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少女のいざない
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「あーあ、あと五日か……」
マリー様のもとから教会に戻って次の日から、何事も無かったのように数日が過ぎていた。マリー様から説明されたことはちゃんとやっているのよ。自分の身を守る為だからね。
新しい事に挑戦するってやっぱり必要よね。あんなに嫌だった学園生活が、早く始まらないかななんて思えてくる。
今日も無事にお仕事が終わったから、早く部屋に戻って魔法の特訓しなきゃ。
……なんて浮ついて歩いていたら、背後から足下に何かがぶつかって来た。
「「キャッ……」」
「あ痛たた……貴女、大丈夫?」
四つん這いになって振り返った私の視界に入ってきたのは、小さな少女だった。
「あ、お姉さんごめんなさい。」
「私は大丈夫よ。貴女見かけない顔ね。迷子かしら?」
尻餅をついておしりを擦っている少女に、私は話かける。
「あ、あのね、私、聖女様を探してるの。お兄ちゃんを助けて欲しくて。」
思い出したかのように、慌てた様子で少女は答える。
「えっ、お兄さん病気?」
「ううん、違うの。怪我をして、歩けないの。」
切羽詰まったその表情に、私は、直ぐに助けるという選択肢しか思い浮かばなかった。
「私が聖女よ。お兄さんの所に連れて行ってくれる?」
「うん。こっち。」
私は、少女の手を握って走り出した。
暫くすると来たことのない場所に辿り着く。
「教会にこんな場所が有ったなんて。」
石壁に自生した苔の匂いとツンと鼻を突く臭いが入り交じる。立ち入る人がいるとは思えないその場所に、不意に木の扉が現れた。少女は扉をゆっくりと手前に引く。私は、少女に倣って中に入った。
中は薄暗く、灯りは足元を照らすのみ。壁伝いに少し進むと、直ぐに下り階段になっていた。少女と私は、足下を確認しながらゆっくりと降りていく。どれだけ降りただろうか。やがて広い場所に出た。薄闇にも目が慣れた頃に辺りを見回すと、そこが石牢であることがわかった。耳を澄ますと微かにうめき声が聞こえてくる。
「お兄ちゃん!!」
少女がある一つの牢に駆け込む。そこには、右足の膝から下が、不自然に曲がっている少年が横たわっていた。
私は少年の元に駆け寄り、様子を伺う。
「酷い……ちょっと待ってね。」
私が魔法を行使しようとした、丁度その時だった。
「キィー、ガチャン。」
背後で鉄の軋む音がして慌てて振り返ると、二人の人影が、牢屋の扉を閉めて鍵をかけていた。
「お疲れー、聖女ナタリー。」
聞き慣れた声に目を凝らすと、目の前に現れたのは枢機卿の長男、テシオン・ブライトルだった。
少女が、鉄格子に慌てて駆け寄る。
「テシオン様狡い。聖女様を連れてきたら、お兄ちゃんと私は助けてくれるって言ったのにっ!!」
「そうかい?君だって嘘をついて聖女を裏切ってるじゃないか。違うかい?」
少女の顔が曇る。
「嘘はついてないもん。お兄ちゃんを歩けなくしたのは、テシオン様のくせにっ!!」
「はははっ、どこにそんな証拠が有るんだよ。寧ろ俺は、勝手に馬車の前に出てきて轢かれた、お前達を助けてやったんじゃないか。」
「私、聞いたもの。御者の人が、テシオン様の言葉には逆らえないって話してたの。」
「あの御者は、始末しないといけないな。」
テシオンが、後ろにいる付き人に目配せをした。
「まぁ、どのみちお前達はここから出ることは出来ない。諦めるんだな。はははっ……」
私は、少女に騙された事実はショックだったけれど、恨む気持ちは無かった。私でも同じ事をするだろうと思ったから。でも……テシオン様が私にこんな事をする理由がわからなかった。
マリー様のもとから教会に戻って次の日から、何事も無かったのように数日が過ぎていた。マリー様から説明されたことはちゃんとやっているのよ。自分の身を守る為だからね。
新しい事に挑戦するってやっぱり必要よね。あんなに嫌だった学園生活が、早く始まらないかななんて思えてくる。
今日も無事にお仕事が終わったから、早く部屋に戻って魔法の特訓しなきゃ。
……なんて浮ついて歩いていたら、背後から足下に何かがぶつかって来た。
「「キャッ……」」
「あ痛たた……貴女、大丈夫?」
四つん這いになって振り返った私の視界に入ってきたのは、小さな少女だった。
「あ、お姉さんごめんなさい。」
「私は大丈夫よ。貴女見かけない顔ね。迷子かしら?」
尻餅をついておしりを擦っている少女に、私は話かける。
「あ、あのね、私、聖女様を探してるの。お兄ちゃんを助けて欲しくて。」
思い出したかのように、慌てた様子で少女は答える。
「えっ、お兄さん病気?」
「ううん、違うの。怪我をして、歩けないの。」
切羽詰まったその表情に、私は、直ぐに助けるという選択肢しか思い浮かばなかった。
「私が聖女よ。お兄さんの所に連れて行ってくれる?」
「うん。こっち。」
私は、少女の手を握って走り出した。
暫くすると来たことのない場所に辿り着く。
「教会にこんな場所が有ったなんて。」
石壁に自生した苔の匂いとツンと鼻を突く臭いが入り交じる。立ち入る人がいるとは思えないその場所に、不意に木の扉が現れた。少女は扉をゆっくりと手前に引く。私は、少女に倣って中に入った。
中は薄暗く、灯りは足元を照らすのみ。壁伝いに少し進むと、直ぐに下り階段になっていた。少女と私は、足下を確認しながらゆっくりと降りていく。どれだけ降りただろうか。やがて広い場所に出た。薄闇にも目が慣れた頃に辺りを見回すと、そこが石牢であることがわかった。耳を澄ますと微かにうめき声が聞こえてくる。
「お兄ちゃん!!」
少女がある一つの牢に駆け込む。そこには、右足の膝から下が、不自然に曲がっている少年が横たわっていた。
私は少年の元に駆け寄り、様子を伺う。
「酷い……ちょっと待ってね。」
私が魔法を行使しようとした、丁度その時だった。
「キィー、ガチャン。」
背後で鉄の軋む音がして慌てて振り返ると、二人の人影が、牢屋の扉を閉めて鍵をかけていた。
「お疲れー、聖女ナタリー。」
聞き慣れた声に目を凝らすと、目の前に現れたのは枢機卿の長男、テシオン・ブライトルだった。
少女が、鉄格子に慌てて駆け寄る。
「テシオン様狡い。聖女様を連れてきたら、お兄ちゃんと私は助けてくれるって言ったのにっ!!」
「そうかい?君だって嘘をついて聖女を裏切ってるじゃないか。違うかい?」
少女の顔が曇る。
「嘘はついてないもん。お兄ちゃんを歩けなくしたのは、テシオン様のくせにっ!!」
「はははっ、どこにそんな証拠が有るんだよ。寧ろ俺は、勝手に馬車の前に出てきて轢かれた、お前達を助けてやったんじゃないか。」
「私、聞いたもの。御者の人が、テシオン様の言葉には逆らえないって話してたの。」
「あの御者は、始末しないといけないな。」
テシオンが、後ろにいる付き人に目配せをした。
「まぁ、どのみちお前達はここから出ることは出来ない。諦めるんだな。はははっ……」
私は、少女に騙された事実はショックだったけれど、恨む気持ちは無かった。私でも同じ事をするだろうと思ったから。でも……テシオン様が私にこんな事をする理由がわからなかった。
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