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「おや?いらっしゃい。」
蒼梧の部屋に行くまでに長い廊下を通っていく。久しぶりの蒼梧の親父さんに声をかけられてしまった。
「あ、こんにちは~お邪魔します!」
「楓くんにみそえちゃん久しぶりだね?今日はゆっくりしていけるのかい?」
「あ、俺はそのつもりです。」
「え~なら、楓泊まっていく?」
「ん~どうしよ?」
「あ、良いなぁ…男子ずるぅ…」
「みそえは暗くなる前に帰れよ?」
ただでさえみそえに何かあったら、多分冗談でなく大変なことになりそうだから。
「ん~もう、わかってるよ!早く遊ぼ?」
「もしかして、みそえはただの時間潰しとか?」
「はあ?蒼梧が寂しがってるから、楓ときたんでしょ?ほら!さっさと行く!」
「なんだ、みそえちゃん。そのまま家に住んじゃえば良いのに。」
ニコニコと悪気はないんだろうけどこの手の話は小さい頃から嫌って言うほど聞いてきたから、兄としては本当にそうなるかは分からないけど、望まぬ事を強制はしたくないわけなんだ。蒼梧の父親も柔和な雰囲気が評判の神主さんでその人柄は俺達兄妹もよく知っている。けど、こう言うのは、当人同士の合意が必要だもんな。
「やっだ~おじ様ったら、私きっとぐうたら嫁になりますよ?おば様のご飯美味しいし、食っちゃ寝しそう。」
「え、みそえそれは最低。」
「え~みそえ料理できるじゃん。」
実際嫁が食っちゃ寝宣言してきたら迎える方は困っちゃうだろう。実際みそえは家事全般できるんだけど。
(みそえ、兄はそんな嫁嫌かも…)
「ふふふ、それでも良いからお嫁においで。」
「蒼梧がそう言うなら考えま~す!」
「え~どうしようかなぁ…」
蒼梧はちょっと嫌そうな顔だ。
「ほら、もう行くぞ!」
一向に終わりそうに無い会話に区切りを付けるように蒼梧の部屋へと雪崩れ込んだ。
蒼梧の部屋でジュースを飲みながら一通りだべって、みそえを送り帰して夕飯を食べて、風呂に入ってまた蒼梧の部屋でくつろぐ。小さい頃から来慣れているこの部屋は非常に居心地がいい。
「よう蒼梧、寂しいのは治まりましたか?」
「あ?別の所が寂しいです。」
「それは違う機会に埋めろよな?」
マリカとの約束をすっぽかしたことを蒼梧はまだ根に持っている様子。
「楓達が急に来るって言い出したんでしょ~?」
「まあ、そうだけどさ。」
「あんまり、楓らしくは無いよね?どした?」
小さい頃ならいざ知らず、物心ついたと言うより、あの夢を見だしてから自分から進んで蒼梧の家、神社には行こうとしなかったから。
「ん~~?」
(ここまで来たら、もののついでか?)
「蒼梧んとこにさぁ…神社の歴史書みたいなのある?」
「家系図?」
「う~ん。違うんだよなぁ。」
「何について知りたいんでしょうね?このお坊ちゃんは?」
ドサッと蒼梧が上に乗って、人の顔の上から覗き込んできた。
「重ぇよ…蒼梧太った?」
「……身長だろ?」
(去年から5センチ伸びてるんだっけ?)
「あ、やっぱ楓の眼は綺麗だな。」
俺の前髪を掻き上げて蒼梧は更に距離を縮める。
「あ?」
(男に何言ってやがる?)
確かに俺の瞳は他には無い濃い紫色をしている。この神社に嫁ぐ者の証だとか小さい頃はそれで散々揶揄われても来た。嫁ぐったって、女の場合だろ?それも昔の話だ。今じゃあ由緒ある神社の後ろ盾的な家だって減る一方で、紫の瞳の子供は今や我が家の俺だけだ。
「ど?楓嫁いでくる?」
「………どつき回されたい?」
背丈は蒼梧の方が上。ガタイも上。けど、やる気はこっちが上。
少しだけ青筋立ててギッと睨みつける俺に、蒼梧がたまらず吹き出した。
「くっくっくっ……楓この手の冗談ほんとに嫌いな?」
「わかってるならやるなよな………」
付き合うイコールもしかしたらあの紫の瞳の少女の様になるのかも、と言う不安が拭いきれない俺としては、異性であろうと、同性であろうと付き合う気が起こらないんだって……
蒼梧の顔面を平手で押し返してゴロンと蒼梧のベッドに寝転び直す。蒼梧はそのまま親父さんに聞いてくると部屋を出て行った。
(どうして……)
どうして?
(貴方は、こんな選択しかしないんだ……)
悔しそうな男の声だ……歯を食いしばって、必死で声を押し殺してる。
そっと目を開ければ見覚えのある男の後ろ姿。
あ、いつもの夢だな…
冷静に見てる俺とは明らかに感情の温度差がある男は、やはりその手に血濡れた刀を持っている。いつもと違う夢、今日は事が終わった後の様だった。
(どうして…?なぜ……?まだ、駄目なのか……)
泣きそうな男の声は震えていて、動かない骸をガッチリと抱きしめて、誰も聞く者はいないだろうに、一人呟く。
動かない身体…何を話しかけてもその身体は冷たく何も答えない。自分で触ってもいないのに、それがただの肉の塊の様に感じてくるのがすごく、生々しい。
(もう、いいって……なぁ、あんた…)
つい、夢だとわかるのに声がでる。
(…そんなになるほど、辛いんだろ?もう、止めよう…?)
夢なのだから、現実ではないのだから、ここで楓矢が止めようと声をかけたとしても何も変わりはしないのに。
(うん…もう十分だよ。あんた、よくやったよ…)
少女を切ること…これは決して良いわけじゃないけど、こんな夢はもう懲り懲りだし、この男の苦しそうな姿も見たくなかった。
(なぁ!もう、殺さなくて良いから!!)
だから、止めよう?こんな夢、もう見たくない…!!
(あんたも、幸せになって良いんだよ…)
いつもいつも、苦しそうな声しか出さないこの男についそんなに言葉が出てしまう。
(ゆうら……?)
え………?
男が初めて振り返る。痛ましいほどに顰め憔悴した顔には案の定静かな涙が頬を伝っていた。
この顔…知ってる………?
蒼梧の部屋に行くまでに長い廊下を通っていく。久しぶりの蒼梧の親父さんに声をかけられてしまった。
「あ、こんにちは~お邪魔します!」
「楓くんにみそえちゃん久しぶりだね?今日はゆっくりしていけるのかい?」
「あ、俺はそのつもりです。」
「え~なら、楓泊まっていく?」
「ん~どうしよ?」
「あ、良いなぁ…男子ずるぅ…」
「みそえは暗くなる前に帰れよ?」
ただでさえみそえに何かあったら、多分冗談でなく大変なことになりそうだから。
「ん~もう、わかってるよ!早く遊ぼ?」
「もしかして、みそえはただの時間潰しとか?」
「はあ?蒼梧が寂しがってるから、楓ときたんでしょ?ほら!さっさと行く!」
「なんだ、みそえちゃん。そのまま家に住んじゃえば良いのに。」
ニコニコと悪気はないんだろうけどこの手の話は小さい頃から嫌って言うほど聞いてきたから、兄としては本当にそうなるかは分からないけど、望まぬ事を強制はしたくないわけなんだ。蒼梧の父親も柔和な雰囲気が評判の神主さんでその人柄は俺達兄妹もよく知っている。けど、こう言うのは、当人同士の合意が必要だもんな。
「やっだ~おじ様ったら、私きっとぐうたら嫁になりますよ?おば様のご飯美味しいし、食っちゃ寝しそう。」
「え、みそえそれは最低。」
「え~みそえ料理できるじゃん。」
実際嫁が食っちゃ寝宣言してきたら迎える方は困っちゃうだろう。実際みそえは家事全般できるんだけど。
(みそえ、兄はそんな嫁嫌かも…)
「ふふふ、それでも良いからお嫁においで。」
「蒼梧がそう言うなら考えま~す!」
「え~どうしようかなぁ…」
蒼梧はちょっと嫌そうな顔だ。
「ほら、もう行くぞ!」
一向に終わりそうに無い会話に区切りを付けるように蒼梧の部屋へと雪崩れ込んだ。
蒼梧の部屋でジュースを飲みながら一通りだべって、みそえを送り帰して夕飯を食べて、風呂に入ってまた蒼梧の部屋でくつろぐ。小さい頃から来慣れているこの部屋は非常に居心地がいい。
「よう蒼梧、寂しいのは治まりましたか?」
「あ?別の所が寂しいです。」
「それは違う機会に埋めろよな?」
マリカとの約束をすっぽかしたことを蒼梧はまだ根に持っている様子。
「楓達が急に来るって言い出したんでしょ~?」
「まあ、そうだけどさ。」
「あんまり、楓らしくは無いよね?どした?」
小さい頃ならいざ知らず、物心ついたと言うより、あの夢を見だしてから自分から進んで蒼梧の家、神社には行こうとしなかったから。
「ん~~?」
(ここまで来たら、もののついでか?)
「蒼梧んとこにさぁ…神社の歴史書みたいなのある?」
「家系図?」
「う~ん。違うんだよなぁ。」
「何について知りたいんでしょうね?このお坊ちゃんは?」
ドサッと蒼梧が上に乗って、人の顔の上から覗き込んできた。
「重ぇよ…蒼梧太った?」
「……身長だろ?」
(去年から5センチ伸びてるんだっけ?)
「あ、やっぱ楓の眼は綺麗だな。」
俺の前髪を掻き上げて蒼梧は更に距離を縮める。
「あ?」
(男に何言ってやがる?)
確かに俺の瞳は他には無い濃い紫色をしている。この神社に嫁ぐ者の証だとか小さい頃はそれで散々揶揄われても来た。嫁ぐったって、女の場合だろ?それも昔の話だ。今じゃあ由緒ある神社の後ろ盾的な家だって減る一方で、紫の瞳の子供は今や我が家の俺だけだ。
「ど?楓嫁いでくる?」
「………どつき回されたい?」
背丈は蒼梧の方が上。ガタイも上。けど、やる気はこっちが上。
少しだけ青筋立ててギッと睨みつける俺に、蒼梧がたまらず吹き出した。
「くっくっくっ……楓この手の冗談ほんとに嫌いな?」
「わかってるならやるなよな………」
付き合うイコールもしかしたらあの紫の瞳の少女の様になるのかも、と言う不安が拭いきれない俺としては、異性であろうと、同性であろうと付き合う気が起こらないんだって……
蒼梧の顔面を平手で押し返してゴロンと蒼梧のベッドに寝転び直す。蒼梧はそのまま親父さんに聞いてくると部屋を出て行った。
(どうして……)
どうして?
(貴方は、こんな選択しかしないんだ……)
悔しそうな男の声だ……歯を食いしばって、必死で声を押し殺してる。
そっと目を開ければ見覚えのある男の後ろ姿。
あ、いつもの夢だな…
冷静に見てる俺とは明らかに感情の温度差がある男は、やはりその手に血濡れた刀を持っている。いつもと違う夢、今日は事が終わった後の様だった。
(どうして…?なぜ……?まだ、駄目なのか……)
泣きそうな男の声は震えていて、動かない骸をガッチリと抱きしめて、誰も聞く者はいないだろうに、一人呟く。
動かない身体…何を話しかけてもその身体は冷たく何も答えない。自分で触ってもいないのに、それがただの肉の塊の様に感じてくるのがすごく、生々しい。
(もう、いいって……なぁ、あんた…)
つい、夢だとわかるのに声がでる。
(…そんなになるほど、辛いんだろ?もう、止めよう…?)
夢なのだから、現実ではないのだから、ここで楓矢が止めようと声をかけたとしても何も変わりはしないのに。
(うん…もう十分だよ。あんた、よくやったよ…)
少女を切ること…これは決して良いわけじゃないけど、こんな夢はもう懲り懲りだし、この男の苦しそうな姿も見たくなかった。
(なぁ!もう、殺さなくて良いから!!)
だから、止めよう?こんな夢、もう見たくない…!!
(あんたも、幸せになって良いんだよ…)
いつもいつも、苦しそうな声しか出さないこの男についそんなに言葉が出てしまう。
(ゆうら……?)
え………?
男が初めて振り返る。痛ましいほどに顰め憔悴した顔には案の定静かな涙が頬を伝っていた。
この顔…知ってる………?
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