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第7章 新たなる旅路
第62話 吟遊詩人エルロイ
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「へ~、じゃあアンタたちが〈自由なる翼〉か」
船の甲板でヴァルの話を聞いていた丘人の男性がしげしげとヴァルたちを眺めながら言った。
大海竜ティラの一撃により、船が難破。
海に放り出されたヴァル・ミスティファー・イスカリオスの三人は、ミスティファーが水の妖精に頼んで海中で波が静まるのを待っていた。
静かになったのを見計らい浮上、ロウドたちを捜したが見つからず、通りかかったポルカ半島の町イワネ行きの船に拾って貰ったのだ。
そこで、この丘人の男性エルロイと出会い、漂流していた経緯を話したのである。
ちなみに丘人というのは、丘陵地帯に住む人族である。
背丈は成長しても平人の子供ぐらいにしかならず髭も生えず童顔なため、知らない者は本当に子供だと間違える。
丘の斜面に穴を掘り住居とするが、それは生まれた子供が成長するまでであり、成長後は一家バラバラとなり放浪の旅に出る享楽的な種族だ。
体格的なものもあり、冒険者になった際には主に斥候になることが多い。ただ性格ゆえか、トラブルメーカーになりがちである。
このエルロイもご多分に漏れず、身のこなしなどを見る限り斥候系の訓練は積んでいるようだ。
一応、竪琴を持っており吟遊詩人を名乗っているが、本職はどちらの方か怪しいものである。
「あれ? でも、メンバーもう一人いなかった? 弓の得意な斥候の人が」
ここにいないコーンズのことを話題に出すエルロイ。
「船の難破の際にはぐれたんだよ。他の三人の新入りと一緒にな」
ヴァルの説明に、
「へ~、それは心配だね」
とエルロイは心配する様子を見せる。
しかし、ミスティファーはその心配げな顔の裏に潜む悪意を見逃さなかった。
いや悪意というのは大げさか。多少の打算というべきであろう。
エルロイの顔に一瞬だけ浮かんだ素の表情。それは『取り入る隙ができた』と如実に語っていた。
「で、これからどうすんの? お仲間探すの?」
エルロイの質問に、ヴァルがかぶりを振って答える。
「当初の目的通り宗教都市キタンに行って、聖剣の勇者様の様子を見に行く。コーンズたちも生きてんなら、キタンに来るはずだからな。そこで待ってみるさ」
ロウドやコーンズが、ルキアンの皇子と共に反対方向のフィナンシュ王国へと向かうことになったなどとはつゆ知らず、キタンで待つことにするヴァル。
「そうね。無駄にこの南方海を探すより、そっちの方がいいわね」
「確かに」
ミスティファーとイスカリオスも同意する。
「あ~、勇者様見に行くんだ。奇遇だね、僕も詩のネタにならないか見に行くとこだったんだ。良ければさ、キタンまで一緒に行かない?」
エルロイの提案に、仲間二人に顔を向けるヴァル。
「別にいいんじゃないかな」
「まあ、キタンまでなら」
イスカリオスとミスティファーの同意が得られたところで、ヴァルも頷く。
「そうだな。じゃあ、エルロイ。キタンまでよろしくな」
「こちらこそ、よろしく」
夕刻近くなってから到着したイワネは、トスカ河河口の都市ケセラとキタンの間にある町である。
職人の町として有名であり、町ゆく人も商人よりも、各種職人組合のバッジを着けた職人の方が多い。
「流石、職人の町。鍛冶屋、染物屋、仕立屋、石工、etc.……職人だらけだねえ。建物の造りも最先端の技術が使われてる」
船から下りて港を抜け、大通りに出た一行。
キョロキョロと辺りを見回し、人々や町並みを観察するエルロイ。
詩のネタにするためか、それとも純粋な好奇心か。
そんなエルロイをさておいて、これからどうするかを話し合う三人。
「今日、どうする? このままキタンへ向かうか、今日は泊まって明朝、出発か」
イスカリオスが疲れた顔で意見を表明した。
「今日は泊まろうよ。久し振りに揺れない寝床でゆっくり寝たい」
ミスティファーも、その意見に賛成する。
「そうね。船の上じゃ熟睡できなかったもの」
どうやら二人とも船酔いとまでは行かなかったものの、船の揺れにはうんざりしていたようだ。
「じゃ、泊まるか。お~い、エルロイ! 今日は宿に泊まるぞ!」
ヴァルは観察に夢中になっているエルロイに大声で呼びかける。
「あ、うん!」
とてとてとやって来た丘人の吟遊詩人を引き連れて、今夜の宿を探す。
「あそこなんかいいんじゃないかな?」
エルロイが指し示した冒険者の宿は、一階の酒場の喧騒が通りにまで聞こえてきており、賑わっているようだ。
「ふうん、なかなか良さそうだな。あそこにするか」
そう言ってエルロイを伴い、そそくさと向かうヴァル。
「私たちに相談は無しか」
思わず出たイスカリオスのボヤキに、ミスティファーが少なからぬ諦めを含んだ声で答える。
「いつものことじゃない。そもそも冒険者の宿なんて、どこも似たり寄ったりだから別にいいでしょ」
「まあ、そうだけどさ」
ボヤキを口にしながら、ヴァルの後を追う二人。
脳筋のサポートを続けてきた苦労人としての哀愁が、その背には漂っていた。
宿の入り口に着き、両開きの扉を開けるヴァル。
外に漏れていた喧騒の何倍もの騒音が一同を襲う。
日が沈んで間もないが、既に酒場は大盛況のようだ。
酒の入ったグラスやジョッキを傾ける客。テーブルの間を料理を持って行き来する店員たち。
「あそこのテーブル、空いてるな」
隅の方のテーブルが空いてるのを見つけたヴァル。
一同は混雑している店内をすり抜けてテーブルに着席、寄って来た店員からメニューを受け取る。
「お、ここ砂糖黍の酒あるじゃん」
メニューの中に好きな酒を見つけ、顔をほころばせるヴァル。
他の皆も頼むものは決まったようだ。
「お~い!」
手を上げ、店員を呼ぶヴァル。
寄ってた店員に好みの物を注文する一同。
「砂糖黍の酒を瓶で。後、骨付きのフライドチキン」
「葡萄酒を一杯。後、サーモンの冷製パスタ」
「レモン水を一杯。そしてサラダとパン」
「麦酒をジョッキで。後はポークソテーと……パンを三人前、貰おうかな」
ヴァル、ミスティファー、イスカリオス、エルロイの順に注文。
料理を待つ間、エルロイからこれまでの冒険の話を聞かれ、問題ない範囲のことだけ話す。
そして運ばれてくる料理。
ヴァルはフライドチキンの骨の部分を手掴みで、ジュージューと音を立てている肉に歯を立て食いちぎって咀嚼、砂糖黍の酒を瓶からラッパ飲みして流し込む。
ミスティファーはグラスに入れられた葡萄酒を優雅に飲みながら、冷製パスタをフォークで巻き取って口に運ぶ。
イスカリオスはレモン水をちびちび飲みながら、サラダとパンをもそもそと。
一番豪快な食い方は新顔のエルロイだった。
麦酒を一気にジョッキの半分ぐらい飲み、ポークソテーとパンを凄まじい勢いで食らう。三人前頼んだパンが見る見るうちに、エルロイの腹に消えていく。
これはヴァルですら目を見張る勢いであった。
「丘人って、体の割に食べるって聞いてたけど、本当なのね」
ミスティファーが呆然とした表情で呟く。
三人が凝視する中、エルロイは最後のパンの塊をジョッキの残りで流し込み、竪琴を持って席を立つ。
「腹も膨れたし、旅費稼ぐために一曲歌ってくるよ」
そう言って、酒場の真ん中にある丸い演壇へと進む。
演壇は吟遊詩人が歌ったり芸人が芸を披露するための場所である。
その真ん中に立ち、周りを見回して一礼するエルロイ。
「さ~、皆様! 旅の吟遊詩人の拙い詩をお聞きくださいませ! お気に召しましたら、おひねりをよろしく!」
そして歌いだしたのは、
「闇の大聖母の生み出せし魔神が一柱、牢獄のパッサカリアの居城たる牢獄都市に挑みしは……」
魔神殺しの四英雄の勲詩であった。
「ぶほっ! げほげほ……」
酒を吹き出し、その拍子に変なところに入ったのか咳き込むヴァル。
「わざとかな?」
「わざとでしょ。四英雄のウチ二人、ヴォーラスさんとリリアナさんの子がヴァルだって分かってるんだから」
イスカリオスとミスティファーの少し醒めた目線の先で、朗々と歌うエルロイ。
「南東の不毛の砂漠リュカンナよりやって来た強力無双の蛮族戦士、大鬼殺しヴォーラス。
月と知識の神の覚えめでたき麗しの武神官、月の戦乙女リリアナ。
竜の尾の一撃すら食い止める最強の守護者、鉄壁の騎士カッシュ・グラモン。
太陽と支配の神の敬虔なるしもべ、太陽の申し子アベル。
彼らこそ、魔神殺しの四英雄なり」
詩もそれなりに上手い。斥候系の本職のカバーかも知れないが、金を取れるレベルであることは確かなようだ。
歌い終わったエルロイの足元に置かれた桶に次々と銅貨、たまに銀貨が投げ込まれる。
「なんで、こんなとこで親父とお袋の勲詩、聞かにゃならん」
仏頂面のヴァル。
父ヴォーラスの背に未だ追いつけないヴァルにとって、この詩はあまり聞きたくないものであった。
特に、神器を持っているとはいえ古大鬼如きに負けた今の自分には、父との差を思い知らされる勲詩なのだ。
「どうやったら、どこまで鍛えれば親父に追いつけるんだよ……」
思わず漏れた珍しくネガティブな呟きを、ミスティファーとイスカリオスは聞こえてないふりをすることにした。
吟遊詩人エルロイ 終了
船の甲板でヴァルの話を聞いていた丘人の男性がしげしげとヴァルたちを眺めながら言った。
大海竜ティラの一撃により、船が難破。
海に放り出されたヴァル・ミスティファー・イスカリオスの三人は、ミスティファーが水の妖精に頼んで海中で波が静まるのを待っていた。
静かになったのを見計らい浮上、ロウドたちを捜したが見つからず、通りかかったポルカ半島の町イワネ行きの船に拾って貰ったのだ。
そこで、この丘人の男性エルロイと出会い、漂流していた経緯を話したのである。
ちなみに丘人というのは、丘陵地帯に住む人族である。
背丈は成長しても平人の子供ぐらいにしかならず髭も生えず童顔なため、知らない者は本当に子供だと間違える。
丘の斜面に穴を掘り住居とするが、それは生まれた子供が成長するまでであり、成長後は一家バラバラとなり放浪の旅に出る享楽的な種族だ。
体格的なものもあり、冒険者になった際には主に斥候になることが多い。ただ性格ゆえか、トラブルメーカーになりがちである。
このエルロイもご多分に漏れず、身のこなしなどを見る限り斥候系の訓練は積んでいるようだ。
一応、竪琴を持っており吟遊詩人を名乗っているが、本職はどちらの方か怪しいものである。
「あれ? でも、メンバーもう一人いなかった? 弓の得意な斥候の人が」
ここにいないコーンズのことを話題に出すエルロイ。
「船の難破の際にはぐれたんだよ。他の三人の新入りと一緒にな」
ヴァルの説明に、
「へ~、それは心配だね」
とエルロイは心配する様子を見せる。
しかし、ミスティファーはその心配げな顔の裏に潜む悪意を見逃さなかった。
いや悪意というのは大げさか。多少の打算というべきであろう。
エルロイの顔に一瞬だけ浮かんだ素の表情。それは『取り入る隙ができた』と如実に語っていた。
「で、これからどうすんの? お仲間探すの?」
エルロイの質問に、ヴァルがかぶりを振って答える。
「当初の目的通り宗教都市キタンに行って、聖剣の勇者様の様子を見に行く。コーンズたちも生きてんなら、キタンに来るはずだからな。そこで待ってみるさ」
ロウドやコーンズが、ルキアンの皇子と共に反対方向のフィナンシュ王国へと向かうことになったなどとはつゆ知らず、キタンで待つことにするヴァル。
「そうね。無駄にこの南方海を探すより、そっちの方がいいわね」
「確かに」
ミスティファーとイスカリオスも同意する。
「あ~、勇者様見に行くんだ。奇遇だね、僕も詩のネタにならないか見に行くとこだったんだ。良ければさ、キタンまで一緒に行かない?」
エルロイの提案に、仲間二人に顔を向けるヴァル。
「別にいいんじゃないかな」
「まあ、キタンまでなら」
イスカリオスとミスティファーの同意が得られたところで、ヴァルも頷く。
「そうだな。じゃあ、エルロイ。キタンまでよろしくな」
「こちらこそ、よろしく」
夕刻近くなってから到着したイワネは、トスカ河河口の都市ケセラとキタンの間にある町である。
職人の町として有名であり、町ゆく人も商人よりも、各種職人組合のバッジを着けた職人の方が多い。
「流石、職人の町。鍛冶屋、染物屋、仕立屋、石工、etc.……職人だらけだねえ。建物の造りも最先端の技術が使われてる」
船から下りて港を抜け、大通りに出た一行。
キョロキョロと辺りを見回し、人々や町並みを観察するエルロイ。
詩のネタにするためか、それとも純粋な好奇心か。
そんなエルロイをさておいて、これからどうするかを話し合う三人。
「今日、どうする? このままキタンへ向かうか、今日は泊まって明朝、出発か」
イスカリオスが疲れた顔で意見を表明した。
「今日は泊まろうよ。久し振りに揺れない寝床でゆっくり寝たい」
ミスティファーも、その意見に賛成する。
「そうね。船の上じゃ熟睡できなかったもの」
どうやら二人とも船酔いとまでは行かなかったものの、船の揺れにはうんざりしていたようだ。
「じゃ、泊まるか。お~い、エルロイ! 今日は宿に泊まるぞ!」
ヴァルは観察に夢中になっているエルロイに大声で呼びかける。
「あ、うん!」
とてとてとやって来た丘人の吟遊詩人を引き連れて、今夜の宿を探す。
「あそこなんかいいんじゃないかな?」
エルロイが指し示した冒険者の宿は、一階の酒場の喧騒が通りにまで聞こえてきており、賑わっているようだ。
「ふうん、なかなか良さそうだな。あそこにするか」
そう言ってエルロイを伴い、そそくさと向かうヴァル。
「私たちに相談は無しか」
思わず出たイスカリオスのボヤキに、ミスティファーが少なからぬ諦めを含んだ声で答える。
「いつものことじゃない。そもそも冒険者の宿なんて、どこも似たり寄ったりだから別にいいでしょ」
「まあ、そうだけどさ」
ボヤキを口にしながら、ヴァルの後を追う二人。
脳筋のサポートを続けてきた苦労人としての哀愁が、その背には漂っていた。
宿の入り口に着き、両開きの扉を開けるヴァル。
外に漏れていた喧騒の何倍もの騒音が一同を襲う。
日が沈んで間もないが、既に酒場は大盛況のようだ。
酒の入ったグラスやジョッキを傾ける客。テーブルの間を料理を持って行き来する店員たち。
「あそこのテーブル、空いてるな」
隅の方のテーブルが空いてるのを見つけたヴァル。
一同は混雑している店内をすり抜けてテーブルに着席、寄って来た店員からメニューを受け取る。
「お、ここ砂糖黍の酒あるじゃん」
メニューの中に好きな酒を見つけ、顔をほころばせるヴァル。
他の皆も頼むものは決まったようだ。
「お~い!」
手を上げ、店員を呼ぶヴァル。
寄ってた店員に好みの物を注文する一同。
「砂糖黍の酒を瓶で。後、骨付きのフライドチキン」
「葡萄酒を一杯。後、サーモンの冷製パスタ」
「レモン水を一杯。そしてサラダとパン」
「麦酒をジョッキで。後はポークソテーと……パンを三人前、貰おうかな」
ヴァル、ミスティファー、イスカリオス、エルロイの順に注文。
料理を待つ間、エルロイからこれまでの冒険の話を聞かれ、問題ない範囲のことだけ話す。
そして運ばれてくる料理。
ヴァルはフライドチキンの骨の部分を手掴みで、ジュージューと音を立てている肉に歯を立て食いちぎって咀嚼、砂糖黍の酒を瓶からラッパ飲みして流し込む。
ミスティファーはグラスに入れられた葡萄酒を優雅に飲みながら、冷製パスタをフォークで巻き取って口に運ぶ。
イスカリオスはレモン水をちびちび飲みながら、サラダとパンをもそもそと。
一番豪快な食い方は新顔のエルロイだった。
麦酒を一気にジョッキの半分ぐらい飲み、ポークソテーとパンを凄まじい勢いで食らう。三人前頼んだパンが見る見るうちに、エルロイの腹に消えていく。
これはヴァルですら目を見張る勢いであった。
「丘人って、体の割に食べるって聞いてたけど、本当なのね」
ミスティファーが呆然とした表情で呟く。
三人が凝視する中、エルロイは最後のパンの塊をジョッキの残りで流し込み、竪琴を持って席を立つ。
「腹も膨れたし、旅費稼ぐために一曲歌ってくるよ」
そう言って、酒場の真ん中にある丸い演壇へと進む。
演壇は吟遊詩人が歌ったり芸人が芸を披露するための場所である。
その真ん中に立ち、周りを見回して一礼するエルロイ。
「さ~、皆様! 旅の吟遊詩人の拙い詩をお聞きくださいませ! お気に召しましたら、おひねりをよろしく!」
そして歌いだしたのは、
「闇の大聖母の生み出せし魔神が一柱、牢獄のパッサカリアの居城たる牢獄都市に挑みしは……」
魔神殺しの四英雄の勲詩であった。
「ぶほっ! げほげほ……」
酒を吹き出し、その拍子に変なところに入ったのか咳き込むヴァル。
「わざとかな?」
「わざとでしょ。四英雄のウチ二人、ヴォーラスさんとリリアナさんの子がヴァルだって分かってるんだから」
イスカリオスとミスティファーの少し醒めた目線の先で、朗々と歌うエルロイ。
「南東の不毛の砂漠リュカンナよりやって来た強力無双の蛮族戦士、大鬼殺しヴォーラス。
月と知識の神の覚えめでたき麗しの武神官、月の戦乙女リリアナ。
竜の尾の一撃すら食い止める最強の守護者、鉄壁の騎士カッシュ・グラモン。
太陽と支配の神の敬虔なるしもべ、太陽の申し子アベル。
彼らこそ、魔神殺しの四英雄なり」
詩もそれなりに上手い。斥候系の本職のカバーかも知れないが、金を取れるレベルであることは確かなようだ。
歌い終わったエルロイの足元に置かれた桶に次々と銅貨、たまに銀貨が投げ込まれる。
「なんで、こんなとこで親父とお袋の勲詩、聞かにゃならん」
仏頂面のヴァル。
父ヴォーラスの背に未だ追いつけないヴァルにとって、この詩はあまり聞きたくないものであった。
特に、神器を持っているとはいえ古大鬼如きに負けた今の自分には、父との差を思い知らされる勲詩なのだ。
「どうやったら、どこまで鍛えれば親父に追いつけるんだよ……」
思わず漏れた珍しくネガティブな呟きを、ミスティファーとイスカリオスは聞こえてないふりをすることにした。
吟遊詩人エルロイ 終了
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