【完結】うだつが上がらない底辺冒険者だったオッサンは命を燃やして強くなる

邪代夜叉(ヤシロヤシャ)

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【42】冤罪の鎖を解いて

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 鉄格子のきしむ音と、地下独特の湿った空気。
 トーマは石の壁に背を預けながら、信じられない思いで天井を見上げていた。

「まさか……魔導学院の地下に牢屋があるとは……」

 学院といえば、才気あふれる魔導師たちが集う知の殿堂――その印象とはあまりにかけ離れていた場所。
 苔むした壁、冷えた床、鉄の扉。どこからか滴る水音が、耳に不安を刻む。
 トーマがいるのは紛れもなく牢獄だった。

 やがて、鉄扉の向こうから靴音が響いた。守衛と学院の教員と思しき人物が現れた。
 さっそく女教員が冷ややかな声で切り込む。

「少しは冷静になって自分の立場が理解したかしら。さあ、もう一度聞くわ。あなたの仲間は何処なの? 盗んだ品はどこへ隠したの?」

「だから、俺は賊でもなんでもない、ただの旅人のようなもんなんだよ」

「それじゃ、なぜ、あんな人気のない路地にいたの?」

「え、えっと……それは」

 トーマは視線を泳がせた。口ごもる。――夜翅を捜していたなんて言えない。
 口ごもった末、言い訳をひねり出す。

「……ただ、少し酔って、道を間違えただけで……」

「ふうん。ずいぶんしどろもどろね。やましいことがあるからじゃないの?」

「ち、違う!」

 女は鋭く目を細め、懐から小さなナイフを取り出した。銀に似た輝きを放つ―ミスリルナイフだ。

「そしてこれ。学院の刻印入りの品。これをあなたが持っていたからに、学院から盗んだものなんでしょう」

 トーマは必死に首を振る。

「だから何度も言っているだろう。それは借り物なんだ、スハァルという魔道士の」

「また、そんな戯言を。あなたみたいな流れ者に、あのスハァルがミスリルナイフを貸す訳無いでしょう。あの子は、ちょっと有名だから、知った名前を出しているだけでしょうに」

 どれだけ説明しても、疑いの眼差しは解けない。孤立無援の心地が、牢の冷たさを倍増させる。
 進展しない取り調べに、双方が疲れかけたそのとき――再び鉄扉が開き、落ち着いた足取りの人物が入ってきた。

「失礼します」

 聞き慣れた声に、トーマは思わず身を乗り出す。
 現れたのは、見知った顔――

「……! スハァル!」

 スハァルは女教員を真っ直ぐに見据え、凛とした声で言い放つ。

「そのナイフは私の物です。間違いなく彼…トーマに貸していたものですし、それに彼は先日、私と共に、このマジノシアに来たばかりです。彼が盗賊の仲間ではないと、この私が責任を持って断言できます」

 女教員の目が驚きに揺れる。数瞬の沈黙ののち、長いため息をついて渋々うなずいた。

「……本当に知り合いだったのね。ならば仕方ないわ。ただし――」

 冷たい光を帯びた瞳が、なおも鋭くトーマを射抜いた。

「まだ疑いがありますし、また此度の事件を知った以上、この方を完全に自由にはできないわ。暫く監視を付けさせていただきます。……スハァルさん、それを、あなたにお願いしても良いかしら?」

「……了解しました」

 スハァルは面倒くさそうな表情を浮かべては、淡々と返した。
 こうして釈放されたトーマだが、鎖のような視線は解かれていない。

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