[本編完結]死を選ぶ程運命から逃げた先に

小葉石

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 何やって……何言った、俺………

 朝、そう爽やかな朝、目覚めてみれば全裸のまま隣りには何故か自分だけスウェットを着た刀貴が気持ちよさそうな寝息を立てて……

 もう、こんなもんだと…自分はこんなもんだと思う様にしよう…!普段だったら絶対にやらない様な事をやらかした気しかしない…全く嫌じゃ無いどころか、物凄く満たされている気分だ。体はヘトヘトであちこちギシギシ鳴ってるのに、心がめちゃくちゃ満たされてる謎の満足感ったらすげえ……


「おはよう…?楓矢…」

 少し掠れた刀貴の低い声。こんな寝起きの声も色っぽいんだな、こいつ…

「おぉ…はよ…で、なんで俺だけ裸?」

「あぁ…綺麗に拭いたが良く寝ていたからな。着せる時に起こしたくなかった…」

「なる…」

「腹がへったろう?楓矢はゆっくりしてて。」

 刀貴が台所に消えて行く。布団の直ぐ横には着替えがきちんと畳んで置いてあった。
 
 ゆっくりして…か……ちゃんと風呂にも入りたいけど、それどころじゃ無いくらいに身体が動かない……

 ズルズルと這う様に布団から出てなんとか着衣をしてまた重力に負けてゴロンと布団に横になる。ゴトゴトと台所で刀貴が何やら準備している音を聞きながら、しばし天井を見つめてると、一つ刀貴に聞いてみたくなった。

 ゴロリと台所の方に転がると何やらいい匂いが漂ってくる。


 朝から、鍋かぁ……

 
 昨日の夜から何も食べていない身としては何でもいいからガッツリと行きたい気分ではある。

「刀貴…お前、ひかねぇの?」


 あんな痴態…それも自分から喜んでやるってさ……


「何が?」
 
 刀貴はこっちにきて座卓を調える。

「あんな…風でさ…」

「楓矢が?」
 
「ん…」

「喜びこそすれ、嫌がるわけない。」
 

 こっちの心配をよそにクスクス笑いながらご飯をよそってくる。


「う…何喜んでんだよ……俺、あんなんなんだぞ?」
 
「知ってるよ、楓矢。」

「でもさ……」

「………昔話をしようか?楓矢…」


 熱々の土鍋を持ってきてボリューミーな朝食ができあかる。ちゃんと俺の分の茶碗やら箸やらが揃ってて、もうここ自分家みたい……


「ゆうらの?」

「そう…それもあるし、その後の事も。」

 よそったご飯を渡されてどんぶりにたっぷりと具沢山の鍋の具を入れてくれた。  

「美味しいと思う。食べて。」

「うま!」


 腹が減ってるのだ。上手く無いわけがない。自分の痴態の事を本当は刀貴がどう思っているのかとか刀貴の昔話とかが物凄く気になりながらも、それでもまずアチアチ言いながらよそってくれた鍋をハフハフと食べ進めた。


「ゆうらから、嫁に上がりたくないと聞いた時、全く理由がわからなかった。」


 刀貴自身もどんぶりから少しずつ食べ進める。 
 
 ゆうらが結婚を嫌がっていたのは以前に聞いた事だ。


「ん…」

「当時は紫の瞳を持つ娘は他にもいて、既に神主の元に侍っていた。」

「え…何人も居たの?」


 全く覚えてない…


「昔のことだ。そう珍しいことでもないさ。」

「そういうもん?それが嫌だったんじゃねぇ?」

「楓矢、そうだったらまだ良かった…」

 
 当時神主に嫁ぐのが習わしだった紫の瞳を持つ娘は必ずしも1人だけではなかった。今にしてみたら宝利家のみとなってしまったのだが…もし妾の立場が嫌なのだとしたら、神主の分家筋やその兄弟に嫁ぐ事などいくらでも出来ただろう。

 
「ゆうらは俺と情を交わすことさえ嫌がった……」 


 炊き立ての飯は美味い。熱い鍋の具を食べながらお行儀悪くも口一杯にほうばってしまう。
 
 タン………
 
 食べ終わった茶碗を机の上に置く。刀貴は既に食事に箸もつけずに卓上に置いていた。

 うん、飯、美味かった……


「うん……。本当は、良くわかってる…」


(夢の中でも何度も見てきたしな……)


 夢の中のゆうらと自分が同じ様になるとは思ってもいなかったが…自分の姿を振り返れば同じだってことがよくわかる。それで、この結果はゆうらが1番恐れてたことだ。


「俺は、何度か紫の瞳を持つ娘達を見たことがあるんだ。」

「ゆうら?」

「ふ…違う。ゆうらは嫁がなかったから、境内には上がっていない。」


 刀貴は剣技を極めようとしていた流れの剣士だったらしい。各地を転々としている時にその腕を買われて桐矢神社の用心棒の職に就いたのだそうだ。ゆうらと出会う前にも神社の内外の事情を垣間見る事があったらしい。その中で当然のように何人もの紫の瞳を持つ娘達を見ることがあったのだ。何しろ大切な神社への貢物となる娘達だ。他の村や他家からの干渉がない様に、娘達を守る護衛の様な役目もした。また、寝ずの番で神主の寝所の外でしばしば見張りをする事もあったのだ。だから紫の瞳を持つ娘達の性を知っているつもりではあった。


「じゃ、ゆうらの事も、あぁなるって?」

「あぁ、知っていた…」

「知られたくないって……」

 
 そう、1番知られたく無いと思っていたのはゆうらだ。


「護衛を務める際、何度か娘達は見習いで社に上がってくるのを見ている。そこで、娘達は自らの務めを学んでいたのだ…」

「え…あれを…?」


 あの、夢で見せられた獣の様な姿を?
まだ、恋も男女の何たるかをも良く知らない娘達が…?


「それも花嫁修行の内だ。」

「えっぐ……」


 夢で見ただけでこっちは引いてしまったのに、それを生で目の前で……?

 そりゃ…嫌だろうよ……












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