[本編完結]死を選ぶ程運命から逃げた先に

小葉石

文字の大きさ
45 / 46

45 本編完結

「剣客のその後は誰も分からない…これが桐谷に伝えられているの伝承。」 
   

 蒼梧そっくりの親父さんの顔はさっきと違い物凄い穏やかだ。蒼梧が歳食って親父さんと同年代になったら渋さの中にも甘い魅力があるナイスダンディなやっぱりモテるイケおじになるだろう、なんてしみじみ思う。


「けどね、当主にだけ伝えられてきている物がある。」

「もういいだろう?」

 刀貴は早々に帰りたそうにしている。

「山手様、楓君にも聞く権利があると思うんですよ。」

「ん、で何?」


 止めようとする刀貴の腕を掴んで先を促す。


「御神体妖刀紫が人の手を取った。持ち主である剣士が無事に帰るまで社を守る様にと。」

 
 蒼梧の親父さんは真っ直ぐに刀貴を見つめる。


「ここまでが私が知って聞いてきた伝承。後の事は私達の知り得る範疇を超えているでしょうからね。」

 
 人の手を取った妖刀で、目の前の刀貴が何をして来たか………


「楓君。紫は非常に退屈を嫌うんだ。だから時として非情な事象が起こってしまう。我ら桐矢はそれを抑えて、ここを守る為にある。」


 コク…これは知ってる。代々桐矢家の仕事だと。


「なかなかに、これが厄介な仕事でね。実は今から胃が痛い……」

「楓矢はやらんぞ…」

「ええ、重々承知しておりますよ。これは我が家の仕事ですからね。次に産まれる紫眼の娘にでも期待しましょう…」

「約束は守る。」

「それだけも有難い事です。では、山手様、この度は大変ご足労をおかけしました。楓君また蒼梧の所に遊びにおいで。」

「あ、はい…」


 蒼梧の親父さんはそのまま一礼してその場を後にした…


「酷く、疲れてるっぽくなかったか?」


 笑顔で去って行ったけど蒼梧の親父さん、なんだかとても疲れて見えて仕方がない…


「あれに触れたからだろうな…」

「あれ?って紫?」

「そうだ。帰ろう楓矢。」

「ん、で、約束って何?」

 
 ガシッと、刀貴が逃げるとも思わなかったが、腕をしっかりと掴んで刀貴に聞く。
 

「ふ………桐谷の家との約束だよ。楓矢には関係ないもの。」

「何?」

 
 妖刀紫を持って今まで生きて来たのは何のためだ?俺は関係ないって絶対に言えないだろ?


「……はぁ、仕方がないな……俺が生きている限り、紫を押さえ込むって事。」

「うぇ!お前、そんなこと出来んの?て言うか、あの妖刀生きてんの?なぁ!なんか喋ってたのってそれ?」

「聞こえてたか?」

「頭ん中、響いて来てた……」

「紫眼の娘には何らかの力があった…」


 ゆっくりポテポテ帰りの道を歩きながら刀貴に聞きたい事、知りたい事次々に聞いていく…


「それは様々で紫はそれを気に入っていた様だ。」


 封じられて外に出されることも無くなった妖刀紫。極たまにやってくる娘達から何らかの刺激を受ける事を殊の外楽しみにしていたらしい。らしい、と言うのは人間側で考えていたものであるのだが。娘達を寄越す様になってから怪奇な事象が減ったと言うのだからあながち嘘ではないのだろう。だから綿々と続いていた紫眼の娘の嫁取りなのだ。


「ふ~~ん?で、押さえ込むって?どうやって?」

「………妖刀は妖刀と言われる所以がある。」


 諦めたかの様に刀貴は話す。


「時に人を欺き心を奪う。良い刀鍛冶が作る物には命が宿る。それがどんな性質のものだろうとな…使う者がこれに負ければ人が刀に使われる。」

「乗っ取られるって事?」

「手っ取り早く言えばな…」

「刀貴は……?」


 じゃ、刀貴も乗っ取られてゆうらを…?


「違うぞ?剣の道に入る者ならば迷わない様に心も鍛える。だから俺は紫を押さえられていた。」

「すげぇな……」

「そうでもない。紫は退屈を嫌うからな。俺の命と繋がっている様な状況を作り出したのもただの退屈凌ぎのうちだろう。俺はゆうらを求めていた。俺と共にいる限り紫は紫眼の娘にも会えるのだ。だから力を貸したのだろう。」

「紫眼の娘が気に入ってるのに、紫はゆうらを切ったのか…?」

 
 ちょっと矛盾してねぇ?

 少しだけ、恐怖にまだ心が揺れる。無意識だと思うけど気がついたら刀貴の腕の袖を掴んでた…


「興味があって、切る事を許していたとも言える…」


 刀貴はそっと俺の手を取って繋ぎ直した。もうすっかり暗くなってるから周りには見えにくいだろ?


「あれには俺の様な執着がなかったんだ。紫眼の娘が生きていようとも死んで行こうとも…所詮は心など持たぬ造り物だからな…」

 
 俺は違う、とでも言いたげに刀貴はギュッと手を握る。

 あぁ、違うさ。造り物なら暖かくない、触れた所から反応もきっと返ってこない、こんなに寄り添おうとして心を砕いてなんかしない…自分の気持ちを殺して、永遠と待っててもくれない…今を、ちゃんと生きることもできないだろう?


「俺、お前で良かったわ…」

「何を今更?俺は既にそれしか思っていないぞ?」

「なぁ、俺に何して欲しい?」


 ずっと考えていた事…刀貴がしてくれてた事に少しでも応えたいって、ねぇ?何ができるってもんでもないけどな…


「ずっと一緒に生きて……一緒に死んで欲しい…」

 もう、これしか欲しくない。

「しょうがねぇなぁ…全部やるよ…」

 
 グイっと刀貴の腕を引く。少し刀貴が屈んだ所で、襟首も後ろから押さえつけて俺は刀貴に思い切り深いキスをした……








…………本編完…………
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話

須宮りんこ
BL
【あらすじ】 高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。 二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。 そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。 青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。 けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――? ※本編完結済み。後日談連載中。

悪の策士のうまくいかなかった計画

迷路を跳ぶ狐
BL
いつか必ず返り咲く。それだけを目標に、俺はこの学園に戻ってきた。過去に、破壊と使役の魔法を研究したとして、退学になったこの学園に。 今こそ、復活の時だ。俺を切り捨てた者たちに目に物見せ、研究所を再興する。 そのために、王子と伯爵の息子を利用することを考えた俺は、長く温めた策を決行し、学園に潜り込んだ。 これから俺を陥れた連中を、騙して嵌めて蹂躙するっ! ……はず、だった……のに?? 王子は跪き、俺に向かって言った。 「あなたの破壊の魔法をどうか教えてください。教えるまでこの部屋から出しません」と。 そして、伯爵の息子は俺の手をとって言った。 「ずっと好きだった」と。 …………どうなってるんだ?

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

嘘つき王と影の騎士

篠雨
BL
「俺の役割は、貴方を守ることだ。……例え、貴方自身からも」 国の平穏を一身に背負い、十二年間「聖王」という偶像を演じ続けてきたセシル。 酷使し続けた心身はすでに限界を迎え、その命の灯火は今にも消えようとしていた。 そんな折、現れたのは異世界からの「転移者」。 代わりを見つけた国は、用済みとなったセシルからすべてを剥奪し、最果ての地へと追放する。 死を待つためだけに辿り着いた冬の山。 絶望に沈むセシルの前に現れたのは、かつて冷徹に王を監視し続けていた近衛騎士団長、アルヴィスだった。 守るべき王も、守るべき国も失ったはずの二人が過ごす、狭い小屋での夜。 無価値になり、壊れかけた自分を、なぜこの男は、そんな瞳で見つめるのか。 なぜ、そんなにも強く、抱きしめるのか。 これは、すべてを失った「聖王」が、一人の男の熱に暴かれ、再生していくまでの物語。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

計画的ルームシェアの罠

高木凛
BL
両親の転居をきっかけに、幼馴染の一ノ瀬涼の家に居候することになった湊。 「学生のうちは勉強に専念しろ」なんて正論を吐く涼に反発しながらも、湊は心に決めていた。 しかし湊は知らない。一ノ瀬涼の罠に。 【初回3話は毎日更新! 以降は火・木19時更新予定】

いい加減観念して結婚してください

彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話 元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。 2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。 作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。