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29 夢販売

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 リーダー格の男はエルグと名乗った。何故夢販売をしていると商売を邪魔されるのか分からないし、夢販売なる商売など胡散臭い事この上ない為、レギル王子は深入りするつもりなど毛頭なかった。男達から早々と離れて宿屋に入っていくレギル王子。

「エルグアニィ、良いんですかい?あいつ腕は立ちそうだけど、乗り気じゃねぇだろ?」 

「まぁ、そう言うなよ。人手はあった方がいいに決まってるだろ?それに、良く考えてみな?」

「はい?」

 チョイチョイッとエルグは話しかけて来た男を近くに呼ぶ。

「何です?」

「あの男の目を見たか?あんな目色をした人間なんているわけねぇ。それ位珍しいんだ。あいつが役にたたねぇと分かったら、あいつをにすれば良い…」

「あ、な~る…」

「分かったら旦那様達に渡をつけて来い!」

「ヘイ!」

「おい!デイル!いつまで座り込んでやがる!お前、宿屋に迷惑かけたってな?」

「エルグアニィ……勘弁してくだせぇよ…」

「お前、その酒癖直せよな…!罰としてお前が奴を誘導しな…分かってんな?いつものとこだ。」

「うぇ!?俺一人で?あんなおっかない奴の相手するのかよ!冗談じゃねぇ!」

 ガシッとエルグは座り込んだままのデイルの髪を掴んでグイッと上を向かせる。

「デイル?なんて言った?やってみなきゃ分からんだろう?こちとら、お客様に夢と希望を売りつける商売よ?出来ませんじゃあ、成り立たねぇわ…な?」

「へ、へぃ…」

「おい、お前。デイルと一緒に宿をとりな。主人にもちゃんと詫びいれて礼をしてこい!」

「おう!」

 デイルやエルグよりもずっと背も体格も良い男が進み出て、ヒョイと小脇にデイルを抱え込み宿屋に入っていく。

「公演はソラリスで予定通りだ。その後はいつもの様に人を集めろ、いいな?」

「分かりやした!」

 その場に居た他の男はエルグに声をかけられて次々に姿を消す。最後の一人が消えるとエルグは宿屋に一度視線を投げてから踵を返して音もなくその場から立ち去った。





「おねげぇしますよ!旦那!!」

 朝も早くから鬱陶しい事この上ない空気が、爽やかだったであろう宿屋の受付前に立ち込めている。 
 レギル王子が出発しようと朝早くに降りて来てみれば、もう既にそこに土下座の姿勢で蹲っていたのは昨日の酔ったデイルと呼ばれていた男だ。その後ろには体の大きな男がどん、と立っていた。

「昨日のご無礼を払わせてくださいよ!」

「もうすっかりと酔いは覚めた様だな?」

「へぃ!ご迷惑をかけまして…」

 殊勝にもちゃんと宿屋の主人にも詫びを入れたらしい。宿屋の主人はいいよいいよ、と言う様に手をひらひらさせている。

「宿の主人に詫びを入れればそれで終いだろう?私に対するものは要らん。」

 あの後、やっとではあるが軽く睡眠を取れたレギル王子だがリレランの夢は見れなかったのだ。その分の腹いせをしてやりたい位だったが、相手も悪意があってした訳ではないのは良くわかるのでレギル王子はそこまでは言わなかった。
 が、このデイルも引かない……

「いえ、そんなこと言わないでくだせぃ…ちゃんと詫びてこなきゃ兄貴分に叱られてしまうんですよ。後ろにいるのがお目付みたいな奴でして……」

 しゅん…とすっかり昨日のどでかい態度とは打って変わってデイルのその小さな体が今朝はより一層小さくなってしまっている。

「随分と躾には厳しい兄貴分なんだな?それはそれで大変そうだが、私も先を急いでいる。すまないが、本当にそちらに付き合う時間が惜しいのだ。」

 一刻も早くソラリスへ行き、龍の出没情報を入手したい。レギル王子はデイルが必死に後ろで話しているのを受け流して、主人にお代を払い外へと出た。

「分かりました!旦那!後から着いて行きますから!俺らもソラリスに行くんすよ!商売があるもんで…その道すがらでも困った事があったら遠慮無く言ってくだせぃ!」

 全くしつこい男だ。が、相手にする時間が惜しい。レギル王子は馬に跨り直ぐにでも走り出す勢いだった。

「分かった、では、こちらは勝手にさせてもらうぞ!ハァ!」

 有言実行とばかりにレギル王子はあっという間に走り去る…

「あ…!ちょ、ちょっと!!旦那!!」

 デイルと大柄の男も急いで馬を用意し、レギル王子を追いかけていった。


 ここ、ランダーン国カタンナは北の国との接点ともなる大きな町だ。商人の行き来も頻繁で北方面に行くには必ずとも言っていいほど皆ここを通る。なのに、北からの商人からも、カタンナの町民からも龍リレランの目撃情報は擦りもしないほど聞き取れなかった。
 馬を疾走させながらレギル王子は上空を見る。国を出る時から北へと伸びている虹色の帯は消えていない…夢の中でのリレランの姿が目蓋を閉じればはっきりと浮かんで来るくらい、レギル王子は自分の心を龍リレランが捉えてしまっている事を自覚している。

"早く…会いたい…"

 シェルツェインに教えられたおまじないでは無いけれど、つい、精霊後で呟いてしまう。少しでも届いて欲しいと、微かな期待だけを胸に込めて…
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