【完結】うだつが上がらない底辺冒険者だったオッサンは命を燃やして強くなる

邪代夜叉(ヤシロヤシャ)

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【35】星空の下、はじめての野宿

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 村を発ってしばらくした頃、トーマは歩きながら、胸の奥に言葉にしがたい感慨を覚えていた。

 数ヶ月前――右腕と共に夢も希望も失い、半ば打ちひしがれて村へ帰ってきた自分が、今は再び旅路にある。
 しかも護衛とはいえ、仲間たちと共に王都へ続く街道を目指している。あの時には想像もしなかった未来だった。

 目指すは〈マジノシア〉。王国で二番目に大きな街であり、魔導学院がそびえる学び舎の地。村から歩いておよそ二週間の道程だ。

 まずは南へと進み、三日ほどかけて街道に合流する必要がある。その途中には小さな村が一つあり、そこを経由していく予定だ。

 道は続く。だが、一行の足取りは決して速くはなかった。

 フィリスの歩みはまだ旅に慣れず、息が乱れて肩で呼吸を繰り返している。トーマもセリヤもスハァルも、それを承知の上で歩調を緩め、要所要所で休憩を入れるようにしていた。

「大丈夫か?」

 トーマの低く落ち着いた声が、並ぶ少女の耳に届く。

 フィリスは汗ばんだ頬を赤らめて、慌てて笑みを作りながら頷いた。

「うん、大丈夫です。ただ……思った以上に旅って大変なんですね」

「そういえばフィリスちゃんは、村の外に出たことはあるの?」

 セリヤが振り向いて尋ねる。

「えっと……これで三回目だと思います」

 呼吸を整えようとしながらも、フィリスはぽつりと答えた。

「これまで隣の村や領主様のお館までしか行ったことなくて……。こんなふうに、ずっと歩き続けるなんて初めてです」

「そう。だったら疲れたら遠慮なく言いなさい。無理して歩けなくなったら、それこそ目も当てられないから」

 スハァルが言葉を挟む。

「はい、分かりました。そういえば、セリヤさんやスハァルさんは、どうして冒険者になったんですか?」

 素朴な疑問に、セリヤが肩を竦めて答える。

「私の場合は、師匠に無理やりついていったって感じだったかな」

「師匠というのは、たしか、双剣使いのロウランさん?」

「そうそう。子どもの頃から剣を教わっててね。閉じた家に縛られるより、広い外に飛び出したいって思ったの。結局、師匠についていくって言って家を飛び出したのが始まり」

「え? そうなんですか!」

「そうよ。だからね、フィリスちゃんが『外の世界に出たい』って思う気持ちは、分かるつもり」

 そんな雑談をしつつ、穏やかな会話が続く道は、どこか心強く、また心地よかった。

 幸いなことに、魔獣や凶暴な獣の姿はまだない。時折、草むらから兎や鳥が飛び出す程度だ。陽が傾くにつれ、道の端には長い影が伸びていく。

 その夜。初めての野宿となった。

 手慣れた様子で野宿の準備を整える、干し肉と芋を煮込んだ鍋を仕上げて夕食の準備をしていくセリヤたちの姿に、フィリスは目を丸くする。

「さすがに手慣れてますね」

「まあね。冒険者って宿に泊まれる日は半分あればいい方だから。野営の腕も自然と上がるのよ。まあ……例外はあるけど」

 意味ありげにセリヤが視線を横へ流す。

「なによ? 焚き火の火をつけたのは誰の魔法だったかしら。適材適所ってやつよ。冒険者仲間は助け合ってこそ、でしょ」

 火の光が各々の顔を照らし、影を濃くした。
 フィリスは湯気の立つ鍋を覗き込む。香ばしい匂いに誘われて、ぐぅ、と腹が鳴り、皆が一斉に笑った。

 道中、魔獣の襲撃が無かったので刃を振るう機会は訪れなかったが、護衛としての意識を忘れるわけにはいかない。

「それじゃあ、俺が先に見張りをやっておく。火が尽きる頃に交代で起こすから、みんな先に休んでくれ」

 トーマの声は穏やかで確かな責任感を含んでいた。
 長時間の歩行で疲れ果てたフィリスは、炎のぬくもりと仲間の背に守られる心地で、いつしか瞼を閉じていく。

 ――こうして旅の一行の最初の夜は、静かに更けていった。

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