【完結】うだつが上がらない底辺冒険者だったオッサンは命を燃やして強くなる

邪代夜叉(ヤシロヤシャ)

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【8】故郷の温もりと冷たさ

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 夕餉の支度が整うと、四人掛けの木の食卓に温かな匂いが広がった。

 テーブルの中央には湯気を立てる野菜の煮込みと直火でさっと焼いた黒パン。それらの質素な料理が十数年ぶりに嗅ぐ「おふくろの匂い」であり「母の味」は変わらなかった。。柔らかな野菜と出汁の香りは、街で食べてきたどんな食事よりも心を満たしてくれる。

「さて……どこから話そうか」

 懐かしい味を噛みしめながら、トーマはこれまでの経緯をかいつまんで語った。
 冒険者になったが大きな成果を上げられず、右腕を失って廃業し、故郷に戻ることになった――ただそれだけを淡々と。

(道中でオークやトロールを倒したことは、あえて言わなかった。どうせ信じてもらえないだろうから)

 話を聞く母は「よく生きて戻ってきてくれたね」などと何度も案じてくれた。だが、ネアは腕を組み、冷ややかな視線を崩さない。

「……で? 片腕を失って、しかも利き腕。これからどうするつもりなの」

 刺すような言葉に、食卓の空気が一瞬凍った。

「畑仕事も荷運びとかの力仕事は、ほとんど無理でしょ。うちは無駄飯を食わせる余裕があるわけじゃないのよ」

 その言葉は、久しぶりの家でようやく緩みかけた心を再び締め付けた。

「今の食卓を見ればわかっているよ。スネをかじりに戻ってきた訳じゃない。ちゃんと自分の食い扶持は自分で稼ぐよ」

 そんなやり取りをよそに、アルフが無邪気な目でトーマを見つめ話しかける。

「おじさんは、どんな冒険してきたの?」

 トーマは苦笑し、「近場の洞窟や遺跡を回ったりしてな」と短く答えたが、その声にはどこか空虚な響きがあった。

 玄関で出迎えてくれた少年…アルフ(5歳)と少女…ノア(13歳)は姉ネアの子供だ。ネアの夫は今出稼ぎ中で、もう少しで帰ってくるらしい。
 ちなみに、その夫が十年前にトーマに父の死を他の用事のついでに街まで知らせに来てくれた人物である。その時トーマは父の死と姉が結婚していたことを同時に知ったのだった。

 やがて久しぶりの団欒が終わり、その夜、母は「私のベッドを使いなさい」と言ってくれた。だがトーマは首を振る。

「いいよ。空いているところで寝かして貰うよ。屋根があって雨風を凌げるだけで十分だし」

 選んだ寝床は土間の片隅。古びた敷布を敷き、冷たい床に身を横たえる。
 かつて自分と姉の部屋だった場所は、今はノアとアルフの部屋になっていた。実家に戻ったというのに――そこには自分の居場所はなかった。

 トーマは天井の梁をぼんやりと眺めながら、心の中で結論を出す。

(……早い内にでも空いている家なり小屋でも探して借りた方がよさそうだな。その為には仕事を見つけないとな……)

 土の匂いと静けさの中で、久しぶりに安心して眠れる実家に安堵して、トーマはゆっくりとまぶたを閉じたのだった。
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