[完]優しい竜の咆哮

小葉石

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44、竜騎士カーリスの宝 10

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 トルーという竜は産まれた時々によって鱗の色が違った美しい竜だったとうっすらと記憶している。そして社交的で陽気で人好きで、気の良い竜であった事は覚えている。ロデアンネはこの竜トルーの番だ。前生のトルーの番の姿など覚えてはいないが、トルーの魂と力が竜カーリスを突き動かしたのは確かであった。

「以前、ロディには私がトルーをしたと言ったな?」

 ポロポロと涙を流しなら呆然とするロデアンネは竜騎士カーリスを凝視したまま動かない。

「私の中に、トルーの命がある…」

 竜トルー…同じ時代に産まれた大切な仲間であった竜…

 懐かしい竜の仲間の事を語るのに、竜騎士カーリスは少し微笑んで見えるのに、なぜか辛そうで…

「だから、ロディが私の番であるという事も間違えではないんだ。」

「……聞いた、事も無い……」

 コロント伯爵は絞り出す様な声で言う。

「そうだろうな…人間にはロディにしか話してはいないのだから。」

「………竜は…たった一人を番とする……」

 呆然とするロデアンネがそう呟く。その伝えが合っているのならば、竜騎士カーリスは自分の番を最早あの憎たらしい下女サリャーナにと決めたことになる。今もソファーに座るだけなのにサリャーナを自分の膝の上から下ろそうとしない竜騎士カーリスのその姿が、如実にその事実を肯定していて…

「その通りだ。」

 傷を受けたロデアンネに追い討ちをかける様に竜騎士カーリスは肯定した。


 あぁ…なんて、残酷なんだろう…すっかり全てを攫っていきながら、が現れたからと言って宝としていた者をあっさりと捨てられるなんて…この非情さが竜なのだろうか?


 へなへな…とロデアンネは力が抜けた様にソファーに沈み込んだ。

「わたしは……どうすれば…?」

 舞い上がっていた。これから先自分の人生には竜騎士カーリスが常に側にいる。だから何があっても大丈夫なのだと…

「私の知りうる王家に渡をつけよう。竜の番であったのだ。どの王家もロディの事は無碍にはしないだろう。」

 竜の寵愛を受けし令嬢ともなれば、恩恵に預かろうとどの国でも欲しがるだろう。そしてロデアンネに礼を欠いた処遇は龍の怒りを買うとしてどの国でも丁寧に扱われるだろうからだ。そしてそれが王家の保護となればロデアンネの格も保たれようというもの…

「私は……貴方だけだと思っていたのに…!」

 小さな声で呟かれるロデアンネの悲痛な言葉が胸を裂く…

「それは……酷いと思います!」

 じっと耐えてこの時間を何とかやり過ごそうかとも思っていたけれどもサリャーナはつい、声に出してしまう。

 弱り泣いているロデアンネからは酷い嫌がらせを受けていたし、実際にロデアンネは竜の餌にしようとしてサリャーナの命まで軽んじた事があった。だけれどもロデアンネにやり返そうとかそんな事は考えられなかったし、ただ日々無事に過ごして叶う事ならばこのお屋敷から出ていきたいと思うくらいだった。
 だから、目の前で一人の淑女がこんな裏切りの様な捨てられ方をして泣かされているのを見てしまったら、黙ってはいられなくなってしまった。この原因となっているのは自分の番だった竜カーリスだと思うと尚更放っては置けない。

 フルフルと竜騎士カーリスの腕の中で震えていたサリャーナだったが、空色の綺麗な瞳でしっかりと竜騎士カーリスの瞳を見つめてカーリスを非難した。










 
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