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たいけみお

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第83章:「誕生日I」

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「美和ちゃん、今夜は本当に抜けられないの?」

「私のことはいいから、カレンさんはパーティに行って楽しんできて?今夜は救急だから何時になるかわからないし・・・待ってる必要ないですよ?」

「それはそうかもしれないけど・・・」


たしかに。

美和ちゃんは病院でかなり頼りにされている存在で、

医療スタッフにも患者さんにも慕われていると聞いている。

だけど。


これは美和ちゃんが自主的にやっていることで、

もし彼女がスケジュールを変えたいと彼らに言っても、なんの問題もないはず。


やっぱり、

杏くんの誕生日パーティを避けてるんだろうな。

スケジュールをフルにすることで。




美和ちゃんが病院に向かった後。

私はスティーブに電話した。


「美和ちゃん、今夜はムリみたい」

「オマエは来いよ?」

「ん、ちょっとだけ顔出すけど・・・なんか予想してたような口ぶりね」


「あぁ、キョウがそう言ってたから」

「杏くんが?」

「ミワのスケジュールはフルだし、自分ともあんまり関わりたくないんじゃないかって」


「杏くんが、そう言ったの?」

「あぁ。ちょっとびっくりした。アイツ、よくミワのこと見てる」

「美和ちゃんの事、思い出したってわけじゃないんでしょう?」

「んー、そこがよくわかんねぇとこなんだけど。たぶんまだだと思う。でも・・・」

「でも?」


「ミワの事、気に入ってるのは確かだな・・・」

「え?」

「アイツがミワのこと話してるときの顔・・・俺が初めて杏にアーサー本部で会った時と・・・ミワのことを一番に考えて、あれこれ動いてた時の顔と、おんなじなんだよ」




======


夕方になり、俺が大学からアパートメントに戻ると、既にみんなが出揃っていた。

リビングのテーブルにはたくさんの料理と・・・お酒。


「今日は飲むぞー。たくさん酒、持ってきたからな」

「ジェイク、俺こんなに飲めないって」

「何言ってんだ。強いくせに」


「ワタシ、今日はケーキ焼いてきたのよ!」

「サラ、ありがとう、わざわざ来てくれて。忙しいんじゃないの?」

「いいの、いいの!ね、レオン?」

「あぁ、ボクたちも楽しみにしてたし」


「圭さんもありがとね」

「何言ってんだか。明日は大学、何時からなんだ?」

「夕方にちょっと実習が入ってるだけ」

「そっか。ならゆっくりできるな」



カレンさんとスティーブはキッチンでまだ準備をしてて、

そこから俺たちの会話に参加していた。


みんながこうやって、俺のために集まってくれてるのはすごく嬉しい。


でも。

彼らはまだ、俺が一通り、美和・・・さんとのことを認識していることを知らない。



だから俺は・・・そこに絶対に触れてはいけない。

悟られちゃ、いけない。

知られては、いけない。


たとえ、酒が入ったとしても。

だから―――ちょっと、気が抜けない。




ジェイクは久しぶりにカレンさんと、レオン、そしてサラと会ったみたいで、

ものすごく話が盛り上がっていた。


「カレンと最後にすれ違ったのは上海だよな?一瞬だったけど・・・3年くらい前か?」

「そうでしたっけ?気のせいじゃないですか?」

「いくら諜報だからって、そんな昔の話は隠さなくってもいいだろ?身内なんだし・・・な、レオン。大丈夫だよな?」



「カレンは優秀な諜報部員だから、こういう場だって仕事のことを話したりしないよ。ね?スティーブ?」

「だろうな。でもあの時は俺の頼んだモノをジェイクに運んだんだよなぁ?くく」

「スティーブって・・・本当によくわからないヒトね」



こういう会話を聞いてると。

アーサーっていうのは。

強い信頼関係で繋がっている、物凄い人たちの集団だってことがよくわかる。


いつもは自分たちの仕事を、別々の場所で行っていて、

集合かかかったらどこででも落ち合って、

そして、


ひとたび会えば、

いつも一緒に暮らしている家族のように、

とても久しぶりに会った人たちとは思えないように会話をする。



誰にでも出来ることじゃない。

――――俺も、そうなりたい。

彼らみたいな、大人に、なりたい。


俺は、

その方向に、向かってるのだろうか?




和気あいあいと時間が流れる中。

デイヴィッドと学長も、このアパートメントにやってきた。


「なんか、俺の誕生日ごときですみません」

「いやいや、レオンとサラも来るって聞いて、楽しみにしてたんだよ?」

「私達は彼らにはめったに会えないからねぇ」


「で、キョウはどう?頑張ってる?」

「報告してる通り、全く問題ないですよ。現場も見てるから即戦力になるでしょう」

「大学の方も、病院側も、キョウには残ってほしいといってるけど、まぁ、ムリですよね?」

「うん。ムリ。キョウにはボクのところで頑張ってもらうからね。くく」


そうレオンが笑うと。

学長がレオンに言った。


「ミワは?ミワも本部ですか?」

「あー、ミワはね、本部ももちろん手伝ってもらうけど、彼女には彼女の仕事があるからね。そっちがメインになるね」



彼女の、仕事?

「彼女の仕事って?」


俺がそう口を挟むと、スティーブと圭さん、そしてジェイクのエネルギーが一瞬でこっちに向いた。

「彼女はね、「家」の仕事があるんだよ。代々受け継いでいる仕事が」



俺の日記にもそう書いてあった。

「麻生家」は医者の家系で、彼女は「麻生家」最後の生き残りだと。

だから。

あの「家」を守らなければならないんだと。



「じゃあ、日本で開業するってこと?」

「いや、それはないんじゃないかな。必要に応じて患者さんも診るとは思うけどね」


それ以上の詳しい説明は、俺にはなかった。

けど、俺が既に持っている医学知識が全て、彼女から教えられたものであれば。

彼女がやろうとしてることは自ずとわかる。


彼女は・・・

「俺がこれからアーサーと共にやろうとしていること」を、

やろうとしているんだ。


でも、なら、なぜ「彼女の仕事」なんだ?

なぜ、俺たちは一緒に出来ない?

彼女は「アーサー」のメンバーだろう?



そこまで考えて、俺は気が付いた。

自分が自分に残した情報について、更に腑に落ちない点がいくつかあることを。


つまり。


1)なぜ俺は、自分の日記に「アーサー」の文字を一文字も入れなかったのか?

に、

2)なぜ俺は、彼女から教えてもらった医学の事を、書き残さなかったのか。

が、加わることを。


医学のことは、あの3つ目のフォルダーに入ってるのだろうか?




・・・だめだ。


やっぱり俺は、何かを見落としている。。。それか、何か混乱している。

それは・・・なんだ?



終わりの見えない問いが、

俺の頭の中を、ものすごい勢いでスピンする。

頭が・・・おかしくなりそうなくらい。





「キョウ?」

目の前で、サラが心配そうにそんな俺を見ていた。


そんなサラを見ながら―――ここにはいない、彼女の姿が重なる。


と、同時に。


抑えていた俺のカラダが、感情が、動き始めてしまった。



サラをはじめ、ここには、

俺のために集まってくれた人たちがいる。


でも。

はぁ。


ここにいる人たちの事を、俺がどんなに好きでも。



俺は、やっぱり―――

彼女を一目見たい、って、思ってしまう。

ここに、いてくれたら、って。



彼女に―――会いたい。

たとえ彼女が―――困った顔や怒った顔をしていても。




仮に彼女が、それを望んでなかったとしても、

今の俺にはこの気持ちをコントロールできる術がない。


どうしたらいいのか、わからない。


・・・自分でも、はっきりと理由がわからないから、余計に困る。

どうしたらわかるのかも、わからない。




日記を読まなかったら、こんなに気にならなかったのだろうか、とか

記憶を失くして、余計に、「楽しかったはず」の過去に執着してるんじゃないか、とか

いろいろ、想像はしてみるけれど。




「キョウ、大丈夫?」


再びサラに名前を呼ばれて、

俺はようやく、我に返った。



「あー、ごめん。ちょっとぼーっとしてた。酔ったのかな?くく」

「オマエがそのくらいで酔う訳ねぇだろ?」

「あはは。そうか・・・あのさ、スティーブ」

「ん?」

「このケーキと、料理をちょっとずつ、タッパーに詰めてもいい?」


「急に、どうしたんだ?」

「それ、いまから美和さんに持ってくから」






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