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46 レギル王子の婚約者

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"レギル、人間の王に挨拶しなくていいの?"

 帰って来たとは言え、そのまま風の塔に登って来たレギル王子は勿論王に謁見してはいない。これには少しレギル王子が驚いた。リレランは人間の治権にも興味なさそうだし、レギル本人とだって親睦を深めようとはして来なかったのに…カシュクールに帰ろうと言ってみたり、王に会おうとするなんて…

"ラン…何に君は気を使っているんだ?君らしくない気もするんだが…"

 それでもレギル王子は嬉しさを隠さずにリレランに近付く。

「行こう…レギル。」

 あ、という間にリレランは人型になっているし、服も着ている……

「ラン、服まで?」

「人間の王の前に出るにはこれで良い?」

 リレランは瘴気の森では裸で十分という態度であったのに今はちゃんと人前に出ても遜色ない服装を身に纏っている。人になっているリレランは本当に綺麗だ…今は結う物が無かったのか流されるままになっている真珠色の髪をレギル王子がそっと撫でる様にして整えて行く。

「あぁ、これで良いだろう。瞳はそのままでいいのか?」

 今も水晶の様にどこまでも透き通るリレランの瞳…何となく、城の者達にであっても見せたくはない…

「これでいい。行こうレギル。」

「え?行くとは?父の所に?帰国も、謁見の申し出もしてはいないぞ?」

「大丈夫。シェルツェインが伝えているよ。」

「なるほど。了解した。父上に紹介したらどれだけ驚かれるか…」

 レギル王子の瞳は期待に輝いていた。

「さぁ、シェルツェインが上手く話しているんじゃないのかな?」







「これは、何という珍客か…今日という日は我が国の歴史に残るであろう…」

 レギル王子とリレランが謁見の間に入っていけば、既にそこにはカシュクール国王、王妃、叔父にあたるオレイン公に宰相、カリスを始めとする大臣数名が控えている。蝶の谷に共に出向いた魔術士マラールに騎士ヨシットまでが揃っていた。

 レギル王子とリレランが王の前に進み出る。すると王は王座を降りてリレランの前で丁寧に礼を取った。王妃、オレイン公、謁見の間に集まった人々は王のそれに倣い、皆丁寧に頭を下げたのだった。

 シェルツェインが包み隠さず王に伝えた事がよく分かる………

「私はカシュクール国国王ギルダイン・カシュクールと申します。」

「カシュクールの王。僕には人間の作法は分からない。」

 リレランは王の名乗りを手を挙げて制した。レギル王子の時もそうであったが、人間の名前には興味が無いらしい。

「十分に存じております。…レギル、良く帰った……」

「父上………御健勝で何よりです。」

 レギルに向けられた王の瞳は一瞬優しさに緩む。

「一つ人間の王に言いたい事がある。」

 リレランの外見は少年と言っても過言では無い程まだ成人の男性より線が細い。そして美しすぎる美貌に人目を惹かずにはいられない瞳の色と髪の色……一国の王の前だというのに緊張しないばかりかリレランにはどこか面倒臭そうな雰囲気さえある。人間の姿で有るのに存在が人間離れしている。そんなリレランを見ていると人の中に居るリレランが龍で有る事を実感させられるレギル王子だった。

「はい、何なりと……」

「ここにいるレギルが僕に対価を払いたいと煩いんだ。人間の王、僕の望みはレギルが人としての一生を全うする事だ。これに伴侶はいないのか?」

「は?レギルに伴侶ですか?」

「そうだ。心を預けるものでも居ればここに残りたくもなるだろ?」

「…………」

 レギル王子はジッとリレランを見つつもまだ黙している。

 確かに、天変地異が過ぎれば、国の地固めのために世継ぎ問題が浮上する。疫病などの影響で妃選びも難航していたのも事実。あのままレギル王子が国へ残っていれば今頃側近達は妃候補者を城へ召し上げる事位していたかもしれない。実は既に何名かの候補者は国内、国外に問わずリストアップされてもいた。

 リレランの突然の申し出にもレギル王子は動じなかった。この為にここに来ようとしたのかとスッキリと納得さえしていた。

「そうですね、確かに妃の問題はありますので、候補者は何名かおりますが……」

「じゃあ人間の王、レギルが好きそうなのを見繕ってあげてよ。」

 少年の姿のリレランに妻となる女を見繕ってあげてと言われるレギル王子が少々哀れに見えて来ても、王は表情一つ変えずにリレランの言葉を聞き入れるしか無いだろう。

「無理でしょうね…」

 今まで黙していたレギル王子が発言する。

「なんで?」

「ラン、それは対する対価ではないだろう?悪魔でも私に取って良い道というべきものだ…違うか?」

 ザワッ………未だに龍リレランの名前を知るものが王城にはいない中、レギル王子は敢えて、リレランの名前を呼ぶ。

「父上に申し上げます!此度のカシュクールが危機から脱したのは紛れも無くランの働きの故です。しかし、我が国はその対価を支払ってはおりません。ランが言う望みとは私の事についてでありラン自身が望んだものではありません!」

「…だから、なんでそれがダメなの?レギル…」

「ラン……君は人知を超えた力で精霊に干渉したのだろう?ならば、その歪みが必ず何処かで出てくる。我らの後の時代の者達にそんな遺産は残していけない。」
 
 凛と響き渡るレギル王子の声に、未だにリレランの前に首を垂れている王妃を始め宮廷魔術士マラールは清々しい笑みを浮かべていた。
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