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第5章 悪徳の港町バルト
第43話 異界生物の襲撃
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「ヴァルは上手くやってるかね?」
宴の開かれているドルネイの屋敷を、林の中から観察しているイスカリオス。
あの脊髄反射で動く仲間が宴などでボロを出さないでいられるか、心配なのだ。
「う~ん、まあ……取りあえず、釘は刺しといたから馬鹿はやらないと思うけど」
そう言うミスティファーもいまいち自分の発言に自信が持てないようだ。
なにせ普段の行動がアレなので、ヴァルが大人しくしているかどうか確証が持てないのだ。
「おいおい、頼むぜ。こちらはこの襲撃に賭けてんだからよ」
二人の不穏な会話に渋面になるエドガー。
「ま、まあ……大丈夫だと……思う……」
歯切れ悪く答えるミスティファー。
「ったく……エドガーさん、ホントに大丈夫っすか? コイツらに頼って」
カーレルのメンバーの若い一人が不安になり、エドガーに顔を向ける。
「俺たちは、もはや後がねえんだ。この襲撃で、ロンダーズの幹部連中を一網打尽にして、その混乱に乗じてカーレル・ファミリーを復活させる。それしかねえ!」
不安げな部下にエドガーはそう言った。
無理矢理納得させるようなその口調は、おそらく自分自身にも言い聞かせているのだろう。
「わ、分かりました。そうですね、俺たちカーレルはもう後が無いんですよね」
エドガーの言葉を受け、悲壮な顔をして屋敷を見る若い男。
他のメンツも似たような様子である。
もはやカーレル・ファミリーには、ここで乾坤一擲の逆襲をするしか道はないのだ。
そんな様子を苦笑いで見ていたミスティファー。
だが、その表情が林を吹き抜ける風を体に受けて強張った。
「?」
厳しい表情で周りを見回すミスティファー。
ミスティファーのその様子を見て、声を掛けようとしたイスカリオスは異変に気付く。
「なんだ、この異常な魔力は?」
周り一帯の魔力が変質しているのだ。
「気付いた、イスカリオス?」
短杖を構え警戒を始めたイスカリオスにミスティファーが声を掛ける。
「ええ、私たちの周りの魔力がおかしくなっています」
「妖精たちの様子もおかしいのよ。今、風の妖精が警告をくれて、他の妖精の声が聞こえなくなった」
いきなり警戒モードに入った冒険者を見て、何事かと色めき立つカーレル・メンバー。
「お、おい。どうしたんだ、いきなり?」
エドガーが一同を代表して聞いてきた。
魔力も妖精も感じ取ることのできない彼らには、ミスティファーたちが警戒する理由が分からないのだ。
「しっ! 黙って!」
騒ぎ出すカーレル・メンバーを制するミスティファー。
感覚を研ぎ澄ましてみるが、先程まで感じ取れていた木の妖精や土の妖精などの気配がまるっきり綺麗に消えている。
町中ならともかく、郊外の林の中で妖精の気配が消えるなどあり得ないことだ。
「一体、どういうこと?」
エドガーたちカーレル・メンバーも、ただ事ではないと悟ったのか、辺りを見回して警戒を始めた。
だが、その一人に異変は襲いかかる。
「うわわわ!」
中年のメンバーの一人が声を上げる。
皆が驚いてソイツを見ると、足首が地面にめり込んでいた。
いや、めり込んでるというよりも、固いはずの地面が泥のように柔らかくなって沈み込んでいる。といった方が正しいか。
「なんだ? うお、俺もか?」
彼だけではなく他のメンバー、エドガーとかの足元も軟化して足が取られ始めた
悲鳴を上げながら、足を地面に飲まれていくカーレル・メンバー。
「風の妖精、お願い。私を浮かせてちょうだい」
「△△○○○、浮遊」
冒険者二人は慌てずに対処を行った。
ミスティファーはまだ気配のする風の妖精に頼んで地面に風を吹きつけて浮かび、イスカリオスは浮遊の術で地面から足を離す。
「お、おい! ずるいぞ、俺たちも浮かせてくれよ!」
カーレルの若いのが言ってきたが、事態が把握できていないのに無駄な力は使えないので無視する。
「どう見る、ミスティファー?」
「どうもこうも無いわよ。皆目、見当がつかない」
イスカリオスの問いに苛立たしげに答えるミスティファー。
どんどんと地面に沈み込んでいくエドガーたちを横目に見ながら、原因を探ろうとする冒険者二人。
と、その腕に風切り音と共に飛んできた物が巻き付いた。
枝だ。近くの樹木の枝が触手のように動き、ミスティファーとイスカリオスの腕に絡みついてきたのだ。
「木霊?!」
年経た樹木が自意識を持った存在、それが木霊だ。
イスカリオスがそうかと思って口に出したようだが、ミスティファーは故郷の大樹海に数多くいた木霊は基本的に温厚であり、自衛のため以外に動くことはないことを思い出して否定する。
「いえ、木霊はみだりに人を襲わないわ」
「じゃあ、これは一体?」
「分かんないわよ。取りあえず、この枝、何とかしないと」
腕を掴まれたままでは動きが制限されて行動がしにくい。
「待ってて……魔法の矢! 魔法の矢!」
詠唱破棄の術、二連発。
光弾が枝を吹き飛ばし、自由になる二人の腕。
腕に残っていた腕の残りを払い落とすと、締められていた部分が鬱血して赤くなっていた。
「ヤだ、痕ついてる」
赤くなった痕を見て、渋面になるミスティファー。
「それ、今気にすることかな?」
半眼になり、少し呆れた口調でツッコミを入れる魔術師。
「お、おい! コントやってんじゃねえよ! 早く何とかしてくれ!」
慌てた口調のエドガーたちは、既に腰まで飲み込まれている。
暫定的な仲間の窮地を前にして気を取り直す冒険者二人。
「大いなる我が神よ 我らに向けられし害意を示したまえ 敵探知」
この神聖術は、術者に害意を持った敵を探知する術だ。
まあ、そんなに詳しく分かるわけでも範囲が広いわけでもない。
ある程度の範囲内の敵が朧気に分かる程度だ。
「え? 何これ?」
術により敵を感知したミスティファーが眉をひそめる。
「どうしたんだい?」
その反応を訝しんだイスカリオスに答えるミスティファー。
「この周り一帯が敵の反応なんだけど」
「は?」
「だから、私たちの周り全てが敵として認識されてるのよ!」
悲鳴に近い声を上げるミスティファー。
それを受けてイスカリオスは辺りを見回し推論を立てた。
人を飲み込む地面、襲ってきた樹木、そして周り一帯が敵判定。
「となると、考えられるのは……ここら辺一帯が敵と同化してる?」
馬鹿げた推論だが、それしか考えられない。
しかし、そんな自然環境と同化する能力を持ったモノなど魔神にすらいなかったはずだ。
が、ここであることを思い出す。
「まさか、異界生物?」
そう、ロンダーズ・ファミリーは抗争で見たこともない怪物を使役していた、と聞いている。
半信半疑だが、それをおそらくは異界生物だろうと定義したはずだ。
このふざけた能力も異界から召喚された怪物なのだとすれば納得である。
「この敵、異界の奴らかも知れない。で、多分なんだけど、地面やら木々やらと同化してんじゃないかな?」
自分の推論を口にするイスカリオス。
それを聞いたミスティファーは、
「異界生物? ああ、なるほど……見張りがいなくて不用心だな。とは思ったけど、こんな番犬用意してたのね」
と、しかめ面になる。
「で、倒すには?」
ミスティファーの問いに、いかにも気が進まないといった様子で答えるイスカリオス。
「ここら辺一帯、無差別範囲攻撃するしかないね」
「頭悪すぎでしょ、それ……でも、それしかないか」
思いっ切り馬鹿げた対処法だが、明確に敵の本体を見極めることができない以上、それしかない。
「取りあえずは……神の一撃、食らいなさい。神聖衝撃!」
神聖な力が篭められた気弾を地面に叩き込むミスティファー。
地面が大きく揺れ、エドガーたちを飲み込んでいた泥のような地面が緩んだ。
「風の妖精。私の一時的な友達を引きずり上げてちょうだい」
ミスティファーの頼みを聞き入れ、エドガーたちに纏わり付き泥のような地面から引き抜く風。
現状何の役にも立ってないカーレル残党は、邪魔だからそのまま宙に浮かせておく。
「さて、やるか。爆炎球!」
イスカリオスが掌に火球を生じさせて、地面に投射。
轟音と共に地面で爆発する火球。
詠唱をして魔力を練ってる暇はないから、最低限の破壊力しかないが仕方ない。
爆発により焦げて抉れた地面は、身悶えるように震えていた。
そして間髪入れず、ミスティファーの神聖衝撃が叩き込まれる。
それに耐えかねて地面、そして周りの木々が震える様は見る者に怖気を感じさせた。
木々の枝がこれ以上の攻撃をさせまいと、二人に伸びてくる。
また拘束する気だろうか。
「火の妖精。私を縛ろうとする木々を燃やして」
爆炎球の残り火から、小さな火の矢が飛び出して伸びてきた枝を迎撃、着火する。
たちまち火に包まれる枝。それは即座に枝の根元の方へと延焼していった。
本当ならこんなに火の回りが早いわけはないのだが、火の妖精の力込みの炎故か、あっという間に枝一本を消し炭に変えて幹をも燃やしていく。
その後は策も何もない力押しの掃討戦となった。
地面と周りの木々にひたすら術を叩き込み続ける頭の悪い力任せの戦闘。
宙に浮いてそれを見ていたエドガーたちは、顔を引き攣らせていた。
「うわ~……容赦ねえ」
そんな感想が出るほど、その魔法攻撃はえげつないモノであった。
やがて地面と木々の震えが止まった。
同化していた異界生物の息の根を止めたのだろうか。
地面はクレーターだらけになっており、木々は焼け焦げたり、へし折れていたりと、林の中にちょっとした空白地帯を作り上げていた。
「終わった……かしら?」
「多分ね」
念のため、神聖衝撃を地面に叩き込んで反応が無いことを確かめる。
宙に浮かせていたエドガーたちを降ろし、ホッと息をつくミスティファー。
「あ~、魔力使いすぎて気持ち悪い」
「そうだね。屋敷に突入する前なのに消耗しすぎた」
肩で息をしている二人を見やったエドガーは、声を掛けようとして、ある音に気付いた。
足音だ。かなりの人数が、枯れ枝や落ち葉を踏む音が聞こえてきたのだ。
「ロンダーズの奴ら、来やがったか」
まあ、こんなに盛大にやっていれば、馬鹿でも気付くだろう。
他のメンバーも気付いたらしく、エドガーに慌てて顔を向ける。
「エドガーさん!」
「うろたえんじゃねえ! この二人はしばらく休ませねえと駄目だから、俺たちが迎え撃つぞ!」
「で、でも!」
「遅かれ早かれ奴らとはやり合うんだ! 腹据えろ!」
エドガーがうろたえる部下を一喝し、短い槍を構える。
他の者も不承不承それぞれの得物を構えて、敵の襲来に備えた。
「いたぞ! カーレルの残党だ! 俺たちロンダーズに盾突く奴らを血祭りに上げろ!」
木々の陰から出てきた鎖帷子の男が、こちらを見て鬨の声を上げた。
その後ろに続いている二十人ばかりの皮鎧の男たちが、呼応していかにもチンピラといった声を上げる。
「ヒャッハー!」
ロンダーズVSカーレルの戦いのゴングが鳴った。
異界生物の襲撃 終了
宴の開かれているドルネイの屋敷を、林の中から観察しているイスカリオス。
あの脊髄反射で動く仲間が宴などでボロを出さないでいられるか、心配なのだ。
「う~ん、まあ……取りあえず、釘は刺しといたから馬鹿はやらないと思うけど」
そう言うミスティファーもいまいち自分の発言に自信が持てないようだ。
なにせ普段の行動がアレなので、ヴァルが大人しくしているかどうか確証が持てないのだ。
「おいおい、頼むぜ。こちらはこの襲撃に賭けてんだからよ」
二人の不穏な会話に渋面になるエドガー。
「ま、まあ……大丈夫だと……思う……」
歯切れ悪く答えるミスティファー。
「ったく……エドガーさん、ホントに大丈夫っすか? コイツらに頼って」
カーレルのメンバーの若い一人が不安になり、エドガーに顔を向ける。
「俺たちは、もはや後がねえんだ。この襲撃で、ロンダーズの幹部連中を一網打尽にして、その混乱に乗じてカーレル・ファミリーを復活させる。それしかねえ!」
不安げな部下にエドガーはそう言った。
無理矢理納得させるようなその口調は、おそらく自分自身にも言い聞かせているのだろう。
「わ、分かりました。そうですね、俺たちカーレルはもう後が無いんですよね」
エドガーの言葉を受け、悲壮な顔をして屋敷を見る若い男。
他のメンツも似たような様子である。
もはやカーレル・ファミリーには、ここで乾坤一擲の逆襲をするしか道はないのだ。
そんな様子を苦笑いで見ていたミスティファー。
だが、その表情が林を吹き抜ける風を体に受けて強張った。
「?」
厳しい表情で周りを見回すミスティファー。
ミスティファーのその様子を見て、声を掛けようとしたイスカリオスは異変に気付く。
「なんだ、この異常な魔力は?」
周り一帯の魔力が変質しているのだ。
「気付いた、イスカリオス?」
短杖を構え警戒を始めたイスカリオスにミスティファーが声を掛ける。
「ええ、私たちの周りの魔力がおかしくなっています」
「妖精たちの様子もおかしいのよ。今、風の妖精が警告をくれて、他の妖精の声が聞こえなくなった」
いきなり警戒モードに入った冒険者を見て、何事かと色めき立つカーレル・メンバー。
「お、おい。どうしたんだ、いきなり?」
エドガーが一同を代表して聞いてきた。
魔力も妖精も感じ取ることのできない彼らには、ミスティファーたちが警戒する理由が分からないのだ。
「しっ! 黙って!」
騒ぎ出すカーレル・メンバーを制するミスティファー。
感覚を研ぎ澄ましてみるが、先程まで感じ取れていた木の妖精や土の妖精などの気配がまるっきり綺麗に消えている。
町中ならともかく、郊外の林の中で妖精の気配が消えるなどあり得ないことだ。
「一体、どういうこと?」
エドガーたちカーレル・メンバーも、ただ事ではないと悟ったのか、辺りを見回して警戒を始めた。
だが、その一人に異変は襲いかかる。
「うわわわ!」
中年のメンバーの一人が声を上げる。
皆が驚いてソイツを見ると、足首が地面にめり込んでいた。
いや、めり込んでるというよりも、固いはずの地面が泥のように柔らかくなって沈み込んでいる。といった方が正しいか。
「なんだ? うお、俺もか?」
彼だけではなく他のメンバー、エドガーとかの足元も軟化して足が取られ始めた
悲鳴を上げながら、足を地面に飲まれていくカーレル・メンバー。
「風の妖精、お願い。私を浮かせてちょうだい」
「△△○○○、浮遊」
冒険者二人は慌てずに対処を行った。
ミスティファーはまだ気配のする風の妖精に頼んで地面に風を吹きつけて浮かび、イスカリオスは浮遊の術で地面から足を離す。
「お、おい! ずるいぞ、俺たちも浮かせてくれよ!」
カーレルの若いのが言ってきたが、事態が把握できていないのに無駄な力は使えないので無視する。
「どう見る、ミスティファー?」
「どうもこうも無いわよ。皆目、見当がつかない」
イスカリオスの問いに苛立たしげに答えるミスティファー。
どんどんと地面に沈み込んでいくエドガーたちを横目に見ながら、原因を探ろうとする冒険者二人。
と、その腕に風切り音と共に飛んできた物が巻き付いた。
枝だ。近くの樹木の枝が触手のように動き、ミスティファーとイスカリオスの腕に絡みついてきたのだ。
「木霊?!」
年経た樹木が自意識を持った存在、それが木霊だ。
イスカリオスがそうかと思って口に出したようだが、ミスティファーは故郷の大樹海に数多くいた木霊は基本的に温厚であり、自衛のため以外に動くことはないことを思い出して否定する。
「いえ、木霊はみだりに人を襲わないわ」
「じゃあ、これは一体?」
「分かんないわよ。取りあえず、この枝、何とかしないと」
腕を掴まれたままでは動きが制限されて行動がしにくい。
「待ってて……魔法の矢! 魔法の矢!」
詠唱破棄の術、二連発。
光弾が枝を吹き飛ばし、自由になる二人の腕。
腕に残っていた腕の残りを払い落とすと、締められていた部分が鬱血して赤くなっていた。
「ヤだ、痕ついてる」
赤くなった痕を見て、渋面になるミスティファー。
「それ、今気にすることかな?」
半眼になり、少し呆れた口調でツッコミを入れる魔術師。
「お、おい! コントやってんじゃねえよ! 早く何とかしてくれ!」
慌てた口調のエドガーたちは、既に腰まで飲み込まれている。
暫定的な仲間の窮地を前にして気を取り直す冒険者二人。
「大いなる我が神よ 我らに向けられし害意を示したまえ 敵探知」
この神聖術は、術者に害意を持った敵を探知する術だ。
まあ、そんなに詳しく分かるわけでも範囲が広いわけでもない。
ある程度の範囲内の敵が朧気に分かる程度だ。
「え? 何これ?」
術により敵を感知したミスティファーが眉をひそめる。
「どうしたんだい?」
その反応を訝しんだイスカリオスに答えるミスティファー。
「この周り一帯が敵の反応なんだけど」
「は?」
「だから、私たちの周り全てが敵として認識されてるのよ!」
悲鳴に近い声を上げるミスティファー。
それを受けてイスカリオスは辺りを見回し推論を立てた。
人を飲み込む地面、襲ってきた樹木、そして周り一帯が敵判定。
「となると、考えられるのは……ここら辺一帯が敵と同化してる?」
馬鹿げた推論だが、それしか考えられない。
しかし、そんな自然環境と同化する能力を持ったモノなど魔神にすらいなかったはずだ。
が、ここであることを思い出す。
「まさか、異界生物?」
そう、ロンダーズ・ファミリーは抗争で見たこともない怪物を使役していた、と聞いている。
半信半疑だが、それをおそらくは異界生物だろうと定義したはずだ。
このふざけた能力も異界から召喚された怪物なのだとすれば納得である。
「この敵、異界の奴らかも知れない。で、多分なんだけど、地面やら木々やらと同化してんじゃないかな?」
自分の推論を口にするイスカリオス。
それを聞いたミスティファーは、
「異界生物? ああ、なるほど……見張りがいなくて不用心だな。とは思ったけど、こんな番犬用意してたのね」
と、しかめ面になる。
「で、倒すには?」
ミスティファーの問いに、いかにも気が進まないといった様子で答えるイスカリオス。
「ここら辺一帯、無差別範囲攻撃するしかないね」
「頭悪すぎでしょ、それ……でも、それしかないか」
思いっ切り馬鹿げた対処法だが、明確に敵の本体を見極めることができない以上、それしかない。
「取りあえずは……神の一撃、食らいなさい。神聖衝撃!」
神聖な力が篭められた気弾を地面に叩き込むミスティファー。
地面が大きく揺れ、エドガーたちを飲み込んでいた泥のような地面が緩んだ。
「風の妖精。私の一時的な友達を引きずり上げてちょうだい」
ミスティファーの頼みを聞き入れ、エドガーたちに纏わり付き泥のような地面から引き抜く風。
現状何の役にも立ってないカーレル残党は、邪魔だからそのまま宙に浮かせておく。
「さて、やるか。爆炎球!」
イスカリオスが掌に火球を生じさせて、地面に投射。
轟音と共に地面で爆発する火球。
詠唱をして魔力を練ってる暇はないから、最低限の破壊力しかないが仕方ない。
爆発により焦げて抉れた地面は、身悶えるように震えていた。
そして間髪入れず、ミスティファーの神聖衝撃が叩き込まれる。
それに耐えかねて地面、そして周りの木々が震える様は見る者に怖気を感じさせた。
木々の枝がこれ以上の攻撃をさせまいと、二人に伸びてくる。
また拘束する気だろうか。
「火の妖精。私を縛ろうとする木々を燃やして」
爆炎球の残り火から、小さな火の矢が飛び出して伸びてきた枝を迎撃、着火する。
たちまち火に包まれる枝。それは即座に枝の根元の方へと延焼していった。
本当ならこんなに火の回りが早いわけはないのだが、火の妖精の力込みの炎故か、あっという間に枝一本を消し炭に変えて幹をも燃やしていく。
その後は策も何もない力押しの掃討戦となった。
地面と周りの木々にひたすら術を叩き込み続ける頭の悪い力任せの戦闘。
宙に浮いてそれを見ていたエドガーたちは、顔を引き攣らせていた。
「うわ~……容赦ねえ」
そんな感想が出るほど、その魔法攻撃はえげつないモノであった。
やがて地面と木々の震えが止まった。
同化していた異界生物の息の根を止めたのだろうか。
地面はクレーターだらけになっており、木々は焼け焦げたり、へし折れていたりと、林の中にちょっとした空白地帯を作り上げていた。
「終わった……かしら?」
「多分ね」
念のため、神聖衝撃を地面に叩き込んで反応が無いことを確かめる。
宙に浮かせていたエドガーたちを降ろし、ホッと息をつくミスティファー。
「あ~、魔力使いすぎて気持ち悪い」
「そうだね。屋敷に突入する前なのに消耗しすぎた」
肩で息をしている二人を見やったエドガーは、声を掛けようとして、ある音に気付いた。
足音だ。かなりの人数が、枯れ枝や落ち葉を踏む音が聞こえてきたのだ。
「ロンダーズの奴ら、来やがったか」
まあ、こんなに盛大にやっていれば、馬鹿でも気付くだろう。
他のメンバーも気付いたらしく、エドガーに慌てて顔を向ける。
「エドガーさん!」
「うろたえんじゃねえ! この二人はしばらく休ませねえと駄目だから、俺たちが迎え撃つぞ!」
「で、でも!」
「遅かれ早かれ奴らとはやり合うんだ! 腹据えろ!」
エドガーがうろたえる部下を一喝し、短い槍を構える。
他の者も不承不承それぞれの得物を構えて、敵の襲来に備えた。
「いたぞ! カーレルの残党だ! 俺たちロンダーズに盾突く奴らを血祭りに上げろ!」
木々の陰から出てきた鎖帷子の男が、こちらを見て鬨の声を上げた。
その後ろに続いている二十人ばかりの皮鎧の男たちが、呼応していかにもチンピラといった声を上げる。
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