冒険しようよ!!ー攻略対象と知らない彼らは自ら冒険物語を創っていく

叶多 桜

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11・ナッシュ狙われ、コーサット倒れる

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 鳥のさえずりと風の音が、目覚めたばかりの肌に心地良さを与える。
 
「水汲んでくるね」
「ああ、ちょっと待って俺も行く」
「気を付けろよ。狙われたら戦わずに直ぐに引き返せ。俺も直ぐに行く」
「わかってるよ」

 カイルの忠告に返事をして、コーサットとナッシュは、近くの河原に向かって歩き出す。

「ねぇ、怪我は治ったの?」
「完全では無いけど、軽い運動ならもう出来る」
「回復早いなぁ。でも良かったね」
「まぁ、怪我は自業自得なんだけどな」

 他愛ない会話をしながら水の音を頼りに歩いていると、河原が視界に入る。

「あっ、あった」
「あっ、おい走るな。落ち着け。一応命を狙われてる身だから、警戒しないわけにはいかない」
「ああ、そうだった。ごめん、ごめん。そっか……」
「ん?どうした」
「あー、いや、久し振りに周りを気にせず遊べるかと思ったけど……仕方ないね」
「まぁ、行きは我慢してくれ」
「うん、帰りは皆で川遊び出来ると良いね」

 視線で川を辿ると、上流の方に小さな滝が見える。川向うは緑の低木が茂り、低い土手のようになっているが、手前は、大小様々な石が転がり視界を遮る物が無い。

「上流から水汲むか」
「そうだね。しっかし、お天気も良いし、気持ち良いなぁ」
「コーサット先に汲め。俺が見張ってるから」
「うん。ナッシュは警戒心が強いんだね。最初は何ていうか……軽いっていうか……気安い人柄かと思ってたよ」
「ははは……最初のは演技だ。まぁ、生まれて直ぐに命狙われるくらいだったからな」
「えっ?……そっか、大変だったんだね」
「よくある話さ」
「……『よくある』で済ましちゃ駄目やろ。王族や貴族が秩序を乱したら、しわ寄せは国を支える民にいくんや」
「……そうだな」
「さて、汲み終わった。交代しよ」
「ああ、頼む」

 二人が水を汲み終えたちょうどその時、繁みの中から、キラリと一瞬光るものが見えた。
 コーサットは瞬時に反応して、ナッシュを横に突き飛ばした。

(ズサッ!!!)
「ごめん、ナッシュ。あ……痛っ!!」
「コーサット大丈夫かっ!!」
「矢が掠っただけ。それより逃げなきゃ」

 二人は皆の所へ戻ろうと走り出すが、間もなくコーサットが地面に倒れ込む。

「コーサットどうした、大丈夫か?」
「ごめん、体が思う様に動かない」

 コーサットの額に汗が滲む様子を見て、ナッシュは、掠めた矢に何かの薬が塗られていたのだと悟った。
 ナッシュは、コーサットを岩陰に座らせて前に出る。

「狙いは俺だけだろ。コソコソ隠れてないで出てこいや」

 次の矢がどこから向かって来るのか。ナッシュは敵の出方を見ようとした。
 石に打ちつけられる川の水の音と、近くを飛ぶ鳥の鳴き声だけが響く。
 すると、目の前に見たことのある人物が現れ、片膝を地面に付け、ナッシュに頭を垂れた。かつて、ナッシュの側にいた近衛兵のうちの一人、リギルだ。

「ナッシュ殿下、助けに参りました」
「助け?」
「はい。ナッシュ殿下が隣国の王子達に捕まっているとの事でしたので。随分探しましたが、ご無事で居られて安心致しました」
「お前一人か?」
「はい。殿下、早く私と逃げましょう」
「お前、弓は使えたのか?」
「いいえ、私は不器用なもので、剣だけしか使えません」
「……そうか、よく来てくれた。ありがとう」

 ナッシュは、近衛兵に右手を差し出す。
 近衛兵は、戸惑いながらもその手を取って立ち上がった。
 ナッシュは近衛兵に背を向け、前を歩き出す。
 
(キーン!!)

 剣が合わさる音が響く。
 ナッシュの短剣が、近衛兵の持った剣の動きを止めた。

「くっ……知ってたのか」
「お前が俺を見張る為に、兄上から付けられた内偵だということぐらい、最初からわかっていた。だから、あえて近づいたのさ。見えない所でコソコソやられるより、分かりやすいからな」
「くっ、くそ……」

 近衛兵は、ナッシュの短剣を弾くと、一旦距離を取った。
 それを見計らったようにナッシュに向け、どこからか数本の矢が飛んでくる。ナッシュは、弓使いの方へ背中を向けないように注意しながら、近衛兵の剣をさばくが、二手からの攻撃によって徐々に追い込まれていった。そして、尻餅をついたその時、近衛兵の剣がナッシュの顔面に迫る。

(ズサッ……キーン……)

 近衛兵の剣はデスサイズに遮られ、ナッシュに届く事は無かった。

「ナッシュ、大丈夫か?」
「俺は大丈夫だ。だが、コーサットが毒矢で怪我をしている」
「お前はコーサットを連れてスーチェの元へ行け」
「俺を狙って来たんだ。俺が戦う」
「無理だ。わかってるだろう?早く行け!!コーサットを頼む」
「……わかった」

 ナッシュは、今の近衛兵との力差がわかっていた。だから、カイルの言葉に従わざるを得なかった。
 ナッシュはコーサットを背負い、スーチェの元へ走った。コーサットはどんどん弱っていくように見える。
 矢に塗られた薬が何なのか分からず、不安で仕方がない。そして、頼れるのはスーチェしかいない。息が苦しくなるけれど、自分の為に怪我をしたコーサットは、もっと苦しんでいる。
 止まるわけにはいかない。

「はぁ、はぁ……着いたっ!!」
「ナッシュどうしたっ!!コーサットっ!!」

 フランとミルコがナッシュに駆け寄る。
 
「すまない、俺がもっと注意していればこんな……こんな……スーチェ、頼む!!恐らく掠めた矢に……毒薬が……コーサットを……」

 ナッシュが、崩れ落ちる。
 コーサットはミルコに抱えられて、小屋の中の寝袋の上に寝かせられた。
 スーチェは、傷口を丁寧に診察する。
 
「ミルコ、コーサットは毒耐性の訓練終わってる?」
「可能な物は一通り。どんな感じ?大丈夫だよね?」
「熱が下がれば大丈夫だと思う」
「……スーチェ、彼らは側にいる?」
「気配はあるよ。コーサットの周囲にも」

 ミルコは、平皿に水を入れ、コーサットの側に置いた。

「ふふふ、それは彼らに?」
「うん。理由はわからないけど、そうした方が良いような気がしたから」

 こういう時のミルコの勘は正しい。姿は見えないが、妖精の加護ならコーサットを救えるだろう。だから、スーチェもまた、水の入ったマグカップをその隣に置いた。

「スーチェ?」
「ミルコの願いは、きっと届くよ。ちょっとナッシュの様子を見てくるね」
「わかった」

 ミルコは、時々コーサットの額の布を水で冷やしたり、顔周辺の汗を拭っていた。
 気が付くといつの間にやら眠っていたようで、目覚めて慌ててコーサットの様子を伺った。
 コーサットが呼吸をしている事を確認し、一先ず安堵する。
 ふと、平皿を見やると、水はきれいに無くなっていた。隣のカップを覗くと緑の葉が数枚入っているのが見える。

「彼らかな?……何の葉っぱだろう?スーチェに聞いてみようか」

 ミルコはカップの中の葉っぱを持って部屋を出た。
 スーチェはナッシュと話していた。ナッシュはミルコの前に行き、頭を下げた。
 
「ミルコすまない。俺がもっと、気をつけなければいけなかったのに」
「うん。でも、ナッシュのせいじゃないよ」
「いや、俺が狙われてるのに、お前達を巻き添えにしてしまった。コーサットの身に、もしものことがあったら……俺を斬り捨ててくれ」
「……いや、コーサットはきっと大丈夫だから」
「お前は……お前は悔しくないのか?俺に弟を殺されかけてるんだぞ。それともお前も……兄上と同じように……」

 ミルコは、ナッシュの服を掴み、立ち上がらせる。そして、ナッシュの頬を思い切り手のひらで叩いた。
 ナッシュは、床に倒れる。
 
「今のは、コーサットの替わり。君の言葉を聞いて、悔しがるのはコーサットだから。君のお兄さんがどんな人か知らないけれど、僕らを馬鹿にしないでくれる?何故、コーサットが命懸けで助けようとした君を、僕が斬り捨てないといけないの?コーサットの大事な物は、僕にとっても大事な物だよ」
「……すまない」

 ナッシュの目に涙が溢れた。
 スーチェが、不意ににミルコの手元を見て尋ねる。

「ミルコ、その手の中の物、見せてくれる?」
「あ、うん。スーチェに見せようとしてたんだった」

 スーチェがミルコから数枚の葉っぱを受け取り、どういう物なのかを調べる。

「……ああ、そういう事か。コーサットはきっと助かるよ」
「「本当!?」」
「うん、これで薬が作れる。作業してくるね」
「良かっ……た」
「わっ、ナッシュ大丈夫かっ!!」

 気を失いそうになるナッシュの体を、ミルコが咄嗟に支える。

「あーあ、病人が無理するから……」
「うん。きっとずっと走って、ここまで来てくれたんだよね。コーサットを背負って。ナッシュをコーサットの側に寝かせたら、スーチェを手伝うよ」
「うん、頼むよ」 
 
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