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27 捜し者

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「すまないが主人…北の方で変な噂は聞かないだろうか?」
 
 宿に戻ったレギル王子は宿屋の主人に尋ねてみる。外で食事をしていた者達は皆自国以外の噂や情勢に何故か詳しい。もし、リレランが北の国ソラリスに居るのならば、それらしい目撃情報など入って無いだろうか、と思ったのだ。この宿は安く泊まれるだけに色々な国の人間が利用している様に思えたし、時間があれば主人はそんな客と長話をしている様だったので何某かの噂は聞いていてもおかしくは無い。何しろ、龍だ…姿が見えただけでも大騒ぎとなってもおかしくは無いのだから。

「へぃ、旦那お帰り…北の方かい?なんだ、あっちへ行くのかい?」

「あぁ、探し者があるのだが、どうやら北の国にある様でね。」

「はぁん…あっちさねぇ…ま、あんまり良い噂はねぇなぁ…」

「どんな噂だ?」

「こっちから行くとよ、人攫いに会うってんだよ。」

「人攫い…?」

「そう、ほぼ出会すだろうな。旦那も変わった目色をしてるから狙われるよ!だから一人では行かない様にお勧めするぜ。」

「そうか…」

「お、信じてねぇな?」

「いや、そうじゃ無くて、ほかには無いのか?」

「他にはって……大きな問題だろ?こっから北のソラリスに行く為には通れる道は一つしかねぇんだ。そこでみんな襲われてんのよ…!」

「…襲われた者はどうしたんだ?」

「…まだ、誰も帰ってきちゃいねぇさ…運良くソラリスに入れても、こっちに帰って来れるかどうか……」

「誰も通れないと言うわけでは無いのだろう?」

 確か、北からも商人が入って来ていたのを確認しているんだが。

「あぁ!金がある奴は護衛を付けるのよ!襲われるのは護衛もつけられない一人旅の奴らさ。旦那も一人だろ?だから狙われてもおかしく無いぜ。」

 一人だと狙われる…?夜盗か何かの類だろうか?龍が出たとか、食べられたとかそんな話では無いらしい。ほっとする様な残念な様な…若干レギル王子の心には複雑なものがある。

「私は、多分大丈夫だ…」

「まぁ、強そうには見えなくも無いけどよ?あんた剣士様かい?」

「ふ…似た様なものだな。腕には少々自信がある。」

「物好きさねぇ……行くなら行くで、身元を確かめる物を付けていきなよ?出来たら、もう少し強そうな仲間と行くんだ。後、故郷にもどこに行くかちゃんと伝えておけ?な?」

 宿屋の主人は随分とお喋り好きだが面倒見もいいらしい。旅の心得なる物も飽きる迄話聞かせてくれた。その主人に礼を言って部屋に入る。安い宿屋は壁も薄い。薄くて硬いベッドに横になれば外の喧騒も聞こえてくるほど…王城とは似ても似つかない程の環境だ。リレランを初めて訪ね求めた旅ではこんな空気を味わう余裕もなく気が急いていた…

「リレラン…どこに居る?」

 虹色の光は真っ直ぐソラリスを指している。だからその地にいることは確かだ。でも、龍の噂ひとつと聞こえてこない…何処かに隠れているのか?何故?蝶の谷を人が荒らしてしまったからだろうか?彼の気に入りの場所を奪ってしまったと言うのならば、願いを叶えてくれた上にさらに申し訳ないと詫びなければならない…

「どこにいる…?」

 寝ようと思っても目が冴えて、身体は疲れているのに気が高ぶっていて眠れない…
無理やり目を閉じて、意識を遮断する…リレラン、君に会いたい……夢で会える事を心で祈って、レギル王子は眠りについた…






"ここまで、くる気?"

"リレラン……!?ラン!?"

 ガバッとレギル王子は跳ね起きる。

 暗い何も無い空間に、ボヤッと光る白い大きな塊が目の前にある……レギル王子の目の前には蝶の谷で別れた時と同じ龍リレランが居た。

"良かった!!君を探していた!"

"何故僕を探す?人間の分際で…"

"私は、レギル!レギルだ!"

 目の前の龍はリレランだ…水晶よりも透き通った瞳がレギル王子をじっと見つめている。キラキラとした瞳がなんとも美しい…

 あぁ、なんて綺麗なんだろう……?このまま吸い込まれてしまってもいい…命を求められても構わない………

"前にも言った…僕は君の命なんて要らない…"

"では!何を?何を、払えばいいんだ!リレラン…?私が持てる物は私の命と少しの荷物、それに馬しか無い。他にこれ以上の物を君に求められても、私の権限では与えられないんだよ。"

 いい子だから、僕の命を貰っておくれ?とでも言いたそうなレギル王子だ。

"マリーは君を生かしている。だから僕はその命を奪うつもりはない。国で大人しく自分の生を全うしなよ…"

"マリーとはマリーアンヌの事かい?"

"…!?……どうしてそれを?"

"私の中の精霊が教えてくれたが?"

 途端に龍リレランの顔が、懐かしむ様な泣きそうな、そんな顔になる…

 レギル王子は龍リレランが泣くかと思った。この世界最強の種族が………
 そういえば卵から出て、生まれ出て間もないくらいリレランは幼い龍であった事をレギル王子は思い出す。

"君に、触ってもいいかい?ラン?"

 最強の種族、それももう世界にはいないかも知れない龍…自然に自分の体が動いた事が何よりも不思議だ。恐怖なんて全くない…寧ろ喜びで身体が震えそうだった…

 そうっと手を伸ばす。龍リレランは身体を引かない…嫌がられていない事に、これでもかと言うほどに安堵している自分にビックリしながら手を伸ばした…

 が、リレランまで後少しの所で、突然の物凄い音でレギル王子は目が覚めた……
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