44 / 72
第5章 悪徳の港町バルト
第44話 援軍はメイド少女
しおりを挟む
「うおおお!」
雄叫び上げて、ぶつかり合うロンダーズとカーレルの構成員。
防具は互いに皮鎧か硬革鎧。
武器はカーレル側は短剣なのに対し、ロンダーズは舶刀である。
これは何故かというと、ロンダーズは、元はファナンシュとグレイズ間の航路を縄張りとする海賊だったから。
少々やり過ぎて両国から手厳しく取り締まられて陸に上がらざるを得なくなって、バルトに拠点を移したという経緯があり、故に主武器は、船乗りの使う舶刀なのである。
で、このぶつかり合いであるが、武器の違いせいでカーレルの方が不利と言えた。
間合いというか、武器の長さが倍近く違う。
片手用刀剣の中では、船の上の取り回しを考えて短く作られている舶刀だが、さすがに短剣と比べたら長い。
これが両手用武器相手とかなら小回りを生かして立ち回ることも可能かも知れないが、今言ったように取り回しの良いように作られた舶刀相手では、その利点もあまり生かすことができない。
追い込まれていくカーレル勢。
「くそっ!」
上品ではない悪態をついて、部下のサポートをしようとするエドガーだが、その前にロンダーズ部隊の指揮官である鎖帷子が立ち塞がる。
「おっと、お前の相手は俺だよ。エドガーさん」
そう言って、長剣と円形盾を構える鎖帷子の男。
「傭兵か」
それなりに様になっているその姿を見て、男の素性を見抜くエドガー。
「大正解♪」
茶化した様子で答える男。
「グレイズとファナンシュの国境で守備隊やってたんだけどな。こっちの方が楽で実入りいいんで、転職したんだよ」
男は、楽しそうに笑みを浮かべながら喋り続ける。
「なんつっても、チンピラ相手に睨みきかせてりゃいいんだから、マジ楽だわ」
明らかに馬鹿にした物言いで、敵のカーレルどころか、雇い主のロンダーズも嘲笑っているのが明白だ。
「ほう、チンピラ……ね」
男の嘲りを聞いて、エドガーの目が細くなり、声も剣呑な雰囲気を帯びる。
「なら、そのチンピラの槍、とくと見ろ!」
声と共に繰り出されるエドガーの槍。
ヴァルですら躱すのがやっとだった神速の槍、傭兵崩れは反応ができなかった。
微妙に遅れて円形盾を上げるも、それを掠めた槍の穂先は男の左の耳の根元に突き刺さる。
当然の如く引き千切れ、飛ぶ耳。
「あぎぃ!」
悲鳴を上げる傭兵崩れ。
槍を引き戻し、悲鳴を上げる傭兵崩れを揶揄するエドガー。
「チンピラ如きの槍に対応できないとは、傭兵も大したことはないな。あ、違うか。傭兵のレベルが低いんじゃなく、お前さん個人が低レベルなだけか」
容赦の無いエドガーの嘲笑を、血の滴る左耳の痕を押さえながら浴びる傭兵崩れ。
「許さねえ……許さねえぞ、てめえ!」
チンピラと侮っていた相手に耳を持っていかれ、上から目線で笑われる。
傭兵崩れの自尊心はズタズタになっていた。
先程までの余裕は何処へやら憎悪に歪んだ顔を、目の前の槍を持つ男に向ける。
エドガーは、それを真っ正面から見返して言い放った。
「どう許さねえのか、やってみろよ。戦争が怖くなって逃げた三下が!」
「がああ! 殺す、殺す!」
図星を突かれたのか、目を血走らせ喚き散らしながら突っ込んでくる傭兵崩れ。
槍を構えて迎え撃つエドガーは、ボソリと呟いた。
「こんな安い挑発に乗んなよなぁ」
そんな対決は少し置き、場面を移してミスティファーたち二人。
回りの環境に溶け込んだ異界生物を潰すのに、持てる魔力をギリギリまで使った二人だが、今は押し寄せるロンダーズの構成員を捌くのに苦労していた。
ある程度の戦闘訓練を受けているミスティファーは連接棍を操り、チンピラを凌いでいる。
問題は魔術師であるイスカリオスだ。
短杖を必死に振り回してチンピラを牽制しているが、舶刀で切られるのも時間の問題かと思われた。
「来るな!」
魔術師など、魔力が無ければ只の人である。いや、下手すると只の人以下かもしれない。
「へっ。なんだ、コイツ。へっぴり腰じゃねえか」
闇雲に振り回すだけの短杖を掻い潜って、舶刀の攻撃が届き始めた。
嬲るようにわざと外套を切るだけにとどめて、イスカリオスを追い込んでいく。
「く、くそ」
少しずつ少しずつ切り刻まれていく外套。
歯噛みしながらも為す術のないイスカリオス。
舶刀の刃先が肌を掠めるようになってきた。
体中の至る所に赤い線を引かれていく。
「そろそろ飽きたな。死ねや」
嬲っていたロンダーズの一人がそう言って、舶刀を振りかざす。
死の刃がイスカリオスの首筋に振り下ろされるかと思われたとき、救いの手が。
小さな爆発音のような音と共に、舶刀を振り下ろそうとしたチンピラが額に穴を開けて吹っ飛んだ。
後頭部は大きく弾けて拳大の穴が開いている。
仲間がいきなり謎の死に方をしたことを受けて、騒ぎ出すロンダーズ。
「な、なんだ?!」
「グレッグがやられたぞ!」
「一体、これはなんだ?!」
騒ぎ立てるロンダーズのチンピラどもだが、最初に死んだグレッグとやらに何が起こったのかは、その身を以て知ることになる。
先程と同じ小さな爆発音が連続で発生し、それと連動するようにロンダーズの構成員は頭に穴を開けて死んでいく。
「な、なんなんだよ!」
「なんかの攻撃か?!」
「あ、あそこに誰かいるぞ!」
謎の攻撃に怯えまくるロンダーズのチンピラだが、一人がある方向を指差した。
そこには、はっきり言って場違いな存在が。
白金の髪をツインテールにした、裾が踝まであるメイド服を着た十歳ぐらいの少女が、林の木の陰に隠れるようにいたのだ。
大きな黒いトランク・ケースのような物を背負い、両手で前腕ぐらいの長さの金属の筒に握りが付いたような物を保持している。
金属の筒の先からは煙が立ち上っていた。
皆の見守る中、筒先の方向を変える少女。
あの音と共に筒先から炎が小さく吹き出す。
そして筒先の延長線上にいたチンピラが頭を撃ち抜かれて倒れる。
「もしかして、銃か?」
呟くイスカリオス。
混乱を利用してチンピラを振り払ったミスティファーが、近くに寄ってきて問いただす。
「銃って?」
「ほら、火燃薬の爆発力で鉄の玉を撃ち出す大砲ってあるだろ?」
「ドワーフが作った攻城兵器よね?」
「そう。銃ってのは、その大砲を個人携帯用に縮小した物だよ。小さな金属の粒を火燃薬の力で撃ち出すんだそうだ」
イスカリオスの説明の最中も、次々と銃の餌食になっていくロンダーズのチンピラたち。
見ていると、どうやら連続して撃てるのは四発ぐらいまでらしい。
四発撃ったら、筒に付いている箱を取っ替えて、再度撃ち始める。
「一気にかかれ! 四人以上でかかれば、あのガキのとこまでいける!」
目端の利く者がそれに気付いたらしく、指示を出す。
「このクソガキ!」
六人ぐらいで少女に押し寄せるチンピラたち。
ヤバいか。と思われたが、メイド少女の顔には勝ち誇った笑顔が浮かんでいた。
「甘いのよ!」
背中のトランクの上部が開き、そこから丸い玉が幾つか射出される。
その内の一つが押し寄せる男たちの真ん中に落ちた。
銃の発射音よりも大きい爆発音が響き、男たちが吹き飛ぶ。
残りの玉は、ロンダーズの構成員の群れに向かっていき、これを爆発で薙ぎ倒した。
「ね、ねえ、イスカリオス。今のは何?」
引き攣った顔で仲間に問うミスティファー。
しかし、イスカリオスは答えられなかった。
この謎のメイド少女の加勢により、戦いの天秤はカーレル側に傾いた。
「おら! なんか知らんが、ロンダーズの奴ら押し潰せ!」
傭兵崩れの心臓を串刺しにして撃ち倒したエドガーが、この機を逃してなるものか、と檄を飛ばす。
「おー!」
腰の引けたロンダーズに襲いかかるカーレル勢。
傍目から見ても趨勢は決したように見える。
「森人の血を引く豊穣の女神の神官に、灰色の髪の魔術師。間違いない。貴方たちが〈自由なる翼〉ですか?」
歩み寄ってきたメイド少女が、見た目と少女特有の高い声にそぐわないしっかりした言葉遣いでミスティファーに声を掛ける。
「ええ、私たちは〈自由なる翼〉のメンバーよ。危ないところをありがとう。私はミスティファー、横の人はイスカリオス。貴方は?」
助けて貰った礼を言い自分たちの名を名乗った後、少女に名を聞くミスティファー。
「名を名乗らず、失礼しました。私の名はエリザベス。マーレ家のメイドです」
エリザベスと名乗ったメイド少女の言葉を聞いて、思い当たるミスティファー。
「マーレ家って……貴方もしかして、アナスタシアの」
「はい、その通りです。私はアナスタシア様に仕えています。で、我が主は?」
顔を見合わせるミスティファーとイスカリオス。
「え~、あ~……アナスタシアは、あの屋敷の中にいるわ」
気まずそうにアナスタシアの所在を言うミスティファー。
「あの屋敷の中? あそこはここの冒険者組合で聞いた情報だと、ロンダーズという組織の館のはずでは?」
そんないかがわしい所に何故、敬愛 (偏愛)する主がいるのか。
訝しげに思って聞いてくるエリザベスに、ミスティファーは誠に言いにくそうに事実を述べる。
「ウチのメンバーと一緒にロンダーズに捕まっちゃってね。今から助けに行くとこだったの」
「なんですとー! それ、早く言いなさいよ! アナスタシア様、今エリザベスが助けに参ります!」
いきなり口調と態度が変わり、血相を変えて屋敷の方へと駆け出すエリザベス。
メイド少女の豹変にびっくりしたミスティファーとイスカリオスだったが、すぐに後を追う。
「なんか、あの子、変よね」
「うん。纏う魔力が常人のモノじゃない」
後を追いながら、エリザベスを評する二人。
屋敷が目前に迫ってきた。
なんか騒がしい音が漏れてきている。
宴が開かれているという話だが、それとは別の騒がしさだ。
外で戦闘が起こっているので、招待客が怯えているのか。
玄関に鍵が掛かっていたので、背のトランクから丸い玉・爆弾を射出してぶち破ろうするエリザベス。
「邪魔するなあ! 爆弾、射出!」
爆弾は盛大な音を立てて玄関を吹き飛ばした。
屋敷内に突入する三人。
廊下をひた走り、騒音のする方を目指す。
扉の前の見張りを銃で撃ち抜いて排除し、部屋へと入る。
そこで三人が目にしたのは異様な光景だった。
「ぐるあああ!」
「じゃああ!」
大広間に響き渡る二つの獣の叫び。
壁際には、客たちが怯えた表情で張りついている。
彼らの恐怖の視線の先にあるのは、蠍尾獅子、そして全身を漆黒の毛に覆われた獣人であった。
蠍尾獅子と黒い獣人が、血みどろの格闘戦をしているのだ。
獣人を見たミスティファーは、声を震わせて呟いた。
「ヴァ、ヴァル!」
援軍はメイド少女 終了
雄叫び上げて、ぶつかり合うロンダーズとカーレルの構成員。
防具は互いに皮鎧か硬革鎧。
武器はカーレル側は短剣なのに対し、ロンダーズは舶刀である。
これは何故かというと、ロンダーズは、元はファナンシュとグレイズ間の航路を縄張りとする海賊だったから。
少々やり過ぎて両国から手厳しく取り締まられて陸に上がらざるを得なくなって、バルトに拠点を移したという経緯があり、故に主武器は、船乗りの使う舶刀なのである。
で、このぶつかり合いであるが、武器の違いせいでカーレルの方が不利と言えた。
間合いというか、武器の長さが倍近く違う。
片手用刀剣の中では、船の上の取り回しを考えて短く作られている舶刀だが、さすがに短剣と比べたら長い。
これが両手用武器相手とかなら小回りを生かして立ち回ることも可能かも知れないが、今言ったように取り回しの良いように作られた舶刀相手では、その利点もあまり生かすことができない。
追い込まれていくカーレル勢。
「くそっ!」
上品ではない悪態をついて、部下のサポートをしようとするエドガーだが、その前にロンダーズ部隊の指揮官である鎖帷子が立ち塞がる。
「おっと、お前の相手は俺だよ。エドガーさん」
そう言って、長剣と円形盾を構える鎖帷子の男。
「傭兵か」
それなりに様になっているその姿を見て、男の素性を見抜くエドガー。
「大正解♪」
茶化した様子で答える男。
「グレイズとファナンシュの国境で守備隊やってたんだけどな。こっちの方が楽で実入りいいんで、転職したんだよ」
男は、楽しそうに笑みを浮かべながら喋り続ける。
「なんつっても、チンピラ相手に睨みきかせてりゃいいんだから、マジ楽だわ」
明らかに馬鹿にした物言いで、敵のカーレルどころか、雇い主のロンダーズも嘲笑っているのが明白だ。
「ほう、チンピラ……ね」
男の嘲りを聞いて、エドガーの目が細くなり、声も剣呑な雰囲気を帯びる。
「なら、そのチンピラの槍、とくと見ろ!」
声と共に繰り出されるエドガーの槍。
ヴァルですら躱すのがやっとだった神速の槍、傭兵崩れは反応ができなかった。
微妙に遅れて円形盾を上げるも、それを掠めた槍の穂先は男の左の耳の根元に突き刺さる。
当然の如く引き千切れ、飛ぶ耳。
「あぎぃ!」
悲鳴を上げる傭兵崩れ。
槍を引き戻し、悲鳴を上げる傭兵崩れを揶揄するエドガー。
「チンピラ如きの槍に対応できないとは、傭兵も大したことはないな。あ、違うか。傭兵のレベルが低いんじゃなく、お前さん個人が低レベルなだけか」
容赦の無いエドガーの嘲笑を、血の滴る左耳の痕を押さえながら浴びる傭兵崩れ。
「許さねえ……許さねえぞ、てめえ!」
チンピラと侮っていた相手に耳を持っていかれ、上から目線で笑われる。
傭兵崩れの自尊心はズタズタになっていた。
先程までの余裕は何処へやら憎悪に歪んだ顔を、目の前の槍を持つ男に向ける。
エドガーは、それを真っ正面から見返して言い放った。
「どう許さねえのか、やってみろよ。戦争が怖くなって逃げた三下が!」
「がああ! 殺す、殺す!」
図星を突かれたのか、目を血走らせ喚き散らしながら突っ込んでくる傭兵崩れ。
槍を構えて迎え撃つエドガーは、ボソリと呟いた。
「こんな安い挑発に乗んなよなぁ」
そんな対決は少し置き、場面を移してミスティファーたち二人。
回りの環境に溶け込んだ異界生物を潰すのに、持てる魔力をギリギリまで使った二人だが、今は押し寄せるロンダーズの構成員を捌くのに苦労していた。
ある程度の戦闘訓練を受けているミスティファーは連接棍を操り、チンピラを凌いでいる。
問題は魔術師であるイスカリオスだ。
短杖を必死に振り回してチンピラを牽制しているが、舶刀で切られるのも時間の問題かと思われた。
「来るな!」
魔術師など、魔力が無ければ只の人である。いや、下手すると只の人以下かもしれない。
「へっ。なんだ、コイツ。へっぴり腰じゃねえか」
闇雲に振り回すだけの短杖を掻い潜って、舶刀の攻撃が届き始めた。
嬲るようにわざと外套を切るだけにとどめて、イスカリオスを追い込んでいく。
「く、くそ」
少しずつ少しずつ切り刻まれていく外套。
歯噛みしながらも為す術のないイスカリオス。
舶刀の刃先が肌を掠めるようになってきた。
体中の至る所に赤い線を引かれていく。
「そろそろ飽きたな。死ねや」
嬲っていたロンダーズの一人がそう言って、舶刀を振りかざす。
死の刃がイスカリオスの首筋に振り下ろされるかと思われたとき、救いの手が。
小さな爆発音のような音と共に、舶刀を振り下ろそうとしたチンピラが額に穴を開けて吹っ飛んだ。
後頭部は大きく弾けて拳大の穴が開いている。
仲間がいきなり謎の死に方をしたことを受けて、騒ぎ出すロンダーズ。
「な、なんだ?!」
「グレッグがやられたぞ!」
「一体、これはなんだ?!」
騒ぎ立てるロンダーズのチンピラどもだが、最初に死んだグレッグとやらに何が起こったのかは、その身を以て知ることになる。
先程と同じ小さな爆発音が連続で発生し、それと連動するようにロンダーズの構成員は頭に穴を開けて死んでいく。
「な、なんなんだよ!」
「なんかの攻撃か?!」
「あ、あそこに誰かいるぞ!」
謎の攻撃に怯えまくるロンダーズのチンピラだが、一人がある方向を指差した。
そこには、はっきり言って場違いな存在が。
白金の髪をツインテールにした、裾が踝まであるメイド服を着た十歳ぐらいの少女が、林の木の陰に隠れるようにいたのだ。
大きな黒いトランク・ケースのような物を背負い、両手で前腕ぐらいの長さの金属の筒に握りが付いたような物を保持している。
金属の筒の先からは煙が立ち上っていた。
皆の見守る中、筒先の方向を変える少女。
あの音と共に筒先から炎が小さく吹き出す。
そして筒先の延長線上にいたチンピラが頭を撃ち抜かれて倒れる。
「もしかして、銃か?」
呟くイスカリオス。
混乱を利用してチンピラを振り払ったミスティファーが、近くに寄ってきて問いただす。
「銃って?」
「ほら、火燃薬の爆発力で鉄の玉を撃ち出す大砲ってあるだろ?」
「ドワーフが作った攻城兵器よね?」
「そう。銃ってのは、その大砲を個人携帯用に縮小した物だよ。小さな金属の粒を火燃薬の力で撃ち出すんだそうだ」
イスカリオスの説明の最中も、次々と銃の餌食になっていくロンダーズのチンピラたち。
見ていると、どうやら連続して撃てるのは四発ぐらいまでらしい。
四発撃ったら、筒に付いている箱を取っ替えて、再度撃ち始める。
「一気にかかれ! 四人以上でかかれば、あのガキのとこまでいける!」
目端の利く者がそれに気付いたらしく、指示を出す。
「このクソガキ!」
六人ぐらいで少女に押し寄せるチンピラたち。
ヤバいか。と思われたが、メイド少女の顔には勝ち誇った笑顔が浮かんでいた。
「甘いのよ!」
背中のトランクの上部が開き、そこから丸い玉が幾つか射出される。
その内の一つが押し寄せる男たちの真ん中に落ちた。
銃の発射音よりも大きい爆発音が響き、男たちが吹き飛ぶ。
残りの玉は、ロンダーズの構成員の群れに向かっていき、これを爆発で薙ぎ倒した。
「ね、ねえ、イスカリオス。今のは何?」
引き攣った顔で仲間に問うミスティファー。
しかし、イスカリオスは答えられなかった。
この謎のメイド少女の加勢により、戦いの天秤はカーレル側に傾いた。
「おら! なんか知らんが、ロンダーズの奴ら押し潰せ!」
傭兵崩れの心臓を串刺しにして撃ち倒したエドガーが、この機を逃してなるものか、と檄を飛ばす。
「おー!」
腰の引けたロンダーズに襲いかかるカーレル勢。
傍目から見ても趨勢は決したように見える。
「森人の血を引く豊穣の女神の神官に、灰色の髪の魔術師。間違いない。貴方たちが〈自由なる翼〉ですか?」
歩み寄ってきたメイド少女が、見た目と少女特有の高い声にそぐわないしっかりした言葉遣いでミスティファーに声を掛ける。
「ええ、私たちは〈自由なる翼〉のメンバーよ。危ないところをありがとう。私はミスティファー、横の人はイスカリオス。貴方は?」
助けて貰った礼を言い自分たちの名を名乗った後、少女に名を聞くミスティファー。
「名を名乗らず、失礼しました。私の名はエリザベス。マーレ家のメイドです」
エリザベスと名乗ったメイド少女の言葉を聞いて、思い当たるミスティファー。
「マーレ家って……貴方もしかして、アナスタシアの」
「はい、その通りです。私はアナスタシア様に仕えています。で、我が主は?」
顔を見合わせるミスティファーとイスカリオス。
「え~、あ~……アナスタシアは、あの屋敷の中にいるわ」
気まずそうにアナスタシアの所在を言うミスティファー。
「あの屋敷の中? あそこはここの冒険者組合で聞いた情報だと、ロンダーズという組織の館のはずでは?」
そんないかがわしい所に何故、敬愛 (偏愛)する主がいるのか。
訝しげに思って聞いてくるエリザベスに、ミスティファーは誠に言いにくそうに事実を述べる。
「ウチのメンバーと一緒にロンダーズに捕まっちゃってね。今から助けに行くとこだったの」
「なんですとー! それ、早く言いなさいよ! アナスタシア様、今エリザベスが助けに参ります!」
いきなり口調と態度が変わり、血相を変えて屋敷の方へと駆け出すエリザベス。
メイド少女の豹変にびっくりしたミスティファーとイスカリオスだったが、すぐに後を追う。
「なんか、あの子、変よね」
「うん。纏う魔力が常人のモノじゃない」
後を追いながら、エリザベスを評する二人。
屋敷が目前に迫ってきた。
なんか騒がしい音が漏れてきている。
宴が開かれているという話だが、それとは別の騒がしさだ。
外で戦闘が起こっているので、招待客が怯えているのか。
玄関に鍵が掛かっていたので、背のトランクから丸い玉・爆弾を射出してぶち破ろうするエリザベス。
「邪魔するなあ! 爆弾、射出!」
爆弾は盛大な音を立てて玄関を吹き飛ばした。
屋敷内に突入する三人。
廊下をひた走り、騒音のする方を目指す。
扉の前の見張りを銃で撃ち抜いて排除し、部屋へと入る。
そこで三人が目にしたのは異様な光景だった。
「ぐるあああ!」
「じゃああ!」
大広間に響き渡る二つの獣の叫び。
壁際には、客たちが怯えた表情で張りついている。
彼らの恐怖の視線の先にあるのは、蠍尾獅子、そして全身を漆黒の毛に覆われた獣人であった。
蠍尾獅子と黒い獣人が、血みどろの格闘戦をしているのだ。
獣人を見たミスティファーは、声を震わせて呟いた。
「ヴァ、ヴァル!」
援軍はメイド少女 終了
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる