幼なじみと同棲生活、始めました。

もちぃ

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第十三話

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「うーん、観光名所、観光名所ねぇ…あ、逆にどんな観光名所があればもっとこの地域が発展するかを考えるのは?」

「……悪くないかも」

「例えば…この辺はそこそこ果物が人気だから果樹園を観光用に整備して…近くに花畑を設置してそっちも観賞用に売りに出したりとか?」

「……果物のジュースとかアイスとか販売するのも良さそうね」

「アリだね。ナイスアイデアだよ麗奈さん!」

麗奈さんに向けて親指を立て、忘れないようにパソコンを立ち上げメモを残す。表情は変わらないが、どこか麗奈さんは嬉しそうだった。意外と麗奈さんの感情は読みやすいのかもしれない。

…にしても、突き指してるから上手く打ち込むことができない。打ち込んでは消してを何度も繰り返してしまう。見かねた麗奈さんが椅子を動かして俺に接近し、キーボードの左側に右手を乗せてくる。普段左手で打ち込む部分に麗奈さんの右手が乗っている状態だ。

「えぇっと、麗奈さん?」

「……打ちづらいでしょ。ここからこっちは私が打つからそっち側はお願い」

「…それだと余計にやりづらいかと」

「……そっか。ここは本来左手で打つところだから…」

「ちょまっ!?」

麗奈さんは自身の左手でキーボードを打てるようさらに身体を密着させてくる。彼女の身体の柔らかい凹凸をしっかりと感じてしまい、思わずおかしな声が漏れてしまう。

「ち、近い近い!もっと離れて!」

「……そう?」

慌ててそう言うと、麗奈さんは大人しく身体を離してくれる。そのまま立ち上がり椅子を手に教室の隅っこへ移動しちょこんと座った。どこか悲しげな雰囲気を出す彼女と俺との距離およそ5メートル。

「っておーい!?それじゃ遠すぎるよ!?」

「……確かにこれだと大きな声で会話しなくちゃならないわね」

少し的外れな事を言いつつ、結局最初の位置に戻る麗奈さん。…コントをやってる気分だ。とりあえず麗奈さんが触れたこのTシャツは家に帰ったらジップロックで密封して家宝にするとして、麗奈さん1人でメモを取ってもらうことにする。



ゼミの時間も終わりが近づく。結局俺たちは『地域発展のために求められる観光名所』というテーマで行こうと決めた。案も出し尽くし、雑談をするような仲でもないため黙って時が過ぎるのをまつ。

会話はないのに少しも気まずいと感じないのは、彼女が醸し出す独特の雰囲気が気まずさとは無縁のものだからなのだろうか。それとも、麗奈さんの隣に居られるだけで俺が満足しているからだろうか。

「おーい、くん?」

心地よい雰囲気に身を委ねていると、突然、知らない男子から声をかけられる。ゼミ仲間だろうが一言も話したことはない。それどころか大学に入ってから一度も関わったことがないだろう。というかそもそも名前を間違っている。おそらく俺の事を指してるだろうから、2人きりの空間を邪魔されたことにムッとしつつ対応する。

「…何?えっと…」

「有馬だよ、有馬!何忘れてんだよ小野寺くん~友達だろ?」

馴れ馴れしく肩に手を回してバシバシと叩いてくる有馬くん。強めに叩かれたため少し痛くイラッとしてしまう。会話は俺としているが、目はチラチラと麗奈さんのことを見ていた。

…あぁ、そういうこと?

「それでさ小野寺くん。俺のグループまだテーマ決まってなくてさぁ。小野寺くんの方は決まった?よかったら参考にさせてもらいたいなぁって。小野寺くんって頭良かったよね?麗奈さんも秀才だし、良い案出たんじゃないの?」

チラチラと横目で麗奈さんを見ながら有馬くんが言う。俺と友達という設定で接近し、麗奈さんとお近づきになろうとする魂胆が見え見えだった。気持ち悪い。

なおもバシバシと叩く彼の腕には、麗奈さんと2人きりになりやがってという憎しみも込められている気がした。

…とはいえ彼はゼミ仲間。ここで喧嘩腰に対応すると今後のゼミ生活に影響しかねない。ここは正直に言うべきか。

「…俺たちは–––」

「……言う必要はないわ」

仕方なく教えてあげようとするも、麗奈さんが声で制する。彼女はすらりと長い足を組み替え、淡々と続ける。

「……あなたは小野寺じゃないでしょう?きっとその人はあなたをその小野寺くんって人と間違えてるのよ」

じっと机を見つめながら低く呟く麗奈さん。相変わらず表情は変わっていない。が、ゆらりと揺れた紫紺の瞳が、彼女が怒りに燃えていることを物語っていた。

「あぁごめんごめん!ちょっと呼び間違えた!それじゃ俺はこれで–––」

ツ、と一筋の汗が有馬くんの頬を伝う。なんとか逃げ、一旦立て直そうとする有馬くんを、麗奈さんは決して逃さなかった。

「……苗字を呼び間違えるような相手と話をする必要なんてないわ。親しげに友達なんて安い言葉で関係を表してたけど、本当かしら?」

「う…」

「分かったら早く離れて。くん。」

ぐぅ…と呻きながら俺の前を去る有馬くん。きっと麗奈さんは最後、敢えて有馬くんの名前を呼び間違えたのだろう。苗字を呼び間違えるような相手と話す必要はないという自らの発言、つまり有馬くんと話すつもりはないと皮肉っているのだ。

やっぱり麗奈さんは氷の女王だ。相手の心を無慈悲に、感情なく、完膚なきまでにへし折る。隣で見ていただけの俺も少しビビってしまうほどの迫力だった。 

…でも、麗奈さんは今俺を助けてくれた。友達モドキの有馬くんから。

「…ありがとう、麗奈さん」

「……えぇ、気にしないで、陽斗くん」

笑顔で感謝の言葉を吐いた俺の表情が石のように固まる。一部始終を見ていたケンとアキがブハッと吹き出していた。他のゼミ仲間も何かがおかしいと首を傾げている。

「……どうしたの、くん?おーい、陽斗くん?」

しかし麗奈さんは自らの過ちに気づいていないようだ。俺の目の前で手をひらひらとさせる麗奈さん。…綺麗な手だなぁ。初雪みたいに真っ白。日焼けとかしたら大変だろうなぁ。

…でもね、麗奈さん。非常に申し上げにくいんだけど…

俺は陽斗です。佐藤の佐に、井戸の井、お寺の寺で佐井寺です。以後、お見知り置きを…

麗奈さん理論だと、俺はもう麗奈さんと話すことができなくなるんだけどなぁ…いや母音はあってるし一文字違いだしセーフか?

でも、名前は覚えていてくれたんだ。

そのことがたまらなく嬉しかった。
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