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7 学園での日常
しおりを挟む学園の朝は早い。
夜会中心に生活をする様な貴族といえど生徒である内は学ぶ姿勢を崩すべからず、との学園の方針である。
スロウルは朝から厨房に入り浸り、ルウアの為に茶葉の厳選から始める。
昼食夕食は学園の食堂で取るが、朝はプライベートな時間として各々自室で取るからだ。
「おはようございます。ルウア様。お目覚めですか?」
ドアをノックし返事があるまで待機だ。侍従や侍女枠で入園した者は基本主人となる者の世話役でもある。
主人が学園で恙無く生活できる様に心を砕き、お仕えする。
卒業した後の就職先や昇給にかかってくると言っても良い為、見た目以上に必死に仕えるのも分かるのだ。
ルウアは見た目がハッキリとした目鼻立ちの影響からか、しっかり者との印象をを受けやすいのだが…
が、幼い頃からの性格は数年で入れ替わらない様に、ルウアもしっかりしている様に見えるだけで、実は抜けているところも多くて幼い頃とあまり変わらない。
先ず、朝が弱いのだ。先日皇太子が屋敷に来た時は慌てふためいた侍女達が総出でルウアを起こしにかかり、ボーッとしている間に人形の様になっているルウアの洗面と着替え、化粧を施し、部屋を出る瞬間に殿下の来訪を告げたそうな…
涙ぐましい侍女達の働きによってルウアはスッピンで現れることもなかった。
まぁ、スッピンでも十分可愛い自慢の異母妹だとスロウルは思ってはいる。
「は~~い……」
部屋の中からは微かに聞こえるルウアの声。これでも精一杯頭を起こし返事をしている、と本人は言っていたが。
シャン、として凛とした気品ある異母妹がただのフニャフニャした眠そうな女の子になるのだ。
ここでこんな姿を知っているのは家族である自分だけだろう。
アリーヤ様が心を許した相手に対して警戒心が無くなることがあるので皇太子妃となっても心配は尽きない、と仰っていたのがよく分かる。
「失礼します。」
声をかけて入って見れば、ルウアはベッドの上でうつ伏せて丸まりながら必死に目を覚まそうとしている。
思わずクスクスと、笑みが出る。
「ルウア様?」
「はい。起きてます。」
いや、起きてないだろう事は見て分かるのだが、本人は至極真面目。
「さっぱりとしたミントティーを入れましたよ。甘くします?」
ガバ!ルウアの令嬢らしからぬ起き方でこちらの方がビックリした……
「お兄様?」
まだ寝ぼけていたのか、今更ながらに少し顔が赤いルウア。
「スロウル…ですよ。おはようございます。目が覚めました?」
「そうか、学園でしたわね…」
「フフッまだ夢を見ている様ですね。」
クスクス笑い続けているスロウルをキッと睨み付ける。
「今は誰の目も無いのだから良いでは無いの!」
「積み重ねがモノを言うんですよ。気を抜いてしまえば部屋の外でもきっと気が緩みます。」
爽やかなミントティーを静かにテーブルに用意する。
「私はいつでも何処でもお兄様って言いたいわ。」
「お気持ちは本当に嬉しいです。ありがとうルウア。」
スロウルの優しいシルバープロンドの瞳がしっかりとルウアを捉えて、優しくニッコリと笑いかける。
スロウルは本当にルウアを大切にしているってルウアにも凄く分かるのだ。いつもいつもしっかりと分かってる。我儘を言った時はこうやって少し、答えてくれるし。
だから余計にもどかしい…兄として尊重も、尊敬もしてはいけないなんて!
「さあ、ルウア様。お茶が冷めてしまいますよ?」
ルウアの肩にガウンをかけてテーブルへと促す。
「今日の朝食はさっぱりとしたサラダサンドに、豆のスープにしてもらいました。」
「お兄様も一緒に?」
「スロウル。」
「……スロウルも一緒に?」
「いえ、私は先に食堂で済ませましたよ。」
朝も早い侍従達の為に簡単な食事が食堂で取れる様になっているのだ。
「お兄様……」
少し拗ねた様にちろりと睨んでくる。全く怖くも恐ろしくも無いし、可愛いとしか言えないのだが…
「今日の予定をお伝えしても?」
拗ねたルウアを綺麗に流しながら、本日の朝食をテーブルに並べて行く。彩の良い新鮮な野菜サンドと暖かい豆のスープ。
「食事はちゃんと取っていますの?」
スロウルの質問に答えずに、ルウアにはまずは兄がどうしても気になる様だ。
「本日の朝食は麦芽入りパンと肉入りスープをおかわりまで頂きましたよ。」
おかわりまで食べていると言う兄の体型はスラリ、としている。少し、痩せすぎじゃ無いかしら?それともほっそりとして居るお母様のナリラ様に似たのかしら?
もしや、食べでも食べても太らないとか?
なんて、羨ましいお兄様なの?
むぅ、とした顔で、スロウルを見つめ何事かを考え動かなくなってしまったルウアは警戒している小動物みたいに見えた。
ついつい笑ってしまいそうになるのを堪えて、顔を引き締めておかないとニヤニヤと顔が緩んでくるただの怪しい人物だ。
「私は基本動いている量がルウア様よりずっと多いですからね?だから食べでも太らないんですよ。ルウア様もまだまだ成長期。ダイエットなどもっての外ですよ?もう少し太っていても十分に魅力的ですからね?」
穏やかな声に諭される様に言われてしまえばしっかりと食べないと悪い感じがする。
ルウアはやっとスプーンを持ち暖かいスープに口をつけていった。
「今日はクラス発表があるでしょう?早めに教室に向かいたいと仰っていましたね。食べたら急いで用意しますよ。」
今日から忙しくもしばらくは穏やかな幸せを噛みしめられるだろう…
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