幼なじみと同棲生活、始めました。

もちぃ

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第十話

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夕食を取り、洗い物を済ませたところで、樹里ちゃんが再度勉強にとりかかる。俺はというと、ベランダに出てタバコを吸っていた。

余計な気遣いをするなと言われたので気兼ねなく吸うが、家の中で吸ってしまうと天井が黄色くなり、退去する際に余計な費用がかかってしまう。そのため、世の一人暮らしの喫煙者は基本換気扇の下かベランダ、もしくは外で吸っているのが基本だ。

窓の縁にすわり、空を見上げると、大きな満月が浮かんでいた。そんな光景を黄昏ながら見ていると、トコトコと樹里ちゃんがやってくる。

「それ、美味しいの?」

「…美味しくはないんだろうけど、なんか、ね」

苦笑しながらそう返す。なぜタバコを吸うのかと聞かれても答えられない。美味しいわけでもないし身体に良いわけでもないのにね。

樹里ちゃんは俺の肩に肘を乗せ、立膝のような格好で俺にもたれかかってきた。彼女の体温を肌で感じ、少しドギマギしてしまう。

ふぅ~と吐かれた煙を見て樹里ちゃんがぽつりと呟く。

「…一本だけ吸ってみようかな」

「オススメはしないけど…俺が吸ってるのはタールの量が多いからなぁ。そっちの棚の中に軽いやつが入ってると思うから試してみたら?」

ケンが家に遊びにきた時ふざけ半分で買い、一本も吸わずに残っていたタバコが保管してある。確かあれはタバコ初心者用として推されていたし、樹里ちゃんにもぴったりなはずだ。ガサゴソと棚の中からお目当ての品を発見する樹里ちゃん。

「ちょっと空けて」

「ん」

そのまま俺同様に窓の縁に密着するように座り、恐る恐るというようにタバコを口に咥える。俺はライターを取り出し彼女の口元に近づけた。

「あー、それじゃなくて。…シガーキスで火つけて欲しいな」

「…シガーキス?なにそれ」

「こうやってお互いタバコを口に咥えてさ。陽斗のタバコの火を移してもらうやつ。なんかのドラマで観てちょっと憧れてたんだよね」

ん、とタバコを口に咥え目を瞑る樹里ちゃん。よく分からないが、俺のタバコの火を移せばいいというわけだ。なんだ、簡単じゃないか。俺も口に咥え、樹里ちゃんのタバコに近づける。

当然、樹里ちゃんの顔に接近する。どの角度から、どの距離でみても彼女の美しさは変わることはない。少し長いまつ毛に少し赤く染まった頬、荒れることを知らない真っ白な肌に、彼女のぷるんとしたハリのある唇が眼前に迫り、今このタバコを放り投げてそっと口づけを交わしたら、彼女はどんな反応をするのだろうと少し気になり…

「心頭滅却!あっつぅぅい!!」

「…なにしてんの」

煩悩にまみれた考えを払拭するため、手の甲にタバコの火を押し付ける。手の甲には根性焼きの痕が残ってしまったが、なんとか自分を取り戻す。全く、樹里ちゃんとキスしようとするなんて…嫌がられるに決まってるじゃないか。

「あはは、気を取り直して」

新しいタバコに火をつけ、先ほど同様樹里ちゃんの顔に接近する。それは側からみればキスをしようとしているようで、なるほどシガーキス、つまりタバコの口づけとは言い得て妙だと感じた。

そんなことを考えてしまうと、彼女の顔を間近で見るのが恥ずかしくなり、キュッと目を瞑りタバコの火を移す。そろそろいいだろうか。そっと目を開けると、樹里ちゃんの大きな黒い瞳が視界を覆っていた。いつの間にこんなに近くに…というか樹里ちゃんも目を瞑ってたはずなのに…。

慌てて遠ざかると、勢い余って窓に頭をぶつけてしまった。

「なに照れてんのよ」

悪戯っ子のように笑い、うりうりと俺の脇を肘で小突く樹里ちゃん。なんだか負けたような気がして、ムッとしながら彼女を小突き返す。今まで色んな樹里ちゃんの笑顔を見てきたが、この笑顔がなんというか…俺の心に1番クる。樹里ちゃんらしい笑顔だ。ひとしきり小突きあった後、改めて樹里ちゃんがタバコを吸う。大きく吸い、ほぉ、と空に向かって息を吐き出す。

「ん…なんか甘い」

「あぁ、フレーバーってやつかな?甘く感じるやつもあるよ」

「ふーん。まぁ、もう吸うことはないかな」

甘いと言ってもタバコはタバコだ。ベッと不味そうに舌を出す樹里ちゃんに苦笑いをしていると、突如として樹里ちゃんの携帯が鳴った。

樹里ちゃんはポケットからスマホを取り出し確認すると、黙ってポケットにしまい直す。だれかからの電話のようだったが…

「…出ないの?」

「うん。…もう、どうでもいい人からだったから」

物憂げな表情で淡々と答える樹里ちゃん。この話に踏み込むべきではない。彼女の顔を見てそう判断し、何か別の話題を探す。

「…にしても、フレーバーのタバコか。一回も吸ったことないんだよな」

メンソールのタバコは試したことがあるが、俺には合わなかった。フレーバーがどんな味なのか少し気になる。今のが吸い終わったら試しに一本吸ってみようかな。

「…じゃ、はい」

少し伏し目がちに、ずいっと自身の吸っているタバコを差し出してくる樹里ちゃん。これを吸って良いよと言うことなのだろうが、それはすなわち一種の間接キスを意味する。

…先ほどのシガーキスの時といい、なんだか今日の樹里ちゃんは少し積極的な気がする。距離を詰めてくれることが嬉しくないはずがないが、一気に来られるとこちらも心の準備と言うものがありましてですね…

「…いや、新しいの吸うからいいよ」

「…へぇ?陽斗はあたしが吸ったタバコは吸えないんだ。そうだよね。…あたしって汚いよね」

「いやいや、そんなわけじゃないんだけど。」

そんな情けない理由から彼女の申し出を断ると、樹里ちゃんが悲しそうに呟いた。彼女はそのままウルウルと捨てられた子犬のような目で俺を見、そんな表情をされてしまうと俺の選択肢は一つしかないわけで。

「っぱり吸わせてもらおうかなーっと!いっただっきまーす!」

ぱっと表情が明るくなった彼女からタバコを受け取り、勢いよく咥える。なんならこのままちゅぱちゅぱとしゃぶってやろうかなと思ったが、流石にそれは俺でも引くのでやめておいた。

あ、確かにちょっと甘い。…けどやっぱり物足りないなぁ。一度吸うだけで満足し、じっと俺の口元を見つめる樹里ちゃんにタバコを返す。

「ん、ごちそうさまでした」

「お粗末様」

タバコの受け渡しとは思えないセリフが飛び交う。それが可笑しくて可笑しくて、俺たちは声を上げて笑ってしまった。

俺の吐いたタバコの煙と、樹里ちゃんの吐いたタバコの煙が空中で混ざり合い、消える。こういうのをエモい、って言うのかな、と夜空を眺めながら1人、思った。



時刻は22時を回っただろうか。樹里ちゃんはすでに寝息を立てながら布団にくるまり可愛らしく寝ている。俺はというと、スマホを片手にある事について悩んでいた。

今から俺が取る行動を知れば、樹里ちゃんはおそらく…嫌がるだろう。けれど、これはいつかは解決しなければならない問題だ。覚悟を決めた俺は大きく息を吐き、ダイヤルをプッシュした。2コールほどで相手は電話に出る。

「あ、もしもし母さん?」

『…金は貸さないから』

電話を切られた。なぜうちの母親は可愛い息子からの久々の連絡を金の無心だと決めつけ酷く突き放すのだろうか。理解に苦しむ。めげずに再度ダイヤルをプッシュ。

「あ、もしもし母さん?」

『…仕送りも増やさないから』

電話を切られた。なぜうちの母親は可愛い息子からの久々の連絡を以下略。そもそもうちの親からの仕送りなんて雀の涙程なのに。

そう、電話の相手は俺の生みの親であり育ての親である母さん。しかしながら、母さんにはあることを教えて欲しいだけだ。本命はそのあとの人物。

少し時間を置いて、再度ダイヤルをプッシュ。

「お金はいらないから話を聞いてくれない?」

先手必勝、受話器が取られると同時に言い渡す。こうでもしないとさっきの二の舞だ。

『あら、そうなの?私てっきりあんたが家に女連れ込んだから養うためにお金くれっていう催促だとばかり…』

「……違うよ!」

『間が気になるわね』

妙に鋭いのも相変わらず母さんだな。今のところまだお金には困っていないため、そういった親からの援助は必要ない。本題に入る。

「ちょっと聞きたいことがあってさ」

『何々?私と父さんの馴れ初め?そうね…あれは私が高校生の–––』

「ただの1人もそんな話望んでないよ。と、いうか割と真剣な話」

『…へぇ?気になるじゃない。』

「樹里ちゃん家の電話番号とか知ってたりしない?」
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