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そんな話をいつかセラにしたら、セラは肩をすくめて言ったものだった。
「奥さんに同情しますよ、ミシェル。それじゃ、奥さんが可哀そうだ」
「うちのことに口出ししないで貰おう。妻はよく出来た女で、お前と違って心底、私に従順だ。あれの子なら、他の男の種であってもまあ良いだろう」
「本当に従順なら、浮気なんてしないでしょう」とセラ。
「僕とアオイなら考えられない。僕たちはもうお互い以外に指一本、触れてませんよ」
「フン。信じられないな。お前の淫乱さはよく知っている。アオイだってそうだ。二人ともプライム・レジェクトの看板スレイブだったんだからな。あの頃は――」
「そう。いやらしいことをたくさんされて……」
セラは微笑みながら、両手を組んで、その上にかたちの良い顎をのせた。
美貌の男娼だったセラも、四十歳を越えたはずだった。
だが、年月を経ても、かつての美貌を彷彿とさせるものがあった。
そして以前はなかったマフィアのボスとしての貫禄を身に着けるようになった。昔、セラがミシェルの男娼だった頃には滅多に見せなかった素顔を隠す必要がなくなったので、思う存分、かれが持つ本来の苛烈さを周囲に振るってきた結果なのだろう。
だから今のセラだけを知る者なら、かつてかれが多くの男たちを蠱惑してきた男娼だったことなど、想像もできないはずだった。
「ミシェル? どうしました」
セラが怪訝そうに、黙り込んでしまったミシェルを覗きこむ。ミシェルは不機嫌な表情でセラを睨みつけた。
(魔王め)
心の中で罵る。
セラは変わった。が、そうでありながら何も変わっていない。
もしミシェルが力づくで組み敷けば、今のセラもあの頃と同じように淫らに哭くだろうとミシェルは確信している。同時に、その一線を越えてしまえば、今度こそセラは本当にミシェルの前から姿を消してしまうだろうということもわかっていた。
友人という立場が、残酷な魔王であるセラがミシェルに許した最後のものだからだ。
おそらく、セラはそうやってミシェルに復讐してるのだろう。
長年にわたり、ミシェルが専制君主としてセラを支配してきたように、セラもまたその仕返しをしている。付かず離れず一定の距離を保ちながら、しかし完全に自分を忘れ去ることを許さず、ミシェルを魅惑してくる。
そして最も厄介なことに、そんな状態であってもセラと繋がりを持てることにミシェル自身が心のどこかで安堵している。
(あいつは、あの男は自分だけ幸福になりながら、私を弄んでいる。あれは魔王だ。あいつはそうやって多くの人間を自分に惹きつけておかないと気が済まないのだ。アオイにしてもそうだ。あれは騙されている。セラの本当の顔を知らない)
かれは疲れたように息をついた。
(そろそろ起きないと。シャワーを浴びて、珈琲を飲む。それから会社に行かなければ――迎えの車の時間は遅らせよう。だが午後から外せない会議があったはずだ)
(ああ……それから、今夜も別の相手を探さないといけなさそうだな)
なげやりに思う。
鬱憤ばらしにちょうど良い少年がいるので、今夜はそれを可愛がってやろう。
少年にはマゾヒズムの気質がある。縛られても、鞭で叩かれても喜んで尻を振る。それを滅茶苦茶に嬲って、踏みにじるのだ。
そんな思いにとらわれながら、ミシェルがサイドテーブルに置いてある携帯電話に手を伸ばそうとした時だった。電話が鳴った。セラからだった。
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