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30 アーラン名物
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アーランの町人気の食堂『ベレッサの鍋』に珍しい客が訪れる。
「どうだ、元気にしているか?」
「うわぁ!ビックリした!!」
それはそうだろう。開店前の店の準備でカーテンを開けて窓を開け、テーブルと椅子を並べて机を拭いて、井戸から水を汲んで湯を沸かし、パン生地を確認して釜度を温める。この街にやって来て、この店に雇ってもらって毎朝行って来た事が、やっと考えなくてもさっさとできる様になったセラ。新しい町、新しい環境に慣れて、置いてもらえる場所で毎日忙しく働き、今日も一生懸命に動き回っていた。
そんな所に突然ヒョイッと物陰から出てくるように、森の道で助けてくれたあの物凄く綺麗な少年が顔を出したのだから、それはそれは驚いた………
セラの心臓はまだバクバクしてる……………
「大丈夫?この店、そんなに大変だった?」
仕事を探していると言っていたのでリレランは小耳に挟んだ事をセラに教えたのだが駄目だっただろうか?この店主は人当たりもよく差別もしない、明るい優しい人だからきっと他国人でも受け入れてくれると思っていたのだが?リレランは小首を傾げる。
「ちが、違います!ビックリして…だっていきなりそこから人が現れるなんて思わなかったから…」
深呼吸しつつセラはリレランを店に招き入れた。今はまだ早朝に近い。だからあまり人は外を通っていないだろう。リレランは良くも悪くも物凄く容姿が目立つのだ。恐ろしい事に本人は全くと言っていいほど気にもとめていなくて…だから、こんな風にヒョイッと現れては店の周りが大騒ぎになったりもする。まぁ、そのおかげか、
"謎の絶世の美少女、美少年が現れる店"
として周囲に周知されてしまって、もともと料理の味も悪くはなかったから、あっという間に人気店となって繁盛してしまった。
「おはよう、リラ。あなたいつも急に来るんだもの。ビックリしてしまって…こっち来て!焼き立てのパンとスープはいかが?ベレッサさんを呼んでくるから!待ってて?」
元気よく挨拶をしてリレランに椅子を進める。リレランも大人しく言われた様に席につく。人間の生活や習慣は何となく見てみたし、聞いてみたし、もう分かったつもりでも見知った者を喜んで迎えてくれるその優しさは精霊達にはあまりなくて、とても新鮮…
精霊は基本用がある時にしか接触はして来ないし、べたべたと馴れ合わないから。そう考えると、マリーは別格だったと思う。
「はい、どうぞ~出来立てですからね?熱いですよ~。」
リレランの目の前にはホカホカ湯気が上がっているスープと焼き立ての香ばしい匂いのするパン。マリーのことを考えながら出された物に口を付ける。最初は熱い物をそのまま口に入れて火傷をしていたものだが、この頃はやっと慣れた。
リレランは龍だ。人間の様に毎食食事を取らなくても、なんなら自然の森にでも出て野生の動物を狩ればいい…でも何となく、マリーがかまって来ていた様な雰囲気を味わいたくて時々ここに来る。ま、助けたセラがどうしているかとかはついでに観察をしているんだが。
「美味しいな…」
リレランは食べ物を口にしなくても死なない龍だ。人間の食べ物を美味しいと、喜んで食べることになろうとはついぞ思わなかった。
「うふふ、でしょ?ベレッサさんご自慢のスープだもの。今日は後3種類出す予定で、新作も続々考えてるのよ?」
生き生きとまるで自分のことの様に話すセラを見るのは嫌じゃない。暖かいパンとスープがとても美味しかった。
「いらっしゃい!リラ!久しぶりね?」
この店の女主人、ベレッサ。フラッと顔を出すだけなのにリレランの事を親しみを持って呼んでくれたのはこの人が最初だ。なぜか、店に顔を出すと、ベレッサは手にブラシを持っては現れる。
「久しいな。ベレッサ、腰はもういいのか?」
一人で店を切り盛りしていた苦労が祟ったのか、先日腰を痛めてしばらく店を休んでいたのだ。
「もう、大丈夫よ!私も若くないのに若者と同じ様にできると思っちゃったのがいけないのよね~恥ずかしいわ…」
そして持ってきたブラシでリレランの髪を梳きだす。最初は酷く警戒した。何も言わずに後ろに回るから…背後を取られると言うことは命を取られるのと同じ様な意味を持つから。なのに、ベレッサは何食わぬ顔でリレランの髪を梳きだして綺麗に整えて、終わり。これで物凄く満足しているらしい。だから、あえて何も言わずにリレランは好きな様にさせている。食事をする代金は無しでいいから、時々ここに来てね、とベレッサは言った。セラを助けてくれたお礼だそうだが、そう言うものなのかとリレランは了承しここに来る様にもなった。
「ほぅ……リラ…あなたの髪も瞳もやっぱり物凄く綺麗ねぇ…森の中に中にしまっておくのが勿体ないわ…」
ベレッサもセラもリレランが森で寝泊りをしているのを知っている人間だ。なんでわざわざと最初はしつこく聞かれたものだが、生まれが森の中で、人混みやここの生活に慣れていないと押し切ってリレランはいつも森に帰る。
「良いんだ。ベレッサ…あそこが僕の故郷みたいな物だから…」
本当の故郷はないけどね…
「どうだ、元気にしているか?」
「うわぁ!ビックリした!!」
それはそうだろう。開店前の店の準備でカーテンを開けて窓を開け、テーブルと椅子を並べて机を拭いて、井戸から水を汲んで湯を沸かし、パン生地を確認して釜度を温める。この街にやって来て、この店に雇ってもらって毎朝行って来た事が、やっと考えなくてもさっさとできる様になったセラ。新しい町、新しい環境に慣れて、置いてもらえる場所で毎日忙しく働き、今日も一生懸命に動き回っていた。
そんな所に突然ヒョイッと物陰から出てくるように、森の道で助けてくれたあの物凄く綺麗な少年が顔を出したのだから、それはそれは驚いた………
セラの心臓はまだバクバクしてる……………
「大丈夫?この店、そんなに大変だった?」
仕事を探していると言っていたのでリレランは小耳に挟んだ事をセラに教えたのだが駄目だっただろうか?この店主は人当たりもよく差別もしない、明るい優しい人だからきっと他国人でも受け入れてくれると思っていたのだが?リレランは小首を傾げる。
「ちが、違います!ビックリして…だっていきなりそこから人が現れるなんて思わなかったから…」
深呼吸しつつセラはリレランを店に招き入れた。今はまだ早朝に近い。だからあまり人は外を通っていないだろう。リレランは良くも悪くも物凄く容姿が目立つのだ。恐ろしい事に本人は全くと言っていいほど気にもとめていなくて…だから、こんな風にヒョイッと現れては店の周りが大騒ぎになったりもする。まぁ、そのおかげか、
"謎の絶世の美少女、美少年が現れる店"
として周囲に周知されてしまって、もともと料理の味も悪くはなかったから、あっという間に人気店となって繁盛してしまった。
「おはよう、リラ。あなたいつも急に来るんだもの。ビックリしてしまって…こっち来て!焼き立てのパンとスープはいかが?ベレッサさんを呼んでくるから!待ってて?」
元気よく挨拶をしてリレランに椅子を進める。リレランも大人しく言われた様に席につく。人間の生活や習慣は何となく見てみたし、聞いてみたし、もう分かったつもりでも見知った者を喜んで迎えてくれるその優しさは精霊達にはあまりなくて、とても新鮮…
精霊は基本用がある時にしか接触はして来ないし、べたべたと馴れ合わないから。そう考えると、マリーは別格だったと思う。
「はい、どうぞ~出来立てですからね?熱いですよ~。」
リレランの目の前にはホカホカ湯気が上がっているスープと焼き立ての香ばしい匂いのするパン。マリーのことを考えながら出された物に口を付ける。最初は熱い物をそのまま口に入れて火傷をしていたものだが、この頃はやっと慣れた。
リレランは龍だ。人間の様に毎食食事を取らなくても、なんなら自然の森にでも出て野生の動物を狩ればいい…でも何となく、マリーがかまって来ていた様な雰囲気を味わいたくて時々ここに来る。ま、助けたセラがどうしているかとかはついでに観察をしているんだが。
「美味しいな…」
リレランは食べ物を口にしなくても死なない龍だ。人間の食べ物を美味しいと、喜んで食べることになろうとはついぞ思わなかった。
「うふふ、でしょ?ベレッサさんご自慢のスープだもの。今日は後3種類出す予定で、新作も続々考えてるのよ?」
生き生きとまるで自分のことの様に話すセラを見るのは嫌じゃない。暖かいパンとスープがとても美味しかった。
「いらっしゃい!リラ!久しぶりね?」
この店の女主人、ベレッサ。フラッと顔を出すだけなのにリレランの事を親しみを持って呼んでくれたのはこの人が最初だ。なぜか、店に顔を出すと、ベレッサは手にブラシを持っては現れる。
「久しいな。ベレッサ、腰はもういいのか?」
一人で店を切り盛りしていた苦労が祟ったのか、先日腰を痛めてしばらく店を休んでいたのだ。
「もう、大丈夫よ!私も若くないのに若者と同じ様にできると思っちゃったのがいけないのよね~恥ずかしいわ…」
そして持ってきたブラシでリレランの髪を梳きだす。最初は酷く警戒した。何も言わずに後ろに回るから…背後を取られると言うことは命を取られるのと同じ様な意味を持つから。なのに、ベレッサは何食わぬ顔でリレランの髪を梳きだして綺麗に整えて、終わり。これで物凄く満足しているらしい。だから、あえて何も言わずにリレランは好きな様にさせている。食事をする代金は無しでいいから、時々ここに来てね、とベレッサは言った。セラを助けてくれたお礼だそうだが、そう言うものなのかとリレランは了承しここに来る様にもなった。
「ほぅ……リラ…あなたの髪も瞳もやっぱり物凄く綺麗ねぇ…森の中に中にしまっておくのが勿体ないわ…」
ベレッサもセラもリレランが森で寝泊りをしているのを知っている人間だ。なんでわざわざと最初はしつこく聞かれたものだが、生まれが森の中で、人混みやここの生活に慣れていないと押し切ってリレランはいつも森に帰る。
「良いんだ。ベレッサ…あそこが僕の故郷みたいな物だから…」
本当の故郷はないけどね…
応援ありがとうございます!
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