[完]蝶の精霊と思っていたら自分は龍でした 皆んなとお別れするのは寂し過ぎるのでもう一度殻に閉じこもりますから起こさないでください

小葉石

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48 リレランの思い

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…レギル王子は自分の人生を全うすること……

 何度問われてもリレランはこれしか答えない。レギル王子はリレランの本心を知りたいのだが……それが分かっていてもリレランは言わない……それは以前に決めた事…だから、早く離れなければ………

「ラン!ここにいたのか?」

 風の塔に吹く上空の風は強く、整えて結い纏め上げられた髪が一気に乱れていくような力強さも感じる。カシュクールに来てより、リレランのこの頃の日課となりつつあるのは風の塔から地上を見下ろすこと。肉眼では街並みなど見えない程に遠いのだが、それでもリレランはここがいいらしい…

 レギル王子が風の塔に上がってきた時にはフワリと見知った気配があった。

「シェル?」

「そう。気配だけでなった?」

 シェルツェインとは子供の時からの付き合いだ。気配も声も覚えてはいるが……?

「?」

「…何でもないよ、レギル。」

 ニコリ……とリレランが笑う。リレランが珍しく爽やかに笑う所など、ついぞ見たことがなかったレギル王子は一瞬身体が動かなくなる程の衝撃を受けた。

 柔らかなリレランの表情とは反対に、シェルツェインの気配はどこと無く何か言いたげだったが、それをレギル王子は気にも留めずに、カツカツとリレランに近付くと着ていたマントでそっとリレランを包み込む。

「……レギル?」

「いつも不思議なのだが、寒くは無いのか?」

「……龍の時は裸なんだけど………」

 何を今更、レギル王子は馬鹿な質問をしてきたものだ。キョトンとレギル王子を見上げてくるリレランの顔が年相応の幼さを残すものに見えて、レギル王子の心には愛しさが込み上げてきた……

「…そうだったな……」

 随分とリレランは人間に慣れたのではないだろうか?表情も先程のように以前にまして豊かになり、食事も人と同じ物も食べるようになったし…このままカシュクールに居ついてくれても一向に構わない。いや、対価…これを払わなければいけないのかだが…

 レギル王子は本当に嬉しかった。リレランの求める物を直ぐにでも差し出せることが一番いいのだとは思うのだが、レギル王子を避け離れようとしていた頃に比べれば今のリレランは雲泥の差だと思う。

「…もう、これ以上は望んではいけないんだろうな………」

「なんで?一国の王子が、随分弱気だね?」

 一体何が欲しいのかな、とリレランは小首を傾げる。

「ランが知ってもしょうがない物だ。」

 自分の命は対価として支払うつもりでいるのだが、リレランにも同じ様に自分を求めて欲しいことだと、どうしても諦めきれずに思ってしまう。こんな事を言っても素直にリレランが聞くとも思えない…が、いずれ捧げられる短い命ならその思い出に、もう少し、もう少し、と欲が出てきてしまうのをレギル王子は止められない。

「ふ~~ん……レギル、君が何が欲しいのか知らないけどさ、この国はいい国だね?」

「え…?」

「ん~レギルには見えないかな?精気の流れがね、他よりも整っているんだ。」

 だから、リレランにとっては他の国よりも居心地が良い。アーランにいた時には人間の住処で寝泊りしようとも思わなかったのに…ここでは違和感がないんだ。

「精気の流れ…?」

「シェルツェインに聞いた事ないの?」

「どうだったか……?精霊との関わり方についてだろうか?」

「うん…そうだと思う。他の国よりもここの国民は精霊を身近に感じているだろう?そう言う意志や思いって言うのを僕達龍は感じるし糧にもするんだ…」

 だから食事なんてしなくてもいい。森にいればそこにはちゃんとした精気の流れがあるから。古龍達はそれを知っているからこそ古巣から出てこないのかも………

「私には計り知れない物を、ランの美しい瞳は見ているのだな……私にもいつか見えるだろうか………」

 ふと、レギル王子は思ったのだ。リレランと同じ物が見えたなら、少しリレランの心に近づけるような気がして…自分も見てみたいと……

ビュォオオォォォォォオオオオ…ォォオォォ

 突然、風の塔に強風が吹き荒ぶ…ただでさえ上空で普段から風の勢いは強いのに、それに輪を幾重にもかけたように強い風だ。

「うっ………っ!!」

 いきなりの事に、レギル王子は体制を崩し、塔の床に身を屈めて風に耐える…

「……ッラン!!」

 屈んだ後にリレランがいない事に気がついた。起こせるだけ首を起こして周囲に目をやれば、リレランは龍の姿でレギル王子の上に浮いて留まっていた。

"シェル!!何のつもりだ!……シェル!!"

 この風は間違い無くシェルツェインが起こしている物だろう…しかし、なぜ?今までこんな暴走にも似た様な荒れ方をしたことはなかったはずだ。

"レギル……私は言ったわね?精霊は嘘はつけないと…"

「!?」

 今まで不機嫌そうだったシェルツェインの声だ。精霊が嘘はつけないのは知っている。だが、どうやったらこの暴力的な強風に襲われることになるんだ…!

"龍リレラン……貴方は黙る様に言っていたけど、古き良き友人の願いを無視することは出来ないの…"

 シェルツェインのこの強風はレギル王子にでは無く、リレランへ向けられていた………

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