[完]優しい竜の咆哮

小葉石

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18、竜の小さな番 1

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 仲間の中で一番最初に目が覚めた。仲間達がまだ微睡んでいる時にはもうすぐ側に番の気配を感じて大人しく寝てなどいられなかったから。

 竜は記憶を継承する。自身の命が終わる時に卵としてまた生まれてくるその時に。
前生の大切な記憶は自分の番とした者の魂の記憶である。楽しかった日々や細やかな思い出はぼやけてしまうが、自分の番の魂の色だけは忘れることはできない。

 だから目が覚めた。目覚めて一番最初に何よりも早く今生の番を自分の眼に焼き付けておきたかったから。

 自分の番は泣いていた。柔らかそうな栗色の髪が印象的な小さな身体に小さな手…人に手を引かれながら目の前に立っていた。幼すぎてきっとここまで来ることが恐ろしかったに違いない。竜の卵の保管室は薄暗く、外部からの侵入を防ぐために窓もなく締め切られた部屋だから…青空のような水色の瞳に透明に光る涙を湛えて、なんとも美しく大きな瞳を更に大きくしてこちらを見つめていた。
 卵から外に出た瞬間に瞳が合い、彼女はびっくりして涙を止める。そんな些細な事であってもこの心を猛り高めてしまうのが番なのだ。

…僕は、カーリス…

 彼女の周囲には何人もの人間がいる。竜の卵は王家の管理に入るので、きっと王城に勤める者達の誰かなのだろう。その中でも一際豪奢な衣類をいている者に竜はカーリスと自分の名前を名乗った。けれども番は幼過ぎたのか始終キョトンと不思議そうにしていただけだ。

 小さな番はエルイーシャと言った。耳も口も効けない哀れな子だと王族は言った。だからそれがなんだと答えた。竜は容姿でも能力でもない、魂によって番を決めるのだから全く問題にならなかった。そしてエルイーシャの瞳は良くものを言う…クルクルと色が変わり色々な感情を直接伝えてきてくれる。それを見ているのだけでも幸せで満ち足りる。

 そして幼いエルイーシャの扱われ方を知るようになった。元々王族だというのに実に質素、簡略、節制を突きつけられたような離宮にたった数名の侍女と共にまだ幼い彼女は一人で住んでいる。甚だ扱い方に問題がある様にも思えたが、離宮ならば離宮で良いとカーリスは離宮に住むことを了承する。ここの方が卵の保管場所である王城よりも静かで落ち着いており、ゆっくりとエルイーシャと過ごすのに適していると思ったのだ。煩わしい騎士もおらず、小うるさい教育係も要らないだろう。必要ならば手ずから全てを教え、命懸けで自分が守るのだから…
 耳の聞こえないエルイーシャはいつも彼女専用の石板を手に持ってカーリスの元へとやってくる。カーリスを見つけるとニコニコと満面の笑みを讃えてくるものだから、たった一晩でも離れているのが惜しくて朝がいつも待ち遠しかった。

 彼女は沢山のことを語った。もちろん、話すことはできなくとも、石板に拙い字でエルイーシャの優しい気持ちを表してくれてカーリスの気持ちを聞きだし一生懸命に分かり合おうとしてくれたのだ。嬉しくないはずがないだろう。一つ一つ、小さな事で彼女の望みを書きながら…

 全て、叶えてあげたかったのに……
















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