幼なじみと同棲生活、始めました。

もちぃ

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クリスマス特別編 童話『ケーキ太郎』その2

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「…麗奈さん?」

猿はそれはそれは凄まじく美しい容姿をしておりました。まるで女性芸能人が罰ゲームで全身茶タイツを着たかのような姿の猿は、紫紺の瞳でケーキ太郎を見、少し低いハスキーな声でぽつりと呟きます。

「……ウキー。」

「…俺の憧れの人の初セリフがウキーな件!!」

「何それ新しいラノベのタイトル?死ぬほど売れなそう。」

あいも変わらず登場人物が少ないため、本編で一言も喋っていない人物も主要キャラであれば容赦せず物語に参加させます。猿はきびだんごをせがむように黙って腕を突き出してきますが、ケーキ太郎はなんとも言えない笑顔で返し、家来の2匹とひそひそ話を始めます。

「…流石に麗奈さんの茶タイツは見るに耐えない。誰か代わってやってくれない?というかあんなぴっちぴちの衣装で俺の隣を歩かれるのは耐えられん。主に俺の股間が。」

「まだまだだなハルは。オレのを見てみろよ。」

「…わぁ!ギンギンだぁ!」

猿を見たキジの股間がふっくりと膨れ上がっていますが、それはそこにきびだんごをしまっているだけで、決して男性特有の自然現象が起きているわけではありません。

「…代わるって言っても、流石にハルはケーキ太郎でしょ。となると、僕かアキになるわけだけど。」

「よし、んじゃアキ。頼んだ。」

「なんでノータイムでオレなんだよ!オレだって嫌だよ全身タイツなんか馬鹿みたいな格好!」

「…そのセリフ、全身白タイツの僕の前でよく言えたね。」

犬が恨むような目でキジを睨みます。キジの衣装は用意できなかったため、アキくんは私服そのままの格好で来てもらっています。見た目が派手でキジっぽいですね。

「と言っても、ケンはあだ名が犬の音読みとかかってるから外せないだろ。」

「そんな理由で選ばれてるんだ!?」

キジはケーンケーンと鳴くため、最後まで健介くんを犬役にするかキジ役にするか迷いました。

「それによく考えろアキ。お前が茶タイツを着るということは、今麗奈さんが来ているあのタイツを着るということだ。氷の女王麗奈さんの脱ぎたてほやほやのタイツ…着てみたくないか?」

「分かった。オレ猿役やるよ。」

ケーキ太郎の口車に乗せられ、下品に鼻息を荒くしたキジが食い気味で猿役に立候補します。しかし猿はすごく気まぐれで、一行が話し合いをしている間にその場を去ってしまいました。作者としてもこれ以上キャラを崩壊させるわけにはいかないため、これはかなり都合が良いです。

「なんだこのなんとも言えない感情は…」

身をよじりながらキジがぽつりと声を洩らします。

こうしてケーキ太郎、犬、キジ、猿(不在)は海を渡り、いよいよ鬼ヶ島にたどり着きました。



「殺風景なところだなぁ。」

開口一番にケーキ太郎がそんなことを言います。鬼ヶ島に到着し、鬼の親玉を探しますが、鬼ヶ島には鬼っ子1人おらず、奪われた金品も見当たりません。本当にここは鬼ヶ島なのだろうか。そんな不安が一行の頭をよぎったところで、岩の影から1匹の鬼が出てきました。それはケーキ太郎にとって、とても見覚えのある鬼でした。

「ま、まさか…」

「よ、よく来たなぁケーキ太郎!あたしこそ鬼だぁ!」

「樹里ちゃーーん!!うちのメインヒロインがそんな格好しちゃダメだ!」

「こっ、こら陽斗!樹里ちゃんじゃなくて鬼でしょっ!」

そこから現れたのは、頭に黄色のツノ、腰には黄色と黒のしましまのパンツを履き、全身赤色のタイツを着た樹里おばあさんそっくりの鬼でした。姿は完全におばあさんですがこれはおばあさんではありません。とても怖い鬼なのです。

「知らん美女来た!知らん美女来た!」

身体のラインがくっきりと出てしまう衣装を着ているせいか、胸元を手で押さえ恥ずかしげに俯く鬼にキジが大興奮。鬼の頭から足先までじっくり舐めまわすように観察します。

「…み、みないで。」

「ほぁちゃぁぁあ!!(ブスッ)」

「ぎゃぁぁぁ!目が!目がぁぁぁぁ!?」

「続いてあちゃぁ!!(ブスッ)」

「なんで僕もっ!?」

目に涙を溜めた鬼の悲痛な訴えを聞いたケーキ太郎がキジに目潰しをします。その後犬にも同様に目潰しをし、最後はケーキ太郎自身の目に指を突き刺しました。1人と2匹は目を押さえてゴロゴロと転げ回ります。鬼はこの隙に逃げるように岩の影に隠れてしまいました。

「無理無理無理!樹里ちゃんと戦うのは無理!この距離だからなんとか耐えられてるけど、これ以上近づいてあんなえちえちな衣装見せられたら出血死する自信がある!鼻血で!」

「ハル…まず恥ずかしがる彼女から視線を外すという大人の対応をした僕にまで目潰しをしたことについて謝ってくれ。」

「うるさい!(ブスリ)」

「ぎゃぁぁぁちょっと視界回復してたのにぃ!!」

鬼ヶ島は大カオス状態。目潰しをされ怒った家来が鬼に目もくれずケーキ太郎に襲いかかります。ケーキ太郎も負けじと家来を返り討ちにし、味方同士で潰し合う、血で血を洗う最悪の展開に。

「バカな奴らめ!俺にはおじいさんから貰った秘伝の剣があるんだ!噛みつくかつつくしか攻撃手段のない哀れな動物風情に負けるわけがない!」

「「…普通に拳で攻撃じゃあ!!」」
 
「なまちゃっ!ちょっお前ら!反則だぞ!」

犬とキジは設定を忘れて人間のように普通に拳で殴り、足で蹴ってケーキ太郎に攻撃をします。誰かが倒れるまでこの戦いは終わることはない。この場にいた誰もがそう考えた時でした。

「…もうやめて!!」

突如鬼ヶ島に響いた凛としたその声に、一行の動きが止まります。声は岩から首だけを出したあの鬼から発せられていました。

「無意味な争いはやめて。…子供たちが見てるんだから。」

そう続ける鬼に、ケーキ太郎がはっと周りを見渡します。そこには人の子が何人も、怯えながらケーキ太郎を見ていました。

「…やっぱり、鬼と人が仲良くなるなんて無理だよ。人同士ですら、ああやって争ってるんだから。」

人の子の1人、男の子がぼそりと呟きながら、ケーキ太郎から鬼を守るように鬼の前で手を広げて仁王立ちをします。

「…なんで鬼ヶ島に人間が?」

鬼の総本山である恐ろしい鬼ヶ島に人間がいるはずがありません。驚きそう呟くケーキ太郎に鬼が答えます。


鬼は、人間の王様に鬼と人が共存できるように訴えてきましたが、王様はそれでは民の不安を煽るだけだと、その訴えを拒否し続けていました。

ある日のその帰り道、身寄りのない貧しい子供達が寒さに震えながらそれでもなんとか生きながらえようともがいているのを目撃し、居た堪れない気持ちになり、鬼は子供達を引き取ることにしました。

鬼は、その子供達のために仕方なく、地位を利用して貧民の人からお金を奪い私腹を肥していた貴族の人々を襲い、金品を奪っていました。

その金品で、子供達の服を、食べ物を、学習道具を買ってあげていました。子供達が不自由ないように。子供達が社会に戻っても生きていけるように。

しかし、金品を奪うのは犯罪です。人々が自身のことを恐れていることを知った鬼は、自らの首を斬り落として欲しいと、そうして罪を償わせて欲しいと、ケーキ太郎に頼み込んできました。

「…分かった。」

鬼の覚悟を聞き届け、ケーキ太郎は剣を抜き鬼の頭に高々と掲げます。やめてやめてと子供達がケーキ太郎の腰に縋りつきお願いしますが、ケーキ太郎の思惑を察した犬とキジが優しくそれを制します。

「俺はケーキ太郎。世の人のため、大義のため、鬼である君を殺す。」

鬼に向かい、ケーキ太郎は剣を横に薙ぎ払います。衝撃に備えキュッと目を瞑った鬼ですが、違和感を感じ、ゆっくりと目を開きます。

鬼の首は斬れていませんでした。ケーキ太郎が斬ったのは、鬼の頭についていたツノでした。鬼が、鬼である所以である、ツノ。ツノが無くなった鬼は、鬼というより、少しおかしな服を着た人間そのものでした。

驚く鬼に対し、ケーキ太郎は剣を鞘におさめ、微笑みながら言います。

「これで鬼としての、人を襲っていた君は死んだ。これからは人として、その子たちと生きていくといい。その子たちを、喜ばせ続けるんだ。」

「…そんな、あたしは–––」

何かを言いかけた鬼の声を遮るように、子供達がわぁんわぁんと声をあげて泣きながら抱きつきます。そんな子供達を見た鬼は、頬に一筋の涙を流し、母親のように慈愛に満ちた目で子供達を抱き返してあげていました。

その光景を見たケーキ太郎一行は言葉も残さず鬼ヶ島を後にします。誰も彼も、満足そうな表情で。

「…樹里ちゃんのボディライン、すっごく綺麗だったなぁ。」

特にケーキ太郎は、満足げなあまり、鼻から大量の血を流していました。




こうして人里を襲っていた鬼は消え、人々は安心して暮らしていきました。このケーキ太郎の行いを讃えるため、王様は鬼を討伐した12月24日、そして彼の誕生日である12月25日を、彼の名前から、家族団欒でケーキを食べる日に制定しました。ケーキ太郎はその後、おじいさんとおばあさんと幸せに過ごしましたとさ。めでたしめでたし。

また、子供たちを喜ばせてほしいと頼まれた元鬼が、自らが人となった日、12月24日の夜に、鬼時代の名残りである真っ赤な服と大きな赤い帽子を身にまとい、変装のため大きな白いおヒゲをつけ、世界中の子供たちにプレゼントを配るようになったのは、また別のお話。
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