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第3章 グレタ攻防戦
第15話 引き分け?
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「アベルさんの娘? マジ?」
キャサリンの名乗りを聞いたヴァルは間の抜けた声を出した。
父母と共に魔神殺しを果たした英雄、太陽神の神官アベルの娘を名乗った女性騎士を不躾にならない程度に観察する。
聖堂騎士団の統一規格の板金鎧に胴衣を着込み、一房の三つ編みにまとめた亜麻色の髪の毛がバケツ兜の後ろから垂れているのが見えた。
手には長剣と方形の盾を持っており、見た目は立派な聖堂騎士だ。
「アベルさんには、物心付くか付かないかの頃に一回だけ会ったことがある。魔神討伐の直前か。まあ、喧嘩別れしてからは、それっきりになってるけど。親父の口からは文句しか出てこないし」
「あははは……私の父もヴォーラスさんの話になると、渋い顔になります」
そんな風に互いの父親に関して話していると、横からミスティファーが口を挟んできた。
「今、そんな話してる余裕あんの?」
その冷水のような言葉に、我に返る両名。
「そ、そうだ! ロウドに加勢に行かなきゃ!」
「そ、そうですよね。早く行ってあげないと」
ミスティファーに睨まれながら、緩んだ気を入れ直して大聖堂の方へと向かうヴァル。
そして〈自由なる翼〉も後に続く。
その後を追おうとしたキャサリンの背に、先輩の聖堂騎士から声が掛かる。
「お、おい! 行くのか、キャサリン? 魔老公の孫なんかに勝ち目はねえぞ!」
完全に腰が引けているその先輩騎士に、顔だけを向けてキャサリンは言った。
「魔族相手に退くこと能わず。ですよね、先輩」
聖堂騎士団の箇条の一つである。
* * *
浮遊の術で体を浮かせ、滑るように大通りを突き進むパメラ。
鼻歌を鳴らして、かなりご機嫌な様子である。
「ああ、久しぶりにリーズ様に会える! 伝令役なんて面倒臭いと思ったけど、リーズ様がいるなんて……うふふ」
青白い頬を紅潮させ、恋する乙女の表情のパメラ。その笑顔は魔族と言えども魅力的なものであった。
と、その表情が一転して歪む。
「しかし、木偶の坊のレグはしょうがないわね。平人の戦士如きに両腕切られるなんて。リーズ様の爪の垢でも飲めばいいのよ」
先程、安全圏に跳ばしてやった古大鬼族の族長の息子レグを思い出して罵る。
リーズとレグのこの扱いの違い。まあ、好きな男とそれ以外の男では、こんなものであろうか。
「それにしても、この波動ウザいわね。あの忌々しい太陽神の聖堂から流れてきてるけど」
大聖堂から流れてくる儀式神聖術である聖域の波動を浴びて鬱陶しそうに顔をしかめるパメラ。
雑魚と違い極端に弱体化するわけではないが、それなりに力が抑えられているのを感じる。
「裏切り者の神々の力を借りなければ我らに対抗できない、弱っちい奴らの癖に、この神聖なる大地に我が物顔ではびこって、ホント平人って蛆虫レベル」
ブツブツと平人への文句をこぼし続けるパメラだったが、その顔が一挙に明るくなる。
前方の広場にお目当ての黒い鎧の騎士を見つけたのだ。
だが、その顔はすぐに険しいものとなった。
愛しい男の腹に剣が刺さっているのを、見てしまったのだ。
剣を突き出しているのは、リーズの前で片膝を付いている板金鎧の騎士。
鎧の細部の仕様が違うので聖堂騎士団ではないと思われる。
が、聖堂騎士団かどうかなんてことはパメラにはどうでも良かった。
問題はただ一つ、その騎士が愛しいリーズを傷付けているということであった。
「こ~のゲスが! 平人の分際で、愛しのリーズ様のお体に傷を付けるなど! 許さない!」
柳眉を逆立て、見る者の肝を冷やさせる表情になるパメラ。
右手を突き出し、詠唱無しの術名のみの単言術を放つ。
「△○(魔法の矢)!」
光弾が掌から放たれて、リーズに刺さった長剣の半ばに直撃。これを叩き折った。
そして、光弾がもう一発。それは、ギリギリの状態のロウドの鎧の胸に。
胸を覆う板金と鎖帷子が砕け散り、衝撃で吹き飛んでゴロゴロ転がるロウド。
板金鎧を粉砕するとは、凄い威力といえた。
同じ術でしかも詠唱無しなのに、小鬼呪術師のものとはエラい違いである。
「あ、かはっ」
胸部を強打しために呼吸がまともにできないでいるロウドを見据えながら、底冷えのする笑みを浮かべる魔少女。
「このクソ虫が。リーズ様のお体に傷を付けた罪、お前の命で贖いなさい」
光の宿る右掌をロウドに向けるパメラ。魔法の矢でトドメを刺そうというのか。
「パメラ、やめろ!」
待ったが掛かった。リーズである。
「その男、ロウドは俺の獲物だ! 手を出すな!」
腹から折れた剣先を引きずり出しながら、パメラを止める。
「で、でも……」
「パメラ!」
「わ、分かりました。リーズ様」
不承不承といった感じで右手を引っ込めるパメラ。
「この神官の助けがあったとはいえ見事だったぞ、ロウド。さあ、続きを……」
と、そこで今度はパメラから制止が入る。
「あの~、申し訳ありませんが、リーズ様。帰還命令が出ております」
「何? どういうことだ?」
いいところで水を差されて苛立ちを隠さないで問うリーズ。
「ザルカン様の独断によるこの作戦、魔神将評議会から中止命令が出ました。即刻、戦闘を中止し、撤収せよ。とのことです」
魔神将評議会。それは、魔神将たちが集まり、これからの光の世界に対して、どう動くか。などを議論する、魔族側の最高機関である。
リーズの主たる暴虐のザルカンは、この評議会を通さずに今回の作戦を立案し、軍勢を差し向けたのだ。
で、それが見事にバレて撤収命令が出たというわけである。
「リーズ様の同僚の三人の騎士は、聖堂騎士団の上級騎士との戦いの末、揃って討ち死に。指揮官クラスで残っているのは、リーズ様だけです。残存戦力をまとめて撤収の指揮をお取り下さい」
淡々と状況説明をするパメラの言葉を聞いて、懊悩するリーズ。
評議会から命令が出た以上、それに逆らうことはできない。逆らえば、色々と面倒臭いことになる。主のザルカンにも迷惑が掛かろう。
しかし、ロウドとの決着もつけたい。
そんな風に悩んでいるリーズの視界に、折れたロウドの剣が入る。
瞬時の内に、ある意味自己欺瞞の屁理屈を頭の中で捻り出すリーズ。
「ロウドよ、お前はその神官に助けられた。そして私も、このパメラに助けられた。邪魔が双方共に入ったし、お前の剣も折れて使い物にならない。これでは満足いく戦いはできまい。なので、決着は持ち越しだ。次に会った時にケリをつけよう!」
リーズは、そう言ってパメラに向く。(以下、魔族語で会話)
「撤収する。外まで頼む、パメラ……そう言えば、レグはどうした?」
パメラに転移を頼み、同じく侵攻軍に参加していた友人のことを思い出す。
「あの木偶の坊なら、平人の戦士に両腕切り落とされて半ベソかいてたんで、外に跳ばしときました」
レグをディスるパメラ。
「レグの腕を切り落とすとは、やるなソイツ」
「大鬼殺しの息子だそうですわ」
「ほう。人の身でありながら牢獄のパッサカリア様を倒したあの四英雄の息子か……なるほどな」
少し興味を持った様子のリーズに、
「とはいえ、アタシの爆炎弾幕で立てなくなるレベルですけどね。リーズ様が気に掛ける程の者ではございませんわ」
と、取るに足らない者であることを強調する。
そんな会話をしながら、転移の準備を進めていると、広場に複数人の足音が近づいてきた。
「ん?」
そちらに顔を向けるリーズとパメラ。
ヴァルを先頭とした〈自由なる翼〉の面々とキャサリンである。
「ロウド、無事か?!」
叫びながら広場を目指してやって来るヴァルを見て、
「アイツの得物は大鬼殺し。どうやら立てなくなるレベルではなかったようだな、パメラ」
と、転移の最終段階に入ったパメラに笑みを向ける。
「どうやら、そのようですわね。存外にしぶといこと。腐ってもあの大鬼殺しの息子、と言うことですわね。脳筋レグが喜びますわ。リーズ様、跳びます。転移!」
ヴァルたちが広場に駆け込んでくるのと、リーズとパメラが転移で跳ぶのは、ほぼ同時であった。
広場に残るのは、冷たくなりつつある兄の亡骸にすがって泣くロウドのみ。
「リチャード兄さん、ごめんなさい。僕が、僕が強ければ……アーサーさん、リチャード兄さん、仇は取ります。強くなって、必ずアイツを、リーズを倒します」
* * *
町の外に跳んだリーズは、残存戦力をまとめて撤収を開始する。
パメラの言った通り、リーズの同僚の黒騎士たちは全て、聖堂騎士と相打ちになるかのように死んでいたため、リーズが残存軍の最高位になっており、撤収はスムーズに行われた。
守備側の方もかなりの被害が出ており、到底追い打ちを掛けられるような状況ではなく、正直な話、
「なんだか分からんが退いてくれた。良かった」
と言うのが本音であった。
魔族側としては、上からの命令による不本意な撤退ということだが、この戦いある意味で魔族側の勝利とも言える。
何故なら、グレタこそ落とせなかったものの本来の目的であった聖堂騎士団グレイズ支部の殲滅は、ほぼ完遂していたからであった。
支部の実働部隊百五十人のうち百三十人とほぼ全軍が参戦した、このグレタ攻防戦。
クリント支部団長他八名の上級騎士は黒騎士たちとの激闘により殉教。一般団員も百人以上が殉教していた。
事実上、グレイズ支部は壊滅したと言っていい。
形としては、魔族の撤退による守備側の勝利という感じになっているが、いいとこ痛み分けのようなものであった。
こうして多大な被害を出して、グレタ攻防戦は集結した。
* * *
「なあ、リーズ。何で、目は治さないんだ?」
撤収する魔族の軍勢の中、レグがリーズに聞いた。
腹の傷は従軍していた闇の大聖母に仕える司祭に癒して貰ったものの、潰された片目をそのままにしているリーズに疑問を感じたのだ。
なおレグ本人は既に両腕を治して貰っている。
「この潰された片目は、私の油断と甘さの象徴。次にアイツと相まみえ、討ち果たすまでそのままにしておく」
そんな真面目すぎる幼馴染みの返答を聞いて、鼻で笑うレグ。
「は、分かんねえなぁ。戦いに不利な傷を残しとくなんて理解できん」
そこに横から、同じく幼馴染みのパメラがツッコミを入れる。
「アンタみたいな戦えればいいだけの脳筋とは違うのよ、リーズ様は」
ツッコミを受けて渋面になるレグ。
そう、リーズ・レグ・パメラの三人は幼馴染みであった。
出自こそ、パメラが魔神将の孫、レグが古大鬼の族長の息子、リーズが一般魔人とバラバラだが、子供の頃から仲良く遊び今もこうして軽口を叩き合う仲だ。
「俺ももっと強くなって大鬼殺しをぶっ倒す」
そう決意表明したレグに、またもツッコミを入れるパメラ。
「今度は首落とされないようになさいね」
引き分け? 終了
キャサリンの名乗りを聞いたヴァルは間の抜けた声を出した。
父母と共に魔神殺しを果たした英雄、太陽神の神官アベルの娘を名乗った女性騎士を不躾にならない程度に観察する。
聖堂騎士団の統一規格の板金鎧に胴衣を着込み、一房の三つ編みにまとめた亜麻色の髪の毛がバケツ兜の後ろから垂れているのが見えた。
手には長剣と方形の盾を持っており、見た目は立派な聖堂騎士だ。
「アベルさんには、物心付くか付かないかの頃に一回だけ会ったことがある。魔神討伐の直前か。まあ、喧嘩別れしてからは、それっきりになってるけど。親父の口からは文句しか出てこないし」
「あははは……私の父もヴォーラスさんの話になると、渋い顔になります」
そんな風に互いの父親に関して話していると、横からミスティファーが口を挟んできた。
「今、そんな話してる余裕あんの?」
その冷水のような言葉に、我に返る両名。
「そ、そうだ! ロウドに加勢に行かなきゃ!」
「そ、そうですよね。早く行ってあげないと」
ミスティファーに睨まれながら、緩んだ気を入れ直して大聖堂の方へと向かうヴァル。
そして〈自由なる翼〉も後に続く。
その後を追おうとしたキャサリンの背に、先輩の聖堂騎士から声が掛かる。
「お、おい! 行くのか、キャサリン? 魔老公の孫なんかに勝ち目はねえぞ!」
完全に腰が引けているその先輩騎士に、顔だけを向けてキャサリンは言った。
「魔族相手に退くこと能わず。ですよね、先輩」
聖堂騎士団の箇条の一つである。
* * *
浮遊の術で体を浮かせ、滑るように大通りを突き進むパメラ。
鼻歌を鳴らして、かなりご機嫌な様子である。
「ああ、久しぶりにリーズ様に会える! 伝令役なんて面倒臭いと思ったけど、リーズ様がいるなんて……うふふ」
青白い頬を紅潮させ、恋する乙女の表情のパメラ。その笑顔は魔族と言えども魅力的なものであった。
と、その表情が一転して歪む。
「しかし、木偶の坊のレグはしょうがないわね。平人の戦士如きに両腕切られるなんて。リーズ様の爪の垢でも飲めばいいのよ」
先程、安全圏に跳ばしてやった古大鬼族の族長の息子レグを思い出して罵る。
リーズとレグのこの扱いの違い。まあ、好きな男とそれ以外の男では、こんなものであろうか。
「それにしても、この波動ウザいわね。あの忌々しい太陽神の聖堂から流れてきてるけど」
大聖堂から流れてくる儀式神聖術である聖域の波動を浴びて鬱陶しそうに顔をしかめるパメラ。
雑魚と違い極端に弱体化するわけではないが、それなりに力が抑えられているのを感じる。
「裏切り者の神々の力を借りなければ我らに対抗できない、弱っちい奴らの癖に、この神聖なる大地に我が物顔ではびこって、ホント平人って蛆虫レベル」
ブツブツと平人への文句をこぼし続けるパメラだったが、その顔が一挙に明るくなる。
前方の広場にお目当ての黒い鎧の騎士を見つけたのだ。
だが、その顔はすぐに険しいものとなった。
愛しい男の腹に剣が刺さっているのを、見てしまったのだ。
剣を突き出しているのは、リーズの前で片膝を付いている板金鎧の騎士。
鎧の細部の仕様が違うので聖堂騎士団ではないと思われる。
が、聖堂騎士団かどうかなんてことはパメラにはどうでも良かった。
問題はただ一つ、その騎士が愛しいリーズを傷付けているということであった。
「こ~のゲスが! 平人の分際で、愛しのリーズ様のお体に傷を付けるなど! 許さない!」
柳眉を逆立て、見る者の肝を冷やさせる表情になるパメラ。
右手を突き出し、詠唱無しの術名のみの単言術を放つ。
「△○(魔法の矢)!」
光弾が掌から放たれて、リーズに刺さった長剣の半ばに直撃。これを叩き折った。
そして、光弾がもう一発。それは、ギリギリの状態のロウドの鎧の胸に。
胸を覆う板金と鎖帷子が砕け散り、衝撃で吹き飛んでゴロゴロ転がるロウド。
板金鎧を粉砕するとは、凄い威力といえた。
同じ術でしかも詠唱無しなのに、小鬼呪術師のものとはエラい違いである。
「あ、かはっ」
胸部を強打しために呼吸がまともにできないでいるロウドを見据えながら、底冷えのする笑みを浮かべる魔少女。
「このクソ虫が。リーズ様のお体に傷を付けた罪、お前の命で贖いなさい」
光の宿る右掌をロウドに向けるパメラ。魔法の矢でトドメを刺そうというのか。
「パメラ、やめろ!」
待ったが掛かった。リーズである。
「その男、ロウドは俺の獲物だ! 手を出すな!」
腹から折れた剣先を引きずり出しながら、パメラを止める。
「で、でも……」
「パメラ!」
「わ、分かりました。リーズ様」
不承不承といった感じで右手を引っ込めるパメラ。
「この神官の助けがあったとはいえ見事だったぞ、ロウド。さあ、続きを……」
と、そこで今度はパメラから制止が入る。
「あの~、申し訳ありませんが、リーズ様。帰還命令が出ております」
「何? どういうことだ?」
いいところで水を差されて苛立ちを隠さないで問うリーズ。
「ザルカン様の独断によるこの作戦、魔神将評議会から中止命令が出ました。即刻、戦闘を中止し、撤収せよ。とのことです」
魔神将評議会。それは、魔神将たちが集まり、これからの光の世界に対して、どう動くか。などを議論する、魔族側の最高機関である。
リーズの主たる暴虐のザルカンは、この評議会を通さずに今回の作戦を立案し、軍勢を差し向けたのだ。
で、それが見事にバレて撤収命令が出たというわけである。
「リーズ様の同僚の三人の騎士は、聖堂騎士団の上級騎士との戦いの末、揃って討ち死に。指揮官クラスで残っているのは、リーズ様だけです。残存戦力をまとめて撤収の指揮をお取り下さい」
淡々と状況説明をするパメラの言葉を聞いて、懊悩するリーズ。
評議会から命令が出た以上、それに逆らうことはできない。逆らえば、色々と面倒臭いことになる。主のザルカンにも迷惑が掛かろう。
しかし、ロウドとの決着もつけたい。
そんな風に悩んでいるリーズの視界に、折れたロウドの剣が入る。
瞬時の内に、ある意味自己欺瞞の屁理屈を頭の中で捻り出すリーズ。
「ロウドよ、お前はその神官に助けられた。そして私も、このパメラに助けられた。邪魔が双方共に入ったし、お前の剣も折れて使い物にならない。これでは満足いく戦いはできまい。なので、決着は持ち越しだ。次に会った時にケリをつけよう!」
リーズは、そう言ってパメラに向く。(以下、魔族語で会話)
「撤収する。外まで頼む、パメラ……そう言えば、レグはどうした?」
パメラに転移を頼み、同じく侵攻軍に参加していた友人のことを思い出す。
「あの木偶の坊なら、平人の戦士に両腕切り落とされて半ベソかいてたんで、外に跳ばしときました」
レグをディスるパメラ。
「レグの腕を切り落とすとは、やるなソイツ」
「大鬼殺しの息子だそうですわ」
「ほう。人の身でありながら牢獄のパッサカリア様を倒したあの四英雄の息子か……なるほどな」
少し興味を持った様子のリーズに、
「とはいえ、アタシの爆炎弾幕で立てなくなるレベルですけどね。リーズ様が気に掛ける程の者ではございませんわ」
と、取るに足らない者であることを強調する。
そんな会話をしながら、転移の準備を進めていると、広場に複数人の足音が近づいてきた。
「ん?」
そちらに顔を向けるリーズとパメラ。
ヴァルを先頭とした〈自由なる翼〉の面々とキャサリンである。
「ロウド、無事か?!」
叫びながら広場を目指してやって来るヴァルを見て、
「アイツの得物は大鬼殺し。どうやら立てなくなるレベルではなかったようだな、パメラ」
と、転移の最終段階に入ったパメラに笑みを向ける。
「どうやら、そのようですわね。存外にしぶといこと。腐ってもあの大鬼殺しの息子、と言うことですわね。脳筋レグが喜びますわ。リーズ様、跳びます。転移!」
ヴァルたちが広場に駆け込んでくるのと、リーズとパメラが転移で跳ぶのは、ほぼ同時であった。
広場に残るのは、冷たくなりつつある兄の亡骸にすがって泣くロウドのみ。
「リチャード兄さん、ごめんなさい。僕が、僕が強ければ……アーサーさん、リチャード兄さん、仇は取ります。強くなって、必ずアイツを、リーズを倒します」
* * *
町の外に跳んだリーズは、残存戦力をまとめて撤収を開始する。
パメラの言った通り、リーズの同僚の黒騎士たちは全て、聖堂騎士と相打ちになるかのように死んでいたため、リーズが残存軍の最高位になっており、撤収はスムーズに行われた。
守備側の方もかなりの被害が出ており、到底追い打ちを掛けられるような状況ではなく、正直な話、
「なんだか分からんが退いてくれた。良かった」
と言うのが本音であった。
魔族側としては、上からの命令による不本意な撤退ということだが、この戦いある意味で魔族側の勝利とも言える。
何故なら、グレタこそ落とせなかったものの本来の目的であった聖堂騎士団グレイズ支部の殲滅は、ほぼ完遂していたからであった。
支部の実働部隊百五十人のうち百三十人とほぼ全軍が参戦した、このグレタ攻防戦。
クリント支部団長他八名の上級騎士は黒騎士たちとの激闘により殉教。一般団員も百人以上が殉教していた。
事実上、グレイズ支部は壊滅したと言っていい。
形としては、魔族の撤退による守備側の勝利という感じになっているが、いいとこ痛み分けのようなものであった。
こうして多大な被害を出して、グレタ攻防戦は集結した。
* * *
「なあ、リーズ。何で、目は治さないんだ?」
撤収する魔族の軍勢の中、レグがリーズに聞いた。
腹の傷は従軍していた闇の大聖母に仕える司祭に癒して貰ったものの、潰された片目をそのままにしているリーズに疑問を感じたのだ。
なおレグ本人は既に両腕を治して貰っている。
「この潰された片目は、私の油断と甘さの象徴。次にアイツと相まみえ、討ち果たすまでそのままにしておく」
そんな真面目すぎる幼馴染みの返答を聞いて、鼻で笑うレグ。
「は、分かんねえなぁ。戦いに不利な傷を残しとくなんて理解できん」
そこに横から、同じく幼馴染みのパメラがツッコミを入れる。
「アンタみたいな戦えればいいだけの脳筋とは違うのよ、リーズ様は」
ツッコミを受けて渋面になるレグ。
そう、リーズ・レグ・パメラの三人は幼馴染みであった。
出自こそ、パメラが魔神将の孫、レグが古大鬼の族長の息子、リーズが一般魔人とバラバラだが、子供の頃から仲良く遊び今もこうして軽口を叩き合う仲だ。
「俺ももっと強くなって大鬼殺しをぶっ倒す」
そう決意表明したレグに、またもツッコミを入れるパメラ。
「今度は首落とされないようになさいね」
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