幼なじみと同棲生活、始めました。

もちぃ

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第十二話

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ふと目を覚ます。何か暖かいものに包まれている感触があったからだ。目の前には少し口を開け歯を見せながら間抜けな表情で寝ている様子の樹里ちゃん。彼女の吐息がリズム良く俺の前髪を撫でていた。そして樹里ちゃんの手は俺の背中に回されており、端的に言えば抱きしめられている。どうやら俺は彼女に腕枕をしたまま眠ってしまい、樹里ちゃんは俺を抱き枕か何かと勘違いしたまま寝ていたようだ。

彼女の2つの控えめな弾力が一生懸命に俺を押し返そうとしているが、樹里ちゃんがそれを許さない。さらにその弾力を押しつけてくる。少し寝間着がはだけており、彼女の片方の肩が晒されている。…落ち着け、落ち着くんだ俺。

「…むぁ?」

そんなタイミングで樹里ちゃんが目覚める。寝惚けた様子の樹里ちゃんだったが、むにゃむにゃと上目遣いに俺の顔を見、周りを見渡しわなわなと身体を震わせカッと大きく目を開ける。

「おはよう、樹里ちゃん。顔、洗ってきなよ」

俺は今世紀最大のスマイルと爽やかなボイスで彼女にそう告げる。そう、俺たちは爽やかカップル。一緒に寝ることなど習慣となってるのさっ。

「…変態ぃぃ!!」

「理不尽っ!」

状況を理解した樹里ちゃんによる勢いのいい押し出しにより床をゴロゴロと転げ回る。部屋の壁に思い切り指をぶつけ、ようやく勢いが止まった。

「…樹里ちゃん。今回ばかりは俺に非はないと思–––樹里ちゃん?」

同じ布団で寝ていたことに対する弁解をしようとするも、樹里ちゃんはある一点を見つめたまま動かない。その一点は…俺の指?ちらりと指を見てみる。

「…な、なんじゃこりゃあ!?!?」

俺の人差し指が一本だけ明後日の方向にひん曲がっていた。



「ほんっとうにごめん!!」

「いや、いいよ。突き指で済んだし2週間もあれば完治するらしいからね。利き腕でもないし」

樹里ちゃんが床に頭を擦り付け土下座をしている。俺の左手の人差し指は包帯でぐるぐる巻きになっていた。朝の一件があった後慌てて病院にいったが、大事には至らず、診断結果は突き指という可愛らしいものだった。

午前の授業は休まざるを得なかったが、事情を説明しケンとアキに代返をお願いしてある。大きな痛手とはならないはずだ。

午後の授業はゼミのみ。その後バイトが入っているが、まぁなんとかなるだろう。

「そんなわけで、大学に行ってくるよ」

「うん…。本当に大丈夫?痛くない?無理して行かなくてもいいんじゃない?」

「大袈裟だよ」

左手をひらひらとさせなんともないよう振る舞うが、ジンジンとした痛みはなおも続いている。けれどそれを告げると樹里ちゃんがさらに罪悪感を感じてしまうだろう。それにこの後のゼミには憧れの麗奈さんもいるし、もしかするとこの包帯が原因で会話が生まれるかもしれない。そんな不純な理由のもと、心配そうに俺を見つめる樹里ちゃんに笑いかけ、家を後にした。

…にしても、昨日の夜の電話といいこの怪我といい、嫌なことばかり続いている。そろそろどかーんと良いことが起こってもいいんだよ?




「…それでは、グループは発表した通りに。早速話し合いをし、研究テーマを決めてください。今日中が望ましいですかねぇ」

ゼミの教授が言う。


どかーんと良いことが起きた。

2ヶ月後にゼミにてはじめての研究発表会が行われるのだが、そのためのグループ分けが今、なされた。ゼミ活動において重要となる研究発表会のため、グループ仲間とは文字通り題材探しから発表用のパワポ作り、発表時の原稿作りと辛苦を共に過ごしていかなければならない。

1グループ3人ずつで割り振られたのだが、ここで1つ問題が。俺たちのゼミは生徒が20人。つまり必然的に2人が余る形となる。そしてこの余りに選ばれたうちの1人が俺。そしてもう1人は…

「…よ、よろしくね、麗奈さん」

そう。俺の憧れの人である麗奈さんだった。椅子を移動させ俺の隣に凛とした姿で座る麗奈さんにそう告げると、言葉は返してはくれなかったがどことなく彼女の眼差しが優しくなった気がした。

「…なぁケン。海か山、ハルを捨てるならどっちがいいと思う?」

「そうだねアキ。この近くに山はないし捨てるなら海じゃないかな?魚たちに少しずつ啄まれるハルの姿を見て嘲り笑いたいし。…いや、山でクマに喰われながら助けを乞うハルの表情を拝むのも捨てがたいな。」

「まてケン。俺は半分冗談で言ってるけどお前はガチで言ってそうで怖い。目が殺人鬼のそれだ。」

そして俺の友人2人組の眼差しがどことなくさらに殺気だった気がした。気がしたというか実際そうなのだろう。

んでアキ。半分本気でその発言はアウトだ。

こればかりは教授の独断と偏見の選出だから完全に運だ。諦めて冴えないグループメンバーと冴えない話をするといいさ!

「……研究テーマ、どうする?」

女の子らしくない、少し低いハスキーな声が麗奈さんから発せられる。ぽそりと呟くような声だったが俺の脳に直接その声が反芻される。今のセリフを録音して目覚まし時のアラームとして設定すれば朝にすこぶる弱い俺でも気持ちよく起きられそうだ。

「そうだね…地域に密着するようなテーマをってことだからここら辺の観光名所の行く末を…って、ロクな観光名所がないんだよなぁ。麗奈さんは地元この辺なの?」

「……うん」

「それならちょっと頼らせてもらっていいかな?観光名所っぽいところを挙げて欲しいんだけど…」

「……そうね」

足を組み顎に手を添え考える仕草をする麗奈さん。凛とした姿と表情を見せる彼女は最高に様になっていた。

よしよし、憧れの人を前にしてもそこそこまともに話せてる気がするぞ。

無言の時間が続く。手持ち無沙汰になったためメモを取るようにパソコンを取り出すのだが、机に置く拍子に突き指した部分をぶつけてしまった。思わず、「いたっ」っと声が漏れてしまう。

「……それ、どうしたの?」

「え?あぁ、これ?今朝ちょっとぶつけちゃってさ。突き指だって」

居候中の女の子に突き飛ばされて、なんて口が裂けても言えない。麗奈さんはじっと俺の指を見て…

「……痛そうね」

「○☆\$△!?」

突然俺の突き指した指をそっと触ってくる。少し動いただけで麗奈さんの長い黒髪がなびき、女の子の良い香りが俺の全身を包んだ。氷の女王という異名とはかけ離れた、温かく柔らかい彼女の手に声にならない声が出てしまう。

「……できれば地球上の言語で会話がしたいのだけど」

「…ま、前向きに善処する方向で検討していきたい所存です」

無理だ。麗奈さんと2人きりなんて幸せすぎて耐えられない。

「…なぁケン。今オレが全裸になって発狂しながら麗奈ちゃんにハグしに行ったらあの良さげな雰囲気をぶち壊せると思うか?」

「雰囲気と同時にアキの人生もぶち壊れるよ。仕方ないね、ここは僕が白目を剥きながら淫猥な言葉を叫び続けるとしよう」

「…それでいいのか我が友よ」

「いいんだ。アイツの幸せそうな顔をぶち壊すためなら僕の人生の1つや2つくらい喜んで差し出すよ。」

「…人生は一度きりだぞ我が友よ」

後方から私怨のこもった会話が聞こえてきたけど気のせいということにしておこう。まぁ気持ちは分からんでもないけど。俺も逆の立場だったらズボンをかぶり、Tシャツを履きながら逆立ちして教室内一周してただろうし。

「……タコさん公園は?」

そんな俺たちへの視線などつゆ知らず、唐突に麗奈さんがそんなことを言い出した。タコさん公園はここから少し行ったところにある、タコの形をした滑り台のある公園だ。

「え?」

「……観光名所」

「えぇっと、確かに毎日子供達で溢れ返ってるけど観光名所と言われると違うかなって気が…」

地元住みの麗奈さんがようやく絞り出した答えが近所の公園とは、偉い人はもう少し地域発展に努めた方がいいと思う。

「……そう」

特に食い下がることはせず、再度思考顔になる麗奈さん。…あの麗奈さんの口からタコさん公園なんて可愛らしいワードが出るとは…これがギャップ萌えか。……良い!!
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