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たいけみお

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第89章:「本能と理性」

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先日、美和が自分のメットを買ってきた日。

俺と彼女は、ちょっと微妙な雰囲気になってしまった。

でも、それでも俺は、毎日しつこく、美和をバイクで送り続けている。


―――そんな小さなことより、

出来るだけ美和と会うことの方が、俺にとっては遥かに重要だったから。



それに―――

もう、俺の本能が、カラダが、

勝手に美和の方に向かう。


俺の理性は、それに逆らえない。


本当は、一瞬でも、

俺の本能は、傍に彼女がいないことに耐えられない。

心臓が痛い。




「スティーブ」

「なんだ?」


目の前でコーヒーを飲みながら、パソコンで何か作業をしているスティーブ。

俺はスティーブの用意してくれたスクランブルエッグとベーコンの朝食を食べていた。



「「アーサーの人間が守らなくちゃいけないこと」って、嘘を吐かない、ってこと以外になんかあるの?」

「あぁ、あとは「誰かの質問に対しては、自分のエゴを抜いて、客観的に答える」とか」


「他には?」

「例を挙げるんだったらまだあるけど、根幹は「マニピュレート(操作)しない」ってことだよ。なんで今更そんなこと聞くんだ?キョウはわかってるだろ?」


「それってさ、マニュアルみたいになってないの?」

「なってないよ。そんな必要ないだろ、シンプルだし。それに「そこ」だけわかってたら後はメンバーがそれぞれの状況に応じて判断したらいい。メンバーにはそれだけの能力があるんだから」



「・・・じゃあさ、自分に対してはどうなの?」

「自分?」


「自分に対しても嘘を吐かない、自分をマニピュレートしない、ってこと、でもあるよね?」

「そうだな。俺はそうだと思うよ」


「・・・自分をマニピュレートしないって、難しくない?」

「どういうことだ?」



「真実とか、本心とか、どうやって見極めるの?いろんな考えが次々頭の中で浮かんできて、どれが妄想で、どれがエゴで、どれが事実なのか、わからなくない?それに、そういうことって他人に話さないから、自分だけの判断になるよね?」

「ん、確かに難しいよな。特に感情や思考に振りまわれてると冷静さを失うしな」

「ん・・・そういう時、スティーブはどうしてる?」



「俺は・・・そうだなぁ、判断できないときは判断しないな。判断できるまで待つよ、時間が許せば」

「時間が許さなかったら?」


「そういう時こそ、事実しか見ないよ。事実だけで客観的に判断して、あとはそう判断した自分を信じて、その時自分が出来ることをする」

「―――自分を信じる、ね。そしたらさ」

「ん?」

「本能と理性、だったら?」




*****


本能と理性?


これはキョウが今、本能と理性の狭間で、迷っているという意味か?

そうであれば―――

それはおそらく、いや確実に、ミワとのことだろう。



「なんでそんなこと聞くんだ?」

一応、確かめてみる。


「本能の動きと、理性の判断が違う時ってない?それって、どっちが正しいとかじゃないよね」

「そういうことがあるのか?」

「まぁ・・・ないわけじゃない」

「例えば?」



「例えば―――、「何か」に触りたいって本能で、自分の手が勝手に既にそれに向かって伸びてるのに、理性では「触っちゃダメた」って思ってるとか」

これは確実にミワのことだな。

くく。




「それは、ケースバイケースだとは思うけど―――でも、そういう時は基本的に、本能に従うのが正しいんじゃないか?」

「どうして?」


「だって、本能に抵抗するってことは、自分に嘘を吐くってことだろ?」

「あー、まぁね」


「理性はさ、やっぱ頭だけっていうか―――つまり思考なんだよ。常識とか信念とか過去の経験とか、そういうので判断してるからさ・・・本能の方が自分に正直だと思うな、俺は」

「ん、わかる気がする」


「でも、それが自分や相手を傷つけるような行為だったら、理性で止めるしかないよな」

「・・・そう、だよね。そうだと思う」



「―――まぁ、そういう意味では、確かに判断が難しいよな」

「そうだね・・・ホント、難しいなぁ」



そこでキョウは、くくっと笑った。





「俺は・・・本来の俺は絶対に理性で動くタイプじゃないよ。すげぇ頭悪いと思う。あはは」

「IQ200越えのオマエがなに言ってんだよ?」

「でも、そうだよ・・・最近の俺を見てたら、絶対にそうだ。くく」

「・・・」



「もうさ、本能っていうか、カラダが勝手に動くんだよ。それに頭が付いてってない―――けど、それでもなんとか必死で理性で抑えてる感じ。ヤバいよね・・・」

「それは誰かを傷つける行為なのか?」


「そこがわかんないから―――困るよね。ただ、俺自身だけに関して言えば・・・」

「ん?」


「それはただ、本来のポジションに自分を戻してるだけだと、感じるんだ」







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