【完結】うだつが上がらない底辺冒険者だったオッサンは命を燃やして強くなる

邪代夜叉(ヤシロヤシャ)

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【23】冒険者パーティ〈銀翼〉

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 村へ戻ったトーマたちは、領主への報告から帰ってきたばかりの村長のもとを訪れた。

「そうか、迷宮ダンジョンが……。また領主に報告せねばならんとはな」

 トーマの話しに村長は苦々しい顔をして頭を抱える。厄介事の出現と、領主にまた報告しに行かないといけない面倒さに、村長は重苦しく息を吐いた。

 その後、村人たちに対して「ダンジョンには絶対に近づくな」と厳命が下され、ダンジョンから魔獣が出没する事態を想定し、村周囲の警戒と夜回りは継続されることになった。

 しかし、人の欲は命よりもなお強い。
 “誕生したての迷宮には手つかずの宝がある”――そんな甘い幻想に惹かれた三人の村人は、ひそかに洞窟へと足を踏み入れたのである。そして、そのまま誰一人戻ってはこなかった。

 彼らは、つい先日のゴブリン襲撃で剣を取った者たちだった。あのときの勝利が自信となり、「ゴブリン程度なら問題ない」と慢心を生んだのだろう。だが、迷宮はそんな軽い思惑を許さなかった。

 その一件で村長は改めて厳命して、特に子供たちだけでの外出は固く禁じられた。村には重苦しい空気が広がり、夜の焚き火の明かりさえどこか陰鬱に揺れていた。


***


 少し時が流れて、村に冒険者ギルドから派遣された調査隊がやってきたのだ。

 新たに発見された迷宮の危険度と難易度を確認するために派遣された調査隊――冒険者パーティ〈銀翼シルバーウィング〉。

 新迷宮の調査任務は冒険者ギルドにおける“公式依頼”に分類される。
 依頼を受けられるのは寄せ集めの即席パーティなどではない。腕利きで実績と信頼を積み重ねた、名の通った冒険者のパーティのみ。

 〈銀翼シルバーウィング〉が村に姿を現した時、ざわめく村人たちの目には憧れと安堵が入り混じっていた。

 先頭に立つのは、双剣を腰に携えた壮年の剣士、ロウラン。
 鋭い眼光を周囲に投げるだけで、場の空気が緊張に引き締まる。冒険者等級は銀――幾多の修羅場を潜り抜けてきた歴戦の冒険者。

 その隣には、若き女剣士、セリヤ。
 そう、ゴブリンの襲撃の折にこの村を訪れていた冒険者だ。ロウランの一応の弟子として鍛えられている。凛とした眼差しには、以前よりも確かな芯の強さが宿っていた。冒険者等級は銅。

 後列には、銀糸のような髪と長い尖耳を持つ女魔道士スハァル。只人ヒューマン精人スピリチアンとの混血――ハーフエルフであり、その見た目的にはセリヤとさほど変わらぬように見えたが、瞳の奥には静かな知性が感じられた。冒険者等級は銀。

 さらに、獣人セリアン探索者レンジャー、マウス。
 人懐こい笑みを浮かべながらも、小柄の鼠人の男で、軽妙さと鋭敏さを兼ね備えた彼は毛に覆われた耳は微細な音に反応し、絶えず周囲の気配を探っている。冒険者等級は銀。

 そして最後に、無言で巨躯を揺るがす荷運び役兼防衛手ガード、ガイ。
 亜人デミリアンのドワーフ一族の男であり、分厚い腕に山のような荷を背負いながらも平然としている。無口だが、その存在感と信頼は厚かった。冒険者等級は銀。

 そのパーティ名に相応しく、ほぼ銀等級の冒険者で構成されている。

~~~

――ちなみに、この世界には、大きく分けて五つの人種が存在する。

只人ヒューマン
特徴:もっとも人口が多く、姿は現実世界の人間とほぼ同じ。
性質:魔法も剣もこなす万能型だが、逆に突出した特徴は少ない。
備考:数の多さから、領主や王国などの主要勢力は大抵この種族。

獣人セリアン
特徴:動物的な特徴を持ち、外見は「人寄り」から「獣寄り」まで幅広い。
性質:感覚や身体能力に優れ、自然との親和性が高い。
備考:森や平原など自然に近い環境で暮らすことが多い。

精人スピリチアン
特徴:エルフ(ハイエルフ・ハーフエルフ)やフェアリーが属する。
性質:長命で魔法や精霊術に秀でる傾向が強い。
備考:森に根ざした文化を持ち、只人からは「神秘の民」と呼ばれることも。

亜人デミリアン
特徴:ドワーフ、ノーム、ハーピー、ナーガ、アラクネなどが属する。
性質:人の姿を部分的に持ちながら、他の種の特徴を併せ持つ。
備考:独自の文化を築いており、時に魔族デモンと協力関係を結ぶ場合もある。

魔族デモン
特徴:外見は只人・獣人・精人・亜人などに似た姿で多種多様だが肌の色が濃く、血の色は黒。
性質:他種族よりも身体能力など全ての面で優れているが自分勝手で横柄なものが多い。
備考:地域によっては魔獣と同一視され、迫害を受けることもある。

~~~

 補足だが、これら種族は耳の形状で見分けることができる。
 丸耳の〈只人〉、毛に覆われた獣のような耳を持つ〈獣人〉、大きな耳を特徴とする〈亜人〉、長耳の〈精人〉。なお、魔族については、只人、獣人、亜人、精人のいずれかの形状しているが、どちらかの耳が欠けていたりする。

~~~

 村人たちがざわめき立つ中――

「あっ、トーマさん!」

 群衆の中に居たトーマの元へセリヤが駆け寄ってきた。
 その呼び声に周囲の目もトーマへ集まる。彼女の瞳は嬉しさに輝き、まるで旧知の仲間に再会したかのように真っ直ぐ向けられていた。

「セリヤか……怪我は、もう完治しているようだな」

「はい。あの時は本当にお世話になりました。お陰様で……冒険者等級が銅に昇格できました!」

 その言葉に、トーマの胸がわずかにざらついた。
 冒険者を退いた身とはいえ、自分は鋼等級止まりだったこともあり、若い娘に等級を抜かれてしまったことに、劣等感と嫉妬にも似た感情が湧きだってしまう。

「そうか……それは良かった。……というか、なんでここに?」

 問いかけながらも、トーマは胸の奥で既に答えを察していた。
 彼女がこの場にいるということは――。

「それはですね。私の所属するパーティが、このダンジョン調査隊に選ばれたからです!」

 胸を張るセリヤの笑顔に、トーマは思わず目を細める。
 そこへ、ロウランが歩み寄ってきた。

「よう……久しぶりだな」

 低く落ち着いた声が近づき、場の空気がきりりと引き締まった。

「と言っても、覚えているかな? このパーティのリーダーを務めているロウランだ。かなり前に二~三度合同パーティとかで一緒に魔獣討伐したと思うが」

「あ……ああ……なんとなく……」

 曖昧に返すトーマ。しかし実際には、ロウランの顔にも声にも覚えがなかった。
 だが、その場で「知らない」とは言えなかった。眼光に射抜かれれば、軽々しい言葉は喉に貼りついて出てこない。

「そうか。まあ、セリヤから話は聞いている。片腕でも、なかなかの腕前になったようだな。機会があれば、ぜひ俺と手合わせをして欲しいよ」

 真っ直ぐに告げるロウラン。
 その声色には冗談めかした軽さを欠き、試すように重かった。

「いや……俺なんか大したことは……」

 困惑を押し隠すように答えるトーマ。
 その態度に、ロウランは口元にわずかな笑みを刻む。

 すると、二人の間に村長が割って入った。

「冒険者の皆様方、長旅ご苦労様です。詳しい話は私の家でお話いたしましょう……トーマ、お前も来い」

 こうして〈銀翼〉一行とトーマは村長宅へ招かれ、誕生したばかりのダンジョンについて話し合うこととなった。
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