[完]蝶の精霊と思っていたら自分は龍でした 皆んなとお別れするのは寂し過ぎるのでもう一度殻に閉じこもりますから起こさないでください

小葉石

文字の大きさ
48 / 72

48 リレランの思い

しおりを挟む
…レギル王子は自分の人生を全うすること……

 何度問われてもリレランはこれしか答えない。レギル王子はリレランの本心を知りたいのだが……それが分かっていてもリレランは言わない……それは以前に決めた事…だから、早く離れなければ………

「ラン!ここにいたのか?」

 風の塔に吹く上空の風は強く、整えて結い纏め上げられた髪が一気に乱れていくような力強さも感じる。カシュクールに来てより、リレランのこの頃の日課となりつつあるのは風の塔から地上を見下ろすこと。肉眼では街並みなど見えない程に遠いのだが、それでもリレランはここがいいらしい…

 レギル王子が風の塔に上がってきた時にはフワリと見知った気配があった。

「シェル?」

「そう。気配だけでなった?」

 シェルツェインとは子供の時からの付き合いだ。気配も声も覚えてはいるが……?

「?」

「…何でもないよ、レギル。」

 ニコリ……とリレランが笑う。リレランが珍しく爽やかに笑う所など、ついぞ見たことがなかったレギル王子は一瞬身体が動かなくなる程の衝撃を受けた。

 柔らかなリレランの表情とは反対に、シェルツェインの気配はどこと無く何か言いたげだったが、それをレギル王子は気にも留めずに、カツカツとリレランに近付くと着ていたマントでそっとリレランを包み込む。

「……レギル?」

「いつも不思議なのだが、寒くは無いのか?」

「……龍の時は裸なんだけど………」

 何を今更、レギル王子は馬鹿な質問をしてきたものだ。キョトンとレギル王子を見上げてくるリレランの顔が年相応の幼さを残すものに見えて、レギル王子の心には愛しさが込み上げてきた……

「…そうだったな……」

 随分とリレランは人間に慣れたのではないだろうか?表情も先程のように以前にまして豊かになり、食事も人と同じ物も食べるようになったし…このままカシュクールに居ついてくれても一向に構わない。いや、対価…これを払わなければいけないのかだが…

 レギル王子は本当に嬉しかった。リレランの求める物を直ぐにでも差し出せることが一番いいのだとは思うのだが、レギル王子を避け離れようとしていた頃に比べれば今のリレランは雲泥の差だと思う。

「…もう、これ以上は望んではいけないんだろうな………」

「なんで?一国の王子が、随分弱気だね?」

 一体何が欲しいのかな、とリレランは小首を傾げる。

「ランが知ってもしょうがない物だ。」

 自分の命は対価として支払うつもりでいるのだが、リレランにも同じ様に自分を求めて欲しいことだと、どうしても諦めきれずに思ってしまう。こんな事を言っても素直にリレランが聞くとも思えない…が、いずれ捧げられる短い命ならその思い出に、もう少し、もう少し、と欲が出てきてしまうのをレギル王子は止められない。

「ふ~~ん……レギル、君が何が欲しいのか知らないけどさ、この国はいい国だね?」

「え…?」

「ん~レギルには見えないかな?精気の流れがね、他よりも整っているんだ。」

 だから、リレランにとっては他の国よりも居心地が良い。アーランにいた時には人間の住処で寝泊りしようとも思わなかったのに…ここでは違和感がないんだ。

「精気の流れ…?」

「シェルツェインに聞いた事ないの?」

「どうだったか……?精霊との関わり方についてだろうか?」

「うん…そうだと思う。他の国よりもここの国民は精霊を身近に感じているだろう?そう言う意志や思いって言うのを僕達龍は感じるし糧にもするんだ…」

 だから食事なんてしなくてもいい。森にいればそこにはちゃんとした精気の流れがあるから。古龍達はそれを知っているからこそ古巣から出てこないのかも………

「私には計り知れない物を、ランの美しい瞳は見ているのだな……私にもいつか見えるだろうか………」

 ふと、レギル王子は思ったのだ。リレランと同じ物が見えたなら、少しリレランの心に近づけるような気がして…自分も見てみたいと……

ビュォオオォォォォォオオオオ…ォォオォォ

 突然、風の塔に強風が吹き荒ぶ…ただでさえ上空で普段から風の勢いは強いのに、それに輪を幾重にもかけたように強い風だ。

「うっ………っ!!」

 いきなりの事に、レギル王子は体制を崩し、塔の床に身を屈めて風に耐える…

「……ッラン!!」

 屈んだ後にリレランがいない事に気がついた。起こせるだけ首を起こして周囲に目をやれば、リレランは龍の姿でレギル王子の上に浮いて留まっていた。

"シェル!!何のつもりだ!……シェル!!"

 この風は間違い無くシェルツェインが起こしている物だろう…しかし、なぜ?今までこんな暴走にも似た様な荒れ方をしたことはなかったはずだ。

"レギル……私は言ったわね?精霊は嘘はつけないと…"

「!?」

 今まで不機嫌そうだったシェルツェインの声だ。精霊が嘘はつけないのは知っている。だが、どうやったらこの暴力的な強風に襲われることになるんだ…!

"龍リレラン……貴方は黙る様に言っていたけど、古き良き友人の願いを無視することは出来ないの…"

 シェルツェインのこの強風はレギル王子にでは無く、リレランへ向けられていた………

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由

スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。 これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。 無自覚両片想いの勇者×親友。 読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。

聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています

八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。 そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

処理中です...