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ローマ・エリオティズモ。
それがセラが属する組織の名前だった。
いわゆるマフィアと呼ばれる、イタリアの各都市に古くから根付く反社会的組織である。現在、セラはそのボスにおさまっている。
支配者と男娼という関係が終わっても、ミシェルとセラの交友は続いていた。
ミシェルの財閥の事業は多岐にわたり、そのなかにはブラックマーケットに関わるものもあった。そして裏社会に流れる情報は正規ルートより数段、速い。
ビジネスにおいて、速さは正義だ。
セラとの交友により、ミシェルはそれらのものを最小限のリスクで手に入れることができた。勿論、セラのほうもミシェルから様々な恩恵を受けている。
今の彼らはビジネスにおいて持ちつ持たれつの関係で、セラは裏社会におけるミシェルのビジネスパートナーのような位置にいつの間にか居座っていた。
そうして彼らの過去を知る者には信じられないだろうが、あんな過去があったにも関わらず、彼らは互いを気に入っていて、”友”として認めあっていた。
(セラのやつめ……)
翌日、ミシェルは気怠い朝を迎えながら、セラのことを考えていた。
昨夜、セラの姿を真似た男娼を抱いたからだろうか。中身は似ても似つかないとはいえ、白人の金髪碧眼の美形で、男相手に商売をする男娼というだけで、ミシェルはどうしてもセラを思い出してしまう。
それについ最近も、かれはセラについて面白くない報告を受けていた。
(何食わない顔でルキナスに行ったとか。しかもアオイと二人でひと騒ぎ起こしたということだが)
先日、セラが配偶者のアオイを連れ、ミシェルがルキナスで保有する例の高級売春クラブ――プライム・レジェクトを訪れたというのだ。
セラもアオイもプライム・レジェクトの元男娼だ。
その二人がゲストとしてクラブを訪れ、サロンで酒を飲み、ミシェルがかつて愛用していたペントハウスに宿泊した。
事実としてはそれだけで、法に触れることは何もない。
けれどもミシェルは顔に泥を塗られた気分だった。なぜなら、セラはその何日か前、ミシェルと電話で会話していたにも関わらず、そのことに一切、触れなかった。しかも彼らがルキナスを訪れた日というのは、ミシェルにとって一年のうちで最もおぞましい日――彼らの結婚記念日だった。
さらにかれを怒らせたのが、セラ、もしくはアオイがサロンで、クラブのトップクラスの男娼であるシリルを指名したことだった。
シリルはセラに似ている。
少なくとも、昨夜の男娼よりずっとセラの本質に近かった。
(当り前だ。私がそういう者を選んで、トリプルエーに据えたんだからな。専属にこそしてないが、今もルキナスに行けば、私は必ずシリルを侍らせる)
だからセラやアオイがシリルを見れば、ミシェルが未だセラに未練たらたらであることを感じ取られてしまうかもしれない。それがミシェルにとっては、このうえなく腹立たしかった。
(苛々する)
かれは裸の体をキングサイズのベッドに横たえたまま、両手を大きく投げだした。
(あのマフィアめ。あれから二十年以上経つのに私の心を支配する……生意気なやつだ。昔、あいつが私の奴隷だった頃、なぜ私はあの綺麗な顔をずたずたに裂いてしまわなかったのだろうか。そうしておけばこんな思いをしなくて済んだものを)
昨夜の男娼はとっくに金を渡し、ベッドから追い出してあった。
パリのこの部屋はミシェルが個人的に所有する不動産のひとつで、愛人との密会や仕事が遅くなって家に帰るのが面倒になった時に使っている。
また、郊外の邸宅には美しい妻と何人かの使用人が暮らしている。
ミシェルは当主として、週に何日かその本宅に帰る義務があったが、それ以外は好きにしている。妻はミシェルの歪んだ性癖に気付いてるようだったが、何も言わない。いや、妻も妻で愛人のひとりくらい作ってるかもしれないが、ミシェルはそれについては気にもしてない。
ミシェルと妻には子がなかったので、妻のほうで誰かと浮気をして子を作ってくれれば、それを我が子として育ててしまおうとすら思っていた。
それがセラが属する組織の名前だった。
いわゆるマフィアと呼ばれる、イタリアの各都市に古くから根付く反社会的組織である。現在、セラはそのボスにおさまっている。
支配者と男娼という関係が終わっても、ミシェルとセラの交友は続いていた。
ミシェルの財閥の事業は多岐にわたり、そのなかにはブラックマーケットに関わるものもあった。そして裏社会に流れる情報は正規ルートより数段、速い。
ビジネスにおいて、速さは正義だ。
セラとの交友により、ミシェルはそれらのものを最小限のリスクで手に入れることができた。勿論、セラのほうもミシェルから様々な恩恵を受けている。
今の彼らはビジネスにおいて持ちつ持たれつの関係で、セラは裏社会におけるミシェルのビジネスパートナーのような位置にいつの間にか居座っていた。
そうして彼らの過去を知る者には信じられないだろうが、あんな過去があったにも関わらず、彼らは互いを気に入っていて、”友”として認めあっていた。
(セラのやつめ……)
翌日、ミシェルは気怠い朝を迎えながら、セラのことを考えていた。
昨夜、セラの姿を真似た男娼を抱いたからだろうか。中身は似ても似つかないとはいえ、白人の金髪碧眼の美形で、男相手に商売をする男娼というだけで、ミシェルはどうしてもセラを思い出してしまう。
それについ最近も、かれはセラについて面白くない報告を受けていた。
(何食わない顔でルキナスに行ったとか。しかもアオイと二人でひと騒ぎ起こしたということだが)
先日、セラが配偶者のアオイを連れ、ミシェルがルキナスで保有する例の高級売春クラブ――プライム・レジェクトを訪れたというのだ。
セラもアオイもプライム・レジェクトの元男娼だ。
その二人がゲストとしてクラブを訪れ、サロンで酒を飲み、ミシェルがかつて愛用していたペントハウスに宿泊した。
事実としてはそれだけで、法に触れることは何もない。
けれどもミシェルは顔に泥を塗られた気分だった。なぜなら、セラはその何日か前、ミシェルと電話で会話していたにも関わらず、そのことに一切、触れなかった。しかも彼らがルキナスを訪れた日というのは、ミシェルにとって一年のうちで最もおぞましい日――彼らの結婚記念日だった。
さらにかれを怒らせたのが、セラ、もしくはアオイがサロンで、クラブのトップクラスの男娼であるシリルを指名したことだった。
シリルはセラに似ている。
少なくとも、昨夜の男娼よりずっとセラの本質に近かった。
(当り前だ。私がそういう者を選んで、トリプルエーに据えたんだからな。専属にこそしてないが、今もルキナスに行けば、私は必ずシリルを侍らせる)
だからセラやアオイがシリルを見れば、ミシェルが未だセラに未練たらたらであることを感じ取られてしまうかもしれない。それがミシェルにとっては、このうえなく腹立たしかった。
(苛々する)
かれは裸の体をキングサイズのベッドに横たえたまま、両手を大きく投げだした。
(あのマフィアめ。あれから二十年以上経つのに私の心を支配する……生意気なやつだ。昔、あいつが私の奴隷だった頃、なぜ私はあの綺麗な顔をずたずたに裂いてしまわなかったのだろうか。そうしておけばこんな思いをしなくて済んだものを)
昨夜の男娼はとっくに金を渡し、ベッドから追い出してあった。
パリのこの部屋はミシェルが個人的に所有する不動産のひとつで、愛人との密会や仕事が遅くなって家に帰るのが面倒になった時に使っている。
また、郊外の邸宅には美しい妻と何人かの使用人が暮らしている。
ミシェルは当主として、週に何日かその本宅に帰る義務があったが、それ以外は好きにしている。妻はミシェルの歪んだ性癖に気付いてるようだったが、何も言わない。いや、妻も妻で愛人のひとりくらい作ってるかもしれないが、ミシェルはそれについては気にもしてない。
ミシェルと妻には子がなかったので、妻のほうで誰かと浮気をして子を作ってくれれば、それを我が子として育ててしまおうとすら思っていた。
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