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第二十一話
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授業の終了を告げるチャイムが鳴る。逃げ切った。あの悪魔2人から。
残念ながら今日の授業は全て欠席扱いになってしまった。大学にいるのに欠席というのは思うところがあるが…いかに授業をサボりつつ単位を得るかが大学生の本懐。これはこれで良しと結論づける。
あの2人も諦めたのかぱたりと電話は鳴り止んだ。あとは帰るだけだ、というところであることに気づく。
「…鞄、講義室に置いたままだ」
麗奈さんと連絡先を交換するためスマホだけを握りしめて講義室を出、そのままケンとアキから逃げたから鞄は講義室に置きっぱなしだ。
仕方なく講義室に取りに戻る。あの講義室では他の授業も行われていたから、もしかすると誰かが学生室に落とし物として届けてるかも…と思ったが、しっかりと元の場所に鞄が鎮座していた。こういう時の日本人の事なかれ主義的考えには感謝しなければ。
次の授業の学生の邪魔にならないよう、鞄を手にそそくさと講義室を出て、中身を確認。もしかすると中身だけ誰かに盗まれているかもしれない。
「…教科書、よし。筆箱、よし。財布も…あるな」
一つ一つ取り出しながら確認。財布があるという事はひとまず安心していいかな。…いや、アレがない。
「…家の鍵がない」
どこかで落としたか、本当に盗まれたか。心臓が締め付けられたような気分になるが、本来鍵を入れていたポケットの部分に四つ折りの鍵があることに気づく。広げて中身を確認。
『貴様の鍵はこの大学のどこかに隠してある気がする。多分探せば見つかると思うからヒントを参考に探し出すといい。まぁ、ちからを抜いて挑むといいさ。
てかさ ちゆふ ちむに はやむ こらあ
さてさて、見つけることができるかな?まぁ、見つかっても見つからなくても、ハル。君だけは…ゼッタイコロス
貴様の幸せを憎むもの、KとAより』
「…この字、ケンのだな。」
全く隠す気のない差出人に嫌気がさす。俺が麗奈さんと仲良くする腹いせに鍵を隠すとは面倒な事をしてくれたものだ。これなら財布の中身を使われる方が幾分マシだ。
大学は広い。その中で鍵を探すというのはまさしく砂漠の中からダイヤモンドを見つけるが如く苦行であるが、こちらにはヒントがある。
ちからを抜いて…わざわざひらがなにしているあたり、その下の文から、ち、か、そしてらを抜いて読めばいいのだろう。この程度、小学生でも分かるさ!
「えーっと…てさゆふむにはやむこあ?…なんだこれ。」
文字を抜いて暗号を解読するも、全く意味が分からない。不思議に思い紙の裏を見ると、まだ文字が続いていた。
『ヒント
表に書かれている暗号みたいなのあるじゃん?あれアキが適当に羅列した言葉だから特に意味ないよ。』
なるほどなるほど、これは大きいヒントだ。もはや差出人が名前をイニシャルにした意味は全くなくなっているが、つまり今から俺は鍵を…
「ノーヒントで探さなくちゃいけないということかこの野郎!」
紙をビリビリに破いてゴミ箱にぶち込む。このままだと家に帰れなくなってしまうじゃないか。
「…仕方ない。くまなく探すか。」
唯一の情報は大学内にはあるということのみ。こうなってしまってはどうすることもできない。…1階から隅々まで探すしかない、か。
*
鍵を求めて1階を探し2階に向かうが、これが途方もないものだと知る。食堂やジムまで含めると大学はとてつもなく広い。どこかに絞って探さないと今日中に見つける事は不可能に近い。
「…あいつらぁ」
口から出るのは友人2人への不満だ。いや、そろそろ友人と呼ぶのも躊躇われてしまう。せめてもう少しヒントを貰えないかと電話をかけるのだが、必死な俺を嘲笑うかのように2人からの反応はない。
空き教室に入り、机の中から窓の冊子まで隅々に探すも見当たらない。諦めて教室を出たところで、誰かとぶつかってしまった。足を踏ん張り、転倒を避けようとするのだが…
「おわわぁ!?」
想像以上に豊かな弾力に吹き飛ばされそうになり、ふんばり虚しく後方に倒れそうになる…のを、ぶつかった相手が俺の手を取り、止める。俺はそのまま相手の胸元に引き寄せられ、抱きしめられてしまう。
なんだろう、すごい良い香り。
「……大丈夫?」
「…この声、麗奈さん!?」
「……怪我はしてない?」
抱き寄せられているため視界は真っ暗で顔は分からないが、これは麗奈さんだろう。
…というか顔を覆っている幸せを体現したかのようなこの感触…もしかして麗奈さんの…
「んむーっ!むーっ!!」
「あっ……しゃ、喋らないで。くすぐったい…」
「(コクコク)」
「う……動くのもだめ」
ゆっくりと深呼吸をして落ち着かせ、ぷはっと顔を逸らして状況を確認。やはり相手は麗奈さんで、俺は麗奈さんの…胸に顔を埋めていたようだ。
なぜか抱き合った形のまま、麗奈さんがぺたぺたと俺の全身をまさぐる。どこかに異常がないか確認してくれてるみたいなんだけど…
麗奈さんの身体がぴっちりと俺の身体に密着している。これはやばい。麗奈さんの身体は破壊力が抜群すぎる。特に先ほど堪能させていただいた2つのたわわが。
というかこの状況、男の俺が倒れそうになるのを女の麗奈さんが助けるって…普通男女逆じゃないか?麗奈さんが男らしくて惚れそうだ。
「だ、大丈夫!怪我はないから離れてよ!」
「……そう」
最後にポン、と背中を押すと、俺の言う通り背中に回した手をほどき離れてくれる。…死ぬかと思った。彼女の身体は凶悪すぎる。無論いい意味で、だけど。
「ありがと麗奈さん。助かったよって遠いなぁ!」
火照った頬がバレぬよう下を向きながら上目遣いで麗奈さんに感謝を述べるのだが、麗奈さんは俺と教室3個分ほど距離を空けていた。
ゼミの時もあったなこんなの。
「……佐井寺くんが離れてって言ったから」
「そんなこと…言ったなぁ」
確かに離れてとは言ったが、それは身体を離してほしいというだけでそこまで距離を取れと言いたかったわけじゃない。なんというか麗奈さんは…距離感の掴み方というのかな?それが人よりかなり特殊な形で劣っている。
距離感(物理的に)の掴み方が下手というのが正しいかな。それも麗奈さんの新たな一面という事で魅力的だ。
俺から麗奈さんに駆け寄る。こうすれば距離感は俺が測れるから先ほどのような事態になる事はないだろう。
「改めて、ありがとう麗奈さん。転ぶとこだったよ」
「……そもそも佐井寺君が転びそうになったのは私の不注意のせい」
「いやいや俺の方が見てなくて…ってのは平行線だね。どっちも悪かったってことで」
「……そうね。どうしてここに?何か用があったの?」
「あぁ、それはね––」
鍵を無くした経緯を手取り足取りで説明する。当然、ケンとアキが元凶であるということも包み隠さずだ。
麗奈さんと連絡先を交換したからこうなったというのは言えなかったので、ふざけあいの延長線で、ということにしておいた。
話を聞くと麗奈さんは口元に不快感を滲ましていた。
「……そう、あの2人が」
「いやまぁ、普段はいい奴らなんだけどね。今日はたまたま魔が刺しただけなんだと思うよ」
さらに目元も険しくなったため慌ててそう付け加える。目の前の女の子が麗奈さんから氷の女王になった気がした。本気で2人にお仕置きにいきそうだ。
…麗奈さんのお仕置きなら2人も本望な気もするけど。
「……けれど、酷いことは酷い。このままじゃ家に入れなくなる。家には誰もいないわけでしょう?」
麗奈さんの言葉にハッとする。
確かに、家の内側から鍵を開けてくれる人物がいなければ、俺は家に入ることができない。けれど今、家には樹里ちゃんがいるじゃない。
合鍵は家の中に3つほど用意してある。鍵を1本失くすのは痛いが、最悪見つからなくても良いのでは?
…そう考えると今までの行動全てが無駄に感じてきた。何を今まで無くてもいいようなものを必死になって探してきたんだろう。はぁー、あほらしあほらし。後日学生センターに落とし物として届けられていないか確認しよう。
「……一緒に探そうか?」
「いや、なんか俺の中で問題解決したっぽい。ありがとね」
麗奈さんの申し出をやんわりと断ったところで、後悔。しまった、一緒に探せばもっともっとお話しできたかもしれないのに。けれど麗奈さんはふっと口元を緩ませて
「……それじゃあ、この後–––」
と言いかけたところで、俺のスマホに電話がかかってくる。タイミング悪いなぁ。麗奈さんに目配せをしてスマホに目をやると、発信元はケンだった。
「もしもしケン?めんどくさい事してくれたね」
『……』
「けれど残念だったね。俺はもうすでに鍵のことなんてどうでも良くなってしまっている」
ケンからの返事はない。電話口からフシュルルルルと獣のようなうめき声が聞こえてきていた。熊にでも追われているのだろうか。
『…今僕たちどこにいると思う?』
ようやくケンの声が返ってくる。声色は真剣そのものだった。ラグが凄いのだろうか。の割には電波は良好なんだけど…
「どこって…アキとカラオケとか?」
『…ハルの家の中だよ』
「は?どうやって入ったんだよ」
『鍵で』
そこで全て合点がつく。こいつらはそもそも俺の鍵なんて隠していなかったのだ。ずっと手に持っておいて、鍵があるはずもない大学で必死に探す俺を馬鹿にしていたのだ。
そして散々笑ったのち、ダメ元で家に帰ってきた俺を引っ捕らえて処刑を実行するのだ。なんて小汚い奴らだ。とにかく、どこかで彼らに応戦できる武器でも探して家に帰ろう。
…ん、家の中にいる?
つまり今、俺の家にいるのはケン、そしてアキ。そして––
『梨本樹里さん、だっけ?可愛い子じゃん』
察した。樹里ちゃんと2人が鉢合わせてしまった。
「あー、いや、その…」
『ひとまず、話が聞きたいかな。家に戻ってきてくれる?2秒で』
「…はい。」
かなり鬼気迫る声だったので無理と言うことはできなかった。恐る恐る電話を切る。
いつか話そうとは思っていたが、こんな形でバレてしまうとは。
「ごめん麗奈さん。そういうことだから。」
「……え?」
困惑する麗奈さんにそう言い残して重い足取りで踵を返して家に向かう。
「……ちょっとお茶でも、って言おうと思ったんだけどな」
背後から聞こえたそんな声に、耳を傾ける余裕は無かった。
残念ながら今日の授業は全て欠席扱いになってしまった。大学にいるのに欠席というのは思うところがあるが…いかに授業をサボりつつ単位を得るかが大学生の本懐。これはこれで良しと結論づける。
あの2人も諦めたのかぱたりと電話は鳴り止んだ。あとは帰るだけだ、というところであることに気づく。
「…鞄、講義室に置いたままだ」
麗奈さんと連絡先を交換するためスマホだけを握りしめて講義室を出、そのままケンとアキから逃げたから鞄は講義室に置きっぱなしだ。
仕方なく講義室に取りに戻る。あの講義室では他の授業も行われていたから、もしかすると誰かが学生室に落とし物として届けてるかも…と思ったが、しっかりと元の場所に鞄が鎮座していた。こういう時の日本人の事なかれ主義的考えには感謝しなければ。
次の授業の学生の邪魔にならないよう、鞄を手にそそくさと講義室を出て、中身を確認。もしかすると中身だけ誰かに盗まれているかもしれない。
「…教科書、よし。筆箱、よし。財布も…あるな」
一つ一つ取り出しながら確認。財布があるという事はひとまず安心していいかな。…いや、アレがない。
「…家の鍵がない」
どこかで落としたか、本当に盗まれたか。心臓が締め付けられたような気分になるが、本来鍵を入れていたポケットの部分に四つ折りの鍵があることに気づく。広げて中身を確認。
『貴様の鍵はこの大学のどこかに隠してある気がする。多分探せば見つかると思うからヒントを参考に探し出すといい。まぁ、ちからを抜いて挑むといいさ。
てかさ ちゆふ ちむに はやむ こらあ
さてさて、見つけることができるかな?まぁ、見つかっても見つからなくても、ハル。君だけは…ゼッタイコロス
貴様の幸せを憎むもの、KとAより』
「…この字、ケンのだな。」
全く隠す気のない差出人に嫌気がさす。俺が麗奈さんと仲良くする腹いせに鍵を隠すとは面倒な事をしてくれたものだ。これなら財布の中身を使われる方が幾分マシだ。
大学は広い。その中で鍵を探すというのはまさしく砂漠の中からダイヤモンドを見つけるが如く苦行であるが、こちらにはヒントがある。
ちからを抜いて…わざわざひらがなにしているあたり、その下の文から、ち、か、そしてらを抜いて読めばいいのだろう。この程度、小学生でも分かるさ!
「えーっと…てさゆふむにはやむこあ?…なんだこれ。」
文字を抜いて暗号を解読するも、全く意味が分からない。不思議に思い紙の裏を見ると、まだ文字が続いていた。
『ヒント
表に書かれている暗号みたいなのあるじゃん?あれアキが適当に羅列した言葉だから特に意味ないよ。』
なるほどなるほど、これは大きいヒントだ。もはや差出人が名前をイニシャルにした意味は全くなくなっているが、つまり今から俺は鍵を…
「ノーヒントで探さなくちゃいけないということかこの野郎!」
紙をビリビリに破いてゴミ箱にぶち込む。このままだと家に帰れなくなってしまうじゃないか。
「…仕方ない。くまなく探すか。」
唯一の情報は大学内にはあるということのみ。こうなってしまってはどうすることもできない。…1階から隅々まで探すしかない、か。
*
鍵を求めて1階を探し2階に向かうが、これが途方もないものだと知る。食堂やジムまで含めると大学はとてつもなく広い。どこかに絞って探さないと今日中に見つける事は不可能に近い。
「…あいつらぁ」
口から出るのは友人2人への不満だ。いや、そろそろ友人と呼ぶのも躊躇われてしまう。せめてもう少しヒントを貰えないかと電話をかけるのだが、必死な俺を嘲笑うかのように2人からの反応はない。
空き教室に入り、机の中から窓の冊子まで隅々に探すも見当たらない。諦めて教室を出たところで、誰かとぶつかってしまった。足を踏ん張り、転倒を避けようとするのだが…
「おわわぁ!?」
想像以上に豊かな弾力に吹き飛ばされそうになり、ふんばり虚しく後方に倒れそうになる…のを、ぶつかった相手が俺の手を取り、止める。俺はそのまま相手の胸元に引き寄せられ、抱きしめられてしまう。
なんだろう、すごい良い香り。
「……大丈夫?」
「…この声、麗奈さん!?」
「……怪我はしてない?」
抱き寄せられているため視界は真っ暗で顔は分からないが、これは麗奈さんだろう。
…というか顔を覆っている幸せを体現したかのようなこの感触…もしかして麗奈さんの…
「んむーっ!むーっ!!」
「あっ……しゃ、喋らないで。くすぐったい…」
「(コクコク)」
「う……動くのもだめ」
ゆっくりと深呼吸をして落ち着かせ、ぷはっと顔を逸らして状況を確認。やはり相手は麗奈さんで、俺は麗奈さんの…胸に顔を埋めていたようだ。
なぜか抱き合った形のまま、麗奈さんがぺたぺたと俺の全身をまさぐる。どこかに異常がないか確認してくれてるみたいなんだけど…
麗奈さんの身体がぴっちりと俺の身体に密着している。これはやばい。麗奈さんの身体は破壊力が抜群すぎる。特に先ほど堪能させていただいた2つのたわわが。
というかこの状況、男の俺が倒れそうになるのを女の麗奈さんが助けるって…普通男女逆じゃないか?麗奈さんが男らしくて惚れそうだ。
「だ、大丈夫!怪我はないから離れてよ!」
「……そう」
最後にポン、と背中を押すと、俺の言う通り背中に回した手をほどき離れてくれる。…死ぬかと思った。彼女の身体は凶悪すぎる。無論いい意味で、だけど。
「ありがと麗奈さん。助かったよって遠いなぁ!」
火照った頬がバレぬよう下を向きながら上目遣いで麗奈さんに感謝を述べるのだが、麗奈さんは俺と教室3個分ほど距離を空けていた。
ゼミの時もあったなこんなの。
「……佐井寺くんが離れてって言ったから」
「そんなこと…言ったなぁ」
確かに離れてとは言ったが、それは身体を離してほしいというだけでそこまで距離を取れと言いたかったわけじゃない。なんというか麗奈さんは…距離感の掴み方というのかな?それが人よりかなり特殊な形で劣っている。
距離感(物理的に)の掴み方が下手というのが正しいかな。それも麗奈さんの新たな一面という事で魅力的だ。
俺から麗奈さんに駆け寄る。こうすれば距離感は俺が測れるから先ほどのような事態になる事はないだろう。
「改めて、ありがとう麗奈さん。転ぶとこだったよ」
「……そもそも佐井寺君が転びそうになったのは私の不注意のせい」
「いやいや俺の方が見てなくて…ってのは平行線だね。どっちも悪かったってことで」
「……そうね。どうしてここに?何か用があったの?」
「あぁ、それはね––」
鍵を無くした経緯を手取り足取りで説明する。当然、ケンとアキが元凶であるということも包み隠さずだ。
麗奈さんと連絡先を交換したからこうなったというのは言えなかったので、ふざけあいの延長線で、ということにしておいた。
話を聞くと麗奈さんは口元に不快感を滲ましていた。
「……そう、あの2人が」
「いやまぁ、普段はいい奴らなんだけどね。今日はたまたま魔が刺しただけなんだと思うよ」
さらに目元も険しくなったため慌ててそう付け加える。目の前の女の子が麗奈さんから氷の女王になった気がした。本気で2人にお仕置きにいきそうだ。
…麗奈さんのお仕置きなら2人も本望な気もするけど。
「……けれど、酷いことは酷い。このままじゃ家に入れなくなる。家には誰もいないわけでしょう?」
麗奈さんの言葉にハッとする。
確かに、家の内側から鍵を開けてくれる人物がいなければ、俺は家に入ることができない。けれど今、家には樹里ちゃんがいるじゃない。
合鍵は家の中に3つほど用意してある。鍵を1本失くすのは痛いが、最悪見つからなくても良いのでは?
…そう考えると今までの行動全てが無駄に感じてきた。何を今まで無くてもいいようなものを必死になって探してきたんだろう。はぁー、あほらしあほらし。後日学生センターに落とし物として届けられていないか確認しよう。
「……一緒に探そうか?」
「いや、なんか俺の中で問題解決したっぽい。ありがとね」
麗奈さんの申し出をやんわりと断ったところで、後悔。しまった、一緒に探せばもっともっとお話しできたかもしれないのに。けれど麗奈さんはふっと口元を緩ませて
「……それじゃあ、この後–––」
と言いかけたところで、俺のスマホに電話がかかってくる。タイミング悪いなぁ。麗奈さんに目配せをしてスマホに目をやると、発信元はケンだった。
「もしもしケン?めんどくさい事してくれたね」
『……』
「けれど残念だったね。俺はもうすでに鍵のことなんてどうでも良くなってしまっている」
ケンからの返事はない。電話口からフシュルルルルと獣のようなうめき声が聞こえてきていた。熊にでも追われているのだろうか。
『…今僕たちどこにいると思う?』
ようやくケンの声が返ってくる。声色は真剣そのものだった。ラグが凄いのだろうか。の割には電波は良好なんだけど…
「どこって…アキとカラオケとか?」
『…ハルの家の中だよ』
「は?どうやって入ったんだよ」
『鍵で』
そこで全て合点がつく。こいつらはそもそも俺の鍵なんて隠していなかったのだ。ずっと手に持っておいて、鍵があるはずもない大学で必死に探す俺を馬鹿にしていたのだ。
そして散々笑ったのち、ダメ元で家に帰ってきた俺を引っ捕らえて処刑を実行するのだ。なんて小汚い奴らだ。とにかく、どこかで彼らに応戦できる武器でも探して家に帰ろう。
…ん、家の中にいる?
つまり今、俺の家にいるのはケン、そしてアキ。そして––
『梨本樹里さん、だっけ?可愛い子じゃん』
察した。樹里ちゃんと2人が鉢合わせてしまった。
「あー、いや、その…」
『ひとまず、話が聞きたいかな。家に戻ってきてくれる?2秒で』
「…はい。」
かなり鬼気迫る声だったので無理と言うことはできなかった。恐る恐る電話を切る。
いつか話そうとは思っていたが、こんな形でバレてしまうとは。
「ごめん麗奈さん。そういうことだから。」
「……え?」
困惑する麗奈さんにそう言い残して重い足取りで踵を返して家に向かう。
「……ちょっとお茶でも、って言おうと思ったんだけどな」
背後から聞こえたそんな声に、耳を傾ける余裕は無かった。
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