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女透明人間現わる!
【透明人間だから、服は着ていません/女透明人間だから、服は着ていません】
* * *
【元アイドル美沙の部屋に不審者が侵入しているらしい。女探偵の調査と女霊能者の霊視によっても手がかりはつかめなかったが、それは何と実験によって誕生した透明人間の女だった!】
その映像には誰も映っていなかった。ただ、ワンルームマンションの室内をビデオカメラでとらえたものだった。なのに突然テレビがついたり、冷蔵庫の扉が勝手に開いたり、挙句には缶ビールが宙に浮かんだりした。
二階堂美沙は映像が流れるタブレットから顔を上げた。童顔美少女系の顔つきながら、勝気な口調である。
「どういうこと?」
今、彼女が立っているのはタブレット内の動画と同じ部屋。美沙の自室である。
サングラスにロングコートのハードボイルドにキメた松田優子と名乗る私立探偵が、エアコンの上に設置していた監視カメラを取り外そうとしていた。
「24時間、監視した結果、不法侵入者はいない」
「じゃあ、これは何なんですか! 部屋のものが勝手に動いているんですよ! 明らかに誰かいるでしょ!」
「そう、誰かいる。でも、私の手には負えないから別の人間に託すことにした」
ドアチャイムが鳴った。
「来たようだな」
その人物は佐田貞代という霊能者だった。巫女さんの衣装をまとったアニメキャラっぽい雰囲気だが、相当に年齢はいっておりイタい感が丸出しである。
「あなた、どこかで見たことがある~。前世かしら~?」
霊能者の貞代は妙に甘ったるい声でお祓い用の御幣を美沙に突きつけた。
「彼女はプロデューサーと不倫してグループを辞めさせられた元アイドルだ」
探偵の優子の言葉に美沙は反論した。
「あれはだまされたんです! ソロデビューさせてあげるからと言われて……」
「もう一度、枕営業をやれば、再デビューできるかもな」
「あんなドロドロした世界、こりごり。今でも週刊誌が追いかけ回してくるんだから。もう引っ越すお金もないし……」
「あっ、あなたの背後にいろんな男の影が見える~。リッチな年配男性ばっかり~」
「それ、パパ活の相手じゃないのか。元アイドルも生活するのは大変だからな」
「いいから早くこの部屋にいる霊を追い払ってください!」
貞代は目を閉じて怪しい呪文を唱え、御幣を振りながら奇声を上げた。
「ご安心を~。この部屋に霊は存在しませんでした~」
だが、優子がサングラスを外し、静かにするよう手で制した。
「……いるぞ」
突如、優子はロングコートの内側を開くと、ショルダーホルスターから拳銃を抜いて構えた。
「ちょっと! 本物じゃないですよね!」
銃口があちこちへ向き、そのたびに美沙や貞代があわてふためいた。と同時に、室内の一方で物音がした。みんなが息を飲む。優子の銃が何もない空間へ向けられる。するとまた物音がして、今度は写真立てが倒れ、隣のコスメグッズが散らばり、さらに美沙が吹っ飛ばされた。
「何かがぶつかってきた!」
美沙が動揺する中、貞代が御幣を大きく振り回しながら何もない空間へと突き進んでいった。すると、ベチッ! ベチッ! と御幣が何かに当たる鈍い音が響いた。
「痛っ!」
とっさにそんな言葉が聞こえたような気がした。優子が空間に飛びかかり、前のめりに倒れた。
「捕まえた! 早く押さえて!」
美沙と貞代はわけが分からないまま、見えない何かを必死に押さえこんだ。優子がまたがるような体勢になり、相手の全体をなでていく。
「やわらかい……ふくらみがあって……」
キュートな鳴き声らしき響きがどこからか聞こえてきた。貞代がその発声元へと手を伸ばしたが、悲鳴を上げて後ずさりした。
「噛まれた~! バケモノよ~! 気をつけて~!」
「これを!」
美沙が持ってきたシーツをパッと開いてかぶせた。シーツは人間の形をして盛り上がっていた。その物体がむっくりと体を起こし、正座する……。
× × ×
……こうして私の正体はバレた。
作家志望の女子なので、今の出来事は小説風に書いてみた。正確には元作家志望で、結局は文才がないために芽が出ず、フリーター生活をダラダラと送っていた。
そんなある日、治験のバイトに申しこんだら怪しげな研究所に連れていかれて、謎の注射を打たれて、こんな有り様、まさかの透明人間だ。そのまま拘束されてモルモット状態だったが、隙を見て脱出に成功した。
というところまでを車座になりながら、探偵と元アイドルと霊能者に説明していた。もちろん、他の三人には私の姿は見えない。幸か不幸か、一糸まとわぬあられもない姿を皆さんにお見せできないのである。
「目的は何? もしかしてマスゴミの差し金? それともストーカー?」
美沙は元アイドルだけに警戒していた。
「いえ、寝るところがなくて、たまたまあなたが酔っぱらって帰宅した時に一緒にまぎれこんで……」
その時、貞代がうめき、白目を剥いて、全身を震わせ始めた。
「おい、どうした!」
「まさか、霊に憑りつかれたんじゃ……」
心配する美沙が救急車を呼ぼうとした瞬間、優子が目を丸くして貞代を見返していた。
「体が消えている……」
巫女の衣装だけが人間の形をして座っており、貞代の顔も手足も存在しないのである。
「もしかして、あたしも透明になっちゃった~?」
「たぶん、私が噛みついたからですかね」
先ほど私を取り押さえた時に、貞代が口の中に手を入れてきたので噛んでしまったのだった。優子はあきれてつぶやいた。
「噛みついて伝染するなんて、吸血鬼みたいだな」
「あたし、霊能者じゃなくて霊そのものになりたかったの~!」
貞代ははしゃぎながら巫女の衣装を脱ぎ捨て、完全に存在をかき消した。
見えなくなることがそんなに嬉しいのか? 透明人間なんて意外に面倒なのだ。働かなくていい、食べ物も盗める、映画館だってタダで入れる。しかし、屋外は暑さ寒さ天候に左右される、裸足で道路を歩くのは危険、ましてや車にでも轢かれたらどうなるか。誰にも気づかれずに死ぬだけである。
「それで、これ、どうやったら元の姿に戻れるの~?」
「戻れないんです。ずっとこのまま。研究所の人たちも分からないらしくて、パニくっていました」
「そんなの困る~!」
ドアチャイムが鳴った。美沙がインターホンで玄関外の相手とやりとりを始め、送話口を押さえて振り向いた。
「警察の人が来ています」
「あんた、今度は事件でも起こしたのかい?」
「そうじゃなくて、探偵の松田優子さんはいるかって」
「なんで私が! いない! いないって言って!」
優子はうろたえながら急かした。美沙はまたインターホンでやりとりした末に通話を終了した。
「中を見せろって言っています。面倒だから入れますね」
「いや、まずいって!」
美沙は優子を無視して玄関へと向かっていった。
「こうなったら……ほら、噛め! 噛みつくんだ!」
優子は服をまくって腕を差しだした。仕方ない。仲間を増やすか。
「おい、二人で噛むな……うっ!」
美沙が二人組の刑事を連れて入ってきた時には、優子の姿はすでに消えていた。刑事たちはバスルームやクローゼットを探したあと、ふと床に優子の服一式があるのに気づいた。下着も散らばる中に拳銃まで。
「たしかにこの部屋にいるはずなんだが」
「いや、あそこから逃げた可能性も」
刑事たちは窓を開けて外を確認した。
「すぐに追うぞ! 応援を呼べ!」
美沙を残して二人があわただしく出ていくと、優子の安堵した声が空間から響いた。
「いやあ、助かった助かった」
「探偵さん、人を殺したことあるでしょ~? あたし、ちゃんと見えるんだから~」
「探偵だけじゃ食っていけないから、副業で殺し屋もやっててな」
ちなみにここは五階。頑張れば降りられるものなのか。私も窓から眼下を眺めてみると、路上に人だかりができていた。
「あっ、報道関係者や野次馬がいっぱい来ていますよ!」
刑事が来たことで何ごとかと大騒ぎになっていた。
「もうさらされるのは嫌。どこかに消えてしまいたい……」
うんざりする美沙に優子が告げた。
「じゃあ、噛んであげるよ」
今、床にはみんなの服が落ちているだけで、誰の姿もなかった。そして四つのくしゃみが同時に響き渡った。
(了)
* * *
【元アイドル美沙の部屋に不審者が侵入しているらしい。女探偵の調査と女霊能者の霊視によっても手がかりはつかめなかったが、それは何と実験によって誕生した透明人間の女だった!】
その映像には誰も映っていなかった。ただ、ワンルームマンションの室内をビデオカメラでとらえたものだった。なのに突然テレビがついたり、冷蔵庫の扉が勝手に開いたり、挙句には缶ビールが宙に浮かんだりした。
二階堂美沙は映像が流れるタブレットから顔を上げた。童顔美少女系の顔つきながら、勝気な口調である。
「どういうこと?」
今、彼女が立っているのはタブレット内の動画と同じ部屋。美沙の自室である。
サングラスにロングコートのハードボイルドにキメた松田優子と名乗る私立探偵が、エアコンの上に設置していた監視カメラを取り外そうとしていた。
「24時間、監視した結果、不法侵入者はいない」
「じゃあ、これは何なんですか! 部屋のものが勝手に動いているんですよ! 明らかに誰かいるでしょ!」
「そう、誰かいる。でも、私の手には負えないから別の人間に託すことにした」
ドアチャイムが鳴った。
「来たようだな」
その人物は佐田貞代という霊能者だった。巫女さんの衣装をまとったアニメキャラっぽい雰囲気だが、相当に年齢はいっておりイタい感が丸出しである。
「あなた、どこかで見たことがある~。前世かしら~?」
霊能者の貞代は妙に甘ったるい声でお祓い用の御幣を美沙に突きつけた。
「彼女はプロデューサーと不倫してグループを辞めさせられた元アイドルだ」
探偵の優子の言葉に美沙は反論した。
「あれはだまされたんです! ソロデビューさせてあげるからと言われて……」
「もう一度、枕営業をやれば、再デビューできるかもな」
「あんなドロドロした世界、こりごり。今でも週刊誌が追いかけ回してくるんだから。もう引っ越すお金もないし……」
「あっ、あなたの背後にいろんな男の影が見える~。リッチな年配男性ばっかり~」
「それ、パパ活の相手じゃないのか。元アイドルも生活するのは大変だからな」
「いいから早くこの部屋にいる霊を追い払ってください!」
貞代は目を閉じて怪しい呪文を唱え、御幣を振りながら奇声を上げた。
「ご安心を~。この部屋に霊は存在しませんでした~」
だが、優子がサングラスを外し、静かにするよう手で制した。
「……いるぞ」
突如、優子はロングコートの内側を開くと、ショルダーホルスターから拳銃を抜いて構えた。
「ちょっと! 本物じゃないですよね!」
銃口があちこちへ向き、そのたびに美沙や貞代があわてふためいた。と同時に、室内の一方で物音がした。みんなが息を飲む。優子の銃が何もない空間へ向けられる。するとまた物音がして、今度は写真立てが倒れ、隣のコスメグッズが散らばり、さらに美沙が吹っ飛ばされた。
「何かがぶつかってきた!」
美沙が動揺する中、貞代が御幣を大きく振り回しながら何もない空間へと突き進んでいった。すると、ベチッ! ベチッ! と御幣が何かに当たる鈍い音が響いた。
「痛っ!」
とっさにそんな言葉が聞こえたような気がした。優子が空間に飛びかかり、前のめりに倒れた。
「捕まえた! 早く押さえて!」
美沙と貞代はわけが分からないまま、見えない何かを必死に押さえこんだ。優子がまたがるような体勢になり、相手の全体をなでていく。
「やわらかい……ふくらみがあって……」
キュートな鳴き声らしき響きがどこからか聞こえてきた。貞代がその発声元へと手を伸ばしたが、悲鳴を上げて後ずさりした。
「噛まれた~! バケモノよ~! 気をつけて~!」
「これを!」
美沙が持ってきたシーツをパッと開いてかぶせた。シーツは人間の形をして盛り上がっていた。その物体がむっくりと体を起こし、正座する……。
× × ×
……こうして私の正体はバレた。
作家志望の女子なので、今の出来事は小説風に書いてみた。正確には元作家志望で、結局は文才がないために芽が出ず、フリーター生活をダラダラと送っていた。
そんなある日、治験のバイトに申しこんだら怪しげな研究所に連れていかれて、謎の注射を打たれて、こんな有り様、まさかの透明人間だ。そのまま拘束されてモルモット状態だったが、隙を見て脱出に成功した。
というところまでを車座になりながら、探偵と元アイドルと霊能者に説明していた。もちろん、他の三人には私の姿は見えない。幸か不幸か、一糸まとわぬあられもない姿を皆さんにお見せできないのである。
「目的は何? もしかしてマスゴミの差し金? それともストーカー?」
美沙は元アイドルだけに警戒していた。
「いえ、寝るところがなくて、たまたまあなたが酔っぱらって帰宅した時に一緒にまぎれこんで……」
その時、貞代がうめき、白目を剥いて、全身を震わせ始めた。
「おい、どうした!」
「まさか、霊に憑りつかれたんじゃ……」
心配する美沙が救急車を呼ぼうとした瞬間、優子が目を丸くして貞代を見返していた。
「体が消えている……」
巫女の衣装だけが人間の形をして座っており、貞代の顔も手足も存在しないのである。
「もしかして、あたしも透明になっちゃった~?」
「たぶん、私が噛みついたからですかね」
先ほど私を取り押さえた時に、貞代が口の中に手を入れてきたので噛んでしまったのだった。優子はあきれてつぶやいた。
「噛みついて伝染するなんて、吸血鬼みたいだな」
「あたし、霊能者じゃなくて霊そのものになりたかったの~!」
貞代ははしゃぎながら巫女の衣装を脱ぎ捨て、完全に存在をかき消した。
見えなくなることがそんなに嬉しいのか? 透明人間なんて意外に面倒なのだ。働かなくていい、食べ物も盗める、映画館だってタダで入れる。しかし、屋外は暑さ寒さ天候に左右される、裸足で道路を歩くのは危険、ましてや車にでも轢かれたらどうなるか。誰にも気づかれずに死ぬだけである。
「それで、これ、どうやったら元の姿に戻れるの~?」
「戻れないんです。ずっとこのまま。研究所の人たちも分からないらしくて、パニくっていました」
「そんなの困る~!」
ドアチャイムが鳴った。美沙がインターホンで玄関外の相手とやりとりを始め、送話口を押さえて振り向いた。
「警察の人が来ています」
「あんた、今度は事件でも起こしたのかい?」
「そうじゃなくて、探偵の松田優子さんはいるかって」
「なんで私が! いない! いないって言って!」
優子はうろたえながら急かした。美沙はまたインターホンでやりとりした末に通話を終了した。
「中を見せろって言っています。面倒だから入れますね」
「いや、まずいって!」
美沙は優子を無視して玄関へと向かっていった。
「こうなったら……ほら、噛め! 噛みつくんだ!」
優子は服をまくって腕を差しだした。仕方ない。仲間を増やすか。
「おい、二人で噛むな……うっ!」
美沙が二人組の刑事を連れて入ってきた時には、優子の姿はすでに消えていた。刑事たちはバスルームやクローゼットを探したあと、ふと床に優子の服一式があるのに気づいた。下着も散らばる中に拳銃まで。
「たしかにこの部屋にいるはずなんだが」
「いや、あそこから逃げた可能性も」
刑事たちは窓を開けて外を確認した。
「すぐに追うぞ! 応援を呼べ!」
美沙を残して二人があわただしく出ていくと、優子の安堵した声が空間から響いた。
「いやあ、助かった助かった」
「探偵さん、人を殺したことあるでしょ~? あたし、ちゃんと見えるんだから~」
「探偵だけじゃ食っていけないから、副業で殺し屋もやっててな」
ちなみにここは五階。頑張れば降りられるものなのか。私も窓から眼下を眺めてみると、路上に人だかりができていた。
「あっ、報道関係者や野次馬がいっぱい来ていますよ!」
刑事が来たことで何ごとかと大騒ぎになっていた。
「もうさらされるのは嫌。どこかに消えてしまいたい……」
うんざりする美沙に優子が告げた。
「じゃあ、噛んであげるよ」
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