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たいけみお

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第37章:「悪い予感」

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最近。

俺は今までになく、自分でも驚くくらい、めちゃくちゃ不機嫌になる瞬間がある。


それは、今みたいに―――

起きた瞬間に美和が隣にいないとき。



もう、こういうことは本当にやめてくれ。

ったく、美和のヤツ、どこに行ったんだよ。



俺は頭をくしゃくしゃに掻きながらベッドから起き出し、その乱れた状態まま美和を探しに出かける。


「あ!」


俺の部屋からリビングに続く縁側。

向こうから美和が「しまった!」ってな顔で歩いてくる。



「喉渇いたから麦茶飲んできたの・・・」



言い訳する美和を無言で抱きかかえ、俺はくるりと方向転換。

そのまま再びベッドに潜る。



「もっかい寝なおす」

「たった2分くらいだったのにな」

「小さな冷蔵庫ここに置くから」

「・・・うん」




はぁ―――落ち着く・・・



クーラーの効いた俺の部屋で、暖かい美和を抱きしめて寝るのは気持ちいい。

で。

起きて一番に美和の顔を見るのが俺の幸せ。




ところで。



俺の高一の夏休みはかなり忙しい。

アーサーのトレーニングに、近藤関係の仕事に、そして麻生家。

でも、美和と一緒に過ごす時間は結構ある。



思い返せばこの半年、俺は美和からかなりの技術を学んだ。

試験管や顕微鏡、薬剤の取り扱いだけじゃなくて、

もう手術器具も使えるし、注射も、縫合も出来る。



そして、この麻生家の規模からして、

恐らく俺は、ここの隠し部屋のほとんどを、もしかしたら全てを把握したんじゃないかと思う。

位置関係も、大きさも、そしてそこに保存されてるモノについても。

もちろんこれらのことについては、アーサーにも誰にも内緒だ。


なぜこれらの保存に麻生家の先祖が代々力を注いできたのか「理由を聞かない」。

それが約束だから、俺の質問は本当に実質的なことだけ。

でもこの半年でいくつか気付いたことがある。



例えば。


ここの隠し部屋に保管されてるモノは多種類だけど、一種類あたりの数が非常に少ないということ。

わかりやすく言うと、もの凄く貴重なお茶碗がここにあったとして、それは一つもしくは二つしかここに保存されていない。

つまり、誤って俺がそれを割ってしまったら、取り返しがつかない。


あと、そのモノがなんなのか、どうして貴重なのか、ということを明文化していないということ。

それは書類などにしてしまったら盗まれて悪用される可能性があるから、だと思う。

だから全ての情報は美和の頭の中にある。


幸い俺達は同期できるから、言葉で1つ1つ美和から説明を受けるよりは数倍作業が早い、はず。

でも念のため、余計な情報が勝手に流れないように、一回一回、説明の度にペンダントを付けたり外したりする。


具体的には―――

美和がその「モノ」を手にとって、心の中で説明をすると、俺の中に入ってくる。

そして俺はそれを頭の中にある「麻生家」のフォルダーに保存する。


この作業自体は単純だ。

だけど。

この作業をすればするほど、美和の凄さが身に染みる。



美和の脳に蓄積されている膨大な情報。

俺がまだ教えてもらってない、もしくは気付いていない何か技術的なもの。

そしてその二つを俺が習得した後に待ってるものは恐らく、その二つの統合。

そしてそれらの応用。



美和を超えるってどういうことなんだろうと、想像できなくて少し不安になってきている自分がいる。

でも。

俺は前に進み続けるって決めている。

この先、どんなことが起ころうとも。



同時に。


美和はその「理由」について、俺が自ら途中で気付くだろうと言っていたけど。

まだ俺には、その「理由」について、確信はない、けど、正直。


その「理由」について、ものすごく悪い予感がしている。

そしてその予感が、外れて欲しいと思っている。



でも。



「アーサー」の存在を思う時。

何故「アーサー」が「何も聞かずに」この家と美和を保護しようとしているのか、考える時。

「アーサー」のメンバーの言葉の端々に、憂いと覚悟を感じる時。


俺は、絶望的な気持ちになる。



そしてもしその予感が当たっているのだとしたら。



その秘密、麻生家、そしてそれに伴う危険を一人で背負ってきた美和は、

今までどういう気持ちで生きてきたのだろうと思って・・・泣けてくる。

眠れないのだって、当然だ。



船上で美和は

「こうやって毎日一緒に寝てもいい?なんかすごくホッとする・・・すごくよく眠れるの」

って聞いてきた。


初めて「アーサー」本部に向かうジェットの中でも、俺の腕の中で

「こんなによく眠れたの、いつ以来だろう?」

って呟いていた。


きっと、特に健さんが亡くなってからは、よく眠れていなかったに違いない。



俺や圭さんに思いっきり抱きついてくるのだって、きっとそのぬくもりが、美和の不安を少し和らげるからに違いない。



美和、辛かったよな。

でももう大丈夫・・・俺がいるから。

ずっと傍にいるから。

不安な時は、どこでも、いくらでも、抱きしめてやるから。


俺は両頬を撫でて、再び寝息を立てている美和の唇に、優しいキス落とした。





ピッピッピッピッ




え?

今まで聞いたことがないようなシグナル音。

左手に付けてるデジタル時計を見ると、赤くランプが点滅している・・・


その音に反応して、寝ていた美和も飛び起きた。

「美和、モニター室に行ってくるからここで待ってろ」

「私も行く!」



俺はクローゼットの奥に隠されているドアを次々に開け、108台のモニターが並ぶその部屋に入った。

素早く瞳だけを動かして、全てのモニターを一気に確認する。


「裏庭だ」


そこには小さな、隠し部屋へと抜ける入口がある。

俺と美和しか開けられないけれど。

俺達は急いでそこに向かった。




TRRRRRRRRRRR



美和のスマホが鳴った。



「シグナルが反応してますが、大丈夫ですか」

喜多嶋さんだった。


「今確認中なので、わかり次第すぐ折り返しします」

「杏くんは?」

「傍にいます」

「僕は今からそちらに向かいます。他のスタッフ、Z部隊も待機させますので」

「わかりました」




その間、俺はそのドア近辺に何か異常がないか調べる。

一見、なんの変わりもない・・・が。



「あれだ・・・」



その瞬間。

それの一部が赤く点滅しているのが見えた。


ヤバイ・・・




「美和!走れ!離れろ!」


俺は美和の腕を掴み、全速力でその場を離れる・・・


そして5秒後。


パーン!



その物体は自爆した。

幸い、爆発力自体はたいしたことなかった。


よかった。

美和が怪我しなくて。




「杏、あれがなんだったか見えた?」

「ウェブカメみたいな、黒くて丸い物体。小さなプロペラが付いてた」

「あの爆発力だと・・・ただの証拠隠滅だね」

「あぁ、多分」



俺は喜多嶋さんに連絡をした。


「喜多嶋さん、科学捜査チーム頼みます。不審物が爆発しました。たいしたことなかったですけど」

「怪我は?2人とも大丈夫ですか?」

「大丈夫です」

「よかった」

喜多嶋さんは電話口で心底ほっとした様子。



それから5分して、喜多嶋さんは到着した。

頭上でヘリの物凄い音がする。

Z部隊も心配して見に来てくれたんだろう・・・Dかな?



「粉々ですね。跡形もない」

「あれは多分カメラです。ピンポン球くらいの大きさで、小さなプロペラが付いていました。何かに衝突して墜落して、証拠隠滅で自爆したんだと思います」

「恐らくこの頭上に張り巡らされている赤外線に接触したんでしょう」

「そうかもしれないですね。赤外線、網目をもう少し細かくした方がいいかもしれないです。あのカメラかなり小さかったので」

「そうですね。担当者と相談して、早速工事を入れましょう」

「ありがとうございます・・・で、喜多嶋さん」

「はい」



「俺がここに来てからもう約2年半ですけど、こんなことは初めてですよね。それ以前は結構あったんですか?」

「美和さんがここを留守にしていたその前の3年間もなかったですよ。ただその間はZ部隊の監視の元、かなり大規模な工事を続けていたので、付け込む隙はなかったと思いますが」

「じゃ、その前は?」


「その時は僕はまだ担当ではなかったんですが、年に数回は狙われていたと、前任者から聞いています」

「誰が狙っていたのかはわかってるんですか?」

「彼らが狙った獲物が分かれば、大体想像はつきます。でもそれによって彼らの目的も、そして彼らの組織の規模も大きく異なりますが」


「今回の場合は・・・特定が難しくなりますね」

「恐らく」



その直後、科学捜査チームとZ部隊が到着し、その不審物以外にこの敷地内に何者かが侵入した形跡はないと判断。

爆発した場所の土を採取して、彼ら、そして喜多嶋さんは去って行った。

だから俺と美和も家の中に入った。


俺は背後から美和をそっと抱きしめて言った。

「大丈夫か?」

「うん。平気」

「心当たりは?」

「あり過ぎて今の段階では想像できないよ・・・杏?」


「ん?」

「傍にいてくれて、ありがとう」

美和のカラダが、少し震えていた。





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