男の背中。
(人では、無くなる…?)
先程の性欲のタガが外れた様な少女の姿
…人間としてのはじらいも、理性もそんな物はかなぐり捨てた様な姿だった。
(まさしく、獣……)
そんな姿にこの少女がなるのか?今、隣でポロポロと泣いている儚い少女が?
『…殺して、私を好きなら殺して…!』
『出来るわけが、無いだろう…!私が、お前を斬るのか…!』
『生きている限り、私は連れ戻されて差し出されるでしょう?生きて、貴方にあんな姿を見せろと……?その後は……?どうやって、生きていけばいいの!?』
絶望だけが漂う映像…そこにはどこにも出口となる回答がなかった…
(あの方は私の護衛でした。死のうにも、常に見張りがいる。逃げても連れ戻されるか、好きな者とは一生添い遂げられ無い…逃げられても生きているだけで、いつああなるか…私には耐えられなかった……)
楓矢と同じ年代の少女だ。その潔癖さ故に、ああなりたく無いと思うのも肯けるのだが…あまりにも潔すぎでは無いのだろうか…
「あれを…我慢するとか…は?」
(欲を、自分で制するのは難しいものでしょう?好いた方の前で…あの姿には………)
ポロポロと涙を流す少女。
清らかな、ただ相手を思う恋…
『そこに持っておられるのは妖刀紫…どうか、どうか…どうか…!私を好きでいてくれるのならば、どうか!私が良いというまで、私を殺してくださいませ!!』
ここで、男は少女の胸を貫くのだ。血を流しながらも、満足そうに少女は笑う。その細くくずおれていく少女の身体を抱きしめる腕も、蹲って動かなくなった男の背中も深い後悔と悲しみに、いつまでも震えていた…
『お前が…落ちよと言うのなら俺は鬼にも身を落とそう…お前が……良いと言う日まで…………』
「ばかみてぇ…」
到底現代ならこんなの考えられない。
けれど、この馬鹿げた夢の大まかな流れがやっとわかった…少女は、自分が獣になる事に耐えられなかったんだ。
それに、馬鹿正直に男が答えたんだ。
「2人とも、バカだ……」
彼らにとってはもうそれが最善だったんだろう。けど、こんなのは嫌だと思う。理解も同調も全くできない。
(そうするしか…なかった…次に次にと託すしかなかったの……)
目の前の映画の様な映像は消えて、横にいる少女と一緒に取り残される。
「じゃ、じゃあ…今まで見てきた女の子達も?」
(……)
コクリ…声無き答えが返って来た。
(私達は皆同じ……宿命ですもの…)
はっと目覚めてみれば、自分の部屋で…全身は汗びっしょりで、生々しい緊張感がまだ残っている。楓矢の心臓は動悸が止まず、先程見た夢は実際に目の前で起こったことの様に鮮明に脳裏にも残っていた。
「まじか……宿命ってなんだよ……」
やっと熟睡できるかもしれないと思ったところをこうやって不意打ちで夢が追い打ちをかけるんだ。
あなたにおすすめの小説
【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話
須宮りんこ
BL
【あらすじ】
高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。
二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。
そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。
青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。
けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――?
※本編完結済み。後日談連載中。
悪の策士のうまくいかなかった計画
迷路を跳ぶ狐
BL
いつか必ず返り咲く。それだけを目標に、俺はこの学園に戻ってきた。過去に、破壊と使役の魔法を研究したとして、退学になったこの学園に。
今こそ、復活の時だ。俺を切り捨てた者たちに目に物見せ、研究所を再興する。
そのために、王子と伯爵の息子を利用することを考えた俺は、長く温めた策を決行し、学園に潜り込んだ。
これから俺を陥れた連中を、騙して嵌めて蹂躙するっ! ……はず、だった……のに??
王子は跪き、俺に向かって言った。
「あなたの破壊の魔法をどうか教えてください。教えるまでこの部屋から出しません」と。
そして、伯爵の息子は俺の手をとって言った。
「ずっと好きだった」と。
…………どうなってるんだ?
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
嘘つき王と影の騎士
篠雨
BL
「俺の役割は、貴方を守ることだ。……例え、貴方自身からも」
国の平穏を一身に背負い、十二年間「聖王」という偶像を演じ続けてきたセシル。
酷使し続けた心身はすでに限界を迎え、その命の灯火は今にも消えようとしていた。
そんな折、現れたのは異世界からの「転移者」。
代わりを見つけた国は、用済みとなったセシルからすべてを剥奪し、最果ての地へと追放する。
死を待つためだけに辿り着いた冬の山。
絶望に沈むセシルの前に現れたのは、かつて冷徹に王を監視し続けていた近衛騎士団長、アルヴィスだった。
守るべき王も、守るべき国も失ったはずの二人が過ごす、狭い小屋での夜。
無価値になり、壊れかけた自分を、なぜこの男は、そんな瞳で見つめるのか。
なぜ、そんなにも強く、抱きしめるのか。
これは、すべてを失った「聖王」が、一人の男の熱に暴かれ、再生していくまでの物語。
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
その首輪は、弟の牙でしか外せない。
ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。
第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。
初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。
「今すぐ部屋から出ろ!」
独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。
翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。
「俺以外に触らせるな」
そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。
弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。
本当にこのままでもいいのか。
ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。
その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。
どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。
リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24)
※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。
三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。
計画的ルームシェアの罠
高木凛
BL
両親の転居をきっかけに、幼馴染の一ノ瀬涼の家に居候することになった湊。
「学生のうちは勉強に専念しろ」なんて正論を吐く涼に反発しながらも、湊は心に決めていた。
しかし湊は知らない。一ノ瀬涼の罠に。
【初回3話は毎日更新! 以降は火・木19時更新予定】