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第36章:「友達」
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「栗山くん!」
そのカン高い声に振り向くと、やけに派手なコが満面の笑みを浮かべていた。
誰だっけ?
「なんですか?」
「ね、一緒に遊びに行かない?」
「同じクラス、じゃないよね?」
一応クラスメイトの顔と名前は全員覚えてる。
毎日顔を合わせるから、覚えたくなくても記憶に残る。
「私のこと、知らないの?」
「・・・ゴメン。俺、クラスメイトくらいしかわかんねぇから」
「そうなんだ。私は2年の中村美由紀。一応去年のミス付属校」
「へぇ。で?」
「だからぁ、一緒にどっか行かないかなって。映画とか、ショッピングとか」
「俺、彼女いるし、忙しいから」
「え?彼女いるの?」
「いるよ」
「でも、今彼女いたってまだ高一なんだし、彼女と一生ずっといる訳じゃないんだし、彼女よりいいコなんて世の中たくさんいるだろうし・・・例えば私とか?」
なんなの、コイツ?
頭、おかしいのかな。
「彼女より俺にとっていいコなんているわけないし、俺達、一生一緒にいるから」
すると、このコは逆ギレして俺の胸倉をいきなり掴んだ。
マジで、なんなの、コイツ。
「なにがしたいの?」
「その彼女が私よりいい女だって言うの?!」
「そうだよ。比較にならない位いい女」
「私のこと知らない癖に!」
「アンタだって俺の彼女のこと何にも知らないだろ」
するとそこに、待ち合わせをしてた千晶がやってきた。
「杏ちゃん、何やってんの?浮気?くくっ」
「千晶、なんか俺、意味なく絡まれてるんだけど」
「絡まれてるんじゃなくて、迫られてるんでしょ?」
「とにかくさ、中村さんだっけ?」
「なによ」
「俺、彼女と結婚するんだ」
「へ?」
「それはもう確定だし、こんなことで彼女に誤解されたくないし、それに」
「なによ?」
「アンタみたいなコ、彼女がいなくても興味ないから」
すると。
「バカにしないで!」
中村さんは右手を大きく振り上げ、俺の頬を引っ叩こうとした。
だから、俺がその右手を掴むと、それを思いっきり振り払い、顔を真っ赤にして駆け足で去って行った。
「あ~あ」
千晶が苦笑いしてる。
「行こう。喜多嶋さんが待ってる」
「杏ちゃん、恨み買わないようにね」
「俺、なんにも悪いことしてないし」
「そうだけど。あの中村さんのプライド、ずたずたにしちゃったからさ」
「あの人、そんなに有名なの?」
「有名だよ。美人で頭がよくて気が強くて・・・モデルしてるらしい。結構世間では人気あるんだってさ」
「ってことはあの人、モテるんだろ?問題ないじゃん」
「いや、あ~いう女は執着が凄そうだから気を付けなね?」
「ん、俺は大丈夫。あのコが美和に危害を加えるとも思えないし」
「そうだね」
しかし、それはかなり甘い判断だったことがすぐに発覚する。
「ただいま」
研究所から戻り玄関を開けると、そこには美和と木村さんとミワワがいた。
あれ以来木村さんは、ミワワと美和に会いに一人でよくウチに来る。
千晶もよく来るけど。
美和も哲ちゃんも木村さんとは気が合うみたいで
「夕貴ちゃんは素朴でかわいいよねぇ」
ってよく話している。
たしかに、さっきの中村さんとは大違い。
「夕貴ちゃん、夕食食べていく?」
「いえ、もうそろそろ帰ります。今日もミワワと美和さんと遊べて楽しかったです!」
「あ、そうだ。さっき哲ちゃんから電話があって、できたら帰りに仕事場に寄って欲しいって言ってたよ。渡したいモノがあるんだけど重いから、それを夕貴ちゃんの家まで車で運んでくれるって」
「え、なんだろう?先日もミワワのぬいぐるみを頂いて・・・すっごく可愛いんですよ!」
「あはは。よかったね!」
「はい!もうすごく幸せです!」
なんか木村さんって本当にいいコだよな。
美和と気が合うの、わかる気がする。
「美和。暗くなってきたから、木村さんを哲ちゃんところまで送ってくるよ」
「え、私は大丈夫だよ!」
「そうだね。送ってあげた方がいいよ。私はここで夕食の支度してるね」
「うん。すぐ戻る」
俺はチャリを引っ張りながら木村さんと一緒に哲ちゃんの仕事場に向かった。
「なんかごめんね。美和さんとの貴重な時間を使わせて」
「30時間に比べたら10分くらいどうってことないよ。くくっ」
「美和さんと栗山くんってもうどのくらい一緒にいるの?」
「俺が中2の時からだから、2年半くらいかな」
「そんなに前から付き合ってるんだ」
「あ、いや、美和と知り合ってあそこに住み始めてからそのくらいってこと。公認で付き合うようになってからは半年くらい。俺、その頃行くところなくて、フラフラしてて、美和に拾ってもらったんだ。あ、もう着いた。やっぱここ、近いなぁ」
そして、翌日。
俺が学校に行くと・・・
「杏ちゃ~ん!大変だぁ~!」
「どうした?!」
「木村さんが中村さんのグループに呼び出されたらしい!すぐに探し出さないと!」
「なんでそんなことに?」
「昨日、だれかが杏ちゃんと木村さんが一緒に歩いてるところを目撃したらしんだよ!」
マジかよ。
そんなことで。
狂ってる。
こういう時、哲っちゃん的に考えると、事は体育館裏か理科準備室、もしくは女子トイレで起きていると相場が決まっている。
こういうことを頼みたくはなかったんだけど・・・俺は圭さんに電話をした。
なんでかって。
単に学校内のことで、常識の範囲内だったら俺だけでなんとか出来る。
でも、「あの」中村さんの標的が「俺の彼女」ってことなら、美和にも危害が及ぶ可能性がある。
木村さんを巻き込むなんて、ありえないだろ?
とにかく。
今の段階で、速攻なんとか事を終わらせないと。
それも確実に。
TRRRRRRRRRR
「杏?どうした?」
「圭さん、すみません。至急のお願いがあるんですけど」
「なんだ?どうせ美和ちゃんのことだろ?」
「ま、まだそこまで事は進んでないんですけど念のため。なんか面倒くさいコが学校にいてですね・・・俺の周囲に危害を与え始めてるみたいなんです」
「モテるヤツは辛いな。くくっ」
「そういうんじゃないんですけど、想像するに欲しい物は絶対に手に入れないと気が済まないワガママお姫様タイプみたいで、おまけにモデルをやってるプライドの高い人みたいなんですね。更にちょっと行動が逸脱してて」
「なるほどね、そんで杏は「近藤組」の名前を使って釘を刺したいってとこか?」
「そういうことです。すみません。でもそれが手っ取り早くて確実そうなんで」
「たしかに。で、ソイツの名前は?」
「中村美由紀です」
「ん~聞いたことないな。ちょっと確認してみるよ。すぐ折り返しする」
「お願いします」
その間に俺と千晶は木村さんを探す。
やっぱり・・・いた。
体育館裏。
木村さん、中村さんを中心に10人くらいのケバイ女子に囲まれてる。
「アンタみたいなブスが、なんで栗山くんの彼女なのよ?!」
「ち、違います!私が栗山くんの彼女な訳ないです!」
「じゃ、なんで栗山くんと歩いてたわけ?!」
「それは、栗山くんの知り合いの方のところまで送ってもらっただけです!」
木村さん、案外度胸座ってるなぁ。
もっとビクビクしてると思ったんだけど。
俺は千晶と共に、その集団に歩み寄った。
千晶に、木村さんをアイツらから離すように頼んで。
「栗山くん!」
「中村さん、こんなところで何してるの?」
「このコが栗山くんの彼女なの?!」
「違うよ」
「じゃ、なんで一緒に歩いてたの?!」
「今、木村さんが言った通りだよ。知り合いのところまで送っただけ」
「じゃ、栗山くんの彼女はどこにいるの?!ここに連れてきてよ!」
「なんでそんなことしなくちゃいけない訳?俺が一番大切にしてる彼女、わざわざこんな危ないところに連れてくるわけないし、中村さんに見せる必要もないし」
「だって納得できないわよ!私が相手にされないなんて!」
ホント、この人、面倒くさいな。
その時。
TRRRRRRRRRRRRR
「どうでしたか?」
「ん、そのコが所属してるモデル事務所の社長、俺の知り合いだった」
「じゃ、名前出さない方がいいですかね」
「いや、別に構わないよ。でもオマエ、近藤組の名前出したら、学校で友達できなくなるよ?」
「千晶がいるし、他にはいらないですよ。むしろ、都合がいいです」
俺が千晶を見ると、内容がわかってるみたいで俺に親指を立てた。
俺は千晶に微笑んだ。
「ならいいけど。ちなみにその社長、五味さんっていうんだけど、「ウチの大事な息子と俺の命より大事な女になんかあったらタダじゃ済まないよ」って言っといたから、そのコに早速連絡してるんじゃない?くくっ」
「すいません。ありがとうございます。じゃまたあとで」
俺は電話を切った。
「こんな時に他の電話に出るなんて、失礼じゃないの?!」
「中村さん」
「なによ?」
「五味さんから電話、かかってきてるんじゃないかな」
「は?」
「スマホ、確認した方がいいよ」
すると、中村さんの顔が真っ青になった。
「なんで、社長から直接・・・あ、はい。中村です。すみません、お電話取れなくて・・・え?」
中村さんの顔が更に青くなった。
「いえ、すみません。はい、え、それは困ります!はい、わかりました。後で伺います。はい、失礼します・・・」
「早く事務所に行った方がいいんじゃないの?」
「栗山くん、あなた・・・こんなことして、みんなにバレてもいいの?!」
「別に俺、困るようなこと何にもないよ。親父も兄貴たちも近藤組のみんなも俺の家族だし信頼できる人たちだし。アンタみたいにセコイこと、絶対にしないしね。むしろ、俺が近藤組の組長の息子だって言いふらして欲しいくらいだよ。俺の自慢の家族なんだからさ」
「・・・」
「俺の周りにいる人達はね、みんな体張って真剣に生きてる、強くて優しくて凄い人たちばっかりなんだよ。俺の彼女も含めてね。アンタみたいにちっちゃい人間じゃないんだよ」
「・・・」
「アンタみたいな人には理解できないだろうけど、見てる世界が全然違うんだよ。だから、アンタみたいな人は俺の視界にも入って来ないんだよね」
「・・・」
「じゃ、もう二度と、俺達には関わらないでくださいね」
俺は千晶と木村さんを引きつれてその場を去った。
学校近くの公園。
木村さんをベンチに座らせる。
「木村さん、変なことに巻き込んじゃってごめんね」
「栗山くんのせいじゃないよ!あの人、頭おかしいって!普通に考えたら、私が栗山くんの彼女じゃないくらい誰でもわかるよ!」
「あはは。木村さんはいい人だね」
「そんなんじゃないよ!当たり前だよ!美和さんにも失礼すぎるし!」
「あのね、木村さん」
「うん」
「さっきの話、聞いてたと思うけど・・・別に内緒にしてたわけでもないんだけど、俺、近藤組の組長の息子なんだ」
「血は繋がってないけどね!」
「そんなの知ってるよ?」
「え?」
「美和さんもてつやさんも圭さんのこと普通に話してたし、孝太郎さんにも「自慢の弟をよろしくね?」って挨拶されたし」
「あ、そうなんだ」
「それになにより、「ミワワ」にヤクザさん出てくるし!」
「あはは、そうだよね」
「だから説明する必要ないよ」
「でもこれから学校でそれが知れ渡ったら木村さんにまた迷惑行くかもしれないし。美和は寂しがると思うけど、ウチに出入りしてるってなったら木村さんの友達が離れて行っちゃうかもしれないからしばらく来ない方がいいかもしれない」
「大丈夫だよ。友達いないし」
「「え?」」
「それに私、あの家で美和さんとミワワと、おまけにてつやさんにも仲良くしてもらって、本当に楽しいの!別に学校に友達がいなくても大丈夫。それに栗山くんと斎藤くんは今まで通り、こうやって話してくれるんでしょう?」
「そりゃ、木村さんがよければ」
「あったりまえだよ~!」
「じゃ、私は今まで通りでいいよ。ううん、それがいい!」
「ありがとう、木村さん。じゃ、とりあえず今日もウチに寄ってく?千晶も来るだろ?」
「うん!」
「もちろん俺も~!」
千晶と木村さん。
俺にも同い年の友達がいる。
そう思った瞬間だった。
そのカン高い声に振り向くと、やけに派手なコが満面の笑みを浮かべていた。
誰だっけ?
「なんですか?」
「ね、一緒に遊びに行かない?」
「同じクラス、じゃないよね?」
一応クラスメイトの顔と名前は全員覚えてる。
毎日顔を合わせるから、覚えたくなくても記憶に残る。
「私のこと、知らないの?」
「・・・ゴメン。俺、クラスメイトくらいしかわかんねぇから」
「そうなんだ。私は2年の中村美由紀。一応去年のミス付属校」
「へぇ。で?」
「だからぁ、一緒にどっか行かないかなって。映画とか、ショッピングとか」
「俺、彼女いるし、忙しいから」
「え?彼女いるの?」
「いるよ」
「でも、今彼女いたってまだ高一なんだし、彼女と一生ずっといる訳じゃないんだし、彼女よりいいコなんて世の中たくさんいるだろうし・・・例えば私とか?」
なんなの、コイツ?
頭、おかしいのかな。
「彼女より俺にとっていいコなんているわけないし、俺達、一生一緒にいるから」
すると、このコは逆ギレして俺の胸倉をいきなり掴んだ。
マジで、なんなの、コイツ。
「なにがしたいの?」
「その彼女が私よりいい女だって言うの?!」
「そうだよ。比較にならない位いい女」
「私のこと知らない癖に!」
「アンタだって俺の彼女のこと何にも知らないだろ」
するとそこに、待ち合わせをしてた千晶がやってきた。
「杏ちゃん、何やってんの?浮気?くくっ」
「千晶、なんか俺、意味なく絡まれてるんだけど」
「絡まれてるんじゃなくて、迫られてるんでしょ?」
「とにかくさ、中村さんだっけ?」
「なによ」
「俺、彼女と結婚するんだ」
「へ?」
「それはもう確定だし、こんなことで彼女に誤解されたくないし、それに」
「なによ?」
「アンタみたいなコ、彼女がいなくても興味ないから」
すると。
「バカにしないで!」
中村さんは右手を大きく振り上げ、俺の頬を引っ叩こうとした。
だから、俺がその右手を掴むと、それを思いっきり振り払い、顔を真っ赤にして駆け足で去って行った。
「あ~あ」
千晶が苦笑いしてる。
「行こう。喜多嶋さんが待ってる」
「杏ちゃん、恨み買わないようにね」
「俺、なんにも悪いことしてないし」
「そうだけど。あの中村さんのプライド、ずたずたにしちゃったからさ」
「あの人、そんなに有名なの?」
「有名だよ。美人で頭がよくて気が強くて・・・モデルしてるらしい。結構世間では人気あるんだってさ」
「ってことはあの人、モテるんだろ?問題ないじゃん」
「いや、あ~いう女は執着が凄そうだから気を付けなね?」
「ん、俺は大丈夫。あのコが美和に危害を加えるとも思えないし」
「そうだね」
しかし、それはかなり甘い判断だったことがすぐに発覚する。
「ただいま」
研究所から戻り玄関を開けると、そこには美和と木村さんとミワワがいた。
あれ以来木村さんは、ミワワと美和に会いに一人でよくウチに来る。
千晶もよく来るけど。
美和も哲ちゃんも木村さんとは気が合うみたいで
「夕貴ちゃんは素朴でかわいいよねぇ」
ってよく話している。
たしかに、さっきの中村さんとは大違い。
「夕貴ちゃん、夕食食べていく?」
「いえ、もうそろそろ帰ります。今日もミワワと美和さんと遊べて楽しかったです!」
「あ、そうだ。さっき哲ちゃんから電話があって、できたら帰りに仕事場に寄って欲しいって言ってたよ。渡したいモノがあるんだけど重いから、それを夕貴ちゃんの家まで車で運んでくれるって」
「え、なんだろう?先日もミワワのぬいぐるみを頂いて・・・すっごく可愛いんですよ!」
「あはは。よかったね!」
「はい!もうすごく幸せです!」
なんか木村さんって本当にいいコだよな。
美和と気が合うの、わかる気がする。
「美和。暗くなってきたから、木村さんを哲ちゃんところまで送ってくるよ」
「え、私は大丈夫だよ!」
「そうだね。送ってあげた方がいいよ。私はここで夕食の支度してるね」
「うん。すぐ戻る」
俺はチャリを引っ張りながら木村さんと一緒に哲ちゃんの仕事場に向かった。
「なんかごめんね。美和さんとの貴重な時間を使わせて」
「30時間に比べたら10分くらいどうってことないよ。くくっ」
「美和さんと栗山くんってもうどのくらい一緒にいるの?」
「俺が中2の時からだから、2年半くらいかな」
「そんなに前から付き合ってるんだ」
「あ、いや、美和と知り合ってあそこに住み始めてからそのくらいってこと。公認で付き合うようになってからは半年くらい。俺、その頃行くところなくて、フラフラしてて、美和に拾ってもらったんだ。あ、もう着いた。やっぱここ、近いなぁ」
そして、翌日。
俺が学校に行くと・・・
「杏ちゃ~ん!大変だぁ~!」
「どうした?!」
「木村さんが中村さんのグループに呼び出されたらしい!すぐに探し出さないと!」
「なんでそんなことに?」
「昨日、だれかが杏ちゃんと木村さんが一緒に歩いてるところを目撃したらしんだよ!」
マジかよ。
そんなことで。
狂ってる。
こういう時、哲っちゃん的に考えると、事は体育館裏か理科準備室、もしくは女子トイレで起きていると相場が決まっている。
こういうことを頼みたくはなかったんだけど・・・俺は圭さんに電話をした。
なんでかって。
単に学校内のことで、常識の範囲内だったら俺だけでなんとか出来る。
でも、「あの」中村さんの標的が「俺の彼女」ってことなら、美和にも危害が及ぶ可能性がある。
木村さんを巻き込むなんて、ありえないだろ?
とにかく。
今の段階で、速攻なんとか事を終わらせないと。
それも確実に。
TRRRRRRRRRR
「杏?どうした?」
「圭さん、すみません。至急のお願いがあるんですけど」
「なんだ?どうせ美和ちゃんのことだろ?」
「ま、まだそこまで事は進んでないんですけど念のため。なんか面倒くさいコが学校にいてですね・・・俺の周囲に危害を与え始めてるみたいなんです」
「モテるヤツは辛いな。くくっ」
「そういうんじゃないんですけど、想像するに欲しい物は絶対に手に入れないと気が済まないワガママお姫様タイプみたいで、おまけにモデルをやってるプライドの高い人みたいなんですね。更にちょっと行動が逸脱してて」
「なるほどね、そんで杏は「近藤組」の名前を使って釘を刺したいってとこか?」
「そういうことです。すみません。でもそれが手っ取り早くて確実そうなんで」
「たしかに。で、ソイツの名前は?」
「中村美由紀です」
「ん~聞いたことないな。ちょっと確認してみるよ。すぐ折り返しする」
「お願いします」
その間に俺と千晶は木村さんを探す。
やっぱり・・・いた。
体育館裏。
木村さん、中村さんを中心に10人くらいのケバイ女子に囲まれてる。
「アンタみたいなブスが、なんで栗山くんの彼女なのよ?!」
「ち、違います!私が栗山くんの彼女な訳ないです!」
「じゃ、なんで栗山くんと歩いてたわけ?!」
「それは、栗山くんの知り合いの方のところまで送ってもらっただけです!」
木村さん、案外度胸座ってるなぁ。
もっとビクビクしてると思ったんだけど。
俺は千晶と共に、その集団に歩み寄った。
千晶に、木村さんをアイツらから離すように頼んで。
「栗山くん!」
「中村さん、こんなところで何してるの?」
「このコが栗山くんの彼女なの?!」
「違うよ」
「じゃ、なんで一緒に歩いてたの?!」
「今、木村さんが言った通りだよ。知り合いのところまで送っただけ」
「じゃ、栗山くんの彼女はどこにいるの?!ここに連れてきてよ!」
「なんでそんなことしなくちゃいけない訳?俺が一番大切にしてる彼女、わざわざこんな危ないところに連れてくるわけないし、中村さんに見せる必要もないし」
「だって納得できないわよ!私が相手にされないなんて!」
ホント、この人、面倒くさいな。
その時。
TRRRRRRRRRRRRR
「どうでしたか?」
「ん、そのコが所属してるモデル事務所の社長、俺の知り合いだった」
「じゃ、名前出さない方がいいですかね」
「いや、別に構わないよ。でもオマエ、近藤組の名前出したら、学校で友達できなくなるよ?」
「千晶がいるし、他にはいらないですよ。むしろ、都合がいいです」
俺が千晶を見ると、内容がわかってるみたいで俺に親指を立てた。
俺は千晶に微笑んだ。
「ならいいけど。ちなみにその社長、五味さんっていうんだけど、「ウチの大事な息子と俺の命より大事な女になんかあったらタダじゃ済まないよ」って言っといたから、そのコに早速連絡してるんじゃない?くくっ」
「すいません。ありがとうございます。じゃまたあとで」
俺は電話を切った。
「こんな時に他の電話に出るなんて、失礼じゃないの?!」
「中村さん」
「なによ?」
「五味さんから電話、かかってきてるんじゃないかな」
「は?」
「スマホ、確認した方がいいよ」
すると、中村さんの顔が真っ青になった。
「なんで、社長から直接・・・あ、はい。中村です。すみません、お電話取れなくて・・・え?」
中村さんの顔が更に青くなった。
「いえ、すみません。はい、え、それは困ります!はい、わかりました。後で伺います。はい、失礼します・・・」
「早く事務所に行った方がいいんじゃないの?」
「栗山くん、あなた・・・こんなことして、みんなにバレてもいいの?!」
「別に俺、困るようなこと何にもないよ。親父も兄貴たちも近藤組のみんなも俺の家族だし信頼できる人たちだし。アンタみたいにセコイこと、絶対にしないしね。むしろ、俺が近藤組の組長の息子だって言いふらして欲しいくらいだよ。俺の自慢の家族なんだからさ」
「・・・」
「俺の周りにいる人達はね、みんな体張って真剣に生きてる、強くて優しくて凄い人たちばっかりなんだよ。俺の彼女も含めてね。アンタみたいにちっちゃい人間じゃないんだよ」
「・・・」
「アンタみたいな人には理解できないだろうけど、見てる世界が全然違うんだよ。だから、アンタみたいな人は俺の視界にも入って来ないんだよね」
「・・・」
「じゃ、もう二度と、俺達には関わらないでくださいね」
俺は千晶と木村さんを引きつれてその場を去った。
学校近くの公園。
木村さんをベンチに座らせる。
「木村さん、変なことに巻き込んじゃってごめんね」
「栗山くんのせいじゃないよ!あの人、頭おかしいって!普通に考えたら、私が栗山くんの彼女じゃないくらい誰でもわかるよ!」
「あはは。木村さんはいい人だね」
「そんなんじゃないよ!当たり前だよ!美和さんにも失礼すぎるし!」
「あのね、木村さん」
「うん」
「さっきの話、聞いてたと思うけど・・・別に内緒にしてたわけでもないんだけど、俺、近藤組の組長の息子なんだ」
「血は繋がってないけどね!」
「そんなの知ってるよ?」
「え?」
「美和さんもてつやさんも圭さんのこと普通に話してたし、孝太郎さんにも「自慢の弟をよろしくね?」って挨拶されたし」
「あ、そうなんだ」
「それになにより、「ミワワ」にヤクザさん出てくるし!」
「あはは、そうだよね」
「だから説明する必要ないよ」
「でもこれから学校でそれが知れ渡ったら木村さんにまた迷惑行くかもしれないし。美和は寂しがると思うけど、ウチに出入りしてるってなったら木村さんの友達が離れて行っちゃうかもしれないからしばらく来ない方がいいかもしれない」
「大丈夫だよ。友達いないし」
「「え?」」
「それに私、あの家で美和さんとミワワと、おまけにてつやさんにも仲良くしてもらって、本当に楽しいの!別に学校に友達がいなくても大丈夫。それに栗山くんと斎藤くんは今まで通り、こうやって話してくれるんでしょう?」
「そりゃ、木村さんがよければ」
「あったりまえだよ~!」
「じゃ、私は今まで通りでいいよ。ううん、それがいい!」
「ありがとう、木村さん。じゃ、とりあえず今日もウチに寄ってく?千晶も来るだろ?」
「うん!」
「もちろん俺も~!」
千晶と木村さん。
俺にも同い年の友達がいる。
そう思った瞬間だった。
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