ブレイブス~田舎貴族の三男坊は英雄になれるか~

ハッシー

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第7章 新たなる旅路

第64話 鍛冶師ポルトス

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 板金プレート仕立ての全身鎧フィールドアーマーに重厚なシールド角付きの兜ホーンドヘルムにて防御を固めたドワーフ、ポルトス。
 鎖付き鉄球チェインボールを振り回し、竜人ドラクルクラウンと小鬼ゴブリンの群れを睨めつけながら、ヴァルたちに声を掛ける。

「助太刀するぞ」
「有り難い。助かるぜ」

 ヴァルは短く礼を言い、竜人ドラクルの動向を窺う。
 クラウンは、いいところで邪魔をしてきた酒樽ドワーフとヴァルたちを交互に見やっていた。
 どうやら観察しているようだ。
 
『お邪魔虫めが。しかし、あの山人ドワーフ。装備も上質の物だし、相当の手練れ。〈自由なる翼〉のメンツと一緒にこられたら……勝てはするだろうが、こちらも無傷とはいかないだろう。作戦のこともあるし、ここは退くか……』
 
 彼我の戦力を見極めギリギリの線だと判断し、本来やるべきことを優先して、ここは退却することにするクラウン。

「俺はあのええ格好しいのリーズとは違うんでね。勝てる戦いしかしない主義だ。不確定要素が来た以上は退かせて貰う」

 そう言い捨てて懐から取り出した筒を地面に叩きつける。
 筒はどうやら陶器製だったらしく容易く割れ、黒い靄が吹き上がった。
 そして、その靄は徐々に形を整えていく。
 人の形をした黒い靄が六体と、他のより一回り大きい黒い靄が二体そこに現れた。
 大きいのはご丁寧に、体と同じ黒靄製の片手剣ソードを持っている。

靄人ミストマンに、靄人兵士ミストソルジャーか」

 増援の正体をすぐさま見抜くイスカリオス。
 靄人ミストマン魔族ダークワンの生み出した魔法生物クリーチャーだ。靄人兵士ミストソルジャーはその上位バージョンである。

「我がしもべよ、コイツらを足止めしろ! 小鬼ゴブリンども、ボケッとしてないでさっさと撤退せんか!」

 オタオタしている小鬼ゴブリンを怒鳴りつけ、森の中に消えていく竜人ドラクル
 ギャーギャー喚きながら、その後を追う小鬼ゴブリンたち。

「待ちやがれ! と……」

 脊髄反射で後を追おうとしたヴァルの前に立ちはだかる靄人兵士ミストソルジャーの一体。
 振り下ろされた黒い剣をサイドステップで躱すヴァル。
 
「ちっ、邪魔くせえ」

 舌打ちし、拳を構えるヴァル。
 魔法生物クリーチャーは外法により生み出されしモノであるが故に主の命令を最優先する。己の命というか存在が消え去ることも厭わずに。
 つまり、この八体の魔法生物クリーチャーを全滅させない限り、後を追うことは不可能というわけだ。
 とは言え、格下の靄人ミストマンたちではヴァルたちに叶うはずもなく、一切の負傷の無い一方的な戦いとなり、あっという間にケリが着いた。
 
「たく。武器さえありゃ……」

 散り散りとなる黒い靄を苦々しげに見ながら愚痴るヴァル。
 格闘で戦いに望んだため倒すのに手間取ったのだ。

「おう、若いの。お主、それなりに腕の立つ戦士ファイターと見たが、なぜ素手で戦っておる?」

 山人ドワーフポルトスが、ボヤキを発したヴァルに疑問を投げ掛ける。
 
「ん? あ~、それは……」

 疑問にヴァルが答えようとした時、ミスティファーが一人いないのに気付く。

「あれ? エルロイがいないわ」

 そう、魔法生物クリーチャーとの戦いに夢中になっている隙に丘人パックスの吟遊詩人がいなくなっていたのだ。
 
「逃げたのかな?」

 イスカリオスが辺りを見回しながら呟く。
 正直、イスカリオスとしては、あのお調子者を装った感のある丘人パックスは油断のならない相手であり、いなくなったのならその方がいいとさえ思うほどであった。
 だが、

「やだなあ。そんな卑怯者に見える?」

 木立の陰からエルロイは現れた。
 憮然とした顔で、

「僕の手助けがなくても大丈夫だと思ったから、あの魔族ダークワンを追ってたんだよ」

 と自分の行動を説明する。

「ほお。で、奴らは?」

 ヴァルの問いに肩を竦めるエルロイ。

「少し行ったとこに魔方陣マナ・サークルがあって、そこで足跡は途切れてたよ」

 それを聞いて考え込むイスカリオス。

転移テレポートの術式の魔方陣マナ・サークルか?! 是非とも調べてみたいな。エルロイ、案内してくれるかい?」
「あ、もう無理だよ」

 探究心を掻き立てるモノの事を聞き勢い込んだイスカリオスだが、エルロイの言葉に眉をひそめる。

「無理?」
「うん、無理。どうしようか僕が迷ってたら、消えちゃった。その魔方陣マナ・サークル
「ああああ! 折角の! 折角の研究対象が~!」

 珍しく大声を上げ、頭を掻きむしるイスカリオス。
 転移テレポート魔方陣マナ・サークル。それを調べ解析することができたなら、どれだけ魔術ソーサリーの進歩に役立ったことか。
 地に両膝を着き項垂れるイスカリオス。

「おい、大丈夫なのか? お主らの仲間」

 イスカリオスのあまりの落ち込み振りに心配げにヴァルに視線を送るポルトス。
 しかし、ヴァルもミスティファーも肩を竦めて、

「しばらく放っておけばいいよ。どうせ、次の関心事が見つかれば、今回のこと忘れるし」
「そうね」

 と冷たくも取れる返事を口にする。

「そ、そういう物なのか? まあ、仲間がそう言ってるなら良かろう。で、先程の話の続きじゃが、なぜお主は素手なのじゃ?」

 いっぱしの戦士に見えるヴァルが、なぜ得物を持たず拳闘士のように徒手空拳で戦っているのか。
 ポルトスの疑問はもっともなモノと言えよう。

「ん~、それは……」

 頭を掻きながら、ヴァルは今までのことをポルトスに話す。

「お主が、あの〈大鬼殺しオーガ・キラー〉ヴォーラスの息子とはな……なるほどな、大鬼殺しオーガ・キラーは破壊されて海の藻屑か」

 焚き火の周りを囲むように座った一同。
 話を聞き終わったポルトスは革袋の酒を飲みながら感想を口にする。

「俺が不甲斐ないばかりに……」

 項垂れ奥歯を噛み締めながら悔しそうに呟いたヴァルに、ポルトスの言葉が掛けられる。

「相手は神器ゴッズじゃ、仕方あるまい……そうじゃな、ヴァルとやら。ちょいと儂に任せてみんか?」

 顔を上げ、ポルトスを見るヴァル。

「儂はな、キタンの火と鍛冶の神殿に呼ばれて行く途中じゃったんじゃ。そこでの用事が済み次第、お主さえ良ければ儂が武器を打ってやる」
「ほ、本当か?! て言うか、アンタ鍛冶師だったのか」
山人ドワーフで火と鍛冶の神の神官クレリックと言ったら鍛冶の心得があるに決まっとろうが。この装備は全て自分で鍛えた物じゃ。まあ、鎖の巻き上げ機だけはタルスロイ氏族のオイブに作って貰ったがの」
「あ~、やっぱり魔工学マナ・テク絡みなんだ。その盾の仕組みって」

 海の藻屑と消えた魔動車モービルの作成者の名前を聞いて、得心し頷くヴァル。

「お主、魔工学マナ・テクノロジーの事を知っておるのか?」
「オイブから魔動車モービルを買ったからな」
魔動車モービル、あの魔力マナを吸い取って動く車か。それなら話は早い。そう、このシールドの裏側に儂の魔力マナで動く巻き上げ機がくっつけてあるんじゃ。それで素早く鎖を引き戻して、すぐさま使えるようにしておる」
「ふえ~、よく考えたなあ」

 ヴァルとポルトスが話し合ってる横で、ミスティファーは雑嚢バッグの中からコッペパンと干し肉、チーズの欠片を出していた。
 チーズを串に刺して焚き火の傍に立たせ、炙っていく。
 いい感じに蕩けたところで、コッペパンに入れた切れ目に干し肉と一緒に挟む。
 
「ほら、イスカリオス。いつまでもグダってないで、さっさと食べなさい」

 まだ先程の魔方陣マナ・サークルのことでブツブツと言っていたイスカリオスに、チーズ干し肉サンドを押し付ける。

「あ、ああ」

 有無を言わさぬミスティファーの剣幕に、受け取ったサンドを口にするイスカリオス。

「ほら、エルロイも」
「ありがと!」

 チーズ干し肉サンドを次々と渡していくミスティファー。

「悪いな、全部やらせて」
「おう、ご馳走になるぞい」

 ヴァルとポルトスにも渡し、座って自分もパクつく。

「チーズ美味しい。これはホント、森から出てきて良かったモノの一つね」

※ちなみにこの世界では森人エルフも肉を食います。
 ただ大樹海の中で原始的な狩猟採集生活をしているため、肉ばかりを食べていては乱獲することになるので、普段は食べません。普段の食事は、木の実及び虫です。
 つまり家畜の乳を加工して作るチーズは、森人エルフ文化には存在しません。

    *   *   *

「あんな所で手練れに会うとはな」

 暗い空洞の中で、クラウンは先程の邂逅を思い出していた。
 黒騎士リーズが追っていた、屠竜剣ドラゴン・キラーオルフェリアの使い手が所属しているはずのパーティ〈自由なる翼〉の面々。
 そして装備を充実させた熟練と思われる山人ドワーフ
 これから行おうとしている作戦に、彼らが抗ってくるのはまず間違いないだろう。
 万全な準備を整えたはずだが、物事というのはほんの些細なことで狂ってくるものだ。彼らの介入を想定して作戦の修正を考えねばなるまい。

「この作戦は、あのリーズが痛み分けとなった聖堂騎士団テンプル・ナイツグレイス支部壊滅作戦などよりも大がかりなものだ。何としても成功させて、アイツの鼻を明かしてみせるぞ!」

 そう鼻息荒く息巻くクラウンの背後で、何か巨大な生物が蠢いていた。


鍛冶師ポルトス  終了
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